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三日月の竜騎士  作者: 八魔刀
第二章 竜剣編
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第12話



 ドクンッ――、とレギアスの魔力が強く脈打つ。

 あの塔が自分を呼んでいる、いや塔の中にある【ナニか】が呼んでいる。その【ナニか】が塔を此処まで連れてきているとレギアスは感じた。


「アレが黙示の塔なのか?」

「ええ。ですが、私が知っているソレとは違うようです」

「ヤバそうか?」

「帰ったら有休をぶんどりたい気分です」

「それはヤバそうだ」


 生真面目そうな竜騎士であるリーヴィエルがそう言うのなら、相応の異常事態なのだと察する。

 レギアスは車に戻り、オルガ達に状況を説明する。


「じゃあ何か? 塔が歩いてこっちに来てるってのか?」

「歩いてるってか、這いずってると言うか、どっちにせよアレはヤバい。マジ、ヤバい」


 レギアスはあの塔の異様さを、リーヴィエルとは別に感じていた。呼んでいる【ナニか】に刺激されているのか、魔力が昂ぶり始めている。いっその事この場で一暴れしたいとまで考えてしまう。ドラゴンの本能と言うべきものがそう訴えかけてくる。

 それを人間の理性が抑え込む。それどころか黙示の塔を恐れている。

 恐れて当然だ。アレは人間が近寄って良い場所ではない。このままベール達を連れて行って良いものかと今一度己に問う。答えはすぐに出た。


「――お前らは戻れ。此処からは俺だけで行く」

「何を言ってるの!? そんなの認めるわけないじゃない!」


 ベールが強く異を唱える。アナトも同意で、目を鋭くしてどういうつもりなのかと問う。


「アレは人間が近付いて良い場所じゃない。危険とかそうレベルの話じゃない」

「そんな場所にオメェを一人で行かせろってか?」

「俺は半分ドラゴンだ」

「だが半分は人間だ」

「……兎も角、お前らこの先に行く事は竜騎士さんも許さねぇよ」


 レギアスは再び車から降り、車の後ろに積まれてるバイクを降ろす。

 勝手に一人で行くつもりだと思ったベール達も車から降り、レギアスを行かせないようにする。構わずにレギアスはバイクのエンジンをかける。


「何考えてんだレギアス! 一人で行かせるわけねぇだろ!」

「オルガ、騎士なら俺じゃなくベールとアナトを守れ」

「てめっ――」

「騎士オルガ、ファルディア殿の言う通りです」


 上空から周囲の様子を窺っていたのか、空から舞い降りてきたリーヴィエルはそう言う。

 その発言が気に障ったのか、オルガは苛立ちを隠さずリーヴィエルを睨み返す。


「貴方の務めは両殿下を守る事です。その点については彼が正しい」

「だったらレギアス一人で行かせろってのか!?」

「いいえ、誰一人として行かせません」


 ピリッと、レギアスの肌が殺気を感じた。その殺気の出所は彼の前に立っているリーヴィエルだった。背中に冷や汗が流れるのを感じ、レギアスは跨がっているバイクのハンドルから手をゆっくり離す。


「アレは明らかに異常です。その異常の中に危険因子である貴方を向かわせるとでも?」

「……此処に来るまでに、多くの犠牲者が出た。此処で引き返せば彼らの死は無駄になる」

「あの異常を確認できただけでも価値はあります。ファルディア殿……まさかドラゴンに意識を操られているのでは?」

「……」


 ノー、とレギアスは答えることができなかった。黙示の塔に行こうとしている理由に、【ナニか】に呼ばれているからと言うものがあったからだ。その声をどうしても無視できず、更に言うと行くべきだと魂が訴えかけてくるのだ。


 騎士達の死を無意味にしたくないと言うのも本心である。自分の欲で始まったものだけに、此処で投げ出すわけにはいかないと思っている。


「……沈黙は肯定、と受け取りますが?」

「……止めたきゃ、止めてみろ」


 二人の間に静寂が走る。

 片や半分ドラゴンの力を有した人間、片やドラゴンを殺す為だけに存在する竜騎士。

 オルガとアナトは己が戦うわけでもないのに緊張で身体が強張る。


 だがただ一人、ベールだけは違った。

 リーヴィエルがレギアスに意識を向けている隙を突き、右手に魔銃を展開して彼女に銃口を向けた。そして何の躊躇いも無くトリガーを引き、魔弾を放ったのだ。


「っ――」


 予想していなかったのだろう、リーヴィエルは一瞬だけ慌てた様子を見せる。だが文字通りほんの一瞬であり、魔力による障壁を魔弾を防ぐ。

 その魔弾は防がれた直後、小さな爆発を起こして粉塵を発生させる。その粉塵はリーヴィエルの視界を妨げるのに、隙を生み出すのに充分だった。

 ベールはバイクに跨がっているレギアスの後ろに跨がり、更にリーヴィエルに向かって発砲し、防がれる度に爆発を起こして粉塵を発生させる。


「レギアス! 今よ!」

「っ、ええい!」


 レギアスはバイクを急発進させる。ベールを連れて行きたくはなかったが、リーヴィエルの隙を突けるのは今しか無く、覚悟を決めてベールを乗せたまま走らせたのだ。

 谷沿いを走らせながら、レギアスはベールに怒鳴りつける。


「何考えてんだよ!? 味方を撃つか普通!?」

「あの程度で傷を付けられるのなら誰でも竜騎士になれるわよ! それに貴方を殺そうとしたのよ!? それだけで撃つ理由には充分よ!」

「何で一緒に来た!?」

「だって約束したじゃない! 貴方の味方で、貴方の側にいるって!」

「お陰で生きて帰っても殺されるよ! お前の父親にな!」

「何よ!? 私のお陰で逃げられたのよ! ちょっとは感謝してよ!」


 銃の柄でレギアスの後頭部をガツガツと殴る。

 レギアスは頭に衝撃を食らいながらも、口元が緩んでしまう。それは彼にマゾヒズムがあるからではなく、ベールの心意気に嬉しさを感じたからだ。塔から刺激された高揚感とは違う、嬉しさからくる高揚感に心が満たされ、レギアスは笑う。


「ったく、しっかり掴まってろよ! 先ずはリーヴィエルから全力で離れる! その後で塔に向かう道を探す!」

「分かったわ!」

「あと――ありがとう」

「――どういたしまして!」


 二人を乗せたバイクは全速力で走り去っていく。

 小さくなっていくその姿を、粉塵を振り払ったリーヴィエルは閉じている眼で見つめる。


「あらら……」

「ったく、姉さんは……で、どうするつもりなんだ?」


 オルガは苦笑し、アナトは呆れて頭を抱えリーヴィエルに問う。


「……当然、追います。ですが、殿下の安全を――」

「こ・と・わ・る」

「……はぁぁ、ええ、分かっていましたよ」


 もう諦めたのか、リーヴィエルはぐったりとした表情を浮かべる。アナトがベールを放っておくわけがないのは明白で、説得に時間をかけても無駄になると分かりきっていた。

 それにリーヴィエルはこの場で最も安全な場所は己の側であると分かっている。領域内にいる限り、例え塔に近寄らずとも危険は等しく存在する。であれば竜騎士である己が直接守ったほうが安全である。

 もうどうにでもなれと、リーヴィエルはまったくもって身勝手な王女二人と半竜に呆れ返るのだった。


「……?」


 ふと、オルガの耳に何かが聞こえた。それは小さな声で、車の中から聞こえる。確かめると通信機から声が聞こえるのに気が付き、オルガは応答する。どうやら列車の警護班からの通信のようで、距離がある所為か音質が悪い。


 騎士団で活用する通信機は電話と違い、特定の魔力周波数を通信機同士で交信する為、電波は必要ない。ただし、送受信距離は短く、届かなければ通信できない。

 音質が悪くプツプツと途切れているのは、送受信距離がギリギリだからだろう。それに領域では魔力が乱れ易く、更に通信しづらいと言うのもある。

 オルガは通信機を操作し、応答する。


「こちらマーティン、どうぞ」

『――っ、――』

「悪い、通信状況が良くない。もう一度、どうぞ」

『――っ!』


 少しでも聞き取れるように、通信機の音量を上げる。

 アナトとリーヴィエルも通信内容が気になり、側による。

 スピーカーからはザーっという音が響き、その中に声が混ざって聞こえる。


『――じょだ――くれ――』

「失礼」


 リーヴィエルが通信機に手を翳し、通信機の魔力周波数を増幅させて整える。

 それと同時に、アナトは背後から気配を感じて振り返る。


『くれい――じょだ――』

「あれは……?」


 自分達が走ってきた方向から、何かが紅い光を放ちながら飛んでくる。

 アナトは自然とガンブレイドをその手に出して握り締めた。

 そして通信機の声は鮮明にスピーカーから流れる。


『【魔女】だァ!』


 同時に、紅い閃光がアナトの前に降り立った。

 その閃光は人の形をしていた。

 その人は女だった。

 その女は見知った顔をしていた。


「殿下ッ!」


 紅い眼を光らせ、クレイセリアは容赦なくアナトに襲い掛かる。

 鮮血が花のように散った――。



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