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SE’s monster 〜エスイーズ モンスター〜  作者: フェルディナント
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第四話 出港

「やっと終わったな、訓練」


 宿舎に戻りシャワーを浴び、着替えて二段ベッドに潜り込んだ時にはもう東側の窓から朝日が漏れていた。


「軍の訓練ってもっとボコスカ殴られると思ってたけど結構違ったな」


「でも隣の班はずいぶん扱かれてたよな」


「寝れねぇよりぶん殴られる方がマシなきがしてきた」


「「「「…………」」」」


 急に静かになる。


「もう寝よ…」


「「「「…おやすみ」」」」


 普段寝付きの悪い夕立ですら十秒程度で完全に沈黙。鍾馗と疾風に至ってはバッチリと瞼が開き切った状態で眠りに落ちた。

 

──────────────────────────────────────────────────


「起床おおぉぉ!!」

  

 翌朝、といってもほぼ昼時に教官たちの大声で目覚めた。

 家の目覚ましでは起きる気配すら出さない時雨でさえパチリと目を開け掛け布団を押し除け起き上がっている。


「起きちまったぜ…、次の日なんてこなきゃいいと思ってたのに」


「なに朝っぱらから太陽見てカッコつけてんだよ」


「はぁっ!?別にカッコつけてカッコつけてませんが何かぁ!?」


 隼のツッコミに夕立は少し顔を赤くしながら早口で言い返す。そして隼も言い返す。

 そんなことで時間を潰している二人を置いて残りの四人はすでに支度を終え食堂へと行ってしまった。


「おは、……こんにちは。よく眠れましたか?」


 食堂前の渡り廊下で須藤教官に出会う。

 あまり寝れていないのだろうか、目元にはくっきりとクマができている。


「えぇ、クタクタだったのでぐっすり眠れました」


「そうですか、ちなみに昨日の訓練には新兵たちを限界まで疲れさせるという目的もあるんですよ。派兵前に寝てもらわないと困るのでね」


「そんな思惑があるなら絶対ノンレム睡眠になりますね」


「あとこの後の食事が終われば夕食は船の中で後は大陸での食事になります。なので炊き立てのお米を食べられるのは当分先になるかもしくは最後になります。よく味わって食べてくださいね」


「そんなのまた食べれますよ、帰って来ればいいんですよね?」


「……そう言う子をたくさん見送ってきました。今度は私の番になるかもしれませんがね」


 食堂に入ると鰹出汁や醤油、炊き立ての米の匂いが充満していた。

 

「今日は豪華ですね…」


 献立は大ぶりな鶏の唐揚げ、分厚い卵焼き、具沢山の味噌汁、どんぶりサイズの茶碗にこんもりと盛られたご飯。今後の食事がどんなもなかわからないが最後の晩餐にならないよう、全員が祈った。

 

「うめぇ!久々に肉食った!」


 ここ最近『奴ら』との戦いが始まってから食料の供給が減りは主食の米はともかく砂糖や肉などはそうそう食べれるようなものではなくなっていた。そんな中でのこのご馳走、誰もが無言で箸をすすめる。


「私のもあげますよ」


「いいんっすか!?」


「はい、最近は油物がダメになってしまって…。私は卵焼きと味噌汁で十分です」


 そう言い同じテーブルについていた須藤教官は全員の皿に一個ずつ唐揚げを乗せていった。


「「「「ありがとうございます!」」」」


「いえいえ」


 唐揚げひとかじりで何口もの米をかき込む。そして味噌汁でそれらを流し込む。

 食器の上が付け合わせのパセリのみになる頃には全員が満腹になっていた。


「ごちそうさま」


 食器の返却口から調理場を覗き込み小さく頭を下げてお礼を言う。

 調理場のおばちゃん達も満面の笑みで「お粗末様でした」と返してくれた。

 食堂を出て元来た道を帰っている途中、少しだけ暖かい春を感じるそよ風が人の列を縫っていくのを感じた。


「いよいよ後は夕方に出港だな。それまでなんかしてようぜ」


 夕立が班全員を誘う、、、が


「なに呑気な事言ってるんですか。そんな時間ないに決まってるじゃないですか。出港ギリギリまで訓練ですよ」


「ぅわっ!?」


 後ろからヌッと須藤教官が現れ夕立の肩を握り反射的に夕立が振り向く。


「言ったでしょ、間に合うかギリギリだと。一分一秒たりとも無駄にはできないんです。この後第二会議室に集合です」


「ですよねー」


第二会議室


「まずこのM1半自動突撃銃はダイレクト・インピンジメント式の銃であり12.7ミリ弾の強烈な反動も多少なりとも弱めてくれます。ダイレクト・インピンジメント式はショートストロークピストン式やロングストロークピストン式と違いピストンをスライドさせボルトキャリアを動かすのでわなく発射時の燃焼ガスをガス導入孔からガスチューブを通して直接ボルトキャリアに吹き込み動かします。これのメリットとしては発射時に動く部品自体が通常のガスピストン方式に比べ少なく構造を単純にすることができる上、可動する部品自体の質量も軽くでき作動時の重心変動を少なくでき体感反動を小さくできます。デメリットとしては高温高圧の燃焼ガスが直接ボルトキャリアに吹き込まれるため潤滑油や部品の寿命の減少、作動部の加熱による暴発の可能性、燃焼ガスに含まれる成分の蓄積による部品の汚損、それによってもたらされる動作不良。それらを防ぐための清掃とメンテナンスを徹底しなければいけません。また────」


「……なに言ってるかわかる?」


「全く」


「右に同じく」


「まぁ、簡単にいうと反動が小さくなる代わりに汚れやすいからちゃんと掃除しろってことでしょ」


「夕立分んのかよ……」


「なんとなくねぇー」


「意外すぎ」


「確かに」


「右に同じく」


「ひどすぎて心にくるわー」


 口述での説明が終わり実際に分解して清掃する訓練が始まった。

 手順としては銃本体に付属している工具で大まかに銃床、銃把、銃身の三つに分けそこから更に細かく分解していく。


「堅っ!どうやんだよこれっ」


「橘花、力尽くでやらない!ボルトが閉鎖して指挟みますよ!」


「了解!」


「は?全然噛み合わねぇ」


「隼、部品が足りてない!そのまま組み立てて打ったら暴発しますよ!」


「了解!」


「意外と簡単やん」


「夕立……、教える側になりなさい!」


「りょーかーい」


 訓練が始まってから四時間、ぶっ通しで銃を組み立てては分解、組み立てては分解。これの繰り返し。最初は一人を除いて誰もが手間取っていた。しかし長時間にわたる集中的な教育により終盤には目隠しをされ完全に視界を奪われた状態でスムーズに分解と手入れ、組み立てができるようになっていた。


「目隠し整備をできるようになってくれて私も一安心です。皆さん結構スジがいいですね、お疲れ様でした」


「「「「ありがとうございました」」」」


「あと一時間ちょっとで出港です。全員荷物をまとめて港に集合してください、解散」


「「「「了解」」」」


 時雨達の部屋は七階、会議室は地下二階。この宿舎にはエレベータがないため九階分階段を登らなければならず部屋に着く頃には心拍数が上がり息が切れていた。


「あー、まじでもうすぐ『さよなら日本』なのかー」


「そんな落ち込むなよ。まー気分は上がらないけど」


「あっち行ったらロシア美女だけが生きがいになりそう」


「そんな事ねぇだろ、故郷の親とかあんだろ」


「二ヶ月前に戦死報告が届いたよ」


「……なんかすまん」


「いいんだよ、たいして仲良くなかったし」


 楽しくもつまんなくもない会話のキャッチボールが六人の中で途切れる事なく続いていく。

 気がつけば港へ集合する時間が刻一刻と近づいていた。


「準備もできてるし時間もそろそろだから行こっか」


「だな、行きたかねぇけど」


 支給された装備や服などをパンパンに詰め込んだ軍用バックパックを重そうに背負い部屋を出て宿舎を後にする。

 港は宿舎とはさほど離れておらず循環バスも通っているが時雨達は歩いていくことを選んだ。そしてなるべくゆっくりと歩いて少しでも着くのを遅くしようとしていた。

 しかしそんな歩き方をしてまでも五分弱で到着してしまった。


「皆さんちゃんと揃ってますね。私たちの乗る船はこの目の前の輸送船です。貨物室を突貫工事で兵員室にしたため居心地はそんなに良くないですが大体丸一日で着くので我慢してくださいね」


 船自体の高さがかなりありすぐ側にいると船とは思えず鋼の壁がそびえ立っているように見える。

 先に着いていた須藤教官に自分たちの部屋が示された船内地図をもらい防波堤に横付けされた巨大な船体に乗り込む。船内の通路はかなり狭くすれ違う時はお互いが身を縮めなければならなかった。気づいたが揺れはほぼ無い。ここまで大きな船だとあまり揺れないのだろうか。

「俺たちの部屋はー、えーっと第一貨物室はーとっ……あっちか」


 疾風が目を凝らし地図に書いてある文字をなぞっていく。


「そこの突き当たりを右が俺らの部屋……っていうか他の奴らも使う大部屋だ」


「──うわ、ここかよ」


「まー、一日だけならいい経験じゃないの?」


 さっき須藤教官が言っていた突貫工事という単語を六人は理解した。

 貨物室全体に設置された大量の三段ベッド。仕切りの用なものは一切なく、というよりも大量のベッドが仕切りのようになっている状態でまるで迷路のようになっている。


「俺らの場所はここのベッド二つか」


「荷物は床に置いといていいんじゃない」


ヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥッ!!


「わっ!なに?」

 

 内臓が震えるほどの汽笛が鳴り響く。


『出港準備よーし、抜錨はじめ!』

 

『──抜錨完了!』


『タグボートによる牽引はじめ!』


『──牽引完了!』


『両舷前進微速!』


 エンジンの振動が素早く、そして細かくなっていくのを感じる。


「なぁ、甲板に出てみようぜ!」


「行く行く!」


「俺も!」


 夕立が勢いよくベッド三段目から飛び降り六人全員がそれに続きベッドを飛び降りる。

 小走りで狭い廊下と階段を駆け上がり上の階へと登っていく。外が近づいているのだろうか、潮の匂いが濃くなってくる。


「ふぅー、風気持ちー」


「流石にまだ寒いけどな」


 甲板には時雨達以外にもかなり多くの新兵達がいた。

 船外は少し強めの風が吹いており空は陽が沈みかけ綺麗な茜色に染まっている。

 

「あー、まじで日本出ちまったな。まだ領海内だけど」


「なぁ、あれ……」


 時雨がさっきまでいた舞鶴海軍基地を指さす。その先を目を凝らして見てみると駐屯兵や食堂のおばちゃん達が必勝と書かれた旗や漁船の大漁旗を大きく振っている。耳をすませば「帰ってきなよぉぉ!」と聞こえる。

 甲板にいる全員がそれに応えて大きく手を振り、


「「「「行ってきまあああぁぁぁぁぁすっ!!」」」」


 と喉が壊れるほどの声を出す。

 

『両舷前進原速!』


 徐々に船の速度が上がり陸との距離が離れる。舞鶴湾の外へと出ると他の輸送艦や護衛の戦闘艦と合流し、陣形を整えて進みついに陸は水平線の下へと潜っていった。


 

 



 

 

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