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16 英雄、一堂に会す

エルラス汗を先頭に帝国に侵攻する草原の軍をはばむものはいなかった。 

 エルラス汗は、既に数百人の間者を帝国内に配置していた。

 帝国内の情報は、エルラス汗のもとに次々に届いたが、帝国軍に動きは全くなかった。


 エルラス汗がその軍略の天才により、

一大会戦を挑むのであれば、この地。 

埋伏の計をなすのであらば、この地。

包囲を図るのであれば、この地。

と、見込んでいた地にあっても、帝国軍の姿はなかった。


草原の軍は、首都ラグーンに、指呼の間の地にまで迫った。

何の抵抗も受けることはなかった。


もうこうなれば、帝国軍の選択はひとつしかない。

エルラス汗は、思った。


焦土作戦。

都の周辺を焼き払い、侵攻した草原軍を孤立させ、やがて糧食が尽き、徹兵するのを待つ。


その作戦もエルラス汗の想定内だった。

だが、最低の作戦だ。

エルラス汗は、激しく失望した。


ルーレアート。

そなたが選択したのは、それほどに民の犠牲を求める作戦だったのか。

俺の真意は伝わっていなかったのか。民に犠牲を強いることなく、草原の騎士と帝国軍との会戦に勝利し、皇帝玉座に座して、ナル・アレフローザに臣下の礼を取らせる。

俺の目的はそれだけだったのだぞ。


 ついに都に到着したが。そこにも帝国軍は一兵も存在せず、皇宮はもぬけのからだった。


 エルラシオンと近侍の騎士だけを率いて皇宮の戴冠の間に入ったエルラス汗は、その間の十七段の階段を上り、その上に置かれた皇帝玉座に座った。


 その瞬間、天井の幕が開き、エルラス汗をめがけて一本の巨大な矢が飛んだ。 

端然と座ったまま、この矢を聖剣イリュージョンで叩き落とすエルラス汗。

しかし、その直後に二本目の矢が飛んでおり、エルラス汗の想像を絶する剣技をもってしてもこの二本目の矢を叩き落とすには間に合わなかった。


矢が心臓を貫こうとしたその瞬間、その矢は別の者の手で叩き落とされた。エルラス汗が皇帝玉座に座ろうとした瞬間、十七段の階段を駆け上がっていたエルラシオンであった。 


ルーレアートは読んでいた。エルラス汗が必ず皇帝玉座に座ることを。

自分をめがけて飛んでくる矢をみてもエルラス汗は決して逃げず、立つこともせずに矢をたたき落とすであろうということを。 

 これまで七十二人存在した過去の帝国皇帝の、誰ひとりとして玉座の上でその生を終えた皇帝はいなかった。

 そこを終焉の場所として選んだのは、ルーレアートのエルラス汗に対する大いなる敬愛の念によった。

 エルラス汗がその生命を終わらせるに最もふさわしい場所は帝国皇帝の玉座の上である。ルーレアートはそう考えたのだ。 


 しかし、二本目の矢はエルラス汗の心臓を貫くことなくエルラシオンによって叩き落とされた。 


 この時、天井裏の部屋から四人の男が降りてきた。 

 四人は皇帝玉座のある階段の上に降り立った。 


皇帝ナル・アレフローザ。

帝国宰相ラシアス。

帝国元帥アル・ラーサ。

帝国高等官任用試験筆頭不合格者ルーレアート

である。


 四人と、エルラス汗、そしてエルラシオンが対峙する。  


「エルラシオン王子。王子が本当に考えておられたのは最少の犠牲でさえなく、ゼロの犠牲だったのですね」  


ルーレアートがエルラシオンに問いかけた。 


「そうです」  


「父子の情ですか。来るべき世界に、征服者としての栄光を求めるエルラス汗は大きな障害になる方です」


「いいえ、そうではありません」  


エルラシオンは強く否定した。 


「父の戦いはもう終わりました」


 皇帝玉座に座ったままエルラス汗がルーレアートに呼びかけた。


「ルーレアート。この策を考えたのはそなたか」  


「そうです」  


「草原の騎士四万をラグーン皇宮に引き入れて、俺ひとりの命を取るか。見事だ、ルーレアート。俺の負けだ」


 エルラス汗は皇帝玉座から立ち上がった。 


「ナル・アレフローザ殿。この座、お返ししよう」


 皇帝がエルラス汗に会釈した。  


「エルラス汗。ご紹介しましょう。

帝国宰相ラシアスと帝国元帥アル・ラーサです」   


エルラス汗とラシアス、アル・ラーサがお互いを見やった。

 

 ラシアスがエルラス汗に問うた。 


「汗。これからどうなさいます」


「草原に帰る。敗れた以上、この地に留まる理由はない」


 アル・ラーサもまた、エルラス汗に言葉をかけた。


 「汗、来年の帝国騎士剣技会にご参加いただけませんか。この帝国に私の相手ができる騎士はおりません。お待ちしています」


「それは、実に魅力的な誘いだな。……まあ、やめておこう。どちらかが敗れるよりは、お互いに剣技においては不敗のままで伝説の世界に留まっておこうではないか」 


 階段を降りかけてエルラス汗は我が子を振り返った。 


「エルラシオン。お前はこれからどうする」 


「旅に出ます」 


「ほう」  


「アールショー、ラスティー、アンリュー、ラルとともに帝国中を旅してみます。逢うべき人も決まっています」 


「そうか。セレナは連れていかないのか」 


「姉上はアル・ラーサ殿の妻になります」


 物に動じることのないエルラス汗の顔に、一瞬、驚きの表情が走った。  


「そうか、成る程な」  


「エルラシオン王子。その旅に我ら三人も、そしてセレナ様もご一緒させて下さい」 


「先生。それにラシアス殿、アル・ラーサ殿と姉上ですか。宜しいのですか。お三方は帝国の最高職にあられる方々ではないですか」


「いえいえ。私は勿論ですが、ラシアスにしろ、アル・ラーサ殿にしろ、この戦いのための非常の大権です。すでに陛下のお許しをいただいております。素晴らしき世界を創造するために同行させて下さい」  


「そうですか。願ってもないことです」


 エルラス汗が階段を降りて、戴冠の間から去っていった。  

そしてエルラス汗と入れ替わるように戴冠の間に入室してきた女性がいた。

 その女性は一歩一歩階段に近づいてきた。 

 誰が紹介するでもなく、その年齢、その美しさからその女性の名は明らかだった。 


 この時、未来の夫婦は初めて相見た。  


セレナはアル・ラーサの想像をも遥かに超えた、目もくらまんばかりの美少女だった。

 アル・ラーサの胸は高鳴った。

まして、アル・ラーサに投げかけたセレナの微笑みを見てしまってはなおさらだった。



エルラシオン叙事詩 〜 英雄たちの物語〜



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