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魔女旅シリーズ

魔女は、空飛ぶ島に降りたちます

作者: 夕日色の鳥

魔女旅シリーズ4作目です。

また、外伝となる「世界の終わりに咲いた花の名を探す」と繋がりがあります。

本作だけでも読めますが、そちらを先に読んでからこちらをお読みいただくと、より楽しめると思われます。

挿絵(By みてみん)


 魔女は1人で旅をします。


 深い深い森の中。


 険しい険しい山脈の峰。


 賑やかな港街。


 寒さに打ち震える雪国。


 夕陽が沈む荒野。


 厳しい暑さに涙も蒸発する砂漠。


 どんなに大変でも、魔女は旅を続けます。


 魔女の魔法を待つ人がいる限り。



 そして、時には雲の中の、不思議な島にも……。









「ずいぶん高い所まで飛んできてしまったわ」


 魔女エレナは箒にまたがって、晴れ上がった空を飛んでいました。

 空の爽やかな風に誘われて、緑色のとんがり帽子と、腰まである長い真っ白な髪が優雅に舞っています。

 どんなに風が強くても帽子が落ちないのは魔女の不思議。


「あら?」


 エレナがのんびりと空を泳いでいると、目の前に大きな雲が現れました。


「さっきまでこんな大きな雲なかった気がするけれど」


 エレナは首をかしげましたが、もう少し高度を下げて雲を回避しようとしました。

 あまり低く飛ぶことは出来ないけど、今は高高度を飛んでいるから大丈夫なのでしょう。


「え?

きゃっ!」


 しかし、箒のコントロールがうまくいかず、エレナは目の前の大きな雲に引っ張られていきました。


「な、なんで!?」


 エレナは驚きましたが、箒はまるで雲に誘われるように、雲の中に吸い込まれていきます。


「……あそこに行きたいの?」


 エレナは箒に話し掛けますが、箒はそれに答えてはくれません。

 しかし、まるで返事を返すかのように、箒はまっすぐと雲に向かって飛び続けたのです。


「……分かったわ。

いってみましょう」


 エレナが覚悟を決めて雲に向かうと、箒はそのコントロールをエレナに返してくれました。


 いったい、この雲の先には、何が待ち構えているのでしょう。








「すごい雲。

全然周りが見えないわ」


 エレナは雲の中に入りましたが、中は濃い霧が立ち込めているような状態で、自分の周りは1メートルぐらいまでしか見ることが出来ませんでした。


「え?

あれ?」


 エレナは突然、自分の足が地面についたことに驚きました。

  

「え?

いつの間に、地面まで降りてきてしまったのかしら」


 エレナは首をかしげながら箒を降りて、周りを見回します。

 ですが、やはり周りは濃い霧に覆われていて、足元の地面しか見えません。

 その地面には、緑の短い草が生えていました。

 どうやら、草原のような場所のようです。


「たしか、こっちから来たのよね」


 エレナは振り返って、霧の中に目を凝らしますが、やはり何も見えませんでした。


「とりあえず戻ってみようかしら」


 そう呟いて、エレナが一歩踏み出そうとすると、


「そっちは危ないよ」


「え?」


 後ろから声がして、エレナは驚いて振り返りました。


「人が来るのは久しぶりだ」


「だ、誰?」


 姿は見えませんが、大きな人が少し前の方にいるのは分かりました。


「あ、そっか。

人はこの霧じゃあ見えないんだったね。

ちょっと待ってね」


 大きな人はそう言うと、手をゆっくりと動かしました。

 なぜだか、その人が手を動かすと、ギギギギギと、鉄が軋むような音が聞こえました。


「あ、霧が……」


 少しすると、視界をふさいでいた霧がだんだん晴れていって、周りの景色が見えるようになってきました。


「そろそろ見えるかな?

後ろを見てみてよ」


 大きな人の言葉に誘われて、エレナは後ろを振り返ります。


「え?

ひゃっ!」


 エレナの数歩先に、地面はありませんでした。

 エレナは驚いて後ろに飛び退き、尻餅をついてしまいます。

 おそるおそる地面の先を覗き込むと、その下には空が広がっていて、そのずっと下に、広い広い地面があるのが見えました。


「こ、ここ。

浮いてる、の?」


 エレナは信じられないといった表情をしていました。


「そうだよ。

この島は空に浮かんでるんだ」


 エレナは自分の頭の上から声が聞こえ、首だけを上に向けました。


「きゃあっ!」


 そこには、赤錆色の鉄で出来た機械がこちらを覗き込んでいました。










「ご、ごめんなさい。

驚いてしまって」


 その後、機械のヒトに家に招かれたエレナは、勧められた椅子に腰掛け、改めて頭を下げた。


「ううん、下では僕みたいなものはいないんでしょ?

それなら仕方ないよ」


 機械のヒトは気にした様子もなく、エレナに紅茶を淹れています。

 大きな体に対して天井が低くて、なんだかやりにくそうでした。


「あなたみたいな人は見たことがないです。

どういう人なんですか?」


 関節を曲げる度に、ギギギギギと音をたてる彼を、エレナは改めて眺めます。

 大きさは3メートルいかないぐらいでしょうか?

 関節の部分には丸い球があります。

 顔は小さく、口や鼻がありません。

 目はなんだか無機質で、左右の大きさが違います。

 体はずいぶん固そうなのに、器用に紅茶を淹れている姿は優雅な感じさえするなと、エレナは思いました。


「僕は人ではないよ。

人が作った機械で、名前はテネリタース。

博士がつけてくれたんだ。

博士は長いからテネリって呼んでた」


「テネリ、さん。

人が作ったのに、人みたいに話せるんですね」


 エレナは感心した様子で、テネリが淹れてくれた紅茶に口をつけます。


「あ、おいしい!」


「良かった。

紅茶の淹れ方はウィンに教わったんだ。

ウィンは博士に教えてもらったって言ってた」


「ウィン?」


「前にここにいた女の人のことだよ。

最初は小さな女の子だったんだ。

その名前も博士がつけたんだよ」


「……そう、なんですか」


 過去に思いを馳せるようなテネリに、エレナはなんて返せばいいか分かりませんでした。









 エレナは家の中で、テネリからいろいろな話を聞いたあと、庭にあったお墓の前に来ていました。

 それは、盛り上がった土に、十字にした木の棒を刺しだけの簡単なものでした。


「ウィンクルム……」


 エレナはそこに書かれていた名前を読み上げます。


「病気でね。

大人にはなったんだけど、僕は、壊すことしか出来ないから、ウィンを治せなかったんだ」


「……そう、ですか」


 表情は分からないけど、エレナはテネリが懐かしがりながら悲しんでいると思いました。


「テネリタース(優しさ)と、ウィンクルム(絆)。

きっと、お二人に名前をつけてくださった博士は、とっても優しくて、お二人を、愛していたんですね」


「僕は機械だから、人の感情には詳しくないけど、もしもそうだったら、僕は嬉しいと思う、んだと思う」


「うん!

きっとそうだよ!」


 エレナはテネリの方を振り向いて、にっこりと笑いました。








「ウィンさんがいなくなってからは、ずっと1人でいたんですか?」


「そうだね。

僕は僕が動かなくなるその時まで、ここで1人でいるんだ。

ウィンは、そんな僕に付き合ってくれたんだ。


『最後までいてあげられなくてごめんね』


って、ウィンは最期に言ってたよ」


「そうなんですね……え?

動かなくなるん、ですか?」


 エレナは驚いてテネリの方を向きます。


「そう。

この島はそのために空を飛んでるんだ。

僕は大気からエネルギーを得ることで半永久的に動けるんだけど、この島を飛ばすのに必要なエネルギーは、僕が動くのに必要な分も少し使わないと足りないんだ。

だから、僕は僕を動かなくするために、この島を飛ばし続けてるんだ」


「そんな……」


「僕が下にいると、いつか僕を見つけた人が僕を真似して違う僕を作るかもしれない。

それを防ぐためにも、僕は空に消えることにしたんだ」


「でも……」


 エレナはそんな悲しいことのために、と言おうとしましたが、テネリの決意は固いのだと感じて、黙ってしまいました。


「僕は昔、いろんな人やものを壊してきた。

でも、もうそんなことはしたくないなと思ったんだ。

だから、僕は飛んだんだ」


「……心残りは、ないんですか?」


 エレナはせめてとばかりに、懇願するように尋ねました。


「うーん。

しいて言うなら、博士があれからどうなったのか知りたいのと、もう一度、この花が咲いた所を見たかったかな」


「花?」


 エレナが、テネリが指差す場所を見ると、石で囲われた部分の土が耕されているのが分かりました。


「……あ」


 ですが、その土はもう死んでいました。

 土に宿る力がほとんどなくなっていたのです。


「……この土、少しおかしいわ」


 エレナは花壇に近付くと、土に手を触れます。


「あ、やっぱり分かるの?

そこは、君の前にここに来た魔女さんに魔法をかけてもらったんだ」


「えっ!?」


 テネリの言葉に、エレナは驚いて振り向きます。


「ど、どんな?」


 エレナは信じられないといった顔を見せました。


「その花壇に、もう一度花を咲かせてほしいって頼んだんだ。

そうしたら、魔法をかけてくれて、それから毎日お水をあげてるんだけど、やっぱりダメだったみたいだね」


「その魔女は、なんて呪文を唱えてたか覚えてる?」


「えっとね、


白檀(びゃくだん)の根折れ

深淵の欠片

クチナシの咆哮

落涙の連鎖


哀れな憐れな土くれはゆるりと眠る

優しさを終わりに導け】


だったね」


 テネリは過去ログを集積回路で再生して復唱しました。

 エレナはその言葉を聞いて、もう一度花壇を見つめます。


「……これ、土の活性化の魔法じゃない」


「え?」


 エレナは唾をごくっと飲み込みました。


「これ……これは、土の力を失わせる魔法。

お水を与えると、そこから空気中に力が抜けるようになってる」


「なんで?

僕は魔法のことは分からない。

あの魔女さんは、土に元気をあげる魔法って言ってた」


「分からない。

なんで。

誰が、こんなひどいこと……」


 花壇にもう一度花を咲かせようとお世話をすればするほど、土が死んでいくような魔法。

 そこには、悪意しかありませんでした。


「……ひどい」


 エレナの頬からこぼれた雫が、朽ちゆく運命の土に落ちます。

 そして、それは地面を伝わり、発芽することの出来なかった種に触れ、さらに奥にまで染みていきます。


「!」


「どうしたの?」


 突然、顔を上げたエレナに、テネリが尋ねます。


「まだ、生きてる」


「え」


「これなら、いける!」


 エレナは急いで懐から手鏡を取り出しました。

 その手鏡を覗くと、花壇が映し出されます。



【ひなげしの葉

鏡花の蔓

深緑の針子

糸張りの夢


哀れな罪なき大地に

いま一度命の息吹を

その優しさに応えたまえ】



 エレナが魔法の言葉を紡ぐと、手鏡の中の花壇がキラキラと輝きました。

 そして、その光は余すことなく花壇の土に、満遍なく降り注ぎました。


「テネリさん!

もう一度、花壇にお水を!」


「あ、うん」


 エレナに言われて、テネリは大きな如雨露に入った水を花壇に注ぎました。

 すると、花壇から小さな小さな芽が、ちょこんと顔を出しました。


「……やった!

やった!」


「生えた?

急に?

どんな現象なんだろう?」


「やったー!!」


「おっと」


 体ごと首をかしげるテネリにエレナが飛び付き、テネリは慌ててそれを受け止めました。


「もう大丈夫!

これからはまた、いっぱいお世話してあげてね。

そうすれば、必ずまた綺麗な花が咲くから!」


「うん、わかった」


 エレナのキラキラした笑顔に、テネリも心なしか嬉しそうでした。










「もう行くのかい?」


「うん、そうだね」


 水や食糧を分けてもらったエレナは再び旅立つ準備を始めました。

 魔女は必ずしも食事をとる必要はありませんが、食事をとることで、わずかながら、魔女の生きる糧である人々からの感謝の念を補うことが出来ました。

 魔法を覚えるまでの魔女の子は、食事によってそれを補完しているのです。


「……テネリ?」


 テネリがある方向を指差しているのに気が付いたエレナは首をかしげます。


「君の前に来た魔女さんは、あっちに飛んでいったよ。

なんでも、魔女のための国を作るんだって。

とても楽しそうな顔をしていたよ」


「……そう」


 せっかく手に入った魔女の情報でしたが、エレナはその魔女には会いたくありませんでした。

 そのため、その魔女とは違う方向に向かおうと考えました。


「あ!」


「ん?」


 そして、いざ飛び立とうという時になって、エレナが何かを思い出したような顔をしました。


「博士。

平和。

テネリタース。

ウィンクルム。

思い出した!」


 エレナはくるっとテネリに振り返ります。


「私の、魔女のお師匠様に聞いたことがあるの。

昔、すごい発明家の博士がいて、その発明を悪いことに使おうとした街の領主たちを説得して、最後には領主にまでなったお話」


「え?」


「で、領主になった博士はすごい発明品をいくつも作って、街を国にしたの!

で、恒久的平和提唱国を掲げて、永世中立国として、発明品を自然とともに生きていく平和のために使う、すごい国にしたんだって!

それで、その信条は今でも国の人々に受け継がれてるの」


 エレナはそこまで言うと、すぅと息を吸い込みました。


「その国の名前が、


『ウィンタース』!


優しい絆って意味よ!」


 エレナの言葉を聞いて、テネリはしばらくそのまま動きませんでした。


 そして、


「ははっ。

あはははははっ!」


 テネリは笑いました。


「すごい!

博士はやっぱりすごいんだ!」


「きゃっ!」


 エレナの手をとって、テネリは笑いました。

 笑う、なんて機能は備わっていないのに。

 2人でぴょんぴょん跳ねながら、2人は楽しそうに笑いました。


「ありがとう!

ありがとうエレナ!

僕は、嬉しい!」


 その時、テネリの体がぼんやりと輝きました。


「あっ」


 そして、慌ててエレナが取り出した手鏡にテネリの姿が映ると、テネリから出た光は手鏡を通じてエレナへと入っていきました。

 機械で出来たテネリから、人々からの感謝の念である光が生まれたのです。


「こちらこそありがとう。

テネリ!」


 エレナはテネリに、輝くような笑顔を返しました。









 かつて、世界を滅ぼした悲しき機械兵は、自らが止まるその時まで、島とともに空を旅行(たびゆ)きます。

 ですが、彼にはもう、悲しそうな様子はありませんでした。

 彼は彼が動かなくなるその時まで、花壇のお世話をします。

 そこにはきっともうすぐ、輝く笑顔のような、満開の花々が咲き誇ることでしょう。








 魔女は1人で旅をします。


 寂しい時もあるけれど、


 不安なこともあるけれど、


 それでも魔女は笑顔で旅をします。


 とっても素敵な笑顔に、笑顔にしてもらったから。



 魔女は今日も、輝くような笑顔で旅をします。




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどこう繋がるのですね。 テネリが歩んだ長い時の中で、博士やウィンと過した日々はかけがえのないものなんでしょうね。 [気になる点] いじわるな魔女、何者? [一言] 博士は国を興した後…
[良い点] 永遠に生き続けるというのは悲しみをたくさん背負うことと同義。 ですが楽しさを積み重ねていくこともまた同じ。 どちらに比重を置くかで人生が変わるのでしょう。 テネリの今は博士とウィンの愛情で…
[一言] 恐ろしい機械の兵士は優しい心を持っていたんですね。 感情がちゃんとあるんだなと読んでいて思いました。 空飛ぶ島と聞いてラピュタを連想したのはたらこだけじゃないはず(´ω`)
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