四、二月革命13
舞踏の間に、二人の少女の剣戟が舞い狂い、火花を散らした。
「自分達だけに富が集まることを、不思議に思ったことはないの?」
「国の力は、その富で決まるのよ。力なき皇帝に、外敵は退けられないわ!」
二人が得物をふるう。ふるう度に、青く激しい火花が散る。
「ハッ!」
「ダッ!」
コミュンが鎚を打ち込み、魔法皇帝がサーベルで受け止める。
「その富があれば、飢える命が救われるのに!」
「命を救うには、力が必要なのよ! 科学も魔法も、力の下で発展するの! 人を救う力は、富の集中で生まれるのよ!」
コミュンが鎌と鎚をふるう。魔法皇帝がサーベルをふるう。
己の思いと疑問を込めて、二人が得物をふるう。
ふるう。ふるう。ふるう。
ふるう度に火花が二人の顔を照らす。舞踏の間に、剣戟が舞い狂う。
「その科学と魔法で、やっているのは戦争じゃないか!」
「戦わなくては、滅ぼされるのよ! どんなに理不尽でも、武力は武力によって跳ね返すしかないのよ! そうしなければ、民を守れないのよ!」
コミュンは鎌を、そして鎚をふるった。魔法皇帝がその重い一撃一撃を、サーベルで受け止める。コミュンの連打を受け切った魔法皇帝が、返す刀でサーベルをふるう。
コミュンはそのやはり重たい一撃を鎌で、そして鎚で受け止めた。
「その戦争で死んでいくのも、民じゃないか!」
「放っておけば、もっと多くの民が死ぬのよ!」
技も駆け引きも何もない。一撃一撃、魂を込める為に、真っ正面から打ち込む。
どちらが正しいのか? 何が正しいのか? 誰が正しいのか? 何故相手が立ち塞がるのか? 何故自分達は戦っているのか?
湧き上がる思いそのままに、二人は互いの疑問をぶつける。思いをこめて、全て全力で打ち込む。打てば打つ程、相手の心に届くかのように。
ただひたすら正直に、互いの得物で青い火花を散らす。
そう、それは正直の青だ。この国では、青は正直を象徴する色だ。
白い少女が上から打ち込み、青い火花を散らして、赤い少女が真正面から受け止める。
高潔の白。正直の青。勇気の赤。白青赤の三色の光が、舞踏の間を一瞬染める。
それはこの国の旗の色の並びそのものだ。
国の旗の色に舞踏の間を染めながら、国と民を思う二人の少女は皮肉にも相打ち合う。
「マジカル・ツァーリ!」
「魔法同志!」
二人は疑問のままに相手の名を叫ぶ。
そんな名前だったかと。そんな相手だったかと――
投げかけるべき疑問を、二人は一撃一撃得物に込めて放つ。
魔法皇帝は強い。コミュンは声を出す余裕も、徐々になくす。コミュンは言葉ではなく、心で疑問を投げかける。そしてその為に得物をふるう。それは相手も同じようだ。
サーベルが鎌と鎚を、鎌と鎚がサーベルを迎え撃つ。
決して避けない。どんな一撃でも、受け止める。得物をふるう度に二人の間で、青い火花が飛び散る。避けていては友の問いに答えられない。赤と白の少女は、青い火花で会話をする。
今話しているのは、魔法同志だったか? 今戦っているのは魔法皇帝だったか? 目の前にいるのは、そんな記号のような存在だったか?
全ての疑問を、二人はその一撃一撃に込める。
「オオオォォォッ!」
「ハァァアアァッ!」
全ての疑問を込めて、二人は己の得物を繰り出し続ける。まるで見えない壁が目の前にあり、二人で力を合わせて打ち砕こうとしているかのように。
「――ッ!」
だが連戦の疲れが不意にコミュンを襲う。
コミュンの体が一瞬軋む。内から悲鳴が上がったのだ。その身が僅かに強張ってしまう。
その微かな隙を突いた魔法皇帝が、
「コミュン! 覚悟!」
渾身の一撃をコミュンの右肩に振り下ろした。