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4/10

4 ひとやすみ

「――ここまでこれば安心でしょう」


 下界に鋭い視線を送りながら彼女は言った。


「漫画か小説でしか聞いた事がないセリフを生で聞けるなんて……」


 俺は怖くて足がガクガク。折角のロングヘアもボサボサ。

 一方、窮地を助けてくれたメイドさんは、冷たい風に乱れないよう髪を抑える姿も様になっていた。頼もしすぎる台詞といい、元男でも見惚れるかっこよさだった。


「ところで、あの、メイドさん……?」

「はい」

「なんで俺たちは東京タワーのてっぺんにいるんでしょう……」


 地上(東京で)三百三十三メートル(最も有名で安全な場所)

 風が吹き荒れる先端に俺達はいた。


「ここなら追っ手も来れないので落ち着いて話ができると判断しました」

「こんな所まで来れるのはスパイ●ーマンぐらいでは!?」


 ビル街を自慢の糸で移動してるシーンが有名だけど、どちらかというと俺は某タワーの頂上にいるイメージの方が強い。詳しくは『ス●イダーマン タワー』で検索しよう。


「むしろ怖すぎて落ち着けませんっっ!!」という俺の必死の説得もあって、メイドさんは即座に場所を移した。

 場所は打って変わって、近所の小学校の屋上。


「なるほど。木を隠すなら森の中、幼女を隠すなら小学校の中と」

「それにここなら髪が乱れることもありませんわ」


 言いながらササっと俺の髪に櫛を通す。

 漫画なら一コマくらいで済んでしまいそうな超スピードで整えてるにもかかわらず、される側は快適そのもの。流石メイドさんだ……。


「改めまして、私はメイドの兎轍萌那久(とてつもなく)みだらです」

「あ、どうもご丁寧に」


 めちゃくちゃ真面目で清楚な感じなのに、名前は不思議と……なんというかその、大人の雰囲気を感じさせる人なんだなぁ……。

 兎轍萌那久とてつもなくは『みだら』でいいと言うので、俺はみだらさんと呼ぶことにした。


「俺は牝越智めすおち梓乃しないです」

「はい、存じております」


 そういえば、さっき黒服から守ってくれた時にさらっと呼ばれた気がする。


「なんでみだらさんは俺の名前を?」


 謎が多いメイドさんでも設定ミスじゃなければ何か理由の一つや二つあるはずだ。


「それはお教えできません」

「やっぱり設定ミスでは?」

「申し訳ありません。……ただ私が梓乃様にお教えできるのは――あの黒いスーツの者は過激派の一派だという事です」

「過激派……?」


 みだらさんの話を要約すると――

 とある謎の組織が秘密裏にある特別な薬品を開発していた。その輸送中、俺の住んでいたアパートに衝突する事故が起きた。

 結果として俺は作中で最も可愛い女の子になってしまったんだけど、どうやらその薬品や事故、被害者の俺という存在を隠し通したいらしい。


「ひぇ……」


 そして組織はこの事件で二つの派閥に分かれてしまった。

 一つは俺の存在を消すことで無かったことにしたい過激派。めっちゃ怖い人たちじゃん……。

 もう一つは俺を消さずにちゃんと問題を解決したい穏健派。めっちゃくちゃいい人!

 みだらさんは穏健派に雇われているメイドさんらしい。


「じゃあ、みだらさんを雇っている人って?」

「守秘義務がございますのでまだ(・・)お伝えできませんが……私は何があっても貴女を守りとおします。例え、この命に代えても」


 おお……メイド(さんかっけー)


「あ、みだらさん――おでこに傷が……」


 一瞬、風で揺れ動いた前髪の後ろに擦り傷のような傷が見える。


「お見苦しいものを見せてすみません」

「ちょっと待ってください。確かここに絆創膏があったはず……」

「いえ、お気になさらず。ただのかすり傷ですので――」

「いやいや。そんな事いわずに」

「いえいえ。私の不注意が原因ですので」


 みだらさんに何度もやんわり拒否されるが、しつこく粘った結果、ようやく貼らせて貰うことになった。

 小学生サイズの俺が手当するにはしゃがんで貰わないといけなくて。


「うぅっ」

「梓乃様?」

「あっ、いや、ぱぱっと貼っちゃいますね!」


 うぅ……やっぱり綺麗だ。それにやってみて気づいたけど、自分より大きなメイドさんが子供の自分にかしずいているのは、そこはかとなく背徳感が……。


「――これでよし。ふぅ」

「申し訳ございません、梓乃様。お手を煩わせてしまって…………」

「いえ、そんな! そもそも、もし俺一人だったら今頃どうなっていたか……。本当にすみません、俺のせいで怪我までさせちゃって……」


 本当に危ない所を守って貰ったんだから、これくらいはしてあげたかった。もちろん、これでチャラになるなんてまったく思わないけど。


「いえ。その、言いづらいのですが。実は額のこれは別件でして」

「そうなんですか?」

「実は今朝、頭を少しぶつけてしまいまして」

「……ぷっ」


 忍者みたいに黒服達をばったばったと倒したと思えば、東京タワーの頂上まで連れていかれたり。


「何ですか、それ。あんなにすごいのに、意外とおっちょこちょいなんですね」

「ふふっ。そうかもしれませんね」


 凛々しいみだらさんもかっこいいけど、可愛く微笑むみだらさんもいいなあ……。

 それはそれとして、


「……これからどうしましょう」

「過激派の追っ手もまだ諦めていないでしょう。長時間出歩くのは危険です」


 かといって、さすがにずっとここにいても誰かしらに見つかってしまいそうだ。

 メイドさんはめちゃくちゃ怪しいし、子供の俺もスーツを着てるのも違和感がある。


「先生とかに見つかったら誤魔化せないよなぁ……」

「その時は消します」

「消すっ!?」

「こう――シュバッと」

「冗談に聞こえないんですけど!?」

「梓乃様の安全を考えれば目撃者は少ない方がいいと思います」

「いや追っ手でもないのに力で解決したりするのはちょっと! いや追っ手でも物理的に消すのはまずいですけどっ……!」


 駄目だ、不安すぎる……もしかしてみだらさんって意外と脳筋キャラ……?

 何か代わりの案は――


「うーん……アパートは絶対見張られてるでしょうし……例えばなんですけど、どこかこの近くに隠れ家みたいな場所ありませんか?」

「でしたら――」

もう一話あげてみます

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