第23話
レギアスはガンブレイドの剣身を軸にして魔力の刃を伸ばす。それによってファタが振るう【竜剣】に直接ガンブレイドが触れることなく打ち合える。
打ち合う度に火花と魔力が激しく迸り、二人の頬を撫でる。
レギアスは剣で打ち合いながら自分とファタの実力を改めて分析していく。
剣の腕前は流派のような物は無くほぼ互角、魔力の強さや大きさも互角、純粋な腕力も互角である。しかし魔法を使えるファタのほうが戦術的には有利だ。
レギアスが勝つ要因があるとすれば、それは傲りだ。
ファタは覚醒した【竜剣】を手にした事で自分が最強だと思い込んでいる。そこに付け入る隙がある。
だがその傲りも決して油断できないのも事実だ。【竜剣】がファタに齎す力は凄まじく、ドラゴンの力をこれまで以上に引き出しているレギアスでも圧倒できない。
しかし逆を言えば、ファタから【竜剣】を引き剥がしてしまえばその限りでは無い。
【傲り】を突いて【竜剣】を引き剥がす事が、レギアスの勝利条件と言えるだろう。
そしてもう一つだけ勝利条件がある。
ファタはそれを消したと言ったが、ドラゴンの力を引き出している状態の今だからこそレギアスは分かる。まだそれは確かにファタの内に眠っている。
レギアスはそれを呼び起こすタイミングを探し続ける。
「その程度か小僧! 妾はまだ力の半分も出しておらぬぞ!?」
「だったら出して見ろよ! 出せるもんならな!」
レギアスは【竜剣】を上に撥ね除け、翼を伸ばして鎌のように振るう。
肉の地面を抉り取るようにして振るわれた翼をファタは宙に飛んで避け、レギアスの頭上から魔法を放つ。
黒い炎の竜巻を複数生み出し、黒い雷を撒き散らせながらレギアスに襲わせる。
レギアスはファタの魔法を瞬間移動並の速度で避けていく。竜巻の間を掻い潜り、最短ルートで滞空するファタに迫り、ガンブレイドの一撃を叩き込む。
「なっ!?」
ファタは障壁で一撃を防ぐが、レギアスは強引に地面へとファタを叩き落とす。
地面に落ちて怯んでいる隙を逃さず、追撃でファタの頭を掴み上げる。
そのまま地面に顔を押さえ付けながら飛び回り、壁や天井にも叩き付けて引き摺っていく。
この程度でファタの肉体が傷付かない事をレギアスは分かっていた。現にファタの顔は傷一つ付いていない。
レギアスは上空から地面へ顔面を叩き落とし、ダメ押しに地面で顔面を摺り下ろしながら壁へと投げ付けた。
壁に放り投げられたファタは凄まじい衝撃を放ちながら背中から激突し、だが反撃の瞬間を逃さなかった。ファタはレギアスに左手を向けており、ギュッと拳を作るように握り締める。
何処からともなく現れた岩石がレギアスを取り囲み、そのままレギアスを押し潰すようにして球体に固まる。
ファタは攻撃の手を緩める事なく、レギアスを閉じ込めた球体へ魔力だけで作り上げた巨大な紅い槍を四本突き刺す。
「爆ぜよ!」
そして槍を爆発させ、レギアスごと岩石の球体を焼却する。
激しい爆煙と炎が空間に広がっている中、紫の閃光が垣間見える。
「ッ!?」
炎の中から翼を広げたレギアスがファタの横に現れた。
レギアスの翼が半壊している事から、先程の攻撃を翼で防いだのが窺える。
ガンブレイドを握っていない左手に魔力を練り上げ、拳を固める。
その拳をファタの腹に叩き込む。
「闇竜拳ッ!」
叩き込んだ拳から爆発が生じ、魔力が衝撃波を伴って弾け飛ぶ。
それを喰らったファタは地面を転がり、【竜剣】を地面に突き刺して滑り止まる。
レギアスが叩き込んだ拳は鱗部分に直撃したようで、その部分は黒く焼き焦げている。
「くっ――」
ファタは【竜剣】から更に魔力を体内に吸収していく。
それに比例していくように、鱗の部分が広がっていき、遂にはドラゴンの尾が生えた。
「これからが本番ぞ、小僧! 本物のドラゴンの力を見せてやろう!」
どんどん強くなっていくファタの魔力に、レギアスは焦りを見せ始める。
先程の一撃で引き出せる魔力の半分以上を使い、翼の修復もできなくなっていた。
加えて、魔力を限界以上に引き出している所為で、そろそろ意識が力に呑まれそうにもなっている。
早く勝利条件を整えなければ、敗北する以前に己がドラゴンになってしまう。
レギアスは翼の魔力を左側に集め、片翼にして翼を修復する。
ファタは浮かび上がり、頭上に巨大な魔法陣を展開する。
その魔法陣から黒い光の槍が雨の如くレギアスへ降り注ぐ。
レギアスは翼を盾のようにして槍を防ぐが、ファタの接近を許してしまう。
レギアスがやって見せたようにファタもレギアスの首を掴み、壁や床に叩き付けて引き摺る。
「ぐがっ!?」
ファタはレギアスを持ち上げ、魔法陣を刻んだ地面に叩き付けて拘束する。【竜剣】を三度振るい、レギアスの周りに黒い杭を三本打ち立てる。それぞれが共鳴し合い、魔力が急速に高まる。
「闇獄に朽ち果てよ! カオス・ディザスター!」
三本の杭が爆発し、黒い炎柱が巻き起こる。
レギアスはそれに呑み込まれてしまう。
「まだ終わりではないぞ!」
ファタは更に魔法陣を展開し、そこからドラゴンの頭を模した魔力を出現させる。
そのドラゴンの口が開き、集束された魔力がブレスとして放たれた。
ブレスは炎柱を呑み込み、衝撃波を生みながら全てを掻き消した。
レギアスをニーズヘッグの器にする気が無いのか、ファタは力の限りレギアスを葬り去ろうとしている。もしくは、この程度では死なないとでも考えているのだろうか。
奇しくも、ファタの攻撃はレギアスを死に至らしめる事は無かった。
レギアスは最初の一撃を喰らいながらもブレスだけは避けていた。
だが翼の盾をダメージが貫いていたのか、レギアスの身体は至る所から出血していた。
傷の再生が間に合わないのか、それとも再生するだけの力が残っていないのか。いずれにせよ、レギアスは刻一刻と追い詰められていた。
レギアスを圧倒しているのが面白いのか、ファタはニタリと嗤う。
「無様よのぉ……その身をドラゴンへと近付けても尚、妾に勝てぬ。大人しく器になればこれ以上の苦しみは与えぬぞ?」
「ほざけ……テメェの介護なんぞ死んでもごめんだな」
「減らず口を……ならもはや器は要らぬ。貴様はこの場で殺す!」
ファタは【竜剣】を突き出し、黒い稲妻を纏いながらレギアスへと突進する。
レギアスは此処だと言わんばかりに目を開き、翼でカウンターアッパーをファタの顎に入れた。
「ごはっ!?」
「不用心に突っ込んでくる奴があるか!」
ガンブレイドに纏わせている魔力の刃を伸ばし、顎を打ち上げたファタに叩き下ろす。
刃はファタを斬る事はしなかったものの、そのまま地面に叩き付けた。
そして返す刃でガンブレイドを振り上げ、衝撃波でファタを吹き飛ばす。
「このっ――」
「さっきからよぉ――」
地面を転がるファタに接近し、反撃の体勢を取らせる前にガンブレイドを振り抜く。
ファタの横顔を叩き、更に叩く。
「腹が立ってしょうがねぇ――」
腹に、首に、腕に、脚に、頭に、ガンブレイドのラッシュを叩き込む。
「先輩の顔と声で――」
ガンブレイドだけでなく、拳と蹴りも加える。
「クソッタレな言葉発してんじゃねぇぞ!」
最後の一撃でファタは吹き飛ばされ、ニーズヘッグの心臓を守る障壁に激突した。
レギアスは「ペッ」と血を吐き捨て、肩で息をする。
ファタは宙に浮かび上がるようにして身体を起こした。
あれ程攻撃を与えたと言うのに、目立った傷は負っていなかった。
多少鱗が剥がれたり、魔力で焼き焦げた痕はあるが、ファタは健在だった。
「貴様ァ……! この身体がどうなっても良いのか……!?」
「クレイセリアはもうお前が殺したんじゃなかったのか? それに俺はただ殴っただけだ。その程度で斬れる身体じゃねぇだろ?」
「くっ……!」
ファタは顔を歪める。
だがすぐに嗤いを見せる。
「ふ、フハハハハッ! もうよい! 貴様との戯れは終いじゃ! 先も言ったが、もはや器は要らぬ! この【竜剣】さえあればニーズヘッグの力など不要! これで貴様を葬り去ってやるわい!」
ファタは【竜剣】を頭上で高速回転させ、魔力を集約させていく。
黒い魔力の球体が形成され、それがどんどんと大きくなっていく。
更に魔力を【竜剣】から吸っているのか、背中から黒い翼が生える。
レギアスは翼の魔力を全て右腕とガンブレイドに回し、一撃を放つ準備に入る。
――次の一撃が勝負だ。
先に動いたのはファタだった。
「消え失せよ! ジャガーノートォ!!」
集束された魔力が解き放たれ、レギアスに襲い掛かる。
空間を黒く塗り潰すような圧倒的な集束砲を前に、レギアスはガンブレイドを振り上げた。
「でぇぇぇぇい!」
レギアスは黒い一撃をガンブレイドで受け止め、激しい競り合いを始める。
右腕とガンブレイドに回した魔力がファタの黒い魔力によって徐々に剥がされていく。
レギアスは歯を食いしばり、足を踏ん張って攻撃に耐える。
「た、耐えると言うのか!? いったい貴様の何処にそんな力が!? この妾と互角など――」
「――互角? だったら俺の勝ちだ」
レギアスはガンブレイドのトリガーに指をかけた。
ガンブレイドのシリンダーには、まだ未使用の弾丸が装填されていた。
「弾けやがれぇ!」
レギアスはトリガーを引き、弾丸に込められたアナトの魔力を炸裂させた。
その爆発力によってレギアスの魔力は跳ね上がり、ファタの魔力を完全に上回った。
レギアスとアナト、二人の力によってファタのジャガーノートは両断される。
「なん――じゃと――!?」
レギアスの攻撃はまだ終わっていない。
魔法を打ち破られた反動で硬直しているファタに肉薄し、ガンブレイドで【竜剣】を握る右腕を斬り落とした。
「ばか――な――」
そしてファタの頭を鷲掴みし、レギアスは己に残った魔力をファタに打ち込む。
「クレイセリアを――返してもらうぞ!」
レギアスは彼女の精神世界へと入っていった。




