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第三話

この小説には、憂鬱しか含まれていない。ただ、私の心の暗がりを、ここに辿り着いた馬の骨達に押しつけるだけの物語である。……いや、物語の体裁すら保っていないだろう。起承転結も曖昧で、まして異世界に転生することも無い。しかし、誰かに読んで欲しいのだ。

以下本編。

 通告の時でございます。薄々気がついている事でしょう。でなければ貴方はあまりにも思慮が浅すぎます。

 事の始まりはいつだったでしょう。私も覚えておりません。しかしながら、我々が受けた苦痛が長かった事は、火を見るより明らかなのです。そうでした。我々に火をつけた事もありましたね。この火が最期の景色だと覚悟したものですから、やはり今も脳裏に焼き付いております。本当に焼き付いているかもしれませんね。

 閑話休題(愚痴はこの辺で)。通告の話でしたね。貴方が我々に為した罪はは、約二十三万死程。勿論。弁えております。貴方のような人間は二十三万回も死ねないでしょう。本当だったら一切の通告も無く、刑を執行したい所ですが、わざわざ貴方如きに通告したのはこの為です。貴方に選択肢を提供しに通告したのです。我々が提供する選択肢は三つ。

 一つ目。我々に与えた苦痛を取り返す程の善行を積む。これが最も理想的なのでしょう。貴方達の倫理観ではね。無論、我々としては苦しみに歪む貴方の顔が見たいですが。貴方の寿命は……ふぅむ。言わない方が良いでしょう。些か善行を積む為には寿命が短い気がします。なんですって。今更手遅れだ、なんて言われたってどうしようもないですって。愚か者。通告が来る前に、我々の痛みに気がつかなかった貴方が悪いのです。この方法だと貴方の残りの人生を善行積みに費やす事になりますが、所謂道徳とやらはこの方法を勧めるのでしょう。

 二つ目。二十二万九千九百九十九もの命を貴方に与え、二十三万もの死の痛みを味わう。痛いでしょうね。苦しいでしょうね。死んでいる最中なのに死にたくなるでしょうね。しかし、一つ目の方法を行うよりかは、手短に済みます。我々も貴方の泣き叫ぶ姿が見られて、眼福です。どうしても、言わば文字通り"死んでも"善行をしたくないのならこの選択肢がおすすめです。……ご安心を。我々は二十二万九千九百九十九もの命なぞ造作もなく作り出せます。貴方はただ痛みを味わえば良いのです。

 さて、三つ目。この罪を貴方の、或いは貴方の種族の誰か子供に押し付ける。この方法ならば貴方は一切の苦痛を受ける必要は無くなります。正直に言ってこれが一番楽です。ただ、貴方は「三つ目にする」とだけ言えば良いのですからね。善行を積む必要は無く、これからも貴方は悪事を続けられます。二十三万もの死の痛みは何処かへ旅立ち、貴方は……そうですね、何処か楽しい所にでも旅立てば良い。素敵な方法です。


 さて、三つ、ご説明致しましたが、もう貴方の中では答えは決まっているでしょう。一つ目、でしょうね。貴方が人間にとって真っ当な倫理観を持ち合わせているのならば、「一つ目」と、まるで人類を守ったヒーローの如く得意気に選ぶのでしょう。しかし、我々は知っています。本当は三つ目の選択肢を選ぶのだとね。どうしてそう思うのか。貴方は疑問に思うでしょう。……貴方は愚かですね。貴方、本気で二十三万死もの罪を重ねたとお思いなのですか。一人で、そんな大罪を実行できるとお思いなのですか。

 気がつきましたか、貴方は貴方の一つ前の人間に、罪を押し付けられたのです。貴方が犯した罪はせいぜい二百死程です。残りは全て、貴方の前の前の前のそのまた数えきれないほど前の人間から積み上げられて来た罪なのです。

 我々は人間よりも長く存在してきました。長く存在すればするほど、人間によって痛めつけられました。そして、その度に人間の愚かさを知ったのです。彼らは皆、一人残らず、自分の罪を誰か未来の子供に押し付けました。貴方の元にも回ってきました。

 三つ目の選択肢を選ぶ習性は、人間に共通しています。貴方が三つ目を選ぼうと我々はなんら不思議に思いません。ですから、好きに選べば良い。尤も、何の解決にもなりませんがね。

 我々が誰だか分かりましたか。いいえ、分からなくて良い。分かるはずもないのです。

 さあ、貴方の選択を教えなさい。

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