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三日月の竜騎士  作者: 八魔刀
第二章 竜剣編
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第20話


 時は少し遡り、マーレイの魔法でベールが【覚醒の間】から脱出させられたところまで戻る。

 穴から放り出された場所は黙示の塔の入り口だった。

 ベールはマーレイに掴み掛かる勢いで迫る。


「レギアスの下に戻して!」

「それは無理だねぇ。今のお嬢ちゃんが行っても、足手纏いになるだけさ」

「レギアスを一人にしておけないわ!」

「まぁまぁ、ちょっと落ち着きなさいな。ほれ、妹さんが来るよ」

「姉さん!」


 後ろからアナトの声が聞こえた。

 ベールが振り向くと、身体の彼方此方に傷を作ったアナトが駈け寄って来ていた。

 その後ろにはリーヴィエルもいる。

 アナトはベールに駆け寄ると、飛び付いて抱き締める。


「良かった、無事で……!」

「あ、アナト……!?」


 アナトはベールを強く抱き締めた後、ベールの胸倉を掴み上げる。

 その顔は明らかに怒っている表情で、ベールはうっと息を呑んだ。


「このバカ! アホ! 何でレギアスの無茶に姉さんが付き合う!?」

「えっと、それはだって……そ、そんな事より貴女は大丈夫なの!? 傷だらけじゃない!」


 アナトは呆れたように溜息を吐き、ベールから手を離す。

 どうして妹の心配をして溜息を吐かれるのか、ベールは釈然としなかった。


「まぁいい……。それで、レギアスは?」

「そ、そう! そうよ! レギアス! ねぇお婆さん! 早くレギアスの下へ私を戻して!」


 ベールはマーレイにそう頼むのだが、マーレイはリーヴィエルと向かい合って黙っていた。

 リーヴィエルも妙な雰囲気を纏い、マーレイの前で静かに佇んでいる。

 ベールとアナトは揃って首を傾げる。

 やがてマーレイから沈黙を破る。


「……随分と、力を付けたようじゃないか」

「……はい、先生」


 ベールとアナトは己の耳を疑った。

 リーヴィエルがマーレイの事を先生と呼んだのだ。

 マーレイは優しく微笑み、リーヴィエルはいつものように目を閉じているが、幾分か嬉しそうな顔をしている。だがその顔もすぐに引き締まる。


「先生、どうしてベール殿下と一緒に現れたのですか?」

「坊やに頼まれてねぇ」

「坊や……? ファルディア殿の事ですか?」

「そうさね。坊やは私の頼みであの子と戦ってるよ」

「あの子……?」

「リーヴィエル、その婆さんは誰なんだ?」


 二人の会話にアナトが割って入る。

 リーヴィエルにとってマーレイは旧知の仲なのだろうが、アナトとベールにとっては正体不明の人物だ。この渦中でいきなり現れた人物の素性を知っておきたいと思うのは当然だろう。

 リーヴィエルは失礼しましたと一言置き、マーレイを紹介する。


「この御方はマーレイ。【魔女】ではありますが、国王陛下とは旧知の間柄です。私の魔法の師でもあります。危険はありません」

「フフフ……今は塔に隠居するただの婆さんさ」


 ただの婆さん、そんなわけがないと、ほんの少しだがマーレイが戦っているところをみたベールは思った。アナトも塔に隠居するような奴が居てたまるかと吐き捨てる。

 それから父と旧知の間柄と言うのにも驚く。イルは娘にも過去をあまり語らず、自分達が生まれる前の事は人伝に聞く事でしか知れない。

 リーヴィエルはマーレイに向き直り、今起きている事態について尋ねる。


「それで先生、いったい何が起きているのですか?」

「ファタと言う【魔女】が塔に隠されている【竜剣】を手に入れた。覚醒を促し、ニーズヘッグを蘇らそうとしている。坊やを器にしてね」

「やはり……ですが分かりません。どうして塔が移動して来たのですか?」

「【竜剣】さね。アレは主を求めている」

「主……初代竜騎士をですか?」


 マーレイは首を横に振る。


「もっと若くてイイ男さ」

「……レギアス? レギアスを探してるの?」


 ベールがレギアスの名を挙げると、他の三人がベールへ視線を向ける。

 マーレイは微笑ましい顔をし、アナトはジト目になり、リーヴィエルは口に手を当てて「まぁ……」と声を漏らす。


「な、何……?」

「誰もレギアスの事なんて言ってないぞ……」


 アナトはやれやれと肩を竦めた。

 ベールはぽっと頬を紅く染め、コホンッと咳払いする。


「フフフ、お嬢ちゃんの心の中は坊やでいっぱいだねぇ」

「ふ、巫山戯てる場合じゃないのよ! レギアスが狙いなら早く助けに行かないと!」

「坊やなら殺されはしないさ。器に必要だからね。だけどお嬢ちゃん、そっちのお嬢ちゃんもだ。【竜剣】の覚醒にはお嬢ちゃんどちらかの血が必要。覚醒さえしなければニーズヘッグの復活は阻止できる。そして、ファタの復活も……」

「だとしても、レギアスを一人で戦わせられないわ!」

「待て、レギアスは何と戦ってるんだ?」

「クレイセリアよ。私、彼女に捕まって殺されかけたわ」

「何だと?」


 アナトはリーヴィエルへと視線をやった。

 クレイセリアはリーヴィエルが地中奥深くへと沈めた。

 だがどうやってかそこから脱し、先に塔へと辿り着いたようだ。

 リーヴィエルのあの一撃は決して小さいものではなかった。それを喰らっても健在と言う事は、クレイセリアの力は計り知れないのが分かる。


「やはり仕留められませんでしたか」

「……戦ったの?」

「ああ。姉さんとレギアスが行った後にな。列車の警護班はオルガが見に行ってるが、おそらく……」

「……そう。貴女達で止められなかったのなら尚更だわ。今すぐ助けに行かないと」

「いいえ、殿下。それはなりません」

「リーヴィエル!」


 クレイセリアがそれ程の力を持っているのなら、レギアス一人では太刀打ちできないかもしれない。

 ベールは彼が負けるとは思っていないが、それでも拭いきれない不安を抱いていた。

 すぐにでも助けに行きたいと思っているのに、尚も止めようとしてくるリーヴィエルにベールは怒りの目を向ける。

 そこに割り込んだのはマーレイだった。


「ちょいとお待ちな、お嬢ちゃん」


 マーレイは微笑みを消して、真剣な眼差しでベールを見つめる。


「お嬢ちゃん、坊やがどうしてお嬢ちゃんを逃がしたのか、分かっているのかい?」

「ええ。でも私だけ逃げる事はできないわ」

「……戦いに戻れば、死ぬとしてもかい?」


 リーヴィエルが強く反応した。

 マーレイをよく知っているから、その意味を理解しているのだろう。


「アタシの【眼】には、まだお嬢ちゃんの終わりが視える。あの子の紅い槍でその胸を貫かれる。それでも行く気かい?」


 紅い瞳がベールを射貫く。

 普通の人間ならば、面と向かって死ぬと言われれば怖がったり迷ったりするものだ。

 だがベールはそうではなかった。

 真っ直ぐにマーレイを見つめ返し、銃を両手に出す。


「望むところよっ――!?」


 突然、ベールは首に衝撃を受けて蹌踉めく。全身から力が抜けていき、視界も揺らぐ。

 地面に倒れそうになるが、その前にアナトがベールの身体を抱える。


「ごめん、姉さん」

「あな……と……?」


 ベールはアナトの腕に抱えられながら意識を失う。

 ベールを気絶させたのはアナトだった。


「リーヴィエル、姉さんを連れて塔から離れろ」

「……アナト殿下は?」


 アナトはベールをリーヴィエルに託し、ガンブレイドを握る。


「おい、婆さん」

「何だい?」

「私を送れ。私が姉さんの代わりに行く」

「殿下、何を馬鹿なこと――」

「良いんだね?」

「先生……!?」


 マーレイはアナトを【眼】で見る。


「確かに、お嬢ちゃんには死が視えない。だけど、それがこの戦いで死なない事には繋がらないよ?」

「それで充分だ。姉さんが死なないのなら、それだけで価値がある」

「坊やの為じゃないんだねぇ?」

「誰が」


 アナトは心底嫌そうに吐き捨てる。

 それが可笑しいのか、マーレイは小さく笑った。

 それから杖で地面を叩き、空間に穴を開けた。


「行くなら一つ、頼まれてくれるかい?」

「聞くだけなら」

「……クレイセリアを助けてやっておくれ。あの子はファタに利用されてるだけなんだ」

「それ、レギアスにも頼んだのか?」

「頼んださ」

「だったらアイツ次第だ」


 アナトはそう言って穴へ飛び込んだ。

 マーレイが空間の穴を消し、リーヴィエルはマーレイを睨み付ける。


「先生、どうして……」

「何を言っても無駄さ。あの子が行くかその子が行くかだ。ならアタシは少しでも未来が良くなる可能性に懸けてみたのさ」

「……」

「さて、それじゃあお前さんはそのお嬢ちゃんを連れて――」

「……先生?」


 マーレイは突然言葉を切らし、驚いた様に目を大きく見開いて固まる。

 紅い瞳が輝き、【千里眼】が発動しているのだとリーヴィエルは察する。

 だが様子が変だと不審に思う。

 マーレイは少しの間固まったままだったが、やがてハッとして戻ってきた。

 そして若干顔色を青くして口にする。


「何てことだい……未来を変えようとした罰かい?」

「先生、何を視たのですか?」


 マーレイは静かに口にした――。


「……破滅だ。破滅が来るよ」




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