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三日月の竜騎士  作者: 八魔刀
第二章 竜剣編
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第9話



 ベール達がいる車両に戻ると、先程助けた重傷の騎士とクレイセリアも運び込まれていた。クレイセリアは既に意識を取り戻しており、騎士から治癒魔法を受けていた。


「先輩、大丈夫か?」

「あ、レギア――いっ!?」


 声を掛けられたクレイセリアがレギアスへと振り向くと、悪かった顔色が更に悪くなった。どうしたのかと首を傾げると、レギアスは自分の姿を思い出した。

 デーマンの返り血で真っ青になっており、臭いも酷い。ジャケットを脱いで汚れていない裏地で顔の血を拭い取り、それを窓から捨てた。


「それで? 大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫。爆風で気を失ってただけだから」

「そうか……運が良かったのか悪かったのか……兎に角、無事で良かった」

「レギアスが助けてくれたんだって? ありがとう」

「……ああ」


 レギアスはそれだけを言うと、車両の隅の座席にドカリと座り込む。その表情は曇っており、それでいて何かに苛立っていた。

 ベールはそんなレギアスを心配になり話しかけようとするが、思い止まって席に座り込んでしまう。顔を俯かせて、ベールまで表情を曇らせる。

 アナトとオルガはどうしたものかと肩をすくめる。だが二人の間に何があったのか分からないままではどうしようもない。下手に刺激すれば更に悪化する、なんて事もあり得る。


 それからはリーヴィエルの部隊が機関部を修理し、壁も魔法で補強した。しかし機関部の損傷は酷く、列車を停車させて時間をかけて修理しなければならないようだ。

 犠牲となった騎士達は一番後ろの車両へ集めた。遺体運びに、レギアスは率先した。その表情からは感情が読み取れず、終始無言だった。今できる弔いの祈りを捧げ、列車は進み続ける。


「――ですので、黙示の塔までは我々だけで赴きます。残りは列車の警護及び修理に当たらせます」


 今はリーヴェエルがこれからの方針をベール達に説明している。ベール、アナト、オルガ、リーヴィエルの四人は向かい合って話しているが、レギアスは通路を挟んで隣の座席の窓側に座り、外を眺めていた。他の騎士達は皆別車両へと配置させている。極秘情報が絡んでいるからである。


「……聞いているのですか、ファルディア殿?」

「……ああ、聞いてる」


 リーヴィエルがレギアスを注意すると、彼女の顔を見ないまま返事をする。普段のレギアスからは想像だにできない態度だ。


「……ファルディア殿、出立前に伝えた事をきちんと理解して――」

「分かってる」


 リーヴィエルの言葉を遮り、レギアスは立ち上がって車両の一番後ろの席に移った。まるで人を避けているようだった。

 彼の態度の変わりように、まだ直接出会って間もないリーヴィエルでさえも驚きを隠せないでいる。レギアスは基本的に目上の者に対しては社会的マナーを守る。竜騎士であるリーヴィエルにも、例え危険視されているとしても一定の敬意は払っている。


 そのレギアスが、である。


「……どうやら彼は騎士達の死に、思う所があるようですね」

「それはそうよ」


 ベールが肯定した。

 ベールはレギアスと同じように窓の外を眺めている。


「彼は優しいもの。騎士達の死に責任を感じてるのよ、きっと」


 ベールはレギアスの態度に心当たりがあり、それは当たっていた。いつものベールならレギアスに寄り添い、何か言葉を投げ掛けるだろう。だがベールは沈んだ表情のまま席から動かない。


「……ま、確かに。殿下の言う通り、どうせアイツのことだ。『俺が竜剣を欲しいと思わなければ』、なんて考えてるに違いない」


 オルガは呆れた笑いを浮かべる。彼も彼なりにレギアスの事を友人として理解しているらしい。アナトはやれやれと肩をすくめ、リーヴィエルは静かに閉じている眼でレギアスを見つめる。彼の内側を見極めようとしているのか、リーヴィエルはレギアスの横顔をジッと見つめる。


「はぁ……それでリーヴィエル? 黙示の塔はステーションから遠いのかしら?」


 ベールがレギアスの話題から本題へと戻す。

 リーヴィエルも顔をレギアスからベール達へと戻し、行動予定を話す。


「こほん……本来、黙示の塔は国王陛下と竜騎士しかその在処を知りません。塔は目的のステーションから凡そ半日で着きます。ですが、その半日でさえ領域内では常に死の危険性を意識してください」


 死、その言葉に三人は表情を引き締める。離れた席でもその言葉を聞いていたレギアスも引き締める。


「正直に申しまして、私は両殿下が領域に入られるのは時期尚早だと思っております。いずれ、戦場に立つ事になるとしても、まだ実戦経験が足りません」

「そうね。これは私の我が儘だもの。その代わり、戦場では貴方の指示に基本的には従うわ」

「基本的に、では困ります。必ず守ってください」


 ピシャリと言い放つリーヴィエルに、ベールは渋々と頷いた。

 ベールには確信に近い予感めいたものがある。それはリーヴィエルがこの機にレギアスに何らかの手を下そうとしているのだと。何故ならリーヴィエルはレギアスの存在を危険視する側の人間であり、目を離した隙に何かを仕出かすかもしれないと、ベールは心配していた。


「領域に生息するデーマンは個体差はあれど、領域外で出没するデーマンに比べるとかなり強力です。黙示の塔では特に強力なデーマンが生息しています。アナト殿下がミハイル島で戦ったリッチのようなデーマンもいるでしょう」


 リッチの強さは桁違いであった。アナトとオルガがメインになって奮戦したが、レギアスが力を発揮できなければ殺されていただろう。そんなデーマンが黙示の塔には存在すると言う。

 アナトとオルガは固唾を飲む。ベールも二人の実力を知っている為、リッチというデーマンがどれ程の強さなのかは理解できた。


 その時、離れた席に座っているレギアスから声が上がる。


「なぁ……黙示の塔に行くのは俺達だけなのに、どうして他の騎士達を連れてきたんだ?」


 それはリーヴィエルに問い掛けたのだろう。彼女はそれに答える。


「最初に説明した筈です。彼らには列車の警護と修理を――」

「違うそうじゃない。例え列車が壊れてなかろうと、アンタは黙示の塔に他の騎士達を連れて行く気は無かったんだろう?」


 苛立った声でレギアスは問い詰める。


「どうして、そう思うのですか?」

「今の現状がその証拠だ。態々音が漏れない結界まで張って、騎士達を車両から追い出した。と言う事はだ、最初から誰にも黙示の塔の事を知らせるつもりは無かったんだろう?」

「なるほど……確かに最初から他の者達に塔の事を知らせるつもりはありませんでした。ですが、それが何か問題でも?」

「だったら最初から連れて来なけりゃ良かっただろ。そうすりゃ、彼らだって死なずに明日を迎えられたのに!」


 レギアスから僅かだが魔力が煮えたぎったように見えた。車両内はピリピリとする空間になり、アナトとオルガは知らずの内に己の得物を手に出現させていた。

 それは本能的に先程のレギアスから危険を察知したに他ならない。

 レギアスはハッとして冷静さを取り戻した。顔を隠すように頭を手で抱え、椅子にもたれかかる。


「すまない……後ろの車両にいる」

「あ、レギアス待って――」


 ベールの制止を聞かずに、レギアスは後ろの車両へと移ってしまった。レギアスがいなくなると、ベールは両手で顔を覆い、力なく座り込む。


「姉さん……」


 アナトは隣に座る姉の肩に手を置いた。

 その肩は僅かに震えていた――。




 後ろの車両に移ったレギアスは、その車両にいた騎士達の視線を集める。

 その視線にレギアスは恐怖を感じた。


『お前が竜剣を望まなければ誰も死ななかったのに』


 実際に彼らがそう言っているわけではない。レギアスの被害妄想にすぎない。彼らはただいきなり入ってきたレギアスに視線を動かしただけで、すぐに視線を外した。


「レギアス?」


 その車両にはクレイセリアがいた。

 彼女もレギアスの様子が違うことに気が付いたのだろうか、首を傾げて歩み寄る。


「どうかしたの? リーヴィエル様から伝令でも?」

「いや、ただ……」

「……ね、座ろ。ほら、こっち」


 クレイセリアはレギアスの腕を掴んで自分が座っていた席へと連れて行き、向かい合って座る。何処かいたたまれない様子のレギアスに柔やかに笑ってみせる。


「手、出して」

「手?」

「そ、手」


 言われるがまま、レギアスは右手を出す。その手をクレイセリアは自分の手で包み込み、魔力を流し込む。穏やかで優しい魔力をレギアスは感じ取り、ほんの僅かだが心が安らぐ。


「お婆ちゃんがいつも言ってた。男の人が落ち込んだり、悩んだりしてる時は手を握ってあげなさいって。そうすれば、元気が出て悩みなんて吹き飛んじゃうって」

「……そのお婆ちゃんはきっと多くの男達を泣かせてきたんだろうな」

「モテモテだったらしいよ。でもほら、少しは元気出たでしょう?」


 レギアスは確かに自分の心が先程までより落ち着いていると思った。断じて異性に手を握られたからではない。クレイセリアが魔力によるヒーリングを施してくれたからに違いない。クレイセリアから流れ込んだ魔力にその効力があったのだろう。

 危険な目に遭わせた上に気を遣わせてしまったか、とレギアスは己の不甲斐なさを嘆く。


「おい、坊主」


 そこへ、騎士の一人がレギアスに声を掛けた。


「礼を言わせてくれ」

「れ、礼……?」

「ああ。坊主が助けてくれた奴はな、俺の弟なんだ」


 レギアスが助けた騎士となれば、あの重傷を負った騎士しかいない。

 彼を他の騎士に渡してからは彼の容態を聞いていなかったと思い出す。


「そう、か……助けられて良かったよ」

「……でも弟は逝っちまったよ」

「っ――」


 あの時はまだ確かに生きていた。致命傷だったのか、治療は間に合わなかったらしい。

 またしても犠牲者が出てしまった事に、レギアスは己の心が張り裂けそうになる。己が竜剣を欲しがらなければ出なかった犠牲者だ。彼の弟は自分が殺したのも同然だ、そう己を責め立てる。


 だが騎士は「礼」と言った。いったい何に対する礼なのだろうか。

 騎士は真っ直ぐとした目でレギアスを見つめ、口を開く。


「坊主のおかげで、弟と別れの言葉を交わせた。騎士になれば、身内やダチの死に目に会える事は殆ど無い。坊主はそれを俺にくれた。ありがとう……ありがとう!」


 騎士は声を震わせながら礼を言う。

 他の騎士達も口々に「良くやった」「助かった」「ありがとう」と言う。


 違う、アンタ達は真実を何も知らないからそんな事を言えるんだ。

 俺が原因で始まった戦いなんだ。


 レギアスは胸中でそう叫び、騎士達に見えないよう、唇を噛み締める。


 クレイセリアはブルブルと震えるレギアスの手を握り、ヒーリングを施しながら微笑んだ――。


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