僕の背後から
段々薄暗くなっていく公園、その中にあって、この辺は街灯が無い。
僕はのっぺらぼー、目玉、耳、唇、鼻に囲まれて動けないでいた。
「ほらね、優、こんな感じ」「こんな感じって」
「だから、案山子がいて、ブリキマンがいて、ライオンさんがいて、トトもいるでしょう」
「そして、可愛い女の子がその中にいたら、・・・私、ドロシー?、よね」
そう言う事、消去法か。
案山子、ブリキ、ライオン、犬、残っているのはドロシー、と言う事。
ん、じゃ、本当の自分の事が分からないのか、記憶喪失、なのか。
「じゃ、ドロシーは、本当は自分が誰なのか、思いだせないの」
「ドロシーは、ドロシーさあ、俺達がいるんだからな」
「さあ、ドロシー先に進もう、魔法使がいる、秋葉シティーに」
あーあっ、とうとう魔法使いのいる処になっちゃったのか。
「でも、ご飯も食べさせてくれるって言っているし、お泊まりさせてくれるって言っているし、疲れたし、お風呂にも入りたいし」
「ドロシー、お泊まりのお礼をするって、『何を』してあげるつもり」
ドロシーの顔が真っ赤になって、もじもじし始める。
「ふーん、ブリキ、ドロシーのてい」ブリキマンももじもじしている。
「ぼっ、僕はドロシーが良いなら、天井の壁紙の柄を数えとくよ」
築31年の賃貸で、壁紙は白だ、シミも柄は一つもないよ。
「何を言っている、ブリキ、なあ、ライオン」
「何つやつやして、尖らせているんだよ、まあ、その方がライオンぽく見えるけど」
「わん」「お前は良いよ、だってよ、ちゃんとお礼をするから泊めてくれ」
のっぺらぼーのとこを除けば、声も、仕草も可愛いし、かっ、から、他に変わったところはなさそうだし、いいかなぁ~。
ちょっと待て、こいつ等も来るのか。
「なあ、ドロシー、こいつ等も来るの」「だめなの、この子達がいないと私困るの」
「御免ね、僕の家ペット禁止なんだ」「誰がペットだ、魔法使いの弟子のくせに」
「案山子のくせに、言ってはならん事を、僕だって好きで弟子になっているわけじゃないんだ」
「やっぱり弟子だったのか」くそー、誘導されたー。
「なら丁度いいだろ、魔法使いの処に行く前に、弟子の処に泊まってけ」
「ドロシー、是非泊まっていけってさ」くそー、また誘導されたー。
「案山子いい加減にしなよ、ドロシーが決めたんだから、素直にはむはむしてもらいなよ」
耳が真っ赤になった。「おおおっ、お前には心が無いのか」
「無いよ、ブリキだし、口よりもの言う目玉だし」
「じっ、じゃ、お泊まり決まったし、皆もど」
「あーーーーーっ、ドロシー、やっと見つけた、その靴を渡しなさーーーいっ」
「ほら、案山子がもたもたしているから、見つかったじゃないか」
「俺はドロシーを心配してんだ、俺の所為にするなよ」
僕の背後から、・・・僕は自分の知覚を疑い始めていた。
しかし、これに疑問を持つと、僕自身の存在自体を疑問視する気がする。
背後は背後だが、頭の上の方から、声がするんだ。
のっぺらぼーの次は何だ、あー、でも声はドロシー同様、とっても可愛い。
そして振り返り、上を見上げる。
手綱を握って、何か四角い物に跨る女の子がいた。
地表はもう薄暗いが、彼女がいるのは3mほど上空、木と同じ高さぐらいだ。
そこはまだ僅かに光があって、彼女がブロンドの長い髪をした、碧眼の少女である事が判った。
服装がこれまた特徴的で、フィギュアスケートの衣装の様な服を着ている。
少なくとも見た目は、ドロシーと同じぐらいの年に見える。
「もう見つかっちゃった」「グリンダに貰ったその靴を私に頂戴」
あっ、降りて来た。
「ねえ、ドロシー、その靴、あげたら、そしたら誤解だって分かると思うんだ」
「でもそれじゃ私が履く靴がなくなっちゃう」
「なら、あいつ、西の悪い魔女が履いているのと、交換すればいいじゃん」
あー、2wayのリュックに跨ってたのか。
肩で背負う処にそれぞれ足を入れて、ショルダーに使う紐を手綱にしてたわけね。
おーっ、スカート丈みっじか、ちょっとでも動いたら、パンツ見えそう。
いや、見える、見えるぞ、僕にも見える、何かプリンされてる。
「うわっ、誰だ、視界を塞ぐのは」「見ちゃダメ」ん、ドロシー。
「ドロシー、無駄だぞー、西の悪い魔女が来て、雄がいたら」
「そうだよ、ドロシー、いつもの展開だよ、止められないよ」
「でぇ~もう~」視界が開けた。
「もう、ママ、この服小さいよぉ~」
空から降りて来た、少女は丈の短いスカートを両手で引っ張り隠そうとしている。
けど、それは無理、短すぎ。
「その靴があれば、私、魅了の魔法が制御出来る様なるの、よこしなさい」
何か、亀さんが元気になってきた。