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箱庭の小人たち  作者: アッキー
第3章 退廃の箱庭
18/19

17話 あの頃の話

今回の話は、過去話となります。


 前に、青白い発光体がある。

 大きさとしては人一人分程だろうか。地面に這うケーブルやらパイプが、発光体を産み出す装置に繋げられている。

 私の近くには、拳より少し小さな黒色の体をした虫みたいな物体がいて、発光体を興味深げに見つめていた。


『ここで合ってるの?』

『合っている筈さ。このゲートを通って、この世界の一部の人達は別の世界に退避したんだ』


 床にいた生物? が発光体の方に向かって歩きだしていく。近づくに連れ()()の詳細が明らかになっていく。


 ボディは滑らかな楕円体をしており、凹凸や筋といったものは見受けられない。甲虫のように頭、胴、尻と分けられておらず、胴体の一つだけだ。

 目の機能は進行方向に取り付けられている、一つ目のレンズで賄っているように思えた。

 そんな胴体を支える足は、力を加えれば折れてしまいそうなほど華奢な4本の足だけである。


 暫しそれを見つめていると、気づかれたのか、それがこちらに振り向いてきた。


『何を見ている』

『いや、貴方って本当にロボットなんだなって思って』

『今頃? 会った時に説明したと思うけど』

『いやしたけどね。けど、こう言う時だからこそなおさら思うのよ』


 私は、足を踏み出す。

 一歩一歩、地面を這うケーブルに引っかかる事がないよう慎重に、でもかと言って慎重しすぎない範囲に進むと、()の横そして発光体の前に立った。


『……一緒に行かない?』

『一緒に……て、別の世界にか』

『だって、貴方のご主人はこのゲート……トビラをくぐってこの世界から脱したんでしょう。だったら、このトビラを潜れば、また会えるかもしれないじゃない』


 私の言葉に、彼の体は動かない。ただ、レンズの動きを見る限り、興味を示しているのは分かった。


『言ったろ、このゲートを作った連中も制御するまではいかなかった。このゲートを潜った先がどこに繋がっているのか、それは時間によってランダムに変動し続ける。もう、ご主人様が移動した先と、今の移動先は異なるよ』

『でも、世界を移動しつづけたら、ご主人が流れついた世界にたどり着けるかもしれない』

『君みたいに?』


 彼の言葉に、私はスボンの裾を握ると、黙って首肯した。


『正気とは言い難いな。レポートを読んだところこの世界の科学者らは、既に100個ほど他の世界の観測に成功していたらしい。もっとも、観測と予測は違う。予測上では100万個ほどの世界があると言われていた。そんな世界を逐一まわって、元の世界に当たるまで繰り返そうなんて無謀にも程がある』

『でも、やらないと0%だよ』

『やっても、100%とは限らないさ』

『……それでも、私は帰りたい。私の世界に、会いたい人がいるから。貴方は違うの? 貴方はご主人に会いたくないの』

『……』


 彼は悩んでいる……ように私には思えた。ロボットと言えど、その思考回路といい話し方といい、人間と遜色ないように思える。


『……この世界は、戦争で滅んだ。人のいない……そんな世界で、俺は誰にも指図を受けず一人で80年過ごしてきた。人間に仕えるよう促していた生来的プログラムはとっくに壊れてしまったよ』


 諦観めいたため息を吐きつつ、彼は四足のうち器用に前の二本を上げた。

 肩を竦めているのだと、分かるのに時間がかかった。


『……じゃあ貴方は___』

『ん、何だ。もう少し大きな声で頼む』

『貴方は今、()()()()()()()で動いているの』


 私の言葉に、彼は動きを止める。

 風向きが変わったように思えた。


『……それは作った人間も、それこそ神しか知らないさ。もっとも神が居たらの話だけど』

『……じゃあ貴方自身も知らないのね』

『知らないさ。俺が今、何のプログラムで……何を目的にして生きているかなんて』

『ならさ、それを見つけにいこうよ』


 私はしゃがむと、彼に向かい手をのばした。

 彼は体を動かし、私にレンズがついている前面を向けると、伸ばしていた手をマジマジと見た。


『分からないなら、探しに行けばいいじゃない。これから色んな世界を見に行って、自分の生きる意味を探しに行こうよ』


 私は、顔を綻ばせる。意識しての行動じゃなくて、本心からだった。


『……それって、故郷の世界にすぐには帰れない事を前提しているけどいいのか』

『あっそうだった』


 口元に手を当て、私は声を上げてしまう。

 そんな私の反応に、彼は声を上げた。

 それは、意味もない、単語にもなっていない言葉である。

 だが、私は知っている。

 彼の上げていた声、それは人間で言う所の笑い声であった。


『いいね、少なくともこの世界に居続けるよりは、君と一緒に行ったほうが面白そうだ』


 笑い声を抑えた彼は、目の代わりとなるであろうレンズを上に上げる。

 レンズには、紅色の瞳を見開いている私の顔が薄っすらと映っていた。


『なら、一緒に行ってくれるの』 

『行くよ、俗に言う自分探しの旅に。そして、もしご主人さまを見つけたら、勝手に消えていなくなった事への不満を()()()に言うとしよう』

『ついでなんだ』

『ついでさ』


 彼は、私の伸ばした手に乗る。

 そして、そのまま無遠慮に彼は、手から腕へと上り、やがて私の肩へと登った。


『さぁ行こうか。リリ&パルパの二人旅を』

『調子が良いんだから』

『良いじゃないか、せっかくの旅の門出だ。明るく行かなくちゃ』


 私は立ち上がると、発光体の前に立つ。眩い光、その先は見えそうにない。

 でも、不安は微塵も湧いて来なかった。

 

『それもそうだね。じゃあ行こうかパルパ』

『うん、リリ。行こう、こことは違う、新たな世界へ』


 彼、パルパの言葉に私は、発光体に向け足を踏み出した。

次は現在に話が戻ります。

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