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三日月の竜騎士  作者: 八魔刀
第二章 竜剣編
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第11話



 大地を滑るようにして飛行するリーヴィエルの後ろをオルガの運転する車が走行する。周囲には崩壊してほぼ更地になっている街の残骸があり、その間をリーヴィエルと車は抜けていく。

 車内ではただ静かに時が流れていた。助手席でレギアスが何かの本を読み、ベールとアナトは外の景色を眺め、オルガは気不味そうに運転している。


 ステーションから出発してからと言うもの、誰も一言も喋らずにいた。いつもなら他愛ない会話が弾んで明るい雰囲気になっていたであろう。

 そうなっていない理由はレギアスとベールにある。ベールはレギアスに対して何かしらのアクションを起こそうとしており、レギアスはそれに気が付かないフリを続けている。意地悪でそうしているわけでなく、まるで喧嘩でもした後のような雰囲気をアナトとオルガは感じ取っていた。


「……なぁ、音楽かけて良いか? こう陰気臭いと気が滅入っちまう」


 この空気に耐えかねたオルガはそう言うと、誰が何を言うまでもなく車内に備え付けられている機器で音楽をかける。スピーカーからは最近王都で流行っている軽快な曲が流れ、車内の空気を幾分かマシにした。曲に合わせてオルガが歌を口遊んだ事も加わり、レギアスも口を開き始める。


「列車のほうは大丈夫なのか? 警護つっても、領域内じゃキツいんじゃ?」

「ま、断言はできねぇがある程度は大丈夫だ。列車に組み込まれてる魔力機関は無事だったわけだし、魔法障壁を展開できる。逆に言うと、障壁が切れたらヤバいんだけどな」

「あの竜騎士から塔の場所を聞いて、俺達だけで行けば良かったんじゃないか? そうすれば列車の警護に竜騎士を当てられたのに」

「それは言えてるがな。そうしなかったのはオメェを警戒してっからだろうよ」

「……どうやったら信用してくれるんだろうな」

「実際に奴さんの前でドラゴンをぶった斬りゃ良いんじゃね?」

「簡単に言うなぁ」


 此処でやっとレギアスは笑みを見せた。オルガの冗談に軽く笑っただけであったが、オルガは今日初めてレギアスが笑った顔を見ることができた。

 調子が出て来たのか、オルガはバックミラー越しに後ろにいるベールとアナトにも会話を振る。


「どうですかいお姫様方? 領域内のドライブは?」

「どうも何も、見渡せども見えるのは荒れた大地に崩れ落ちた建物、汚染された黒雲ばかりだ。これでポジティブな気持ちになれるか」

「……お父様とお母様は、こんな場所でドラゴンと戦っていたのね」


 ベールとアナトの脳裏に、騎士甲冑を纏った両親の姿が思い浮かぶ。その姿は二度と見ることはできないが、当時の記憶は薄れることなく残っている。


『陛下と王妃様は我ら騎士にとって希望の象徴です』

「っと、聞いてらしたんですか?」


 通信機からリーヴィエルの声が聞こえ、オルガは苦笑いする。移動中も言葉遣いに気を遣わなければいけないのかと考えたからだ。

『陛下は言わずとしれた最強の武人で御座いますが、王妃様もマスティア家で一番の魔力をお持ちでした。その力で王族でありながら竜騎士として陛下と並んで戦われておりました』

「……国王って、婿養子だったのか?」


 レギアスは小声でオルガに確認すると、オルガは頷いた。


「学校で歴史を学んだだろ。陛下は元は無名の騎士で、そこから功績を立てて竜騎士となり、王妃様に見初められて王家に入ったんだよ」

『大恋愛だったそうです。モチーフにされた恋愛小説も出版されてるぐらいですから。映画や舞台化もされて、毎日通ったものです』


 車内の四人は思った――リーヴィエルって恋愛系の話が好きなのだろうかと。


「ま、まぁ確かにそんな作品もあったな。お父様が恥ずかしがってた記憶がある」

「へぇ~、今度見てみるか」


 レギアスはその作品に興味を惹かれた。可能性は低いが、もしかしたら自分の実の両親についても何か知り得るかもしれないと思ったからだ。王妃との出会いが綴られてるのであれば、それは即ち国王が騎士団で一介の騎士として戦っていた頃の話。と言う事は、養父であるオードルとその後輩に当たる実の母親が現役している時代となる。


「その作品には、国王が騎士団で部隊を率いてる頃の事も書かれてるのか?」

『そうですね。王妃様との出会いが騎士学校時代になりますし、メインは騎士団に入隊してからのお話になりますので。ああ、そう言えば騎士オードルも登場しますよ。詳しく知りたいのであれば小説をお薦めします。舞台や映画は時間の尺もあって省かれてる内容もあるのですが、小説ならば事細かく書かれております。著者も国王陛下の御友人でありますし、学生時代や騎士団でも共に過ごした間柄ですので、限りなくノンフィクションに近い作品です。よろしければ個人的解釈や考察を交えた論文と一緒に全巻を揃えてさせ上げましょうか?』

「いえ、結構です」


 恋愛小説の論文って何だ、個人的解釈って何だ、アンタは竜騎士のくせに主の恋模様を研究対処にしてんじゃあないよ。

 レギアスは真顔でリーヴィエルの提案を断る。どうやら彼女はその作品に対して熱い想いがあるらしい。


 しかし読んでみる価値はあるようだ。養父が出ているのなら、騎士団時代なら何かしらの情報を得られるかもしれない。直接聞いても教えてくれないのなら、そうやって細々と足跡を辿っていくしかないのだ。


 実の両親に会いたいか会いたくないかと問われれば、会ってみたいと言うのがレギアスの本音だ。だが正直なところそれ以上の感情を抱けないでいた。顔も声も覚えておらず、養父と養母こそが親だと思っている。


 それに、実の両親に関して何かを隠されている様子がある。それが何なのか見当は付かないが、いずれその問題に直面する時が来るのだと、レギアスは何処かで確信していた。


「――ね、ねぇレギア――」

「おいレギアス! アレを見ろ!」

「ん?」


 ベールが意を決したようにレギアスの名を呼んだ時、運転してるオルガが大きな声で正面を見て叫ぶ。レギアスはオルガの見ているへ視線を向ける。


 その視線の先には、リーヴィエルがいる。

 リーヴィエルの後ろ姿が見える。

 スリットの深いスカートが風で捲れ上がった。

 男であるレギアスとオルガはそこにあるロマンに釘ツケになる。

 一瞬の出来事であったが、レギアスとオルガの視界はスローモーションになり、そのロマンを脳裏に焼き付けようと脳の神経を激しく働かせる。


 後もう少しで完全にスカートが捲れ上がるその瞬間、レギアスの視界を手の指が被った。


 ゴリュ――。


「いぎゃああああああああああっ!?」


 何かが抉れたような音が鳴り、レギアスは悲鳴を上げる。

 座席越しに後ろからベールがレギアスの両目を指で押し潰していた。目を被っているのではない、目を押し潰していた。そのベールの表情は冷酷な鬼だった。


「ケッ……」


 アナトも汚物を見るような目でレギアスを睨み、ついでにオルガの座席を蹴りつける。

 痛みで泣き叫ぶレギアスと、背後からの殺気にびびるオルガ。

 そんな中、通信機からリーヴィエルの声が鳴り響く。


『停車!』


 流石はオルガと言ったところか、リーヴィエルの指示にすぐさま従い、急ブレーキをかける。

 地面をスリップしながら停車した後、オルガ達は気を引き締める。

 レギアスも痛みに悶えながら目を再生し、何事かと状況を確認する。


「姐さん! いったいどうしたんですかい!?」


 車の窓を開けず、通信機でオルガはリーヴィエルに何事かと尋ねる。

 返ってきたのはリーヴィエルが驚愕する声だった。


『そんな……どうして……』


 驚いているばかりで何も答えないリーヴィエルに四人は訝しみ、レギアスが車外に出た。

 飛行を止めて地面に降り立つリーヴィエルの隣に立ち、彼女が見ている光景を目にする。

 レギアスとリーヴィエルが立つその先は大きな谷であり、これ以上進めないのが分かる。


 だがレギアスが驚いたのはそれに関してではない。谷を越えた向こう側にある物に驚いた。

 黒雲で見え辛いが、巨大な塔が聳え立っていた。ただ立っているのではなく、それからはまるで生き物のように生命力を感じられた。


 生きている――。


 何の確証も無いが、レギアスはあの塔が生きていると確信を持てた。

 禍々しい魔力を放ち続け、赤黒い光が点々と周囲を照らす。

 デーマンの姿は無く、塔の麓はまるで塔が大地を這いずったように抉れている。

 違う、まるで、ではない。

 文字通り塔が大地を這いずって動いている。


「おい……もしかしてあれが……黙示の塔、なのか?」

「……異変が、起きているようです。それも、人類の命運を懸けた異変が」


 リーヴィエルの眼は閉じられたまま、塔を見上げる。

 レギアスは固唾を呑み、すぐ背後に迫っている悪寒を感じながら、塔を睨み付ける。






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