第14話 規格外
テスト終わった………
久々の投稿。
焼け落ちた(というか溶け落ちた?)扉の中は意外と清潔感があった。
ぱっと見ると、いたって普通な部屋だ。質素なベッドとクローゼットが部屋のすみにおいてある。
そのベッドの上に──桃髪の幼女がすやすやと眠っていた。
(あれ?意外と余裕!?)
しかしそうでもないらしく、何やら甘ったるいような薬品の匂いが部屋に漂っている。
この匂いは…………クロロホルンか!
「リリス、鼻ふさいで──浄化せよ!『サンクチュアリ』!」
光の浄化魔法で薬を消し去る。直ぐに部屋からは匂いが消え去った。
「(上位元素魔法『光』に固有魔法『影』に『創造』…………。何なの?この最強生物?)」
そんな彼女の葛藤は、もちろん僕には届かない。
起きたとき騒がれるとめんど──もとい、大変なので仮面を外し、髪の色を黒から元の紫がかった銀色に戻しておく。
あ、そういえば、
「ねぇリリス」
「何?」
「黒髪黒目って、やっぱり珍しい?」
「何でそんなこともしらな──ああ、貴方、三歳だったものね。とても信じられないけど……。ええ、確かに黒髪黒目は珍しいわね。人間や亜人どころか、魔族にも一人か二人、いたかいなかったか……覚えてないわね。あ、でも何か昔異世界から召喚された勇者はみんなそうだったらしいわね」
へ~。やっぱり勇者って異世界に喚ばれんのか。
ってん?何か今よくわからない言葉が出てきたぞ?
「亜人って?」
「獣人や竜人のことよ。人間と動物の特徴を両方持った第二幻想種…………(ボソッ)今はましなんだったっけ」
「ふ~ん。わかった。じゃあ王女さまを起こそ────ん?」
なんだこれ?
それはベッドの下からその一部を覗かせていた。
僕はそれ──黒い鎖を引っ張ると、するり、と丸く、平べったいものが顔をのぞかせる。
手にとって見ると、どうやら何か開くものらしかった。しかし蓋がなかなかとれない。
というか、ピクリとも動かない。
う~ん……分からん。
仕方がない。ダメもとで聞いてみるか。
「これ、開くかな?」
しげしげとその丸く平べったいものを僕の横からのぞきこんでいたリリスに手渡しながらきいてみる。
じっくりと観察するようにそれを眺める金髪幼女。違和感がすごい。
「何かしら、この回路……。うわ、アダマンタイトに魔法耐性付与とかはじめてみたわ。えっと、ここがこうなっているから────無理ね。こんなの矛盾してるけど、中からこじ開けるしか、この封印を解くことなんて出来ないわね。残念だけど、これは何にも支えな──」
「え?中からなら開くの?」
なら話は早い!善は急げだ!
「え?ちょっと!?魔法耐性付きよ!?しかもその上から何重にもロックが──!」
僕はリリスからひょいとそれを取り上げてから、軽く深呼吸した。
─────よし。
「真滅流一式──崩天撃『漣』!」
キィィィィィィン!という甲高い音がそれから響きだす。もちろん僕がやったんだが。
これは崩天撃の応用で、生み出した衝撃を超振動に変え、物体を粒子レベルで崩壊させる、色々と常識の壁をぶち抜いたような技だ。主に手錠とかで拘束されたときに使うものなのだが……さて、上手くいくかな?
と、内心心配してると、パァン!と弾ける音と共に蓋が弾けとんだ───僕の顔面にっておわ!危ねっ!何で顔面ピンポイントなんだよ!一瞬顔面に穴が空くかと思ったじゃねぇか!
…………ま、まぁそんなことより、これの中身なんだろうな?
────ハッ!(゜ロ゜)! まさか『あの日の事を忘れるな!』とか彫られてないだろうな!
────しかしそんな僕の予想をさておき、中にあったのは──黒と白のコンストラクトで彩られた時計の針だった。
長針は黒よりも濃い漆黒、逆に短針は輝くような純白。
針の後ろにある盤の部分は鈍い銀色の光を放っている。
てかぶっちゃけ懐中時計だ。
しかし変わったことといえば────数字の部分がない。というより、時刻を示すための目安となるような目印が何もない。
つまりは長針と短針と盤のみでできていた。
「な~んだ。ただの時計だったや。」
ちょっと凄いものを期待してしまったじゃなイカ。
ま、面白いから持って帰るが。
手首に丁度嵌まるくらいの黒色の腕輪を創って鎖と繋げる。
え?腕輪の素材?
神金鉄ですが何か?
………ん?あれ?リリスさーん?どうしてそんな険しい顔を?
「な、何でもないわ。それよりも、早くこの子つれて戻りましょ」
おおっと不味い。さっさと帰らなきゃ。
おーい、起きてますか~。
「────ん、にゅ……?」
頬をぺちぺち叩くとすっっっごく眠たそうに目を擦りながら王女さまが目を覚ました。
ふわふわした桃髪がパサリ、と後ろに落ちる。
王女さまは寝ぼけ眼でキョロキョロ辺りを見渡すと、最後に僕の方を向いた。
「…………りゅか、さま……?」
そのままこてんと倒れ───って何で倒れんの!?まさかどっか乱暴されてたのか!?
「…………く~~。すぅ、すぅ」
って二度寝かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!
……ま、まぁ元気そうでよかったよかった。
…………肝っ玉据わりすぎだろ、王女さま……。
てかなんで僕の名前知ってたんだろ?
「リュカ、早く戻らないと面倒なことになるわよ?」
「??? なんで?」
「よく考えなさい。いま、パーティー会場では、メインの王女さまが行方不明。
加えて、エルニアート公爵家長男の貴方もいないのよ。捜索に騎士が動くわね。そして現状を見たらどう思う?」
「どこも問題がないと思うんだけど……」
ただ豚に肉体言語でOHANASIしただけだし……ねぇ。
「あのねぇ、問題はそこじゃないのよ。三歳児のあなたが現状をつくったことに目が向けられるわ。
騎士50人に厳重に警備された屋敷に難なく侵入、無力化し、男爵とはいえ貴族の側近を一撃で撃退。
しかも固有魔法持ち。
────貴方、このままじゃ国の兵器にされちゃ──」
「よし帰ろうさっさといこうそして貴族どもの記憶の改竄を──!」
僕は王女さまをおぶって転移で帰ろうとした。
この時、僕は油断していたんだろう。
難なくここまで何かの物語のようにこれたから。
だから、忘れていたのかもしれない。
地下室のドアの前でリリスが言った、あの言葉を──
『──あのねえ、このなかにはかなり大きな魔力反応があるわ──』
トスッ、と、僕の背中から何かがぶつかったような感触が伝わってきた。
でも僕にはそれが何か確認することは出来なかった。
あ れ
何だか いし き が
な……………──────────────
僕の記憶は、そこで途切れている。
………あれ?何か雲行きが……?




