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ホームレスと私

作者: 昼月キオリ

〜good night〜

「おっと・・・」

ホームレスが宏太(こうた)がぶつかった衝撃で転んでしまった。

誰もが見ないふりをする中、彼女が手を出した。

「いや、あなたの手が汚れますんで」


宏太「そうだよーー!蜜月ってばこんな汚い奴に触るなよな、ほら、手繋ぐなら俺と・・・」

 

パシッと振り払う。蜜月(みつき)はホームレスを庇っていた。

 

宏太「何で、何でそんな奴を庇うんだ!?こんな傷だらけで危ない奴を!

俺は金だってある!見た目だって綺麗にしてる!何がいけないって言うんだ!」

蜜月「そうね、確かにあなたはお金はあるしルックスだっていいわ、でもね、あなたには人に対する思いやりがないの」

宏太「は、じゃあこいつには思いやりがあると言うのか?」

頷く。

宏太「何でそんなことが分かるんだよ」


 

蜜月「あなたは知らないでしょうけど、私、知っているのよ、

彼の体が傷だらけなのはね、自分を盾にした証なのよ、

子どもを守った時の脇腹の刺し傷、酔っ払いに絡まれた女性を庇った時に瓶で殴られた傷、

傷付くのは出来損ないの僕でいいって言ってね、

だから彼は治安のいい街には行かずに治安の悪い街にいるのよ」

 

宏太「な・・・まさか、こんな奴が」

 

蜜月「この人はあなたとは違う、だって正気を失ったあなたから私を守ってくれたんだもの、あなたは酔って覚えてなかったみたいだけど」

 

宏太「そん、な・・・嘘だ、嘘だぁー!」

宏太は段々と正気を失い、暴れ出した。

 

蜜月の肩を掴みかけた。

蜜月「きゃ!!」

その時、ホームレスが宏太を投げ飛ばした。


ドサッ。

 

そこに警察が来て暴れている彼を連れて行った。

明らかに正気を失っていたからだ。

警察A「観念しなさい」

宏太「くそっ!くそー!」



蜜月「あの、ありがとうございました」

ホームレス「いいえ、今度は怪我ありませんでしたか?」

蜜月「はい、あ、あの、これ良かったら」

 

そう言って蜜月は毛布を差し出す。

 

ホームレス「頂けません」

 

蜜月「この間のお礼です、受け取ってくれないとこの場で駄々を捏ねますよ、そうなったら困るのはあなたです」

ホームレス「はー、困った人だな、それならこの毛布はありがたく頂くとしよう」

蜜月「そうしてちょうだい」


夜空を見上げると月が雲と雲の間から見える。

ホームレス「元カレのせいで寝不足だと言っていたあなたも今夜はぐっすり眠れるといいですね」

蜜月「そうね、夢を見そうだわ、身を挺して私を守ってくれたあなたの夢をね」

ホームレス「!」

蜜月「それじゃあ、good night、ホームレスさん」

ホームレス「全く、困った人だ」







〜l'm home〜

蜜月「ねぇ、あなた、うちに住まない?家賃全額出すわよ」

ホームレス「そこまでしてもらう義理はありませんよ」

蜜月「あなたにボディーガードをしてもらいたいのよ」

ホームレス「ボディーガード?また誰かに狙われてるんですか」

蜜月「今はないわ、でも、普段から狙われやすいのよ、だからあなたがうちに来てくれれば助かるわ」

ホームレス「なるほど」

蜜月「生活費はボディーガード代から全て出すわ、どう?」

ホームレス「悪くない提案ですが、さすがに27にもなる男が女の子の家に寝泊まりするわけにはいきませんよ」

蜜月「失礼ね、私は23歳、立派な大人よ」

ホームレス「それは失敬」

 

蜜月「あなた名前は?」

晴「遠山晴(とうやまはる)です」

蜜月「はる?どういう字を書くの?」

晴れ「晴れるの晴ですよ」

蜜月「まぁ、可愛い名前ね」

晴「せめてハルトにして欲しかったですよ」

蜜月「ふふ、いいじゃない、晴、とっても素敵な名前よ」

晴「あなたは?」

蜜月「桜木蜜月(さくらぎみつき)、蜂蜜の蜜に夜空に浮かぶ月よ」

晴れ「蜜月さんか」

蜜月「それで?フルネームを教えてくれたってことは

やってくれるのよね?ボディーガード」

晴「ええ、その任務、僕が引き受けますよ」

蜜月「決まりね」





蜜月のマンション。

蜜月「ただいまー」

晴「フッ」

蜜月「何よ、何で笑うのよ」

晴「いや、一人暮らしでもただいまって言うんだなと思っただけですよ」

蜜月「いいじゃないの」

晴「すみません」



シャワーを浴びてもらい、髭を剃って髪を切った。

服は近くのショップで下着とジーンズとTシャツを蜜月が買ってきた。


晴「髪切るの上手ですね」

蜜月「ふふ、仕事の延長でね」

晴「そう言えば何の仕事してるんですか?一人暮らしで

こんなに良いマンションに住めてボディーガード代を出せるなんてよっぽど稼ぎがいいとしか・・・」

蜜月「まぁ、人よりはね、デザイナーの社長をしているのよ」

晴「え、その若さで?」

蜜月「意外でしょう?」

晴「ああ、まぁ・・・」

蜜月「できたわ、うん、凄くいいわ」

晴「どうも」


てゆーか、最初見た時から背が高くて顔整ってるなとは思っていたけれど予想以上だわ。

これは磨きがいがあるわね。


蜜月「夕飯、何か食べたいものはあるかしら」

晴「普段からあまりまともな食事を取れていなかったから脂っこいものでなければ」

蜜月「アレルギーは?」

晴「ありません」

蜜月「じゃあ今日は鍋にしましょう、どうかしら?」

晴「鍋なら大丈夫です」





20分後。

晴「頂きます」

蜜月「頂きます」



しばらくして。

晴「もう食べないんですか?」

蜜月「ええ」

晴「随分少食なんですね」

蜜月「いつもお茶碗半分くらいよ、お腹が弱いの、それで沢山食べれなくて」

晴「それは大変ですね・・・」

蜜月「あなたは遠慮せず食べてちょうだいね」

晴「そう見えました?」

蜜月「ええ、遠慮がちにちまちま食べていたから・・・無理に食べろとは言わないけれどね」


その時。

ぐう〜。

晴「!」

蜜月「ふふ、お腹の虫は正直ね」

晴「失礼・・・」

蜜月「いいのよ、好きなだけ食べて・・・それより味はどうかしら?」

晴「美味しいですよ、今まで食べたご飯の中で一番」

蜜月「褒めてもらって悪いけれど、この鍋は野菜とお肉をこの簡単鍋の素で煮込んだだけよ」

蜜月は鍋の素を手に取って見せた。

晴「いや、それだけじゃない」

蜜月「え?」


晴「君の優しさも入ってる」

蜜月「晴って意外とキザなこと言うのね」

晴「今のキザでしたか?」

蜜月「ええ、だいぶ」



蜜月のマンションは2LDKだ。

恋人がいた一部屋は今はガランとしていた為、一部屋丸々空いていた。


蜜月「これからはこの部屋があなたの家よ、だからリラックスして過ごしてね」

晴「分かりました」

蜜月「硬いわね・・・まずは敬語よ、私、あなたより歳下なんだからタメ口でいいわ、名前も呼び捨てでいいし」

晴「そうか・・・分かったよ蜜月」


ドキッ。

や、やだ、名前呼ばれただけなのに何ドキドキしてるのよ私!

これから一緒に住むんだから意識しないようにしなくちゃね。

 

晴「どうかしたか?」

蜜月「いいえ、何でもないわ」







〜model〜

晴「え、僕がモデルに?」

蜜月「そう、あなたにファッションモデルをやって欲しいのよ、時々でいいの、ダメかしら?」

晴「分かった、僕で役に立てるなら」


あら、意外。もっと嫌がるかと思ったのに。



 

撮影後。

カメラマン「桜木さん、上手く撮れたわよ」

蜜月「ありがとう」

カメラマン「素材がいいからね」

晴「どうも・・・」

カメラマン「相変わらず見る目だけはあるわ」

蜜月「だけは、は余計でしょ」

カメラマン「うふふ」


蜜月「晴ありがとう、無事に撮影終わったわ」

晴「引き受けた後に言うのもあれなんだが、

本当に僕なんかで良かったのか?もっとハンサムな男の方が良かったんじゃ・・・」

カメラマン「何言ってるのよ、バッチリだったわよ!」


蜜月「そうそう、まずその渋い声!」

晴「声は映らんだろう」

蜜月「そして整った顔立ち、ワイシャツから見える褐色の肌・・・」

 

蜜月はニヤニヤしながら両手をわきわきとする。

 

カメラマン「見れば見るほどいい男よねぇ」



すすすっ。

 

蜜月「ちょっと、どうして私から遠ざかるのよ」

晴「身の危険を感じてつい」

蜜月「失礼ね!襲ったりしないわよ!」

晴「・・・」

 

すすすっ。

 

カメラマン「あはは笑、まぁ、気が向いたらまた来てちょうだいね」

晴「はい」

蜜月「もう・・・」







〜body gard〜

飲み会に晴が迎えに来た時のこと。


友人A「やだ蜜月、彼氏いたんじゃない!」

友人B「先に言いなよね!」

友人C「本当よ」


蜜月「違うわ、彼は私のボディーガードよ・・・って皆んな聞いてる?」


友人A「カッコいい〜!」

友人B「いいなぁ、私もボディーガードして欲しい〜!」

友人C「あなた本当にハンサムね、ボディーガードなんてもったいないわ、私の恋人にならない?」

晴「いや、僕は・・・」


皆んなが晴に群がる。

 

蜜月「ダメよ!彼は私のボディーガードなんだから!」

蜜月が皆んなから晴を遠ざける。

晴「・・・」



解散後。

蜜月「もう、こうなるから迎えはいいって言ったのよ」

晴「君は狙われやすいんだから迎えに来るのは当然だろう、僕は君のボディーガードだぞ?」

蜜月「きゅん・・・あ、ありがとう」

晴「さっきの君、可愛いかったよ」

蜜月「え!?」

晴「まるでお気に入りのおもちゃを取られて駄々を捏ねる子どもみたいで可愛いかった」

蜜月「あなたって私をどれだけ子ども扱いすれば気が済むのよ・・・」








〜bad boy?〜

晴の目の前をショートパンツにタンクトップ姿の蜜月が通る。


晴「蜜月、僕も男だ、そんな格好でウロチョロされると

困るんだがね」

蜜月「あら、触れたっていいのよ?」

晴「僕は君のボディーガードだ、

雇い主である君に手は出せないよ」

蜜月「あなたって本当に硬いわねぇ・・・いいわよ別に、私たち恋人じゃないんだし・・ぶつぶつ」


その時、晴がトンっと壁際に蜜月を追いやる。

壁に手をつかれていて逃げられない。


蜜月「え」

晴「悪い子だ、君は普段からそうやって男を誘惑しているのか?」

蜜月「失礼ね、好きな人じゃなきゃしないわよ」

晴「・・・今何て言ったんだ?」

蜜月「だから!好きな人じゃなきゃしないって・・・あ・・・」

蜜月は思わず両手で口を押さえた。

 

晴「それはつまり、君は僕のことが好きということか?」

蜜月「そ、そうよ」

晴「いつから?」

蜜月「最初に助けられた日からよ」

晴「一年前からか」

蜜月「悪い?」

 

晴「いや・・・すまない、僕は君を誤解していたようだ」

蜜月「どう誤解してたのよ?」

晴「君が・・・もっとライクに男と付き合う人に見えていたんだ、だから変な男が寄って来ているのだと思っていた」

蜜月「失礼ねそんな尻軽じゃないわよ」


 

晴「ああ、悪かった・・・だが、僕はずっと狙われていたんだね、まんまと君の思惑に捕まってしまった」

蜜月「人を女郎蜘蛛みたいに言わないでちょうだい」

晴「いや、それは僕の方か」

蜜月「?どういう意味?」

晴「最初に出会ったあの日に一目惚れしてからずっと

喉から手が出るほど君のことが欲しかったってことさ」

蜜月「や、やっぱりあなたってキザね」


ふいっと蜜月が顔を逸らす。

その顔は真っ赤に染まっている。


晴「大人なら普通だよ」

蜜月「また子ども扱いして・・・きゃ!?」

 

突然、晴が蜜月を抱えた。


晴「そうだね、これからは大人の女性として扱うよ」

蜜月「そうして」

晴がお姫様抱っこをしたまま蜜月にキスをする。

蜜月はそれを静かに受け入れた。




 

一時間後。

ベッドで横向きになってこちらを見ている晴と目が合う。


晴「随分良かったみたいだね」

蜜月「ホームレスのくせに生意気よ」

 

蜜月がボフンっと枕に突っ伏す。


晴「今はホームレスではないだろう?」

蜜月「あなたは私の中でずっとホームレスよ」

晴「酷いなぁ、それなら出て行こうか?

そうなると

君とはさっきみたいにセックスできなくなるけれどね」

蜜月「あなたってキザな上に意地悪なのね」

晴「嫌だった?」

蜜月「いいえ、悔しいけど好きよ」


晴「フッ、それは良かった、君に嫌われたら身を引き裂かれるより痛い」

蜜月「バカね、身を裂かれる方が痛いに決まっているじゃない」

晴「いや、体と心はリンクしているからね、どちらも同じ痛みだよ」

蜜月「そう・・・晴はもっと感情が乏しい人だと思ってたけれど違ったわ」

晴「そんな風に思われてたなんて侵害だなぁ、それで?君の目に僕は今どういう風に映っているんだい?」

蜜月「そうね、キザで意地悪で、でも優しくて勇敢で・・・それから・・」

晴「それから?」

蜜月「ハンサムよ」


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