表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/75

第43話「テクニカとの対立」

三つの世界での境界攻撃から12時間が経過し、状況はさらに悪化していた。


慎一は境界研究院の技術室で、テクニカと最後の対話を試みていた。かつて協力していた研究パートナーとの関係修復が、残された唯一の希望だった。


「テクニカさん」


慎一が資料を整理しながら切り出した。


「私の統合理論を基に、三世界同時救済の技術的解決策を検討していただけませんか」


テクニカは冷たい視線を向けた。


「田村管理者、あなたはまだ理解していませんね」


「何を理解していないのでしょうか?」


「あなたの理論は、現実には通用しないということです」


テクニカの声には、これまでにない厳しさがあった。


「通用しない...とは?」


慎一は困惑した。


「ナチュリア救済では成功しました。理論と実践の統合は可能だと—」


「あれは例外です」


テクニカが断言した。


「小規模で、時間的余裕があり、単一の問題だったからです」


「しかし今回は違う」


テクニカがホログラムを表示した。


「三つの世界、異なる崩壊パターン、同時進行、時間制限あり」


「あなたの理論では、この複雑さに対処できません」


慎一は資料を見直した。


確かに、今回の状況は前例のない複雑さだった。


「でも、理論を応用すれば—」


「理論ばかりで実践的解決策を出せない」


テクニカが痛烈に批判した。


「あなたは研究者としては優秀かもしれません」


「しかし、管理者としては完全に無能です」


その言葉は、慎一の心に深く刺さった。


「無能...ですか」


「そうです」


テクニカが容赦なく続けた。


「データが示しています」


新たなホログラムが表示された。


「あなたが管理者に就任してから、技術的問題の解決率は67%低下しています」


「理論的議論の時間は300%増加しましたが、実際の成果は激減しました」


慎一は愕然とした。


数字で示されると、反論の余地がなかった。


「私は理論と実践の統合を目指していました」


「統合?」


テクニカが冷笑した。


「あなたがやっているのは統合ではありません」


「実践を理論で複雑化しているだけです」


「複雑化...」


「そうです」


テクニカが説明した。


「実践的問題には、実践的解決策が必要です」


「理論的美しさなど、どうでもいいのです」


「重要なのは、結果です」


慎一は混乱した。


自分が追求してきた統合の理念が、完全に否定されている。


「でも、感情的な要素も考慮する必要があります」


「感情?」


テクニカの声が一段と冷たくなった。


「技術に感情など不要です」


「効率性と合理性こそが、すべてです」


「住民たちの気持ちは—」


「住民の気持ちを考慮した結果が、これです」


テクニカが現在の状況を示すデータを表示した。


「三つの世界が崩壊し、数十万の住民が危険にさらされている」


「感情的配慮の代償は、あまりにも大きすぎます」


慎一は言葉を失った。


確かに、結果だけを見れば、自分のアプローチは失敗だった。


「テクニカさん、しかし以前は協力してくださっていました」


「それは私の判断ミスでした」


テクニカが率直に認めた。


「あなたの理論的思考に期待していました」


「しかし、現実は理論通りにはいかない」


「特に、政治的要素が絡むとなおさらです」


慎一は思い出していた。


第21話での最初の論争から、徐々に関係が悪化していったことを。


「私たちの共同研究は—」


「中断します」


テクニカが冷静に宣告した。


「これ以上、非効率的な議論に時間を費やすわけにはいきません」


「中断...ですか?」


慎一は絶望した。


最後の協力関係も失われてしまうのか。


「長老評議会として、独自の技術的解決策を実施します」


テクニカが説明した。


「効率性を最優先とし、感情的要素は一切排除します」


「それでは、住民たちの心のケアは—」


「心のケアよりも、生命の保護が優先です」


テクニカが機械的に答えた。


「まず生き残ってから、心配すればいいのです」


慎一は理解した。


テクニカの言っていることは、論理的には正しかった。


しかし、何かが間違っているような気がした。


「でも、人間は心を持つ存在です」


「心を無視した解決策では—」


「あなたのその甘さが、現在の惨状を招いたのです」


テクニカが厳しく指摘した。


「管理者として、もっと現実的になるべきでした」


「理想論では、人は救えません」


その時、緊急通信が入った。


「技術長老テクニカ」


アズライトの声が響いた。


「アルディア世界でも境界異常が発生しました」


「四つ目の世界への攻撃です」


テクニカの表情が緊張した。


「詳細を報告してください」


「魔法制御システムの暴走が始まっています」


「このままでは、6時間以内にアルディアも完全崩壊します」


慎一は震えた。


四つの世界が同時に危機に陥っている。


もはや対処不可能な規模だった。


「テクニカさん、今こそ協力して—」


「協力?」


テクニカが振り返った。


「あなたと協力して、さらに事態を悪化させろとでも?」


「私は...」


「もう十分です」


テクニカが立ち上がった。


「技術的解決は、技術者だけで行います」


「理論家の出る幕ではありません」


慎一は絶望した。


理論と実践の統合への道が、完全に閉ざされてしまった。


「せめて、私の提案だけでも聞いてください」


「時間の無駄です」


テクニカが冷たく拒絶した。


「あなたの提案は、これまでの経験から予測できます」


「理論的に美しいが、実践的に無価値」


「そして、実行には膨大な時間がかかる」


「今必要なのは、迅速で確実な解決策です」


慎一は頭を抱えた。


自分の研究者としてのアイデンティティまで否定されている。


「私は、ただ多元宇宙の平和を—」


「平和?」


テクニカが皮肉な笑みを浮かべた。


「あなたの平和への願いが、この混乱を招いたのです」


「善意だけでは、世界は救えません」


その時、研究室の扉が開いた。


「お疲れ様です」


ヴォイダスが姿を現した。


「興味深い議論でしたね」


慎一は身構えた。


最悪のタイミングで、最大の敵が現れた。


「ヴォイダス...」


「テクニカ」


ヴォイダスが懐かしそうに声をかけた。


「久しぶりですね、私の古い協力者よ」


テクニカの表情が複雑に変わった。


「ヴォイダス様...」


「あなたは、ついに理解したようですね」


ヴォイダスが満足そうに言った。


「理論と実践は、決して統合できない」


「感情は、技術の敵でしかない」


「そして、完璧な効率性こそが、すべての答えだということを」


慎一は震えた。


テクニカとヴォイダスの間に、奇妙な共感が生まれているのを感じた。


「私は...」


テクニカが迷うように呟いた。


「効率性が最優先だと信じています」


「正しい判断です」


ヴォイダスが称賛した。


「感情的な配慮など、無駄な障害です」


「田村慎一君のような理想主義者とは、関わらない方が賢明です」


慎一は絶望した。


テクニカまでもが、ヴォイダスの影響を受けようとしている。


「テクニカさん、思い出してください」


慎一が必死に訴えた。


「私たちは、より良い多元宇宙を作ろうとしていたんです」


「より良い多元宇宙?」


テクニカが冷たく言った。


「あなたの理想論の結果が、これです」


「四つの世界が崩壊し、数百万の住民が危険にさらされている」


「もう、あなたの言葉を信じることはできません」


慎一は膝が崩れそうになった。


最後の協力者まで失ってしまった。


「科学的協力関係の破綻」


ヴォイダスが嬉しそうに確認した。


「これで、田村慎一君は完全に孤立しましたね」


「政治的に無力で、技術的にも無価値」


「もはや、何の脅威でもありません」


慎一は立ち尽くしていた。


管理者として、研究者として、人間として。


すべてを失ってしまったような気がした。


理論と実践の統合という夢は、幻想だったのだろうか。


論理と感情の調和など、本当に不可能なのだろうか。


「田村慎一君」


ヴォイダスが最後の一撃を加えた。


「あなたも、そろそろ現実を受け入れてはいかがですか」


「統合など、存在しないということを」


慎一は答えることができなかった。


もう、反論する言葉が見つからなかった。


科学的協力関係の破綻により、彼の孤立は完全なものとなっていた。


---


## 次回予告


**第44話「信頼失墜」**


テクニカとの関係破綻により、慎一への信頼は各世界からも失墜していく。


「境界崩壊を阻止できない責任を追及されます」


ネクシス市民からの厳しい視線。管理者としての能力への疑問が公然と議論される。


「田村管理者では、多元宇宙を守れない」


各世界の住民からも不信の声が上がり始める。


「私たちの運命を、無能な管理者に委ねるわけにはいかない」


統合評議会内部でも、慎一の能力への疑問が表面化する。


「管理者交代を検討すべき時が来たのかもしれません」


あらゆる信頼を失い、立場が極めて不安定になった慎一。


「誰も...私を信じてくれない」


完全な孤立への最終段階が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださってありがとうございます!
面白いと思ったら、ぜひ☆評価・ブックマークをお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ