8話 出立
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翌朝起きてしばらくすると、扉をノックする音が聞こえた。
アリアかと思い扉を開けると、そこには見たことのない男が立っていた。しかし、王家の紋章が彫られた金属の板がついている服を着ていることから、王族だろうか。
「今日の午後5時に謁見の間に来ていただきたいと陛下が仰せです」
「あっはいわかりました。午後5時ですね」
どうやら国王の使いだったようだが、午後5時に何かあるのだろうか。ともかく、午後5時に謁見の間に向かえばいいという事で納得した。
今日も先日と同じように、座学を受けてからそれを実践に移すという流れで、俺だけは魔術の先生に精霊術の扱い方を一緒に考えてもらったが、それ以外は変わっていない。
他にも特に変わったところはなかったが、剣術や精霊術を学んだ濃い半日が終わり、謁見の間に呼び出された時間になった。数分ほど入り口の前で待機すると、国王に入ってこいと言われた。
「来月、冒険者養成学院の精鋭たちが遠征に行くという話を聞いたことがありますか?」
「ああ、そういえば先生がそんなこと言ってましたね」
「国際交流の一環で、エコノミラ商国の冒険者養成学院に学びに行くのです」
確か先生が、エコノミラ商国へは選抜メンバーで向かい、そのメンバーは明日発表するというような内容のことを今日話していたのを覚えている。
「聞いていますが、それがどうかしたのでしょうか」
「勇者様が選抜メンバーに選ばれたのでご報告しようと考えた次第です」
「……」
それ、絶対に今言ったら駄目な奴だろう。
そもそもメンバーは明日発表するのに今この場で発表して許されるはずが……そういえばこの人、国王だったわ。じゃあ許されるな。
他のメンバーの発表はさすがに他の人に任せるようだが、俺と、ついでにアリアが選抜メンバーに選ばれたことを報告してくれた。とはいえ反応がしづらい……。
あの後、その場は適当に頷いて部屋に帰り、割と長めの睡眠をとった翌日。
学校へいつも通りに登校すると、朝の会の時間に先生からの連絡でメンバーの発表があった。
メンバーは、ラファエルさん、不良みたいな人、アリア、俺、そしていつもの魔術の先生と武術の先生である。そしておそらく先生方は付き添いのようなものである。
「勇さんも私も、2人ともメンバーになれてよかったです!」
「おう、そうだな。俺もよかったと思う」
とはいえ昨日既に国王から発表されていたので、新鮮さも驚きもない。だが学校に4人しかいない代表に選ばれたというのに全く反応しないのもおかしい。だから俺は驚いているふりをした。うまくできたとは言ってない。
不良のような生徒はうれしそうにむずがゆそうに笑い、ラファエルさんは当然だといわんばかりの澄まし顔でいた。
そうして遠征メンバーが発表されたのだが、学校生活はいつもと変わらなかった。当然だ、遠征に行くのは学校の中で4人。この学校の生徒は丁度900人らしいのでそれらが4人のためにわざわざ特別なことをする必要性はない。
とはいえ、俺たち4人には同伴の先生方から特別指導があった。野営についての指導や、調理についての指導、ペース管理の指導など実践的なものが非常に多い。
あの澄まし顔で有名なラファエルさんですら、納得したというようにうなずいている。そりゃあ王族が野営指導など受けている方が珍しいのではないかと思う。
その日は不良のような人もアリアも、勿論俺もラファエルさんと同じような表情で特別指導を受けてから王宮に帰るのだった。
それから1月以上の月日が経過した。
その間はギルダーさんに戦闘訓練を続けてもらい、アリアに王龍剣術の型を教えてもらいながら特別指導も受けることで、明日――11月1日に控える遠征への準備はばっちりになった。ここからエコノミラ商国までの移動に1か月程度、その間はずっと野営だ。
アリアがクラスでも何故か除け者にされている影響で俺ともあまり仲良くないクラスメイトとの別れを済ませると、俺たちはエコノミラ商国に向かって出発した。
その旅は、魔物の領域、それも第5領域という危険域を通る旅だ。ベテラン冒険者ですら、第3領域を未だ攻略できてないというのに、第5領域を通るというのは無茶かと思ったがそういう訳でもなく、通過するだけならばボス以外の敵と戦う必要がないからのようだ。
基本的にボスを倒せば通過できるようになるので、その道中で戦力を消費せずに済むのなら、勝つことも可能とのこと。普通に攻略するのなら後続のために道中の魔物を駆除する義務があるが、今回それがないので楽だということらしい。
旅の道中は、変わり映えしないが気を抜けず疲れるものだった。むしろ、変わり映えしないからこそ疲れるものだったともいえるが。
常に敵襲を警戒し、休む時は6人で交代制。睡眠時間は1人7時間半と、そこそこ保証されてはいたが、質は全く以って確保されていない状態。いつ見張りに叩き起こされるのかわからない中寝るのは苦痛の限りだった。
それから半月ほど。第5領域に入って移動し始めてからはまだ3日程度だが、第5領域は魔物の量より質が重視されているようで避けなければならない区画が少ないので精神的には楽だった。わかりやすく例えるならば魔物の縄張りが狭いといったところか。
その日、俺たちはボスのオーラを感じる洞窟を見つけた。オーラと言っても伝わることはないだろうが、強者の予感がする。俺たちは一度他の魔物の寄り付かない、洞窟の周りで休むことにした。