第15話 BAD END
あれ?シリアスにしようとしたのに……
ちょっと短め。
Side リリス
「────えっ?」
私、リリスは決して警戒を怠ったわけではなかった。
『神域』も魔力察知型にしていたし、何より私は種族的な問題でそこら辺の奴らよりかは気配察知能力も雲泥の差がある。
そう、だからあり得ない。
────目の前でいきなりリュカの背後に現れた人間がナイフをリュカに突き刺すその瞬間まで、全く気がつけなかっただなんて。
しかもそのナイフは────
「───〈クルタナの呪剣〉」
それは間違いなく呪いの武器。
昔、魔王の一柱を倒し、英雄となったクルタナに憎悪した魔族が突き立てたといわれる物。
故にその刃は刺されたものに最悪の呪い──死を与える。
最悪だ。よりにもよってアレなんて。〈クルタナの呪剣〉はまず刺した相手の存在を殺し、次に肉体を、そして最後に精神を殺す。
刺されたのならば、まず助からない。肉体と精神が不滅ならばともかく、リュカではまず助からないだろう。
人の子にとってあの呪いは即死だ。
いや、それよりも、この男。なぜこんなにも強い魔力を垂れ流しにしておきながら、今の今まで気が付かなかったの?
その男──くすんだ赤い髪をたてがみのように伸ばした男が一人ごちる。
「ちっ、何でこいつがここにいんだよ。めんどくせぇな。おいお前ら、さっさと王女連れていけ。」
「はっ!」
「丁重に運べよ。傷付けたら殺す」
「はっ!して、そこの金髪の子供は如何に?」
「殺せ。俺は戻るぞ。あんまり会場から離れたら、妻が怪しむからな」
「「はっ!」」
男が呼びかけると、いつの間にか現れた二人の男たちが転移してくる。
そして指示を出すたてがみ男。というか、内容 がふざけてるわね。
そしてたてがみ男は懐から〈転移〉の魔石を取り出すと、その場から消えた。恐らくさっき言ってた奥さんのとこに戻ったのだろう。
「おい、さっさとそいつ殺れよ。俺はこいつ持っていくぞ」
そう一人の男がもう一人の男に言うと、そいつは王女を連れ去ろうとする。
…………別に私にとって人間の王族なんてどうでもいい。でも、リュカを殺そうとしていた奴らの思い道りにさせるのは絶対に許せない!
させるものですか!
手を出させまいと王女に駆け寄ろうとするが、背筋に氷を流し込まれたかのような感覚を感じ、後ろに飛び退く。
瞬間、ガキィィィン!という音と共に私の目の前に大剣を持った男が飛びかかってきた姿勢でかたまっていた。
「ふん、ガキにしてはやるな──」
「五月蝿いわよこの噛ませ犬っ!神域変更『感知』→『虚無』」
こんなやつの相手をしている暇なんてない。私は男の周囲のみに『虚無』の神域を発動する。
その効果は─────
「────この世から消えなさい」
──神域に囚われた男は固まった姿勢のまま虚空に溶けるように地面ごと霧散した。
『虚無』の神域の特性は、範囲内の空間を“何もない空間”にする。
つまり、世界の極一部の空間を消し去ることだ。
私は王女を連れ去ろうとした男も霧散させようとした。
────しかしそれには及ばなかった。
だって、
明らかに気絶しているリュカが、
その男を思いっきり蹴りあげて天井にめり込ませていたからだ。
「って何で!?」
おかしいわ。いろいろおかしいわよ。
気、失ってたわよね?てか今呪い受けてるわよね?
激痛のはずよね?
な、ん、で、動けてるのぉぉぉ!!?
…………二千年以上生きていても、この世界には分からないことがたくさんあるとわかった日だった。
(何でリュカが気絶していたのにこんなことができたのか。それは真滅流の修業───もとい、千雨の教育にある。千雨は、リュカ(蓮斗)の寝込みをよく襲っていたからだ。(※ガチで)そのせいで彼は殺気に反応して殺気の元を撃退する術を身に付けていたからである。)
気絶(?)しているリュカは王女のフラフラと方に覚束ない足取りで進んでいき、頬に手を当てる。
瞬間、王女の姿がかき消えた。恐らく転移させたのだろう。
──そして倒れるリュカ。私は慌てて彼の方に駆け寄る。
…………既に呪いは1段階が終わっていた。私は人間ではないから何も影響を受けないが、もう彼の周りには変化が起こっているはずだ。
もう悠長に出来ない。呪いはもう第2段階、肉体の死の段階に入ってしまっている。
私にできることは────
主人公死でバッドエンドか!?
次回、第16話 『LOST』