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異世界主人公計画①

「めちゃくちゃ異世界だ!」

目の前には中世を思わせる街並みが広がっていた。

街を行き交う人々は、人間のみならず、いわゆる獣人や、ドワーフといったファンタジー定番の人種も見てとれる。

特別こういう世界に憧れていた訳ではないが、いざ来てみると興奮を覚える。

「もしかして、ここであれは魔王を倒す勇者になれるのかな!?」

興奮のまま、優樹にそう問いかけるが、姿が見当たらない。

先程まで隣にいたはずと周囲を見渡すと、僕の右肩に少し重みがかかる。

目線を向けると、そこには随分と縮み、妖精らしくなった優樹が腰掛けていた。

「いや、お前は勇者じゃない。」

自身の変化には一切触れることなく、僕の期待を切り捨てる。

「いいか、この世界には既に勇者は存在している。

お前と同じ、異世界から転生してきた勇者だ。

もしこの世界で主人公になりたいなら、お前はそいつより強くなって、主人公の座を奪うしかない。

だから、鍛えろ。」

なるほど。主人公になるためには今いる主人公を超える必要があると。

「ちなみに、今いる主人公は転生時に特別な能力を授かっているから、実力は世界トップクラス。

国からも正式に勇者として認められているし、国民からも絶大な人気だ。

ついでに、顔もかっこいい。」

めちゃくちゃ正統派主人公である。

「残念な事にお前は無理やりこの世界に来てるから、何一つ授かっていない。

もちろん知り合いなんていないし、顔もそこそこだ。

現状何一つ勝てていないが、頑張れ。

あ、言葉だけは伝わるようにしてるから。」

絶望的な現実を突き付けられたが、異世界へと来た事は変わりない。

とりあえず、今日の宿を探す事にした僕は街を見て回ることにした。

「では、料金は3,000マニーです。」

そこでようやくお金を持っていない事に気付いた僕は、ダメ元で受付のお姉さんにお願いする。

「あの、後払いとかいけますか?」

「申し訳ありませんが、料金につきましては前払いとなっております。」

あっさりと断られ、その場を立ち去るしかなかった。

その後もひたすら断られ続けて、街はすっかり暗闇に包まれていた。

「まぁ、こんなもんだろ。金もない奴を泊めてくれる訳ないしな。」

他人事かのように言ってくる優樹に怒りを抑えつつも問いかける。

「お金、どうやったら稼げるの?」

「働くしかないだろ。」

「それは分かってるんだけどもさ!どんな仕事ができるのかな!?」

何とも腹立たしい妖精である。

「そりゃ、冒険者だろ。」

そりゃと言われても、確かにそういう仕事があることは予想していたが、初めに説明の一つぐらいあっても良かったのではと思う。

「それ、どうやってなれるの?」

「今日はもう遅いから無理だな。明日、ギルドに案内してやるよ。」

最初に説明してくれればと文句を言いたくなるが、もうその気力もない。

「今日、野宿か」

改めて口に出すと、涙が出そうになる。

そんな僕の様子を見て、優樹が手を差し伸べた。

「お前にいい宿紹介してやるよ。」

「え、本当に!」

初めてこの妖精が役に立った。

喜びのまま、僕は優樹の手を取り、引かれるがまま付いて行く。


「あのさ、どこに連れて行かれてるの?」

周囲は木に囲まれ、明らかに人里を離れていっていた。

「ほら、着いたぞ。」

僕の疑問とほぼ同時に、優樹が指を刺した先には禍々しいオーラを放つ洞窟があった。

「あのさ、一応聞くけど、あれが宿?」

「あぁ、今この国で一番強いモンスターが出てくるダンジョンだな。」

微塵も悪びれる様子もなく、そう言い放った妖精に、僕は拳を繰り出す。

それをあっさりと避け、優樹は言葉を続けた。

「いいか、よく聞けよ。

お前は主人公になりたいんだよな?」

主人公、その言葉に僕の心を満たしていた怒りはあっさりと引き下がる。

「うん、主人公になりたい。」

「なら、鍛えないといけないって言ったよな?」

確かに言われた気がする。

「よく考えろ。ここなら確実に強くなれる。その上、宿代もタダ。最高だろ?

ここに住めば、お前は主人公になれる。」

主人公になれる。

そうか、僕はここで鍛えれば主人公になれるのか。

「ありがとう!僕、頑張るよ!」

「ちょろすぎるだろ…」

こうして、僕の異世界生活が始まったのだ。


「これさ、死ぬよね?」

洞窟に入った僕を迎えたのは二十体を超えるモンスターの群れだった。

「あれはウォーウルフだな。あの群れの数だと、初心者は確実に死ぬ。」

え、詰んだんですけど。

洞窟に入っただけなのに、命が終わるなんてことあっていいのだろうか。

「大丈夫だ。お前には美少女戦士として戦った経験がある。

力は失われているが、身のこなしは身体が覚えているはずだ。」

だから何だというのだろうか。

僕と同サイズの狼が二十体以上。

どうしたって勝てる通りはない。

でも、こんなところで諦める訳にはいかなかった。

「主人公ってのは、自分より強大な敵にも恐れず立ち向かって、勝利を掴むもんだよね!」

そう自分に言い聞かせて、狼の群れに突撃する。

(とにかく、一匹ずつ確実に仕留める!)

優樹の言った通り、僕の身体は戦いの経験を覚えてるようだ。

敵を仕留めるためにどう動けばいいか、頭で考えるよりも早く身体が答えてくれる。

群れの先頭に立つ三体に向け、地面の砂を蹴り上げると二体が怯む。

上手く砂を避けた一体がこちらへと飛びかかってくるが、その動きは直線的だ。

身体を捻って攻撃を避け、そのまま狼の後頭部に向かって拳を振り下ろす。

足元に転がった頭部を力一杯踏み抜きつつ、こちらに向かってくる二体の迎撃を図る。

(流石に数が多い!)

ヒット&アウェイを繰り返し、少しずつそれぞれの個体へダメージを与えていく。

しかし、多勢に無勢。

三体は倒したものの、体力の限界が近付く。

(よし、逃げよう。)

僕はそう判断し、一度威嚇したのちに出口へ向かって全力で走った。

ウォーウルフ達も全力で追ってくるが、無事に出口まで辿り着いた。

ウォーウルフ達はこちらを睨みつけ、そのまま洞窟の奥へと帰っていく。

その様子を見て、安心した僕はただただ様子を見ていた優樹に対して叫ぶ。

「攻撃力が足りない!」

武器の一つでもあれば何とかなったが、素手では絶対に勝つことができない。

「そりゃそうだろうな。でも、金がないんだから仕方ないだろ。」

何て冷たい妖精なんだ。

少し前までは親友だったはずなのに。

「まぁ、三体は倒せたんだ。あと6回頑張れば全部倒せるだろ。」

「随分簡単に言ってくれるね!?」

単純に計算すればそうかもしれないが、ウォーウルフ達も学んでいる。

次はそう簡単に群れを崩すことはないだろう。

となると、次も三体仕留めることができるかは分からない。

「いい加減にしろ!お前はそんなもんなのか!?」

何故僕が怒鳴られているのだろう。

「お前の主人公への想いはそんなもんかって聞いたんだよ!

武器が欲しいだのなんだの文句言いやがって。

本物の主人公だったらな、自分の力を信じて、何があっても諦めないんじゃねーのか!?」

僕はなんて馬鹿だったのだろう。

優樹の言う通り文句ばっかり言って、これじゃ口先だけで主人公になりたいと言っているようなものじゃないか。

「いいか。俺はお前なら本物の主人公になれると信じてる。だからこそ、俺に頼らず自分の力で道を切り開いて欲しいんだ。分かるよな?」

僕はその言葉に大きく頷く。

「ごめん。優樹の言う通りだ。

でも、もう大丈夫。ありがとう!」

感謝の言葉を述べると、満足そうに頷く優樹。

「よし、じゃあ行ってこい!」

その言葉を背に受けて、僕は再び洞窟へと向かう。

その入り口には、既にウォーウルフ達が待ち構えていた。

「いいか、よく聞けよ!

僕はこの世界の主人公になる男だ!

お前らみたいな雑魚には負けない!」

そして大きく息を吸い込み

「行くぞ!」

咆哮と共に群れへと飛び込んだのだった。


「やった、やったぞ!やったんだ!」

群れの最後の一体を倒し、遂に僕はウォーウルフに勝利した。

決して楽な戦いではなかった。

ギリギリで逃げ出し、体力が回復したら立ち向かう。

それを繰り返し、何とか勝利をもぎ取ったのだ。

「これで、主人公に近づいた!」

「やったな。まさか本当に素手で勝つとは。」

優樹は手を叩きながら、僕に向かって称賛を送っていた。

「主人公になる人間はこの程度の試練、乗り越えないとだよね。」

鼻高らかにそう答えたが、2回ほど死にかけた。

しかし、僕は生き延びた。

その喜びを噛み締めていると、身体がほんのりと光を浴びる。

「何だこれ?」

「魔物のマナを吸収したんだ。マナを吸収すればするほど、人間は強くなれる。」

確かにそう言われると、疲れ切っていた身体から力が湧いてきた気がする。

「じゃあ、魔物を倒せばそれだけ強くなれるってことか。」

であれば、ここは本当に強くなるのにうってつけの場所だ。

優樹に再び感謝しつつ、僕は洞窟の隅で身体を休めた。


翌朝、入口から差し込む陽の光で目を覚ました僕は

自身の空腹を凌ぐため、食糧を探していた。

「食べるものがない!」

探し始めて一時間ほど経ったが、周囲には食べれそうなものは見つからなかった。

僕の声で目を覚ました優樹が僕にアドバイスをくれる。

「食べ物なら魔物の肉があるだろ。」

その発想はなかった。

でも、魔物の肉は食べれるのだろうか?

もし食べれたとしても、獣の捌き方も知らないし、道具も何もない。

僕がそう反論すると、優樹は仕方ないと言った様子で右手を振る。

すると、目の前のウォーウルフ達が一瞬で肉、毛皮、骨と分けられた。

「え、何それ!そんなのできるの!?」

驚く僕を気にも留めず、肉に向かって再び右手を振る。

すると、生肉が鉄板の上に乗せられた立派なステーキへと変身した。

しかも、コーンとじゃがいもも添えられている。

それを見て満足そうに頷くと、小さなフォークとナイフを手に持ち、上品に食べ始める。

「あれ、僕の分はないのかな!?」

まさか、一人で食べ始めるとは。

無視を続ける優樹に必死に頼み込み、何とか僕の分も用意してもらった。

お腹を満たした僕達は更に洞窟の奥へと向かった。

洞窟内は入り組んだ構造をしていたため、迷わないようにとマーキングを施しながら進んでいると、鼻を刺すような悪臭が漂ってきた。

「何の臭いだ?」

「多分、ゴブリンとかそういった類の魔物がこの奥にいる。」

どうやら、ゴブリンやオークといった魔物の巣は死臭と排泄物の臭いが混ざった、途轍もない悪臭を放つらしい。

それを何とか堪えつつ進むと、二匹のゴブリンが歩いていた。

「あいつらは巣を守る門番だ。

見つかったら直ぐに仲間を呼ばれるから、一瞬で始末した方がいい。」

優樹の言葉に従い、タイミングを見計らう。

ちょうど、その二匹が角を曲がる瞬間、遅れていた一匹の首を後ろから締め付け、思いっきり捻る。

ゴキッという音と共に、ゴブリンの首が折れ曲がった。

そのゴブリンを持ち上げて、もう一匹に向かって思いっきり投擲する。

それと同時に走り出し、怯むゴブリンの首を締め上げた。

ゴブリンもしばらく抵抗していたものの、身体から徐々に力が抜けていき、そのまま意識を失った。

僕の身体を淡い光が包むのを確認しつつ、二匹のゴブリンが手に持っていた槍を手に取る。

その槍は非常に簡易的な作りであったものの、ようやく武器を手に入れることができ、自然と笑みが溢れる。

「よし、このまま行くぞ!」

そう気合を入れて、更に奥へと進んだ。


意気揚々と進む僕の前に広がっていたのは、地獄のような光景だった。

「これさ、百匹ぐらいいない?」

「正確にはゴブリン五十匹、オーク三十匹、オーガ一匹で合計八十一匹だな。」

だから何だというのだろうか。

ここからでも上等であることが伺える装備を身に纏い、ゆうに2メートルを超える巨軀の鬼。

それを取り囲むように立ちはだかる二足歩行の猪の魔物。

そして、先程倒したゴブリンが五十体。

「一旦帰るね。」

踵を返し、全力で入口付近まで戻る。

「あれは無理だ。」

あれは群れではなく軍隊だ。

一人で魔物の軍隊と戦うなんて正気の沙汰じゃない。

「お前なら大丈夫。」

優樹が僕に声をかける。

「お前こそ、この世界の主人公になる男だ。」

その言葉を聞くと不思議と力が湧いてくる。

「そうだ。僕は主人公になる男だ!」

僕は再び踵を返し、群れに向かって突撃した。


「おいそこのデカブツ!お前がかかってこいよ!

部下の後ろに隠れて、それでも魔物か!?

本当は弱いから隠れてるんだろ!」

(この数とまともにやったら死ぬ!)

そう確信していた僕はひたすらオーガを挑発していた。

恐らく言葉は伝わっていないだろうが、身振り手振りに加えて、小石を投げたりなど、挑発し続ていると、遂にオーガがこちらに向かって来た。

僕はそれに合わせて、ゴブリン達が密集している場所へと走り出す。

手に持つ大剣を振りかぶるオーガに合わせ、僕は身を屈める。

その大剣は多くのゴブリンを巻き込みながら、僕の頭上を通過する。

予想通り、オーガはゴブリン達のことを消耗品だと思っているらしい。

僕はゴブリン達の落とした武器を拾い上げながら、ひたすら逃亡を続ける。

逃げる僕を足元のゴブリン達を蹴散らしながら追ってくるオーガ。

(これでかなり減った!)

オーガのおかげでかなりの数のゴブリンが命を落としていた。

だが、未だオークの群れは健在である。

(何とかあいつらも減らしたい。)

僕はオーガを引きつけつつ、次のターゲットであるオークの群れへと突撃する。

先程のゴブリンの二の舞にはならないと僕から距離を取ろうとするオークに対して、先程拾い上げた武器を投げつけ足止めを行う。

飛んでくる武器に気を取られたオークと距離を詰め、再びオーガなら攻撃を避ける。

オークも攻撃に気付き、必死に避ける。

僕はその隙をつき、オークの頭部に短剣を突き立てた。

次第にオークも数を減らしていき、気がつくと僕とオーガ以外、この場に立つ者はいなくなっていた。

「ガァァ!!」

僕を未だに殺せていない苛立ちを隠すことなく、オーガは激しい咆哮を繰り出す。

僕はそれに反応することなく、周囲の武器を拾い上げ、ひたすらオーガに投擲した。

逃げて投げて逃げて投げる。

そして遂に、オーガの胸に一本の短剣が突き刺さる。

その痛みに怯んだ瞬間、僕はオーガとの距離を詰め、喉元に渾身の力を込めて刃を突き立てた。

ようやく力を失うオーガの身体。

僕もその場に倒れ込み、忘れていた呼吸を再開する。

時折悪臭に吐き気を催しつつ、身体に酸素が行き渡ったことを確認し、ゆっくりと立ち上がった。

「おつかれ。よく勝ったな。」

先程まで命のやり取りをしていた僕に対して、何故これほどに軽い言葉を掛けてこれるのか不思議でならない。

「飯食うか?」

込み上げていた怒りもその言葉で消えていく。

僕は苦笑いしながら、優樹と協力しオークとオーガの死骸を持ってこの場を離れた。


「オーク、めちゃくちゃ美味しい!」

見た目の期待を裏切らない味に箸が止まらない。

憎たらしいことに肉に合わせた調理が施されており、その味付けも絶妙だ。

「これさ、味付けってどうやってるの?」

「俺がしてる」

得意げにそう言う優樹に少し苛立ちを覚えたが、食事を与えられている立場のため、ぐっと堪えた。

「ここってさ、どのぐらいの広さがあるの?」

まだここに来て2日だが、ウォーウルフにオーガと死闘を繰り広げた。

どれほど主人公に近づいたのかが気になり、そう問いかける。

「東京ドーム二十個分。」

相当広いことは分かるが、いまいちピンとこない数字。

「今、どのぐらい進んでる?」

明確な数字が知りたくて、質問を変える。

「2%」

「全部で何%?」

「100%」

「今は?」

「2%」

絶望的な数字に開いた口が塞がらない。

「だからさ、いちいちこんなとこで喜んでたら一生終わんないよ?」

いつもなら反論するところだが、僕の心は絶望に埋め尽くされていた。

そんな僕に囁かれる魔法の言葉。

「お前は主人公になれる。」

そうだ、僕は主人公になれる。

僕は主人公になるために、こんなところで逃げ出す訳にはいかなかった。

「僕はこの世界で主人公になる!」

こうして、僕の異世界主人公計画が開始されたのだった。

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