表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/75

第54話「ヴォイダスの技術者」

慎一は統合評議会の技術開発室を訪れた。


新しい協奏の理念に基づいて、まずはテクニカとの関係修復を図りたかった。


「テクニカさん」


慎一の声に、テクニカは振り返った。


「田村管理者...」


その表情には、複雑な感情が宿っていた。


「お久しぶりです。調子はいかがですか?」


「おかげさまで、立ち直ることができました」慎一が答えた。「先日のご提案...あの時はお答えできませんでしたが」


「私と共同研究を再開していただけませんか?」


テクニカの目に、一瞬喜びが浮かんだ。


しかし、すぐに暗い影が差した。


「田村管理者...その前にお話ししなければならないことがあります」


テクニカは深く息をついた。


「私の過去について。ヴォイダス様との関係について」


慎一の心臓が早鐘を打った。


「ヴォイダスとの関係?」


「はい」テクニカが重々しく頷いた。「実は私は、500年前...ヴォイダス様の最高技術責任者でした」


慎一は息を呑んだ。


「ヴォイダスの...」


テクニカは慎一を奥の会議室に案内した。


「ここでは誰にも聞こえません。隠していた真実をお話しします」


二人は向かい合って座った。


テクニカの表情は、深い罪悪感に満ちていた。


「私がヴォイダス様に初めてお会いしたのは、今から520年前のことです」


「当時の私は若く、技術への情熱に燃えていました」


テクニカの瞳に、遠い記憶が浮かんだ。


「ヴォイダス様は、まさに理想の上司でした」


「多元宇宙の完全なる調和を目指し、そのための技術開発に惜しみない情熱を注がれていた」


「私も心から、その理想に共感していました」


慎一は黙って聞いていた。


「最初の300年間は、まさに黄金時代でした」


テクニカの声に、懐かしそうな響きが混じった。


「ヴォイダス様の卓越した理論と、私の技術力が完璧に噛み合い、次々と画期的な発明を生み出しました」


「境界安定化装置、世界間通信システム、感情可視化技術...」


「すべて、私たちの協力により実現したものです」


慎一は驚嘆していた。


「あの高度な技術の数々が...」


「はい。ヴォイダス様の天才的な理論構築力と、私の実装技術の融合によるものでした」


テクニカの表情が徐々に曇っていく。


「しかし、時間が経つにつれて、違和感を覚えるようになりました」


「400年目頃からでしょうか...ヴォイダス様の要求が、徐々に変わってきたのです」


慎一は身を乗り出した。


「どのように?」


「最初は『より効率的な統治システム』でした」


「しかし、それが『より完璧な秩序』、そして『絶対的な制御』へと変化していきました」


テクニカの声が震えていた。


「私は技術者として、ヴォイダス様の要求に応え続けました」


「しかし内心では、何かが間違っているのではないかと感じ始めていました」


「完璧すぎる秩序は、生きている世界から生命力を奪うのではないかと」


慎一はテクニカの苦悩を理解し始めていた。


「技術者としての使命と、人間としての直感の狭間で...」


「そうです」テクニカが頷いた。「そして、480年目に決定的な出来事が起こりました」


テクニカは立ち上がり、窓の外を見つめた。


「ヴォイダス様が、最後の開発命令を下されました」


「『感情排除装置』の開発です」


慎一は戦慄した。


「感情排除装置?」


「はい。多元宇宙のすべての生命体から、感情機能を完全に取り除く装置です」


「『論理的思考のみが残れば、争いも苦痛も存在しない完璧な世界が実現する』とヴォイダス様は仰いました」


慎一の血の気が引いた。


それは、自分が論理偏重時代に抱いていた究極的な願望と同じだった。


「私は...拒否しました」


テクニカの声が、ついに涙声になった。


「技術者として、そして一人の生命体として、そのような装置を作ることは絶対にできませんでした」


「感情こそが、生きている証拠だと思ったからです」


慎一は胸が痛んだ。


「それで、ヴォイダスは?」


「激怒されました」テクニカが振り返った。「『お前は理想を理解していない』と」


「『完璧な論理こそが、すべての苦痛を終わらせる唯一の道だ』と」


「そして私を最高技術責任者から解任し、一人で開発を続けると宣言されました」


テクニカは再び座り、顔を伏せた。


「その20年後、ヴォイダス様は姿を消されました」


「感情排除装置の開発に行き詰まり、絶望の末に失踪されたのです」


慎一は深い衝撃を受けていた。


「テクニカさん...あなたは正しい判断をされました」


「本当にそうでしょうか?」テクニカが顔を上げた。「もし私が協力していれば、ヴォイダス様を孤立させることはなかったかもしれません」


「私の拒否が、彼を絶望に追い込んだのかもしれません」


慎一は立ち上がり、テクニカの肩に手を置いた。


「いえ、違います」


「あなたは、ヴォイダスの最も大切な部分を守ろうとしたのです」


「感情排除装置の開発に協力していたら、それこそ真の悲劇でした」


テクニカの目に驚きが浮かんだ。


「でも...」


「テクニカさん、私も同じ道を歩みそうになりました」


慎一は静かに語った。


「論理偏重に陥り、感情を切り捨てようとした時期がありました」


「あなたがヴォイダスに示した『感情こそが生きている証拠』という信念は、今の私にとって大切な指針です」


テクニカは涙を流していた。


「田村管理者...」


「あなたは500年間、一人でその重荷を背負い続けてきたのですね」


慎一は深く頭を下げた。


「あなたの苦悩を理解せず、単純に協力を求めてしまい、申し訳ありませんでした」


「いえ、そんな...」


「でも今なら、真の協力ができると思います」


慎一はテクニカを見つめた。


「論理と感情を統合し、ヴォイダスが実現できなかった真の調和を築くために」


「あなたの技術と、私の理論を協奏させませんか?」


テクニカの表情に、希望の光が宿った。


「協奏...」


「はい。対立ではなく、補完し合う関係として」


「あなたが守った『感情こそが生きている証拠』という真理と、論理的思考の力を統合して」


テクニカは立ち上がった。


「田村管理者...いえ、慎一さん」


「私も、真の協力をお受けしたいと思います」


「ヴォイダス様にできなかったことを、今度こそ実現するために」


二人は手を取り合った。


500年の重荷が、ついに共有された瞬間だった。


「ありがとうございます、テクニカさん」


「こちらこそ。ついに、秘密を共有できる仲間を得ました」


窓の外では、ネクシスの夕日が美しく輝いていた。


過去の悲劇を乗り越え、新たな協力関係が生まれた瞬間だった。


テクニカの告白により、ヴォイダスの過去の一端が明らかになった。


そして慎一は、自分がいかに危険な道を歩みそうになっていたかを、深く理解したのだった。


---


## 次回予告


**第55話「技術の罪悪感」**


テクニカの告白は続く。ヴォイダス失踪後の500年間、彼女が抱え続けた深い罪悪感。


「私の技術が、今ヴォイダス様の破壊工作に使われているかもしれません」


境界破壊に使用されている技術の一部が、かつてテクニカが開発したものだった可能性。


「私は、世界を救うつもりで、破壊の道具を作ってしまったのかもしれません」


技術者としての使命と責任、そして贖罪への道。


テクニカの過去編後半で、隠されていた真実のすべてが明かされる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださってありがとうございます!
面白いと思ったら、ぜひ☆評価・ブックマークをお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ