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3 物量VSメイドさん

 俺はありふれた三十三歳のサラリーマン、牝越智めすおち梓乃しない

 だけどある時アパートが炎上。黒ずくめの怪しげな女の人達に狙われてしまう。

 しかもなんだかよく分からないけど、いつのまにか……小五ロリになってるし!

 たった一つの真実探す、見た目はロリっ娘、相方はメイド。


「その名は――」

「私はただの、通りすがりのメイドです」

「いや名前を聞いたんだけど……」


 黒いドレス。

 真っ白なエプロン。

 フリフリの可愛いフリル。

 分身の術をしても息一つ乱さない凛とした横顔。

 ヘッドドレスから爪先まで従者の手本といっても過言じゃない佇まいは、確かに誰がどう見てもメイドさんだった。


 でもどうしてメイドさんが俺を助けに……?

 お嬢様っぽい顔立ちのロリになっている今ならメイドさんの十人や二十人いてもいいかもしれないけど、元々の俺の年収じゃメイドさん一人も雇えないはずだ。

 

 というかシリアスなキメ顔をとっていたのに涼しい顔で流されてしまった。

 しかしこのメイドさん、いったい何者なんだ……せめて名前だけでも――


「っ……!」


 はっと天啓を受信した俺は、びくびくと頼りなさげに震えながらも黒服に右手で合図した。

 オラつく黒服に促されてから申し訳なさそうにいう。


「あの……すいません、TAKE2テイク・ツーいいでしょうか……?」

「いい訳ないだろ!!!! 追い詰められてるのに余裕綽々なツラしやがってェ!!!!」


 ――突如、甲高い音色。

 しびれを切らした黒服が笛を鳴らしたのだ。


「いたぞっ!!!」

「目標はこっちだ!!!!」


 新たな黒服が外から路地裏に続々となだれ込んでくる。


「新手です」


 メイドさんによる冷静な解説。

 慌てて振り替えるが、


「おっと、こっちは通さないよ!!」


 後ろにもすでに新しい黒服が数人待ち構えていた。


「うっ……こっちにも!」


 逃げ道を遮られて立ち止まる俺達。

 膠着は僅かな時間だったが黒服は狭い路地裏にどんどん密度を増していった。


「今度こそ終わりか……」


 俺は震える拳を握った。

 どこかから、捕まえろと号令が聞こえる。

 黒服がぞろぞろと動き出していき、


「ご安心ください」

「え?」


 狼狽える俺に、メイドさんは淡々と言う。


「その子供をこちらに渡しなさいッ!」


 こちらに手を伸ばす黒服を前に、冷静沈着な表情で。

 スカートをはためかせて黒服の前に立ち塞がる。


「私がいます」


 まるで水溜まりに大きな石を落としたみたいだった。

 路地裏の溜まっている黒い水。

 深い窪みでこの道は我が物ぞと主張するその上に、メイドさんという勤労精神の塊を持ち上げる。

 そして、手を放す。

 自由落下――ぱしゃん。

 水は霧散し、後には薄汚れた痕跡と空間を支配者であるメイドさんだけが残る。

 

「――ガッ……!」


 黒服が弾けた。

 一人、勇猛果敢に向かってこればメイドさんは俺の周りをくるり。

 また一人虎視眈々と隙を狙って横から殴り掛かれば、くるくるり。

 スカートが危なげなくはためいて暗闇の黒で塗りつぶされた内側(プレイエリア外)から純白タイツのおみ足がチラリ――目にもとまらぬ豪脚で蹴り抜く。

 数瞬遅れて黒服がサ●ヤ人同士の戦いのように吹き飛ばされ、サングラスを散らしながら建物の壁にヒビを入れるとそのまま重力を無視する。


「つ、強い……強すぎる!」


 彼女の強さは圧倒的だった。忍者が如く強靭な肉体には黒服がいくら束になっても敵わない。

 それでも黒服は一向に数を減らさない。数十人は吹き飛ばされていってるはずだが、ワラワラと新しい黒服が入れ替わって押し寄せる。確実に黒服達は俺たちとの距離を詰めていた。


「いったい何百人、いや何千人――何万人の社員を抱えているんだ……この会社は! そんな人を使い捨てるような会社、俺はゆるさないぞ!!!」

「梓乃様……ここは抑えてください……!」


 労働者を犠牲にする戦法に怒りに燃えた俺は飛び掛かろうとするが、メイドさんに戦いながら羽交い絞めにされて窘められてしまった……。

 さあこれでも飲んでと差し出された湯呑を俺は受け取る。


「――ふぅ……すみません、つい感情的に」

「いいえ。梓乃様がとてもお優しい心の持ち主だからこそ、お怒りになられたんだと思います」


 ああ……メイドさんの心遣いがギュッと詰まった味がする。

 喧噪の中でも思わずくつろいでしまいそうな、心がポカポカする味だ。


「貴女達、戦ってるのかくつろいでるのかどっちなの!」


 さらっと分身で世話をしてくれるメイドさんにキレる黒服。

 戦いながらもくつろぎ癒し空間を生み出してしまうなんて、流石メイドさんだ。限界を見せない仕事ぶりに俺は尊敬していた。


「とはいえ、敵の人数は余りにも多すぎます」

「え、ど、どうしたら……」

「さあ観念して抵抗を諦めなさいッ!!!!」


 じりじりと物量で押し寄せてくる黒服。


「失礼します」

「えっ? うぉっ」


 言うが早いか、ひょいとメイドさんは俺をお姫様抱っこした。

 間を置かずに全く疲れを見せない脚力で空中に飛び上がる。


「うわ――」


 顔近っ、ていうかめちゃくちゃ綺麗だ……。

 お姫様抱っこで急激に縮んだ距離に俺はどぎまぎしてしまう。

 俺、女の子でいいや……もう一生このままでいたい。


「どうされましたか?」

「あ、いやぁ。アハハハ……」


 思わず顔をそらして下を見れば、さっきまでメイドさんが黒服をせき止めて生まれていた円形空間に、今度は彼女らが雪崩れ込んで身動きが取れなくなっているようだった。

 メイドさんは戸惑う俺の事も何か叫んでいる黒服の事も大して気にせず、俺を力強く抱えたまま壁を蹴り上がって路地裏を脱した。

次も多分すぐあげます

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