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この人生の主人公は僕ではない

不定期更新予定です。

遅くとも週一回は更新します。

「君の人生の主人公は君だ!」

どこかで聞いたことのある、ありきたりな言葉。

僕はその言葉を見た時、心が跳ねるのを感じた。

(そっか、主人公は僕だ!)

僕、世界守(せかいまもる)がその言葉を座右の銘に据えたのは中学入学を迎え

た春だった。

そこからの僕は自分の人生の主人公となるために必死に努力を続けた。

入部したサッカー部ではチームの誰よりも練習した。

早朝から走り込み、ボールをひたすら蹴り続け、練習中は誰よりも声を張り、必死になってサッカーに打ち込んだ。

しかし、努力では埋めることのできない才能の差を知る。

天才と呼ばれるエースの存在。僕は一年経ってもその天才からチームのレギュラーの座を奪えず、ここでは主人公にはなれないと悟った。

ならば次は勉強だと、必死になって勉強した。

授業中も一言一句聞き漏らさぬよう集中し、教科書も隅々まで読み尽くした。

しかし、結果は学年5位。

これ以上ない程に時間を費やしたのにも関わらず、僕の上には4人の人間がいた。

僕はここでは主人公になれないと悟った。

それならば、次は学園生活だと学校の生徒会に入った。

少しでも多くの生徒の力になれるよう、相談は片っ端から受け入れた。

日々、より良い学校生活を送れるようにと学校のことだけを考え、教員に提案し、校則の改定にも取り組んだ。

しかし、生徒会長選挙で敗れ、ここでも主人公になれないのだと悟った。

そして主人公になれないまま、中学生活を終えたのだ。


「僕さ、主人公になりたいんだ。」

同じ高校へと進学した幼馴染である石川優樹に僕がそういうと、スマホから目を離し、ゆっくりとこちらに視線を向ける。

「頑張れ」

僕にそう言い返し、優樹は再びスマホへと視線を戻した。

何とも適当な回答にもどかしさを覚えつつも話を続けた。

「このままじゃさ、多分主人公になれないんだよ。

僕は僕の人生の主人公になりたい!」

「何でそんな主人公になりたいの?」

そう続ける僕に心底面倒そうな表情でそう問いかけてくる優樹。

「何でって、僕の人生の主人公は僕だからだよ!

それなのにまだ主人公になれてない!

由々しき事態じゃんか!」

僕の必死な訴えは全く届いていないらしい。

「分かった。じゃあ、お前を主人公にしてやるよ。」

そう言って僕の胸に手を当てる優樹。

その行動の意味が分からず、固まっている僕の胸が突然光出す。

「え、何これ!何で光ってるの!?」

叫ぶ僕のことは気に留めず、優樹は僕に何かを与え続ける。

優樹の手がより強い光を放った瞬間、僕の身体を光が包み込んだ。

激しい光から逃れるために閉じていた目を開くと、僕の身体はメイド服に包まれていた。

「お前は今日から美少女メイド、世界守せかいまもるちゃんだ。

世界を守るために頑張ってくれ。」

淡々とそう告げる優樹。

「いや、全然分からないんですけど!

何その適当な名前!あとこの格好、めっちゃ嫌なんだけど!」

そういう私に優樹はスマホを向け、写真を撮った。

「ほら、どう見ても美少女メイドだから安心しろ。」

そこに写るのは、確かに美少女と呼ぶに相応しい女の子だった。

「俺さ、実は妖精なんだよね。実は2ヶ月後に悪魔達が攻めてくるんだけど、それに対抗できる戦士を探す任務を与えられてて。」

気だるげにそう言い放つ姿は決して妖精とは思えなかった。

「まぁ、とにかくお前のこと、この世界を守る主人公として選んだんだ。頑張ってくれよ。」

その言葉に心臓が跳ねる。

「僕が主人公?」

「うん、お前がこの世界を守る主人公だ。」

「やったーー!!!」

理由なんて何でもいい。

優樹の正体なんてどうでもいい。

僕は、主人公になれたんだ!!

優樹を抱きしめ、ひたすらに感謝の言葉を述べる。

「ありがとう!大好きだ!!」

「あのさ、俺が言うのも何だけど、もうちょい聞きたいこととかないの?」

呆れた様子でそう言う優樹。

「ない!感謝以外何一つない!ありがとう!

何でもするから何でも言ってくれ!」

興奮のあまりつい早口になってしまう僕。

「じゃあさ、二ヶ月後に悪魔達が来るから、頑張って戦ってくれ。

力の使い方はそのメイド服が教えてくれるから。」

余程僕のことが面倒だったのだろう。

彼はそう言って逃げるように部屋を出ていった。

「分かった!ありがとう!」

僕はひたすら感謝を伝え、優樹を見送った。

「よし、やるぞ!

おい、メイド服!どう戦うか教えてくれ!」

その言葉にメイド服が反応する。

「戦闘訓練を開始しますか?」

無機質なその声に僕は元気よく反応する。

「開始する!」

そこから、2ヶ月間、ぶっ通しで戦闘訓練を続けた。

学校を休み、家にも帰らず、ひたすらに訓練し続けた。

体力が尽き、気を失うまで戦い続ける。

目を覚ましたら食べれるだけ食べ、再び訓練に戻る。

そんな生活を続けること2ヶ月、遂に悪魔達が攻めてくる日を迎えた。

「お前さ、2ヶ月ぶっ続けで戦ってたわけ?」

久しぶりに見た優樹の背中には透明な羽が生えていた。

「優樹って本当に妖精だったんだな。」

力をもらったものの、どうも信用することができなかったが、本当に妖精だったらしい。

「そう言っただろ。いいか、もうすぐ悪魔達が来る。

お前はひたすら悪魔を倒してくれ。

その間に俺達が悪魔を封印する魔法をかける。

その時間を稼いでくれればいい。」

その言葉に僕は背筋が凍る。

「ちょっと待って。その封印ってさ、どのぐらいでできるの?」

恐る恐るそう聞くと、優樹は淡々と答えた。

「二時間あれば何とかなると思う。だから守ちゃんは何とかその時間を稼いでくれ。」

「嫌だ!」

その言葉を僕は全力で拒否した。

拒否されるとは想定していなかったのか、驚いたような表情を浮かべる優樹。

「何なんだよ二時間って!ありえないだろ!」

「落ち着け。お前なら大丈夫だ。もし二時間耐えれないときには、こっちから助っ人を出す。」

怒りをぶつける僕を落ち着かせようとする優樹の言葉。

しかし、その言葉は僕の怒りに油を注いだ。

「違う違う違う!

何でたった二時間かって言ってるんだよ!」

僕は主人公になったんじゃなかったのか。

「二時間したら終わるって、そしたらもう僕の力はいらないじゃないか!

そしたらもう主人公じゃなくなるじゃん!

成功したらハッピーエンドで物語終わりじゃん!

僕の人生はまだまだ続くんだよ!」

そう言い放った僕の横顔が巨大な拳によって吹き飛んだ。

「守ちゃん!」

優樹がそう言いながら駆け寄ってくる。

「大丈夫か?」

大丈夫か。そんなの聞かれるまでもない。

「大丈夫じゃねーよ!ふざけんな!

何で今日で主人公終わりなんだよ!」

身体は全くの無傷だった。

2ヶ月間、死ぬ気で鍛えたおかげだろう。

「そんなこと言ってる場合じゃない!

悪魔達を倒してくれ!このままじゃ地球が支配されるんだぞ!」

真剣にそう言う優樹に僕は渋々従う。

「分かったよ。戦えばいいんだろ!」

その言葉に安心した様子を見せると、説明を続けた。

「いいか、守ちゃんの他に10人の美少女メイドがここに来てる。

その子達と協力して、何とか二時間稼ぐんだ。

もし可能なら、悪魔王を倒してくれ!」

衝撃の事実に僕は膝から崩れ落ちる。

「他に10人の美少女メイド?」

「あぁ、他の妖精が探した戦士達だ。みんなで協力すれば、絶対に勝てる!」

僕はそう言う優樹の胸ぐらに掴みかかった。

「何で俺だけじゃないんだよー!」

僕の目から涙が溢れ出す。

「俺は主人公になれたんじゃなかったのかよ。」

僕は11人もいる戦士の一人に過ぎなかったらしい。

その事実に涙を流す僕に、困惑した様子の優樹。

悪魔達と美少女メイド達が激しい戦いを繰り広げる中、僕と優樹の間には異様な空気が流れていた。

それを引き裂いたのは、異様なオーラを身に纏う悪魔だった。

「はっはっは!私が悪魔王だ!

美少女メイドよ。貴様らを全員殺し、この地球を私が手に入れる!」

僕は行き場のない怒りを向ける先を見つけた。

「大声で馬鹿みたいに笑いやがって。何がそんなに面白い?」

僕は拳を握りしめ、精一杯の力を込める。

「少し、黙れ!」

その力を悪魔王に向けて解放した。

周囲を巻き込み、派手に吹き飛ぶ悪魔王。

僕はそれを追い、悪魔王を踏みつけた。

「お前がもっと強ければ、お前がもっと計画的に動いていれば、お前が他の美少女メイドを倒していれば、そうすれば僕は主人公になれたのに。」

こいつが弱いせいで僕は主人公になれなかった。

「お前のせいで、僕は、僕は。」

再び怒りを込め、拳を握る。

「僕は主人公になれないんだ!!」

その拳を振り下ろした瞬間、この戦いに終止符が打たれた。


「守ちゃん、ありがとう。お前のおかげでこの世界は守られた。」

そう言いながら、少しずつ薄れていく優樹。

「俺はもう妖精界に帰るけど、お前のことは忘れないよ。」

そして、優樹はそのまま消えていこうと天を仰ぐ。

「ちょっと待て。」

優樹の薄れた腕を掴み、僕が力を与えられた際と同じように優樹に力を送り込む。

僕からの力を徐々に受け取り、薄れていた姿が再び色を取り戻す。

「何で?」

優樹は自身に起きた変化に戸惑いを見せながら、何故と問いかけてくる。

「いいか。僕は主人公になりたいんだ。

こんな中途半端は許さない。君には責任がある。

僕のことを主人公にするまで、妖精界に帰れると思うなよ!」

そう言い放った僕に対し、心底面倒そうな表情を浮かべる優樹。

そして、諦めたように肩を落とし、彼は笑顔て答えを返す。

「分かったよ。お前が主人公になれる世界が見つかるまで、付き合ってやる。」

優樹が僕の胸に手を置くと、互いの身体が光を放つ。

「今からこことは別の世界に行く。きっとお前を主人公として受け入れてくれる世界はどこかにあるはずだ。

それが見つかるまで、付き合ってやるよ。」


こうして、僕が僕の人生の主人公となるために、他の世界の主人公と戦う旅が始まったのだ。

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