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1. 転生の始まり

眩しいヘッドライトと軋むタイヤの音を見た瞬間、自分の終わりが来たと悟った。


私は特別な人間ではなかった。ただ働き詰めで薄給のサラリーマン、コンビニのカレーと生ぬるい夢で暮らしていた。あのトラックが私を人間のパンケーキに変えようと決心する前の最後の記憶は、ただ一つの、切実な願いだった。


「もし生まれ変わったら…死なない、自由な、何でも食べられる存在になりたい!」


そう、よくあるヒーローの願いとは違う。世界を救おうとも、気高い戦士になろうとも思っていなかった。ただ、スケジュール、請求書、痛み、そして人生が私に投げかけるあらゆる厄介事から解放されたかったのだ。


そして、すべてが真っ暗になった。


そして…すべてが白くなった。


目を開けた ― 少なくともそう思った ― しかし、私には体がなかった。腕も、足も、口も。ただ、奇妙な浮遊感と、ある種の…空腹感?


「な、なんだって!?これは一体何だ?」


私の声は反響しなかった。というか、声のようには聞こえなかった。むしろ、果てしない虚空に響き渡る思考のようだった。


ステータス:ソウルイーター - クラス:エッセンスを貪る者 - 形態:コアウィスプ(不安定)


青い画面が脳裏に浮かんだ。夢でも幻覚でもない。文字通りゲームのようなインターフェースだった。


「違う。違う、違う、違う――ちょっと待って!私が何だって?!ソウルイーターだって?!ただの浮遊する球体だって?!」


私はパニックに陥り、くるりと回転した。まるでホラーゲームに出てくる幽霊が、ひどい人生選択をして皮肉な語り手と一緒にいるかのように、光るウィスプのようだった。


その時、足元に何かが映った。ちらつくもの。かすかに揺らめく魂 ― おそらく死にかけの昆虫か何かだろう。何も考えずに、私はそれに向かって流され、そして…それを食べた。


噛まず、飲み込まず。ただ、私の中に消えていった。


エッセンス吸収。コア安定性+1。空腹は一時的に満たされた。


「…はあ。」


それは恐ろしかった。非現実的だった。そして…ある種中毒性があった。


こうして、野心のない惨めなサラリーマンだった私は、触れたものを何でも貪り食う、恐ろしい虚空の生き物に生まれ変わったのだ。


でも、まずは…


パニックにならない方法を見つけなければならない。


それから、うっかり食べないようにする方法も…


それに、ここはどこにいるんだ?!


ついに我慢できなくなった。


ここは虚空?! すごく静か! それに、すごく退屈! ああ、ただ…


ズンズンズン…


低い音が私の…魂の体全体を満たした。どうでもいい。愚痴を言い終える前に、何かが私の言葉を聞いた。


そして…虚空が私をイェイと叩いた。


儀式も、明かりも、ルールを説明する怪しい胸の谷間を覗かせる女神も現れず、ただシューッという音とともに、果てしない闇の中を宇宙ゴミのように突き落とされ、まっすぐ…


ドスン。


「おい、失礼だ!」


私は跳ねた。文字通り。呪われた飢餓のピンポン玉になって以来、初めて何かにぶつかった。空気は木の匂いがした。存在しない鼻がうずいた。


待て。


木。葉っぱ。草。あれは湖だ。そして空?!


「なんてこった、地球に戻ってきたのか!?」


その時、鳥が私の横を飛んでいった。翼がキラキラと輝いていた。頭が二つあった。


「…違う。地球じゃない。ファンタジーの世界だ。ここは完全に異世界だ。まるでライトノベルみたい!」


「わかった、いいけど、それでも!!私は魂の塊だ!あああああ!!!」


私は回転し始めた。スピードが上がった。パニックボールモードが発動した。ターボモードのホタルに取り憑かれたように、私は飛び回った。


そして、遠くに…それを見た。生き物だ。大きくて毛むくじゃらで、牙が生えていて、豚と熊が子供を産んで、怒りだけを与えているような見た目だった。


それは私を見た。


私はそれを見た。


「違う。」


私は後ろに浮こうとしたが、遅すぎた。


ガァーーーーーーーー!!


モンスターが突進してきた。私は心の中で叫んだ。本能が働いた。


そして…それを食べた。


ただそれだけ。


戦闘なし。ステータスなし。壮大な戦闘シーンなし。


うっかり食べてしまった。


エッセンス吸収。コア安定性+3。形態進化13%。


「…」


「…よし。もしかしたら、そんなに悪くないかもしれない。」


とにかく…今、どうすればいいんだろう?


森の地面の上を、私はぼんやりと漂っていた。鳥がさえずり、風が葉を揺らし、遠くで何かが、まるで10年も昼食を食べていないかのように唸り声をあげていた。


それから、どうして私の声はこんなに…女の子みたいに聞こえるんだろう?


本当に。私には声帯がない。顔さえない。なのに、私の心の声――思考――は、妙に柔らかい音色だった。甲高くて、どこか可愛らしく、カフェインを過剰摂取したVチューバーみたいだった。


おそらく潜在意識か何かのせいだろう。それとも、転生で私の心の声の設定がおかしくなってしまったのだろうか?まあいいだろう。マニュアルもリセットボタンもない。ただ純粋で混沌とした存在。


これがリムルってことか。


あいつはスライムに転生したんだが、少なくともカッコいい体と強力なスキルセット、そして頭の中には文字通り魔法AIが導いてくれた。


一方俺は?クソみたいなソウルオーブだ。口も腕もない。チュートリアルもない。


ただの雰囲気。そして空腹。


リムルはデラックス版スライムパックを、私はwish.comで格安ソウルバンドルを買った…


ああああああああああああ。


また叫んだ。心の中で。だって、ソウルオーブだから。


とにかく。これが今の俺の新しい人生だ。


浮いて。


くるくる回って。


間違って物を食べてしまう。


うっかり性別が変わってしまったんじゃないかと不安になる。


そして今?さて…


「どこかに避難場所でも探した方がいいかな?」


周りの森は何も反応しなかった。失礼だ。


私は前方に浮かび上がり、憂鬱なルンバの幽霊のように木々の梢をくまなく探した。


洞窟があるかもしれない?それとも、呪われた遺物に見立てられる廃墟となった寺院があるかもしれない?何か。何でもいい。段ボール箱でもいい。もらってこよう!


すると木々の間から何かが見えた。石だ。彫刻だ。人の手によるものだ。


それとも…エルフの手によるものか?ゴブリンの手によるものか?


しまった、遺跡を見つけたようだ。


そして何かが…私を見つめていた。


遺跡は不気味だった。苔むした石、古代の彫刻、そしてまるでミニボスが出現するのを待っているかのような不吉な雰囲気。


私はホバリングしながら近づき、崩れたアーチ道から慎重に覗き込んだ。


そして――キーキーッ!


「兄貴!?」


どこからともなく、巨大な蜘蛛が――まるでミュータントスパイダーマンが悪役に堕ちて髭を剃り忘れたかのような――影から飛び出した!


8つの目が私の魂味のスナックボディに釘付けになった。脚は悪魔のハサミのようにカチカチと音を立て、牙は今まで見た悪夢の毒で光っていた。


「いや、違う」


パニック状態。


ためらいはなかった。


マーク10みたいに飛べ、ベイビー!


私は神聖な魂のロケットのように空へと飛び立った。


翼もエンジンもなく、ただ恐怖に突き動かされた飛行だけだった。


足元の枝はぼやけ、木々は風に揺れ、鳥たちは混乱したように鳴き声を上げた。私は物理法則を離れ、精神的な超空間へと足を踏み入れた。


背後で蜘蛛が再び悲鳴を上げた。おそらく、昼食まで残っていなかったことに失望したのだろう。


「一体全体、世界は一体どうなっているんだ?! 呪われた怪物に食べられずに5分も過ごせないなんて!」


私はさらに高く、さらに速く飛んだ。森の梢のどこかで、私はついに止まった――空中に浮かび、息も絶え絶えに(もし肺があればの話だが)、魂のパニック発作を起こしていた。


「よし。よし。大丈夫。生きている。まあ、生きているかのようだ…」


穏やかな風が木々を吹き抜けた。頭上では太陽が暖かく輝いていた。


「…セラピーが必要だ。」


Mutant Demon-Spider.exe から間一髪で逃げ出した私は、不安で混乱した蛍のように木々の上を漂っていた。


よし。息をして。いや、息をしてない。浮かぶ?静かに?静かに浮かぶ。


そして…感じた。


体の芯がゾクゾクする。かすかな音がする。まるで…何かが私を呼んでいるようだった。


青い光が輝く。


それは脈動した。最初は微かだったが、やがて強くなった。まるで灯台か心臓の鼓動のように。暗い森の真ん中にある、あの不気味で、蔓に覆われ、まるで地下牢のような廃城の奥深くから。


私は目を細めた。


「おい。」


「どうして光る魔法のものは、ホラー映画みたいな不気味な場所にしかないんだ!」


呪われた剣、古の悪、禁断の契約がここを巡る場所だと、アニメはたくさん見てきたから知っている。でも、他に選択肢はあるのだろうか?


いや。だって私は猫のような好奇心しか持たず、自己保存本能などない、愚かな浮遊魂だから。さあ、行こう!


シューッ!


私は彗星のように駆け下りた。城へと一直線。


崩れ落ちる塔、石を這う黒い蔓、割れた窓が「中に入って全てを後悔しろ」と叫んでいる。


私は砕け散ったアーチ道を漂った。


中は埃っぽく、暗く、冷たかった。しかし、光は…今、より強くなっていた。地下深くから。


隠された階段。輝く部屋。


私はさらに近づいていった。光はまぶしかった。ただの魔法ではない。どこかで見たことがあるような…そんな気がした。


その時、サイキックメールのようなメッセージが届いた。


「ソウルコア検出」 「同期を開始します。」


何だって?!


突然、青い光が私を襲った。


痛み。熱さ。恍惚。飢え。私のものではない記憶。理解できない力。


そして、深く古き声。


「ついに…デバウアーが戻ってきた。」


私は凍りついた。


「…兄さん?」


青い光が私の中に入り込んだ瞬間、城全体が揺れ動いた。


天井から埃が降り注ぎ、空気が重苦しくなった。壁の蔓は、まるでそこに留まることを知らないかのように枯れ果てた。


そして――


ガチャン。


轟く金属的な足音が部屋中に響き渡った。


また。


また。


影の中から、まるで蜘蛛をまるで愛らしいペットのように思わせる何かが現れた。


それは少なくとも3階建ての高さがあった。黒曜石のような黒い鎧の山で、血のように赤く輝くルーン文字が刻まれていた。風がないにもかかわらず、ぼろぼろのマントが背後で波打っていた。兜には角が生えていた。その目――もしそれが目だとすれば――は、古の憎しみと、何かを殴るために何千年も待ち続けた疲労で燃えていた。


警告画面が脳裏に浮かんだ。


[災厄級実体検出:アビサル・センチネル - 領域の殺戮者]

推奨行動:逃走。パニック。祈り。順番は問いません。]


その物体は家よりも高い巨大な剣を振り上げ、まっすぐ私に向けた。


そしてただじっと見つめていた。


「…」


「…おい。」


私も見つめ返した。


浮遊している。


光っている。


文字通り、丸いマシュマロのような魂の玉が、不安を漂わせ、冷静さを欠いていた。


その瞬間、静寂が訪れた。


まるでボスの集会で間違った部屋に入ってしまったかのようだった。


「おい、一体何なんだ?! お前は一体何者だ?! なんでスティーブ・ハーヴェイが家族の楽しい夜に誘おうとでも言うように、俺を見ているんだ?」


騎士はわずかに首を傾げた。


そして、それは口を開いた。その声はまるで金属がブラックホールに擦り付けられるような音だった。


「戻ってきたな。デバウアーは…目覚めた。」


私は瞬きをした。いや、まぶたがあれば瞬きしただろう。


「待て、いや待て!俺はお前が思っているような人間じゃない、いいか?!俺はただの男だ!魂だ!トラックに轢かれたんだ!」


騎士は気にしなかった。剣を振り上げた。


圧力で銃身が割れた。


「ああ、だめだ!ボス戦は今やるな!」


私は(比喩的に)尻尾を巻いて逃げ出した。


ソウルボール航空1便:パニックモード。


ガァ ...恐怖に震えながら進み続けろ。


「おいおい!!」


奴はただ剣を振り回しているだけじゃない。あれは魂をも殺せる。私のファイルを消そうとしているだけじゃない。ハードドライブを丸ごとフォーマットしようとしているのだ。


またもや斬撃が――ガォォォォォッ!!――私の刃をかすめた。全身が痛みに震えた。私の光の一部が、消えゆくLEDライトのようにちらついた。


「死ぬぞ!!!」


私は再び身をかわした――まるで天罰のように地面を裂く、頭上からの突進をかろうじて避けた。


私が動くたびに、奴は動きを合わせた。私を追跡し、計算していた。怒りも感情もなかった。ただ冷酷で、容赦ない精密さだけ。


「これはボス戦ですらない。一方的な精神的敗北だ!」


私は柱の後ろに逃げ込んだ。柱はたちまち爆発した。


「俺はただの金玉だ!! 力のために犠牲にする腎臓さえ無いんだ!!!」


彼が再び剣を振り上げたその時、私のシステムが再び閃光を放った。


[緊急プロトコル:捕食モード使用可能 - コア・インスティンクト・オーバードライブ(自己責任で使用)]

[起動? はい/いいえ]


「そう、このバカな魔法使いクリッピー、そうするんだ!!!」


突然――私の体が燃え上がった。


いや、燃えた。私の飢えは火山のように燃え上がった。青い炎が私の体の芯の周りでパチパチと音を立てた。


私の中の何かが目覚めた。


私の声でもあり、私ではない声でもある声が囁いた。


「生き残るために貪り食うんだ。」


そして、この奇妙な世界にトラックで運ばれて以来初めて…


私は走るのをやめた。


「ちくしょう、あのデカい鎧のダークナイトを食らえって言うのか!?」


「何千年もの復讐と殺戮、そして剣術の経験を持つ奴を!?」


「正気か、システムめ!」


[肯定。食らうか、消滅か。]


「…畜生!!」


もう時間はない。騎士は剣を振り上げた。迫り来る「お前はもういい加減にしろ」の圧力で城全体が震えた。


「わかった!うまくいくように祈るがいい。俺が死んだら、お前のコードに永遠に憑りつくことになるぞ!!」


「ドカン!!」


俺は突進した。


音速の壁にも穴が開くほどの速さでダッシュした。城の外の木々が曲がり、空気が歪んだ。物理学が叫んだ。どこかの吟遊詩人が、あらかじめ悲劇的な詩を書いていたのだ。


左に避けろ。回転しろ。奴の腕の下をすり抜けろ。


刃は、ほんの数ミリ秒前に私がいた場所の空気を切り裂いた。背後の現実の構造を焼き尽くすのを感じた。


そして――私は攻撃した。


ドスン。


私の核が燃え上がった。


すべてを飲み込むような飢えが、狂犬病に侵されたブラックホールのように、私の内側から湧き上がった。


私は彼の真髄に噛みついた。


歯ではなく――魂の全てで。まるで彼に沈み込むように。


騎士はよろめいた――初めて。


彼のマントが激しくねじれ、ルーンが燃え上がり、抵抗しようとした。空気は怒りと、遠い昔の叫び声でざわめいた。


[貪食開始:対象:深淵の哨兵]

[警告:記憶過負荷。戦闘スキルサージ。断片的なトラウマが迫る。]


「待て、何だ…」


彼の記憶が私の中に押し寄せた。


戦い。血。裏切り。彼が打ち砕いた軍勢。彼が焼き尽くした世界。彼を封印した王国。「貪食者よ、二度と目覚めるな!」と叫ぶ声。


「やりすぎだ…やりすぎだ…やりすぎだ!!」


私は叫んだ。あるいは彼の魂が叫んだ。あるいはその両方だったかもしれない。


そして…ドカーン。


衝撃波が噴き出した。


騎士の鎧が割れ、粉々になった。


彼の剣は、死せる神が床に叩きつけられるような音を立てて地面に落ちた。


彼の燃えるような瞳が曇った。


そして私は、腹痛に苦しむ死にゆく星のように輝き、宙に浮かび…震えていた。


[対象:捕食。レベルアップ。]

[新たな称号獲得:魂の捕食者]

[新アビリティ:ブレードメモリー:深淵の型 - 幻刃形態 I]


私は瞬きをした。またしても、比喩的に。


「…やばい…魂レベルのラスボスを食らってしまった…」


そして私は、割れた電球のようにチラチラと音を立てながら、床に叩きつけられた。

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