気がつけばわんこ
ある日、気がつけば犬になっていた。
白い斑のある柴犬で、膝くらいの身長の子犬だ。
————何でわんこ!?
私は人間だと、大声で叫びたくなった。でも、オウムが人間の言葉を喋ってもセーフだが、犬がやり始めたらアウトな気がする。許されるのは童話とマスコットキャラクターの世界だけだ。
友達のナナちゃんの所に行き、助けを求めて「クンクン」鳴く。
「あ、ワンちゃんだ、かわいい〜。」
と、あっさりとした反応で通り過ぎてしまった。すげないものだが、いきなり犬を見て、「もしかして李徴じゃないか」と『山月記』のような反応をしてくれる人なんて、皆無だろう。
仕方なくコンクリートの路上を、ぶらぶら歩く。どうして自分は犬なんだろうと、犬らしかぬ哲学的思考に夢中になりすぎて、目の前の崖に気づかなかった。
「おっとっと。」
落ちる所だったと、足を引っ込める。
そしてまじまじと崖の下を見つめているうちに、次第に瞳が暗くなった。ここを飛べば人間に戻れるのではないかという考えが、頭をもたげてきたのだ。
慌ててブンブン首を振る。
————そうだ。さすがに世をはかなんで自殺した犬なんて話、聞いたことがない。何で犬なのかよくわからないけど、犬として生きている以上、自分なりに頑張って生きてみよう。
子犬は、元の道を駆け出す。
そこで目が覚めて、夢だったことを知った。
「……よかったあ。」
朝起きて、人間だったことに安心するなんて、そうそうない。なんとなく二度寝するのが怖くて、リビングに行くと、うちのポチがお腹を空かせて走り寄ってきた。
「ワン。」
元気よく吠える。
「もしかして、きみ……。」
まじまじとポチを見ながら、思わずにはいられなかった。
「人間だったり、する?」
「ワン!」
ポチは解っているのか解っていないのか、元気よく返事した。
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