曙光──イルタ
閉じた瞼の向こうで強い光がちらちらと揺れた。
細く目を開けると、マントでつくったテントの隙間から朝日が差し込んでいる。
イルタはあわてて体を起こした。
──もう、朝? 私、ひと晩寝床を占領してしまった? ……トーリは?
テントの隙間を広げると、すぐそこの葉陰に、体を丸めて眠るトーリがいた。
イルタはほっと息を吐く。安心した。トーリが自分のそばにいてくれて。自分が眠っているうちにいなくなったりしないで。
でも、トーリはちゃんと眠れたんだろうか。ここからだと、まだ眠っているように見えるけど……。
……なんて考えながらトーリを眺めるうちに──イルタは、ふと、切なくなった。
トーリと一緒にいるのは、今日の昼、タイミに着くまで。そこでイルタの任務は終わる。トーリは適合者の子どもをさらってセルヴィへと逃げる。逃げてほしい。でも、そうしたら、二度とトーリと会うことはないだろう。
──こんなふうには。
よく見ておこう、と思った、トーリの顔。ずっと忘れないように。いつでも思い出せるように。
イルタはテントからそっと忍び出た。音をたててトーリを起こしてしまわないように気をつけて近づき、トーリの寝顔を覗き込む。
エイリがイルタの肩でしゅんとしていた。せっかく恋したのに別れなきゃならないなんて──そんな感じで可笑しくなる。今まで気づかなかっただけで、エイリはずっと私のことをこんなふうに心配してくれていたのかしら。子どもだったの頃のお姉ちゃん──思い出の中のエイレンみたいに。
イルタはトーリを見つめながら、心の中でエイリに微笑む。大丈夫、トーリと離れても、エイリがいてくれればさみしくない。エイリが目を輝かせて手を伸ばし、イルタの髪をなでる。
そのとき、不意にトーリが身じろぎした。イルタはハッと体を後ろに引く。起こしてしまったのかしら?
トーリは体を返して地面にうつ伏せになった。動かない。
ただの寝返りだったのかしら、と思ったとき、トーリが地面に体も顔も伏せたまま低く声を出した。
「俺、さっきから、起きてるんだけど」
……起きている?
「急に起きて、びっくりさせようと思ったんだけど、イルタが……何か、ずっと真面目に見ているから、何か、タイミングが……」
それは、つまり……とっくに目が覚めていたけれど、私がじっと見つめているのがわかって起きるタイミングを失ってしまった、ということ?
「起こそうと思ったの」
イルタはあわててウソをつく。
「でも、よく眠っていると思って──」
「うん」
こちらに顔を向けないで、トーリはゆっくりと起き上がる。梢の上の、明るくなった空を見た。
イルタの目に映るのは、朝陽にブラウンの髪を輝かせた後ろ姿だけ。けれど、トーリが眩しそうに深紅の目を眇める様子が心に描けた。
ずっと見つめていたことは、トーリにばれてしまっているようだった。もしかしたら、トーリを見つめていた気持ちも伝わってしまったかもしれない。
それでもいい、とイルタは思えた。




