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出発──トーリ

 森に朝が来たとき、トーリはまだテントのそばの葉陰に転がっていた。

 結局、ひと晩眠れなかったのだが、火竜の力を持つトーリにはどうということもない。

 ずっと考えていた。イルタのこと、これからの自分のこと。

 火竜の契約者をおびき出すというイルタの任務には協力するとして、そのあと、イルタを軍に帰してしまって本当にいいんだろうか。イルタは軍で生きていくことができるんだろうか。

 俺はこれからも適合者をさらい続けるつもりだけれど、いつか俺が死んだら、子どもたちが何も知らないまま精霊と契約を交わすのを邪魔する者はいなくなって……たくさんの子どもが王国の特別な兵士になるんだろうか。自分が何かを失っていることも知らないまま。

 そうして、いつか、精霊同士が戦ったりするんだろうか。ノスティの精霊を使役する魔法術師と精霊と契約を交わしたサルミアの特別な兵士によって。

 ……眠っていなかったから、イルタが目覚めた気配にはすぐに気づいた。イルタがテントの隙間から自分を見ている。テントを出て、こちらに来る……。

 眠っているフリをしたのは、イルタをちょっとびっくりさせようと思いついたからだ。イルタは自分を起こそうとするんだろうから、そのとき急に起き上がって……。

 イルタは空の色の目を丸くするだろう。それから──怒るかな? でも、イルタは怒った顔も可愛いんだ。

 けれど、そばに来たイルタはトーリを起こそうとしなかった。腕を伸ばせば抱き締められそうな距離まで近づいているのに、眠ったフリのトーリを見つめているだけで、声をかけてこない。

 トーリの気持ちが焦ってきた。黙って自分の顔を覗き込んでいるイルタを、驚かせる代わりに捕まえて地面に押さえつけたい──そんな気分をいつまで我慢できるか、自信がだんだんなくなってきて、格好悪くて恥ずかしかったけど、目が覚めていることを白状するしかなくなった。

「俺、さっきから、起きてるんだけど」

 白状して、イルタの顔を見られずに体を起こし、トーリは朝の光に目を細めた。格好悪くて恥ずかしい。だけど、頬に感じたイルタの視線を思い出すと、心の奥がくすぐったかった。

 梢の先の空をしばらく見ていた。イルタの瞳と同じ薄青の空。

 そうしている間にも、タイミへ出発する時刻が近づいていたけれど。


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