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箱庭の小人たち  作者: アッキー
第3章 退廃の箱庭
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18話 ロボット

 漆黒の盤面に輝く光。

 星かと、リリは思ったが、直ぐにその考えを否定した。

 夜空を天上にした際の冷ややかな大気を感じない上、感覚が夜ではないと訴えかけていたからである。


 朝ではない、昼。

 太陽が見えないにも関わらす、この感覚はどこからやって来るのだろうか。

 リリは頭を抱えつつ。座席に任せていた体を起こした。


「随分と寝てたじゃないか」


 隣から声が聞こえた。

 リリは声の方向に顔を向けず、目をこすりながら口を開いた。


「もう、太陽昇ってる?」

「昇ってるよ、とっくに。朝とはもう言えないな」

「そう、本当に寝すぎちゃったのね」


 欠伸を噛み殺しつつ、リリは立ち上がる。

 辺りは、寝る前と変わらず照明がつかれたままであった。


「上映してないのに、灯りが点いているのね」

「俺たちが、照明を手動でONにしたままだったからな。OFFにしなければ、消えることはないさ」


 パルパの回答は、リリの満足するものではなかった。

 胸の引っ掛かりを覚えつつ、彼女は辺りを見渡す。そして、スクリーンの前で止まった。


「彼……居たのね」


 乳白色なスクリーンの前に立つ、足のない楕円体のボディをしたロボット。昨日の映画案内をしていたロボットと同じであると見てすぐに分かった。


「このシアター内が彼の管理区域なのだろう。だからこそ、ここだけ他とは違い清掃されているし、システムも維持されている」

「て、事はこのシアターの外には行けないってこと?」

「おそらくはね。だから彼には外の世界が今どんな有様か分からない」

「……そして、彼は一人、人間を待ち続ける」


 リリの言葉に、パルパは口が小さくなっている彼女の横顔をレンズに収めた。


「言ったろ、そんな回路は彼には持ち合わせてないよ」

「でも、やっぱり悲しいよ」


 拳を軽く握ると、リリは歩きだす。

 無数に存在する人のいない座席を抜け、彼……ロボットの前に立った。


「貴方……私たちと一緒に来ない?」


 リリはロボットに対し、手を差し出す。

 ロボットは一対の対面者の顔が映り込む程の大きなレンズを用いて、出された手をじっくりと見つめ考えていた。と少なくともリリにはそう思えた。

 ロボットのアーム上の手が上がる。そして、彼女の手へとゆっくりと……近づいた。


「……お手洗いは、シアターを出て左の突き当りにあります!」

「……」


 ロボットはリリの手を握りることなく、上まで上がると、お手洗いの位置を指さす。

 それっきりロボットは質問を待つかのように固まった。


「言ったろ、そんな回路は持ち合わせてないって。彼はごく簡単な質問しか答えないし、定型文しか答えられない」


 気がつけばパルパは座席から一転、足元の近くやって来ていた。

 そして、彼はそのままリリの足に捕まり体に登ると、肩の上に陣取った。


「……そうみたいね」


 リリの、炎のように熱い紅色の瞳や雪のように真っ白な肌は、今や曇り空のようにどんよりとしたものになっていた。


「……みんなが皆、高度な知能を持っているわけではないさ」


 彼の声はいつもよりも明るかった。きっと彼なりの励ましなのだろう。

 リリは顔色が悪いまま、口端を上げた。


「うん、パルパみたいな自律思考は珍しかったよ」


 誤魔化すように、リリは笑うと、肩にいるパルパに手を置く。

 彼の体は想像していたよりも暖かくそれが……心地良くもあった。


 黙ったままリリの手を受け入れるパルパ。

 彼のレンズが、お手洗いの場所を指示したまま固まっているロボットに長らく向けられているのを、この時のリリは気づかなかった。

 

***


「で、これからどうするんだリリ」


 シアターを出て、物が散乱した通路を歩いた時、肩にいたパルパがいつも通りの調子で話しかけてくる。

 リリは物に足を取られないよう気をつけながら顔を向けず口を開いた。


「取り敢えず、情報収集かな。人が居なくなったと言っても、チラシや掲示板等で足跡は残っているかもしれないし」

「こういった場合は、物理的な情報が強いもんな」

「そうだね、だからこうして探ると……」


 リリは足元に転がっているカゴを退かす。

 気兼ねなくやったつもりだった。だからこそ、退かしたカゴの下から出たチラシが出てきた事は彼女に取っても想定外であった。


「ビンゴ、分かってやったの」

「いや、私もそんなつもりじゃなかったのだけど」


 出てきたチラシを手に取る。

 土埃で薄汚れているが、イラスト入りのそれは一目見ても普通の呼び込みのものとは毛色が違うのが分かった。


「パルパこれ……」


 リリは肩にいるパルパに見えるように、チラシを持ち替えた。


「……おそらく避難シェルターの案内だな」


 パルパの考えはリリと全く同じであった。

 チラシには、ドーム型の建物が書かれており、裏側にはそのドームに至るまでの道のりが書かれていた。


「……そこには行くのか?」

「そうだね、避難場所ならトビラがあるかもしれない」

「確かにな、その可能性は高い」


 行き先は決まった。

 リリはチラシを手に、映画館を出る。

 外は、昨日とは打って変わり、真っ青な空が広がっていた。

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