第12話 氷の家系
前回までのあらすじ!
王女さまを助けに来た僕!
アジトっぽい趣味の悪い館に潜入!
しかしこの館、魔法を使うと豚に転移で逃げられる!
異世界で魔法なしで助け出せとか一帯何の縛りプレイだよ!?
そして!つい先程──
──一緒に潜入したリリスに剣で切られた。
…………あ、はい。ちょっと解説してみたわけですが、現状としては……。
「あー!ヤタガラスぅぅぅぅぅ!」
ぶち壊れました。ええ、完膚なきまでに。
大方がバッサリと切り取られ、もはやローブとも雑巾とも言えないくらいの壊れっぷりです。
バチバチと散る火花が目にいたい………。
………なんか、ね。こう、前世で必死こいて作ったもの──これは魔法で創ったけど──がスクラップになってんのって、凄いショック。
例えるなら、千時間以上プレイした課金ゲーのデータが消された感じ?みたいな。
「おい、このガキ!どうやってここに!?クーニ男爵、こいつらも捕らえますか!?」
ついでにいうと、僕は怪我してないよ?確かに切られたけど、ヤタガラスが防刃服の役目を果たしてくれたから。
「当たり前だ。ふん、わざわざ自分から来てくれるとは、バカなやつらだ。クヒヒヒヒ!」
あ~、豚どもがブーブー五月蝿いなぁ……。
え?現状をもっと詳しく?もう最悪。
だって、十人くらいの武装した兵に僕らは囲まれているもの。
……さて、どうやって突破しましょうかねぇ……
Side out
Side リリス
やってしまった……
あんまり恥ずかしいから、てかいきなりあんなことを直球言、しかも真顔で言われるなんて……
い、いけないわ。私、絶対今、顔赤い。
照れ隠しで切りかかるなんて、自分のことながら最悪ね……
でもよかった。リュカに怪我がなくて。
…………身体には、だけど……
さっき創った魔具(もはや宝具な気もするわ…)が雑巾みたいになっちゃったから今にも泣きそうな顔をしているリュカ。私はリュカの心を傷つけてしまった……
────チクリ
胸がいたい。何で?魔王として生きてきたこの数千年でこんなこと一度もなかったのに……
……さっきから豚みたいな人間が煩いわね。串刺しにしてあげましょうか?
魔法なくとも、剣一本あればこんなやつら──
私が思ったその時だった。
隣にorzの体制で手を床についていたリュカの姿が、消えた。
Side out
Side リュカ
僕はまず足に力を込めて目の前に立っていた兵士の足元まで踏み込んだ。
何やらリリスは顔を赤くしたまま考え事をしていたが……まあ、今は放っておいて大丈夫でしょ。
だって、
────十秒で、片付けるから
目の前の兵士は僕が急に消えた用に見えたのだろう。目を見開いて驚愕していた。
たかだか一般兵に僕の姿が見えるはずがない。
真滅流歩術、【瞬脚】
いわゆる縮地ってやつだ。まだ三歳児の新しい体とはいえ、前世で骨の髄まで染み込んだ動きは忘れない。
さて、ここで問題だ。
ここにいる兵士の身長は、軽く僕の倍はある。
僕の身長は彼らの足より短い。
そうなると必然、僕が攻撃できる人体急所といえば?
もうわかるよね?
「──せいっ!」
僕は軽くジャンプして蹴りつけてやった。
────男の象徴にぶら下がる玉、つまりは金的に。
「●◇#☆*%@&☆!!?」
おお~、すっげー悶絶してらっしやる。
そこはどうしても鍛えられないからなぁ……
と、そこで考えるのをやめ、僕は膝から崩れ落ちた哀れな兵士(笑)の後ろに回り込んで背にそっと手を当てて──
「真滅三式、『波紋掌』」
衝撃を体の外ではなく中の内臓にぶちこんだ。
一式『崩天撃』が肉体内外の同時破壊だとしたら、この『波紋掌』は内部のみを破壊する技。
今は心臓にショックを与えたから、たぶん一時間は起きないかな?
ざっとここまでで一秒。
さて、ちゃっちゃっと終わらせよっと!
────そんなこんなで十秒後。
僕らを囲むように、金的と心臓にダメージを受けて倒れた死体もどきが出来上がった。
ときたまビクンッと痙攣して跳ね上がってるのが怖い……
てか弱っ!!
「さて、あなたで最期ですね、クーニ男爵。」
「リュカ、字が違うわよ。」
よくわかったな、リリス。
内心驚きながらイスに座ったままのクーニに問いかけると、クーニ(以後は豚と称す)がガタンと音をたてて椅子から転げ落ちた。顔は真っ青だ。
正直、きもい……
てか怖がりすぎじゃ?とか思ってたら、リリスがちょいちょいとドレスの裾を引っ張ってきた。
なんだなんだと思って見ると、その紅い目は「顔、顔!」と訴えていた。
あー、なるほど。つまりどう見ても子供の侵入者が自分の部下をばっさばっさと倒していって、しかもそれが黒い鬼神を模した仮面を被っていたら………怖いな、確かに。
さて、そんなことはどうでもいい。
「────おい。」
魔力を解放しながら一歩、近づく。
メシリ、と音をたてて空間が軋んだ。
豚は震えたまま動かない。いや、動けない。
──それは蛙が蛇とで食わしたかのように。
──それは目の前に銃口を突きつけられた人間と同じように。
圧倒的な『死』の気配──殺気を浴びたことで動けないのだ。
そのまま豚に近づいていくと、何やすスイッチのついた棒を持っていた。
スッと取ろうとさらに近付いたところ、豚が動きを取り戻し、僕の腕を取ろうとしてきたので、────両腕を反対方向にへし折ってやった。
何やらわめきながら苦しんでいるが、知ったことか。
「お前は、決して許されないことをした。」
そう、こいつは大罪を犯した。
「お前は、人の未来を、尊厳を、人格を、その全てを奪おうとした。」
こいつは人を拐った。その人の人生、将来、可能性──それらを無視し、私利私欲のために奪おうとしたんだ。
「これはこの家の転移装置のスイッチみたいね。ということは、これを潰せば……。」
バキッグシャッと後ろで音がした。リリスがスイッチを壊したんだろう。
────ありがたい。これでやっと『おしおき』ができる。
「凍れ、貫け。汝は苦痛を愛する者」
僕の詠唱と共に、周囲の温度が下がり始める。
エルニアート家。リースフィーナ王国公爵家。
六つの侯爵家の更に上に位置する、最も王に近い家系。
「愛を知らず、哀を求める冷たき者」
象徴は『銀の鶴』。継承する固有魔法は『氷』。
豚の周りが凍り出す。足を、腕を、首を氷は拘束する。
何やら必死にもがきわめいていたが、直ぐに口元も氷が覆った。
「愚者に冷たき針の刑を──『水晶の処女』
そして豚の後ろに現れたのは──彼の背よりも高い、半透明の氷の乙女。
ただ、おかしなところがあるとすれば──まるで豚を包み込むかのようを開いた体と──びっしりと氷の針で覆われた内部。
目に涙を浮かべ、必死にもがいているが、関係無い。
あいつは、それだけのことをしたのだから……
「閉じろ」
そう、ただそれだけ、最後に僕は呟いた。
声無き絶叫が、夜に包まれた館の中に響き渡った。
およそ2週間ぶりでしょうか……
今回魔法があまり出なかったのは真滅流のチートっぷりを見せたかったから。
一応あの兵士、ランク3あったんですよ?
ランクについては後々出しますが……
次回、急展開を迎えます。(たぶん)
乞うご期待!不定期更新ですが!