Overture
18歳の誕生日。成人の儀。
といっても、たいしたことはしない。わたしの家では、教会で誓いを立てた後、家で小さなパーティーを開いて祝う。ただ、それだけ。
貧しい子爵家の一人娘として生まれたわたしは、両親の愛を一身に受けて今日まで育った。そのため、貴族にしては随分と質素な暮らしを送ってきたが、自分を不幸だと思ったことは一度もない。
「エアリ」
成人の儀を終えた夜、眠りにつく前にわたしの部屋を訪ねてきた母は愛情に満ちた声でわたしを呼んだ。ベッドから出て、扉の前に立つ母のまで歩くと、母の手のひらにはキラリと輝く、ペリドットのような明るい黄緑色の宝石がのっていた。
「それは?」
「わたしが結婚するときにお義母さまから受け継いだネックレス。あなたにあげるわ」
「え、なんで今?」
「だってあなたったら、なかなか結婚しないんだもの」
後ろを向いて、と母に言われ、素直に後ろを向くと、首元にひんやりとしたチェーンの感触を感じた。
「今まで自由にさせてきたけれど、そろそろあなたもお見合いとか考えなくちゃね。わたしもお父様も、あなたのことが心配なのよ」
「なかなかそういう気分になれなくて……心配かけてごめんなさい」
わたしの周りの同世代の令嬢は、既に結婚していたり、結婚とまではいかなくても婚約者のいる令嬢がほとんどだ。いつまでも自由気ままに暮らしてはいけないことくらい、わたしだってわかっていた。
「大丈夫。その宝石が、きっとあなたのことを守ってくれるから」
代々リタルダンド家に受け継がれてきたらしいその宝石に、そっと手を添えてみる。母の愛情が身に沁みた気がした。
「ありがとう、お母様」
わたしがそう言うと、母は微笑んで部屋を出て行った。
「結婚かぁ」
ベッドのふちに腰掛けたわたしは、ネックレスを外し、窓から差し込む月の光に宝石を重ねてみる。
「わたし本当は、貴族夫人なんかよりも、魔導士になりたかったのよね」
これは、誰にも言えないわたしだけの秘密。これ以上両親に心配かけるわけにはいかないから。
明るい黄緑色の宝石が、月の光を吸収して、キラリと反射する。
「きれい…………まるで、光属性の魔法を凝縮したみたいな」
『そうですよ』
「え、」
『それは、私の魔力を凝縮させたものですから』
「誰!?」
突然聞こえた知らない男性の声に慌ててベッドから立ち上がる。
『私の声が聞こえるのですか?』
必死に辺りを見渡せば、月光差し込む窓ガラスに、知らない男性が映っているのが見えた。
恐怖に心臓がはねる。ゆっくりと、恐る恐る後ろを振り向く。
『………………まさか、姿まで見えると?』
夜の闇を照らし返す長い銀色の髪。月光を吸い込んだかのようなペリドットの瞳。
「セツラ・ルーノ・リタルダンド……?」
肖像画で何度も見た美しい男が、わたしの部屋に立っていた。
『私を知っているのですね』
「うそ、でも、あなたはもう何百年も前に…………」
そこまで言いかけて、ふと気づく。
「まさか、幽霊……?」
彼の姿がうっすらと透けていることに。
『御名答。私は、ずっと昔からこの屋敷に住まう幽霊です』
セツラ・ルーノ・リタルダンドといえば。
リタルダンド家が誇る、かつて魔王を倒したと言われる伝説の大魔導士である。
彼の武勇伝に憧れて、幼い頃のわたしは魔道士を夢見たのだ。
「大魔導士様…………害をなす幽霊ではないって、思っていいの?」
『私はそのつもりですが』
にこりと穏やかに微笑むその姿は、屋敷に飾られている肖像画そのものだった。
「今までずっとこの屋敷にいたの? でも今まで、姿なんて見えなかったのに……」
『あなたの持つ膨大な闇属性の魔力と、わたしの光属性の魔力が呼応したのかも』
「––––––っ!!」
なんでもないことのように彼は言ったが、それは。
「ほら、光属性と闇属性は対の魔力でしょう?」
わたしがずっと隠してきた秘密。両親以外誰も知らないはずの秘密。
「……わたしの得意魔法が闇属性だってこと、知ってるのね」
『もちろん。ずっと、見ていましたから』
わたしの得意魔法が、かつて倒された魔王と同じ、闇属性だということ。
この世界には、六つの魔力属性がある。
風、土、水、火、そして、光、闇。どの属性の魔力も、普段は魔力元素として空気中に散っており、それを呪文によって具現化するのが魔導士である。
魔力は空気中だけでなく全ての物体に宿っている。たとえば、わたしたち人間にも魔力は宿っており、どの属性の魔力の比重が大きいかで得意魔法が変わる。
ほとんどの魔導士は四大魔法と言われる「風、土、水、火」のどれかの魔力の比重が大きく、光属性を得意とする魔導士はほとんどいない。そして、それ以上に珍しいのが––––––闇。
闇属性の魔導士は基本的には存在しない。人間の体に宿る魔力で、闇の比重が最も大きくなることなど、ありえないからだ。かつての魔王と…………わたしを除いては。
わたしは、魔法が好きだった。かつて、リタルダンド家に伝わる大魔導士の伝説を知って、幼いわたしは魔導士に憧れた。屋敷の書庫にあった魔法関連の書物を読みあさり、独学で魔法を学んだ。
女性は魔導士になれない。そんなことは知っていた。それでもわたしは、この国初の女性魔導士になる気満々だった。わたしがこの国の常識を変えてやるつもりだった。そんなわたしを両親は微笑ましく見守り、「あなただったら本当に、魔導士になれてしまうかもね」と、母は優しく笑ってくれた。
8歳の頃。はじめてわたしは実際に魔法を使った。森で手に入れた、大昔は杖の代わりに使われていたというサクラの木の枝を使ってわたしは呪文を唱えた。専門店で売られている専用の杖以外で魔法を成功させることはとんでもない技術がいることだと知ってはいたけれど、まだ8歳の子どもで、しかも女であるわたしに杖を売ってくれる店はなかったから、わたしはサクラの木の枝で代用するしかなかった。
魔法は成功した。失敗した魔法もあった。
成功したわたしの魔法を見て、両親は驚愕した。成功した魔法はどれも闇属性の魔法だったからだ。魔法の知識に疎い両親でもわかった。わたしの得意魔法が闇属性だということに。
闇属性の魔法が悪いのではない。どんな魔導士だって、六属性の魔法すべてを使いこなしている。ただし、それが『得意魔法』であるというのがまずかった。体内の魔力の比重で闇属性がいちばん大きかった人間は、かつての魔王しか存在しないのだから。
両親はわたしに、魔法を禁じた。両親を悲しませることはしたくなかったので、わたしは素直に従った。
…………ふりをした。わたしは魔法が好きだった。そう簡単にはやめられなかった。
両親や使用人の目を盗んで屋敷裏の森に入り、サクラの木の枝でオリジナルの杖を作って魔法の練習をした。屋敷裏に手頃な森があるのが悪い。練習するうちに、闇属性以外の魔法も成功させられるようになった。対となる光属性の魔法はやっぱり少し苦手だったけれど、それでも、基本的な魔法はすべてこなせるようになった。森の奥深くまで入り込み、魔獣を倒すことも日常茶飯事だった。闇属性の魔法が得意なわたしは気配を消すのも上手く、両親や使用人はわたしが森に出かけていることに気づかなかった。だから、あの日以降、この10年間で、わたしが魔法を唱えるところを見た人間は、一人もいない。
––––––はず、だったのだけれど。
『大丈夫。あなたは、かつての魔王とは違いますよ』
「………………」
かつて魔王と実際に対峙したことがあるはずの彼は、そう言った。
「どうしてわたしの得意魔法は、闇属性なんだろう」
『嫌ですか?』
「いや…………なわけじゃない。闇属性にだって、すてきな魔法は多いもの。穏やかに眠れるようになる安眠の魔法とか、人に安らぎを与える癒しの魔法とか。でも、もしわたしの得意魔法が闇属性じゃなければ、もっと自由に魔法が使えたのかも、って」
たとえば、わたしの得意魔法があなたと同じ光属性だったとしたら。大魔導士の再来だと謳われ、女性初の魔導士にだってなれたのかもしれないのに。
『魔導士に、なりたかったのですか?』
静かな声で、彼はそう聞いた。顔を上げ、少しだけ透けている彼の顔を見つめる。キラキラと光を集める銀色の髪。月光を詰め込んだペリドットの瞳。何度だって眺めた肖像画。何度も読み返した彼の伝記。
「あなたに憧れていたの」
わたしがそう言えば、彼はそのペリドットの瞳を大きく見開く。
「あなたのような魔導士に、なりたかった」
魔獣を倒し、魔王を倒し、この国の民を––––––……世界を救った、あなたのような大魔導士に。
『…………あなたなら、なれますよ』
「え?」
彼は、腕を伸ばすと、わたしの手を大きな手のひらでそっと包む。透けているはずなのに、彼の手は確かにわたしの手に触れた。
「つめたい」
『幽霊ですから』
そう言って、彼は優しく微笑む。
『あなたが2番目に得意な魔法はなんですか?』
「それは…………水、だけど」
『じゃあ、あなたの得意魔法は『水』です。そういうことにしましょう』
「え!?」
得意気に微笑む彼に、わたしは戸惑う。そういうことにする、って……
「そんなの、魔力測定されれば一瞬でバレて……」
『だから、隠すんです。あなたの闇の魔力を。闇属性は、そういうことも得意でしょう?』
「かく、す………………」
そんなこと、考えたこともなかった。
わたしの闇の魔力を、不自然じゃない程度に隠す。そうして、わたしの体内に宿る魔力の比重を、水属性が最も大きくなるようにするのだ。
「そんなことが、可能なの?」
『やってみたことは?』
「もちろん、ない、けど」
闇属性の魔法は、隠すことが得意だ。だからこそ、わたしは気配を隠し、誰にも気づかれずに魔法の特訓をすることができた。この幽霊には、全部バレていたみたいだけれど。
でも、だからといって、闇属性の魔法で、闇属性の魔力を隠すなんて、そんなこと––––––……
『あなたならできますよ。私が保証します』
かつての大魔導士にそう言われてしまっては、やってみるしかない。
気配を隠す呪文の応用。魔力で魔力を隠す魔法なんてどの魔導書にも載っていないから、これはわたしのオリジナル。
サクラの木の枝を削って作った杖に、わたしの魔力をのせて。わたしは呪文を唱えた。
わたしの身体を包み込む、闇属性の魔力。闇があたたかいことを、わたしは知っている。人々に癒しと安らぎを与えるもの。それが闇属性の魔力だ。
すっと、魔法が身体に溶け込む。少しだけ、身体が重くなる。わたしの体の中に宿る違和感。いつもと違うこの感じは––––––……
『ためしに、なにか闇属性の魔法を使ってみてください』
言われて、呪文を唱える。––––––失敗した。簡単な呪文だったはずなのに。
「わたしの体内の闇属性の魔力の比重が––––––……すごく小さくなってる?」
『お見事。これであなたは、水属性の魔法使いだ。……それでも、魔力は有り余るほどですが』
「えっ」
『おや、気づいていらっしゃらなかったのですか? ご自分の魔力量に』
「だって、わたしの近くに魔道士なんていなかったから、他と比較のしようもなくて…………闇属性の比重さえ大きくなければ、わたしも普通の魔法使いだと」
『宮廷魔導士の中にだって、あなたほどの魔力量をもつ人間はそうそういないと思いますよ」
「うそ…………」
なんてこった。こんなの…………これじゃあまるで、
「え」
ふと、頭によぎったワード。
「今のは…………?」
知らない言葉だった。けれど、確かに頭の中によぎったのだ。
『どうかしましたか?』
「わたし…………わたしは…………」
頭の中がぐるぐると回るような感覚。知らない言葉。知らない光景。知らない名前。知らない国。知らない人。知らない––––––……わたし。
『まずい』
わたしの中の魔力が暴走する。そう、感覚でわかった。隠したはずの闇属性の魔力が漏れ出す。リミッターが外れる。なんで、どうして、わたしは、わたしは、そうだ、わたしは、あのとき––––––……
『落ち着いて。深く息を吸って』
美しい男の顔がわたしを覗き込んでいた。ペリドットの瞳。––––––ああ、『ペリドット』なんて名前の宝石、この国にあっただろうか。
『対となる光属性の魔法で、あなたの力を鎮められればいいのだけれど、今の私では…………いや』
彼はなにかに気付いたように頷いた。
『エアリ』
はじめて彼の口から紡がれた三文字に、心臓がはねた。ペリドットの瞳を見つめる。透き通った黄緑色。月光を詰め込んだかのような、その瞳に、吸い込まれる。
『私にあなたの魔力をください。私をあなたの––––––眷属にして』
そう言って彼は、ぐっと顔を近づけて––––––––––––…………
「––––––––……!」
わたしの唇に、彼の唇を重ね––––––深く、口付けた。
口付けを通して、暴走したわたしの魔力が彼に流れていくのがわかる。次第に、透けていたはずの彼の身体が実体を持っていく。
『あぁ、懐かしいな、この感じ……身体に魔力が満ちていく。かつて私に満ちていた、光の魔力が』
私の闇の魔力は、彼の身体に溶け、かつての大魔導士が得意とした『光属性』の魔力へと変わっていった。
そんなことが、ありえるのか。少しだけ正気を取り戻したわたしは、光に満ちた『彼』を見上げる。––––––あぁ、なんて神々しいのだろう。これが、魔王を倒した大魔導士『セツラ・ルーノ・リタルダンド』の、真の姿なのだろう。
『もう、大丈夫。今日は眠りましょう』
彼が、光属性の呪文を唱える気配がした。
光属性は、闇属性と対になる力。だから、わたしは苦手なはずだった。それなのに、彼の魔法は、どうして、こんなにもあたたかいのだろう。
彼の腕に抱かれ、わたしは意識を手放した。
これじゃあまるで、無双系アニメの主人公みたい。
わたしは、この言葉の意味を知っていた。
わたしは、この光景を知っていた。
それは、かつてわたしが生きていた世界。
日本人、水乃 絵有は、28歳の誕生日––––––––––––殺されたのだった。
「異世界転生ってこと!?」
ガバッとベッドから飛び起きると、見覚えのある美しい男がベット脇に立っていた。
『おはようございます。よい朝ですね』
あ、この幽霊、朝でも観測できるんだ…………って、そういうことじゃなくて。
「嘘でしょめちゃくちゃラノベじゃん〜〜〜〜ラノベと言うよりなろう系か????今流行りの異世界転生〜〜〜〜」
全部全部、思い出してしまった。わたしの前世のことも。わたしが殺された日のことも。そしてわたしが前世で見ていたアニメのことも。
『異世界転生とは?』
ベッド脇に佇む美しい幽霊は、混乱して叫び散らかすわたしに動じずマイペースに質問してくる。
「わたし、別の世界で死んで、この世界に転生したみたいで!!!!!!そんなアニメみたいなことある??????今あった!!!!!!」
『なるほど。一度死を経験したからこそ、あなたは死霊との距離が近いのですね』
「え?」
『ほら、昨日交わしたでしょう? 眷属の契約』
言われて、昨日のことを思い出す。わたしは昨日、なにをした? この、顔の美しい男と––––––––––––…………
「ええええええええええ」
思い出して、顔から火が出そうになった。
『前代未聞ですが、あなたには、死霊使いの才能があるみたいです。できるかなと思って試したら、できちゃいましたね。眷属の契約』
「死霊使いってなに!!?? それってつまり『ネクロマンサー』ってこと!!?? なんかあんまり女の子っぽい能力じゃないよね???? どういう設定〜〜〜〜」
『死んでから何百年と経ちましたが、私のことを認識できたのも、あなたが初めてなんですよ? それなのに、眷属の契約までしてしまって…………ふふ、あなたが死ぬまでお仕えしますね」
なんでこの男はこんなにうれしそうなの!?
窓から差し込む朝日を浴びて佇む彼は、昨日のように透けてはいなかった。…………幽霊じゃなくなった、ってこと?
『そんなまさか。いくらあなたでも死者を蘇らせることなんてできませんから。わたしはあなただけの死霊ですよ。あなた以外には見えないはずです』
「じゃあどうして」
『透けていないのはきっと、あなたの魔力で身体が満ちているからです。あるのかもわからない、この死霊の体が。かつての光属性の魔力でね』
「じゃああなたは、魔法が使えるようになった、ってこと?」
『そのとおり!』
わたしの言葉に、朝日を浴びた彼は嬉しそうに笑う。この男、さっきからずっとテンション高いな。昨夜はあんなにミステリアスだったのに、全然雰囲気が違う。
『かつてほどじゃありませんけど。今の私は魔法が使えます。その辺の魔導士なんかよりも強力な魔法が。全部あなたのおかげです』
「そう…………」
魔法が使えるようになったことがそんなに嬉しいのだろうか。いや、嬉しいのかもしれない。かつての大魔導士なのだし。
「わたしも、魔法、使いたいな。…………今更だけど、やっぱり魔導士、目ざしてみようかな」
『よいですね。あなたならきっと、無双できますよ』
「え?」
無双?
異世界転生してチート能力手に入れて最強魔導士になって無双????
それってまさになろう系小説の王道展開では????
いや、なろう系小説が原作のアニメ、わたしは結構好きでした。好きだった。でも、でもそう、アニメ大好きだった前世のわたしにも、苦手なジャンルっていうのはあって。
一つ目は日常ほのぼの系アニメ。なんか無になる。
二つ目はギャグアニメ。なんか面白くない。
そして三つ目。最強で冷めてる女子が主人公のアニメ。男性主人公だったら普通に見れるんだけど、なぜか女性主人公はダメで。なんていうの? 共感性羞恥心っていうのかな。こんなこと言ったらいろんな人に怒られそうだけど、なんかこう、見ていると恥ずかしくなっちゃう。
「無双する知ったかぶり女主人公めっちゃ地雷!!!!」
いや、男性主人公の無双系アニメは大好きなんだけど。女性主人公の無双系アニメはなんか地雷で〜〜〜〜特に主人公がなんか冷めてるやつ〜〜〜〜
『まぁ、女性が魔導士を目ざすなんて前例がありませんし、きっと道は険しいでしょうけど…………いっそのこと、男装してみます?』
自分でそう言ってから、彼はやはりそれが名案だとでも言うようにポンと手を打って『ええ、きっとそれがいいですね』と呟いている。
『まずは男性として、魔導士を目ざしてみては? 実績を上げてから女性だと明かすのもそれはそれで面白そうですし…………私としては、ずっと男性の姿をしていてくれたほうがありがたいですけれど』
「男性のふりをするってこと? わたしにできるかな……バレたら大変なことになりそうだし」
詐欺罪?とか詐称罪?とか、いろいろな罪に問われそう。家族にも迷惑かけてしまいそうだ。
『大丈夫。私がついています』
「一緒に来てくれるの?」
『もちろん。言ったでしょう? わたしはあなたの眷属。あなただけの死霊。あなたが死ぬまでお仕えすると』
私の手を取って、彼は微笑んだ。実体をもっても、相変わらず冷たい手。やっぱり彼は幽霊なのだと、頭のどこかで納得した。
『そのかわり、あなたが死んだら、今度は転生なんてせず、あなたの魂を私にください』
そんなことを考えながらぼーっと彼の顔を見ていれば、にこりと微笑んで、彼は恐ろしいことを言った。
『永遠に、私と一緒にいてくださいね』
昨夜の魔力暴走で解けてしまった魔法をかけ直して、わたしはまた闇属性の魔力を隠蔽した。
さすがに黙って家を出ていくのは申し訳なく、「どうしても魔導士になる夢を諦められないので男性として魔法学校に入学したい」と両親に打ち明ければ、当然二人は反対した。
それでも引き下がらないわたしに、先に折れたのは両親のほうだった。なんだかんだで二人はわたしにあまい。愛されている。その自覚があるからこそ、心配をかけることを申し訳なく思う。
たしかに、女性として魔道士を目ざすよりは男性として目ざしたほうが冷遇されないだろうと二人も思ったようだった。闇属性の魔力を隠して得意魔法を水属性と偽ることを二人に話すと、そんなことができるのかと驚いていた。そんなことができるなんてわたしも思わなかったけれどできてしまったのだからしかたない。
「成人の儀も終えて、リタルダンド子爵家には長女しかいないと既に知れ渡ってしまっているから、お前は『アラルガンド』を名乗ったほうが都合がいいだろう」
「アラルガンド?」
それはたしか––––––––……父方の祖母の旧姓だったはず。
「そう。お前の叔父……私の弟が、母の…………お前の祖母の家を継いでいてね。そこそこ名の知れた商家なんだが…………話は通しておくから、お前はアラルガンド家の次男『エアリ・アラルガンド』と名乗りなさい」
数回しか会ったことのない叔父の顔を思い出す。祖母の家系を継ぐためにリタルダンドの家とは縁を切ったと言っていたけれど、父とはとても仲が良くて、いつも気さくに話しかけてくれた。
「アラルガンド家にはたしか、あなたの一つ上の従兄がいたわよね」
『そうなんですか?』
母の言葉に、彼––––––––セツラが反応する。
「ツヅミお兄ちゃんのこと?」
「彼は確か家を継ぐために経済の学校に通っていたな。この時期はたしか、長期休暇で家に帰ってきているはずだが……」
「懐かしいわね。あの子、義弟さんに似てすごくいい子だったわ」
こちらも数回しか会ったことのない従兄の顔を思い出す。叔父さんに似て気さくで明るくて、わたしのことを妹のように可愛がってくれた。
『まさか、そのアラルガンド家に行けとは言いませんよね?』
「話は通しておくから、アラルガンド家に行って、魔法学校入学試験の手続きをしてもらいなさい」
もちろんセツラの声が聞こえていない父は、セツラが心配した通りの言葉を言った。
「ありがとう。お父様、お母様」
「そうと決まれば、必要な物を買わないと。杖は––––」
「杖はいいよ。わたしには、サクラの木があるから」
その言葉に、二人はわたしが二人の目を盗んで魔法の特訓を続けていたことを察したようだった。
「あなたには魔法の才能がある。それは、ずっと前からわかっていたことだったわね」
母はそう言って、どこか寂しそうに笑った。
「大丈夫。きっと、その宝石が、あなたのことを守ってくれるから」
そして、昨夜と同じ言葉を、母は再び呟いた。
横を見上げれば、窓辺に佇むセツラの、宝石と同じ色をした瞳と目が合った。
こうして、このグラツィオーソ王国で、わたしは新たな一歩を踏み出したのだ。
無双系女主人公が地雷なわたしが、転生先の異世界で、男性として魔道士を目ざすために。
異世界転生モノに憧れて5億年ぶりに一次創作書きました。
前作から名前いっぱい引っ張ってきてる……




