6話 魔力
しばらくして、呼び出された時刻がやってきた。別のものを渡すのと一緒に話をするらしいので、正装で行けと言われて使用人のような人にタキシード(?)を渡され、着替えさせられて謁見の間に来た。そこではアラナンド金貨とやらが5枚詰まった袋を渡され、ラファエルさんとギルダーさんは下がらされた。
「さて、勇者様。いくらステータスが高いと言えども、戦闘技術がなくてはまともな戦いにはならないと思います」
「そうですね」
「そこでわが国では、新人の冒険者に戦闘技術や生存技術を指導する、『新人冒険者養成学院』というシステムを導入しております」
「つまり、俺にそこへ入れと言いたいわけですね」
察しが早くて助かる、と国王は呟くが、この流れを察することができたのは前世のラノベなどでは結構よくあるテンプレに近い流れだったからである。こちらとしては出会いはアリアで十分だし義務教育も修了してるから学校は行きたくないのだが。
とはいえ、それで死んでしまっては元も子もないので、薦められている――推薦入学が出来る立場である以上、入るという選択肢が無難であり濃厚だ。
「わかりました」
「そうか、受けてくれるか」
何より、学院では魔術の授業もあるらしい。魔術は男の夢なので受けない手はない。という訳で、明日9月3日から始まるらしい。いくら何でも早すぎやしないかと思ったが俺に合わせて予定を変えられるわけがない。仕方がないな。
朝が来た。学校が始まるのは朝8時半からで、王城のすぐ近くに学院があるため、5分しかかからない。よって俺は朝8時まで寝ていていいという事になる。しかし、俺は今日も早起きして昨日の庭で素振りをし始めた。
数千回か終わるころにも、俺の身体は全く疲れていなかった。ベテラン冒険者もそんなものなのだろうか。流石は勇者だと言いたいところだが、戦闘技術は全く上昇していないので流石という意味がない。
流石に何千回もやると結構疲れるのでここらで学院への初登校の準備を始める。持ち物は特になく、国王に用意された制服を着込んで出発する。
「よし、行くか」
「そうですね!」
気づくとアリアが俺を上目遣いで見上げていた。いつの間にいたのだろうか、勇者である俺が気づかないとは――などとつまらない冗談を考えていると、アリアが口を開く。
「同じクラスになれると嬉しいです!」
「俺も顔見知りがいると気が楽だな。単純にアリアと同じクラスがいいってのもあるが」
「顔見知り……むぅ」
アリアが前半の台詞を聞いて不機嫌そうだったが、後半の台詞を聞いて機嫌を直したようなのでとりあえず置いておく。
という訳で、王城の敷地外に出て新人冒険者養成学院へ向かうと、既に8時15分を回っていたからか国王に訊いている新入生の予定人数の約半数、150名程度が揃っていた。そして、門を入って左手側、体育館下のピロティにクラス表が発表されていた。
俺とアリアは3学年あるうちの1年生の、9クラスあるうちの2組の欄に名前があった。つまり俺は今日から冒険者養成学院1年2組という事だ。
で、階段で横を通った教師2名の話によると、彼らが名前を見る限りでは今年の1年は2組が最も優秀らしい。特に、勇者である俺、神国四戦騎のラファエルさん、ラファエルさんに追いつかんとする剣のの実力を見せるアリア、そして不良みたいな見た目の人らしいが、彼は片方が姿を見たことがあり、かなりの手練れだったらしい。やっぱり歩き方で手練れかどうかわかったりするのだろうか。
閑話休題、俺とアリアが1年2組の教室に向かうと、教師たちに注目されていたラファエルさんと不良みたいな人は既に来ていた。
不良が時間前行動をするというのは正直違和感を感じざるを得ないが、不良というのは見た目だけの話である。先入観を持ちすぎるのはよくない。まあ、だからなんだという話にはなるが。
そうして俺が教室の後ろにあるロッカーに国王からもらったばかりの鞄をしまい、黒板に貼られている席の紙で指定された場所に座る。
日本でもお馴染みの新学期の流れである。アリアも全く同じことをし終わると、俺だけラファエルさんに話しかけられた。
「勇者殿。この学院ではかなり有用な情報から技術まで、様々なことが学べます。一生懸命励むのがよいと思います」
「わかりました。あと自分のことは勇と呼んでください」
「わかった」
それだけ話してラファエルさんは自分の席に帰っていった。やはりこの学院、国立だけあっていいところのようだ。
授業が始まった。日本では最初の数日は授業が全くないことがあったが、この学院ではそんなことはないようだ。
1時間目は担当教師がこのクラスの担任である、魔術の授業のようだ。
「今日はまず魔術適性を調べることから始めるので、少し説明をします」
先生の説明を要約すると、なんか特別な紙があってそこに自分の血を一滴くらいたらせば紙に色がつく。赤が炎、青が水、緑が風、茶色が土、黄色が光、紫が闇で、複数の色が出てくることもあるという。
うん、どこのラノベだとツッコミたくなるような設定だ。面白いのでツッコむことはないしこの世界の人々はこれを利用して一生懸命生きているだろうから何を言わないが。
ともかく、配られた小さい針で左手小指の先を刺し、出た血液を紙に垂らすと、紙は――