コピペ令嬢、異世界に立つ
初めて投稿します。よろしくお願いします。
ある日、頭に痛みを感じた。それはどんどん大きくなっていってとうとう立っていられなくなった。ぐわんぐわん、と視界が揺れる。そして、意識が途絶えた。これが私が覚えている最後の現世での記憶だ。
頭に痛みがなくなって目を開ける。目の前に美少女がいた。もう一度言おう。美少女がいた。重要なことは何度言っても良い。足跡のついていない白銀の雪のような長い髪、血色が良い同じく白の肌、氷のような薄青の目、花弁のような薄い唇、思わず見惚れてしまう精霊の如き神秘さに満ちた美少女だった。
きょとん、とした彼女が私をじっと見ている。その顔も酷く美しい。じゃなくて、私は自宅にいたはずだ。鍵はかけてあった。だから美少女が入って来れるはずがない。美少女じゃなくても誰でもおそらく入って来れなかったはずだ。
そう思って美少女の周りを見て、私は愕然とする。ない。見慣れた自宅の景色がない。代わりにあるのは、御伽噺のお姫様の部屋が如く豪華な洋間だ。
驚きのままあたりを見渡すと、奇妙な点が何個も見つかる。明らかに自宅ではない景色もそうだが、美少女の服だ。顔に気を取られすぎていた。ダイソンの如き吸引力の顔だ。違う、顔の話は今は置いておこう。服だ。
結婚式のカラードレスとも違う豪華なドレスなのだ。見るからに生地が高級そうだ。それにデザインがどこかで見たことのあるようなものを掛け合わせて初めて見たようなドレスになっている。何だろう、胸元というか襟ぐりのあたりは漢服っぽい意匠というべきか現代でいうチューブトップの上からレース地の羽織をきたようなもので、ウエスト部分は細く絞められ、スカート部分はパニエで膨らませたようなプリンセスラインなのだ。
いやどう見たって現実にいる格好ではない。少なくとも庶民がおいそれと会えるような人間がしている格好ではない。ならば夢だ。頭が痛くて倒れた後に見てる夢だろう。いやあ、夢で美少女に会うなんてどれだけ私は美少女が好きなのだろう。そんなことを考えていると、対面にいるのに黙ったきりで挙動不審の私をきょとんと眺めていた美少女がパァッと花が咲いたような笑顔になる。おお素敵な笑顔だ。夢であっても嬉しい。ずっとそんな笑顔でいて欲しい。そんなことを思っていると麗しい笑顔のまま美少女は鈴のなるような声で言う。
「まあ、わたしには双子の姉妹がいらしたのね!ご機嫌よう、初めまして。お名前は何かしら?いえ、わたしから言うべきでした。ごめんなさいね。でも、わたしまだ名前をいただいてないの。もしかしてあなたもそうかしら?だから黙ったままなのかしら。ねえ、あなたはもうご当主様にご挨拶したの?優しいお人だと嬉しいわ。あぁでも怖いお人なのかしら。あら、ごめんなさいね。はしゃいでしまって、わたしたくさんお話ししてしまったわ。えっと、あなたはもうお名前があるのかしら、それが一番最初に聞きたいわ」
「なんて?」
怒涛の勢いであるが決して早口ではなく歌うように喋る美少女に私は思わずそう返す。夢なのにどうしてだか会話のようなものが成り立っている。
「ごめんなさいね、話しすぎて混乱させてしまったみたい。まずお名前を知りたかったの。でなければなんてお呼びしたら良いかわからないもの」
そんな私の態度に気を悪くすることなく美少女は輝くような笑顔のままそう言う。
「私は、」
そうやって言おうとした時また頭がキンと痛くなる。名前を言おうとするたびにそれを遮るように酷くなる。そうして私は私の名前が考えられないことに気づく。
「どうしたの?どこか痛いの?大変!横にならなくちゃ!歩けるかしら?」
顔を顰め、頭に手をやる私に美少女が手を差し伸べる。なんて暖かい対応なのだろう。なんて、優しい良い夢だ。ずっとこんな夢であれば良いのに。名前のことを一旦置いておくとすぐに頭は良くなる。
「ありがとう、大丈夫。よくなったよ」
そんな言葉に美少女は心配そうに形の良い眉と大きなおめめを下げる。なんて愛らしいんだろう。精霊のような美貌だが口調や態度は愛嬌たっぷりで可愛らしい。良い意味で世間ズレしていない無垢な少女のようだ。そんなことを考えて、ふと思う。私の声はこんな風だっただろうか?何だか高くなっているような。
「本当に?ベッドに入ってお休みした方がいいんじゃないかしら」
くいくい、と遠慮気味に手を引っ張るその仕草が可愛らしくて仕方ない。えへへ、お言葉に甘えて休ませてもらおうかな、なんてことを思う。この調子だと眠るまでそばにいてくれそうだ。美少女にそばにいてもらえて、豪華な部屋のふかふかなベッドで眠る、そうして夢が覚めるならどんなに良いだろう。
「じゃあそうさせて貰おうか、」
言いかけてギョッとする。私の目線の先には豪奢な枠付きのガラスがあった。それには。
美少女が、二人映っていたのだ。
いや、わかっている。枠付きのガラスのようなものは鏡だ。鏡に先ほどから親切にしてくれる美少女とそれに瓜二つの美少女が映っているのだ。私の姿はどこにもない。私がどんな姿をしていたか思い出せないけれど。
ふらふらとした足取りで鏡の前に向かう。鏡の中の美少女の一人が動く。近づくたびに鏡の中の美少女が大きくなる。震える手で鏡に右手で触る。鏡の中の美少女が、同じ時、同じ動作で鏡に左手で触る。頬を引っ張る。痛い。鏡の中の美少女も同じように動作をして一瞬痛みに顔を顰める。
「あら、それが珍しいの?それはね姿見って言うの。あなたのお部屋にはなかったかしら?わたしのお部屋にも最初からあったわけじゃないものね。うふふ、それはね、あなたが映っているのよ」
そんな風に美少女が親切に追い討ちをかけてくる。あぁそうだ、この美少女は最初から言っていたじゃないか。その美貌によって忘れていたけれど。
「わたしには双子の姉妹がいらしたのね」
と。
これは、この美少女に瓜二つの美少女そのニは、私だ。
ふるふる、と体が震える。鏡の中の私も震え出す。引っ張った頬もさっきの頭も、痛かった。痛みは、現実の証明だ。だからこれは、夢じゃない。まさか、まさかまさかの。
美少女になって転生した?!
震えて、鏡の前から動かない私に美少女が声をかけようとする。しかし、それは阻まれる。他ならぬ私の。
「やっっったーーーー!!!」という雄叫びによって。
心の底からの喜びに体はずっと震えてくる。足跡のついていない白銀の雪のような長い髪、血色が良い同じく白の肌、氷のような薄青の目、花弁のような薄い唇、華奢な肩幅、それなのにくびれがくっきりとある細い腰、胴より長いO脚にもX脚にもなっていない細い綺麗な足、突き指もしたことがなく歪んでいない節の荒れたことなんて一度もなさそうな白魚の手。
これが、全て私のものなのだ。私が美少女なのだ。百人見たら千人が大挙してやってきて美少女だと言いそうな美少女という概念の集合体のような美貌が!なんて喜ばしいことだろう!これより嬉しいことってあるかしら、嫌、ない!
ああ、神よ。よくわからないけど転生とかその辺を司る神よ。感謝いたします。
ぴょんぴょん、と美少女の手を取って嬉しさのあまり跳ねている。美少女もなぜだか元気になった私に嬉しそうだ。なんて性格が良いのだろう。容姿も性格も兼ね備えているとは、天使かな。
「元気になって良かったわ、あなた具合が悪そうだったもの」
「うん!すっごい元気!ところで一つ教えて欲しいのだけど」
その言葉に美少女がとびっきりの笑顔になる。
「なぁに?わたしが答えられることなら何でも聞いて!」
嫌な顔一つしないどころか嬉しそうな顔をする美少女にこちらも嬉しくなりながら聞く。
「この国ってなんて名前だっけ?」
そんな変な問いに臆することなく美少女は笑顔で返す。まるで初めての妹や弟にはしゃぐ幼い姉のように。
「いやだわ、からかっているの?ここは紫黄国白水よ!わたしたちの父であらせられるご当主様が治められる土地を忘れたなんて言ってはいけないわ!」
明るくはしゃぐような口ぶりではあったものの言っていることはだいぶ衝撃的だ。紫黄?白水父である人が治めている?えっ?知らん国名、歴史上にそんな国がなかったとは言い切れないけど、待ってお姫様なの?
膨大な情報と疑問が頭を占めていたが、それでも私はちっともめげていなかった。なんせ私は今極上の美少女なため!
オーケーここは地球じゃない!異世界だ!そしてなんかよくわからんがお姫様だ!
一日に一話投稿することを目標にしています。楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。