第8話
レギアスは窓の外を見る。闇に支配された大地から多くのデーマンが列車に向かって集まってきている。まるで列車が領域に入るのを待っていたかのように、一斉に集まってくる。
待ち伏せされていた――。
レギアスだけではなく、その場にいた者達全員が同じ事を考えた。
リーヴィエルが通信機で部隊全員に告げる。
「総員、デーマンを撃退せよ!」
レギアスと同じ車両に乗っていた騎士達が剣を抜いた。レギアスも剣を抜き、魔力を練り上げる。同時に、前車両の方から戦闘音が聞こえてくる。剣戟の音が鳴れば魔法が発動する音や銃火器の音もある。
「先輩……! オルガ! ベール達を頼むぞ!」
「おい!? レギアスどこに行きやがる!?」
レギアスは前車両側にいるはずのクレイセリアが気になり、連絡扉を開けて車両を移動する。
一つ前の車両は無事で、配置されている部隊の班が窓から外にいるデーマンに向かって銃火器で迎撃している。その中をレギアスは走り抜け、更に前の車両に移動する。
「グギャア!」
「うおっ!?」
連絡扉を開けた瞬間、小型のデーマンがレギアスに向かって飛び掛かる。すんでのところで殴り飛ばして、地面に転がったところを狙って剣を突き刺す。剣はデーマンの急所を貫き、魔力の粒子となってデーマンは消え失せた。
その車両ではスプリガンと呼称される小型のデーマンが騎士達に襲い掛かっていた。小人のような形だが醜悪な容姿をしており、人間のように武器を使う。
「怯むな! 前に出て追い払え!」
「おい! 後だ!」
「な――」
騎士の一人の後から忍び寄っていたスプリガンに気が付いたレギアスは叫ぶが、騎士が振り向いた瞬間にスプリガンは飛び掛かって騎士の喉元を噛み千切ってしまう。
叫ぶこともできず、血飛沫を撒き散らしながら倒れる騎士を見て、レギアスは憤慨する。
「来ォい! こっちだクソ野郎!」
大声を上げてスプリガンの気を引き付ける。ワラワラと群がってくるスプリガンを剣で斬り裂いていき、魔力を纏わせた左腕でスプリガンの頭を掴んでは壁に叩き付けて外へと放り投げる。デーマンの蒼い返り血で身体が汚れながらも前へと突き進んでいく。
「や、止めろォ!? 離せぇ!」
まだ生き残っている騎士にスプリガンが群がり、鋭い爪や牙を騎士に突き立てる。
レギアスは剣を回転させながら投擲し、スプリガンの首を刎ねる。スプリガンがレギアスに狙いを変えて襲い掛かるも、レギアスの体術によって瞬く間に潰されて息絶える。
レギアスは瀕死の重傷を負っている騎士へ駆け寄る。
この車両が最初に襲われたのだろうか、爆発で壁が吹き飛んで大穴が開いている。
騎士を助けることを優先し、引き摺って後の車両へと戻る。
「おい! 重傷者だ!」
「何だと!? 衛生!」
重傷の騎士を任せたレギアスは再び前車両へと急ぐ。
この列車は運転車両を含めて七車両あり、まだ前に二車両ある。息絶えている騎士達の中にクレイセリアの姿は無く、いるとすればもう一つ前の車両だろう。
投擲した剣を拾い、連絡扉を開けて突入する。その車両は貨物車両のようで座席は無く、空間も広い。ただ、一つ後の車両と同じように壁に大穴が開いている。
そして、少し大きめのデーマンがそこに鎮座していた。
胴体は蜘蛛で、そこから鎌のような手をした女体を生やしている。
その名もアラクネ、中型のデーマンの中では危険レベルの高いデーマンだ。
この車両に乗っていた騎士達は皆やられたのか、血だらけとなって絶命していた。
アラクネの足下に、クレイセリアも倒れていた。
「て――てめぇぇえッ!」
激情したレギアスは怒りのままにアラクネへと飛び掛かった。剣を振るうがアラクネは鎌を盾にして防ぐ。だがレギアスは力任せに剣を振り抜き、アラクネを後へと蹌踉めかせる。
ガードが上がったアラクネの胴体に蹴りを叩き込み、そのまま蹴った脚に魔力を練り上げてアラクネを蹴り飛ばす。アラクネが後へ吹き飛んだ隙にクレイセリアを抱え、アラクネから距離を取る。
「クレイセリア! 確りしろ!」
「ぅ……うぅ……」
クレイセリアは生きていた。爆発で意識を失っていただけなのか、アラクネにやられたような傷は見当たらない。
クレイセリアの生存に安堵し、レギアスは彼女を後ろに寝かせてアラクネと対峙する。魔力を練り上げ、深紫の魔力がレギアスの身体から漏れ出す。
「テメェには懺悔する時間は与えねぇよ……!」
レギアスは床を蹴りアラクネに肉薄する。
「キシャアアア!」
アラクネはレギアスを鎌で切り裂こうと両腕を素早く振るう。普通なら肉眼で捉えられない速度で振るわれる鎌も、レギアス相手ではただ少し早い程度になってしまう。
レギアスは鎌を紙一重で避け、手始めに胴体の脚を斬り落とす。左側へと身体をスライドしながら三本の脚を斬り落とし、再度振るわれた鎌を跳んでかわす。そしてアラクネの右側に着地し、右側の脚三本を斬り落とす。そして跳び上がりながら右腕を斬り落とし、落下しながら左腕を斬り落とす。
「アァァァアッ!」
アラクネが叫び越えを上げた直後、剣をアラクネの口へと突き立て、一気に脳天を貫く。
だがアラクネは生命力が高いのか、その状態でもまだ生きて動こうとする。
レギアスはアラクネの頭に飛び掛かり、貫いている剣を確りと握って捻り回した。アラクネの首はゴキリッと音を立てて180度動き、そのままレギアスによって首をもぎ取られる。
蒼い血飛沫を撒き散らしながらアラクネは崩れ落ち、レギアスは血で蒼く染まりながらアラクネから降りた。
「おい何があった!?」
他の車両から遅れてやって来た一人騎士が、車両内の惨状を見て驚く。人間の赤い血肉とデーマンの蒼い血肉で彩られた車両に、騎士は吐き気を催したのかその場で胃袋の中身をぶちまけてしまう。
「おい、彼女を連れて下がってろ」
「おえっ……お、お前はどうする気だ?」
魔力を込めたことでボロボロになってしまった剣を捨て、殉職した騎士から剣を借りる。
「運転車両の様子を見てくる。いいか、絶対に彼女を死なせるな」
「お、おい!」
レギアスは破壊された連絡扉を抜けて運転車両へと移る。
運転車両は運転席以外は動力機関で埋まっている。だがその機関部はスプリガンによって損傷を受けていた。奥に見える運転席も、赤い血で染まっていた。
レギアスはスプリガンを一匹残らず駆逐し、運転車両を確保する。その後、ポケットからスマホを取り出し、オルガに連絡を取る。
オルガはすぐに電話に出た。
『レギアス! お前何やってんだ!?』
「オルガ、そっちは大丈夫か?」
『問題はねぇ。リーヴィエルの姐さんが結界を――』
オルガの声は途切れた。電話が切れたのではなく、スマホを取り上げられたのだろう。次に聞こえてきたのはオルガの声ではなく、リーヴィエルの声だった。
『ファルディア殿、そちらの状況は?』
開口一番が単独行動の叱責ではなく状況確認の辺り、リーヴィエルは物事の基準を見極めているようだ。
「運転車両から第三車両まで確保。各班は二名を残して壊滅。運転手もやられた。第一と第二車両には大穴が開いてて閉じなきゃまた入ってくる」
『……分かりました。すぐに騎士を向かわせます』
「もう一つ。機関部をやられて、列車の速度が落ち続けてる。このままじゃ目的の場所に着くまでに列車が止まっちまう」
列車の運転座席を始めて見るレギアスだが、速度の計器がどれかは分かる。その計器に示されている速度はどんどん下がっていた。もしこんな所で停車してしまえば、デーマンの群れに襲われてしまう。
『そうですか。一先ず、貴方は此方へ戻りなさい。勝手な行動の始末は後程決めますので』
「了解」
プツ、と電話が切られた。スマホをポケットにしまい、レギアスは運転座席で息絶えてる運転手を見下ろす。随分と苦しんだのか、苦痛の表情のまま固まっている。
「………………ッ!」
ダンッ!
レギアスは壁を殴り付けた。レギアスは唇を噛み締め、苦悶の唸り声を上げる。
彼らの死は、己の所為だとレギアスは思った。自分が竜剣を欲さなければ、彼らが此処へ来る事は無かった。
此処へ連れてきたのは国王の命令なんかじゃない、自分の浅ましい欲だ。
レギアスはそう思えてならなかった。
「……ごめん」
呟くように謝り、レギアスはベール達がいる車両へと戻っていく。




