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SE’s monster 〜エスイーズ モンスター〜  作者: フェルディナント
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第二話 命か片腕か

第二話です‼︎

 新東京を出発してから大体四時間、パンデミックも収まり再び静まり返った車内に線路と車輪の擦れ合う不快な音が響く。列車が停車し扉が開く。寝むりについていた時雨と夕立のまぶたも重々しく開いた。

 あたりはくしゃくしゃになったトイレットペーパーの山と目元と鼻が赤くなった少年少女。


『舞鶴海軍基地〜、舞鶴海軍基地〜、この列車は折り返し新東京行きです。お忘れないようご注意ください』


 今まで聞いてきた到着を知らせる車内アナウンスとは全く別物に聞こえた。


 のたついた足取りで外に出ると冷たく鼻にツンとくる潮風が吹いていた。基地は海と塀で囲まれていて兵士が脱走出来ないような作りになっている。


「離しせよっ!行きたくない!」


「いい加減にしなさい!駐屯兵に来てもらわなくちゃいけなくなるから!」


 少年が一人乗務員に取り押さえられて出てきた。おそらく車内のトイレにでも隠れて新東京に帰ろうとでも思っていたのだろう。


「いいよなっ、あんた達は…俺たちを運んでいるだけで戦場に行かなくて済むからな!」


「っ……!私達だって……」


「そこまで。乗務員達だって辛いのは一緒だ」


 間に入ったのは夕立だった。


「お前も聞いただろ、さっきまでの車内の音。あれが毎回起きてるからせめてもの気配りでトイレットペーパーが配られてるんだ。あんなのを何度も聞いてたら自分たちはっていう罪悪感で潰れそうになってくる。だから辛

いのは乗務員たちも一緒だ。さっきみたいなことは絶対に言うな」


 自分が口に出してしまった事を思い返して我に帰ったのか少年は足元に視線を落とし


「わ、わかったよ……考えなしに言ってすみません……」


「いえ……よくある事なので大丈夫です」


「ほらさっさと行け、怖い上官だったら少し遅刻しただけでやばそうだからな」


そして夕立は少年の背中を優しく押す。少年はまだ帰りたい気持ちが残っているのだろう。たまに列車の方を振り返りとぼとぼと基地内の建物へと歩いていった。


「やっぱお兄ちゃん気質だな、夕立は」


「実際血は繋がってなくてもお前の兄貴だからな」


「……俺たちも遅刻したらやばいんじゃね?」


「やっば、行くぞ!」


 二人は小走りで集合場所に向かっていく。

 途中で堤防に停泊する鋼色で所々茶色の錆がある巨大な輸送船が数隻あった。目を凝らして沖合の方を見るとそれが十数隻と戦闘艦が数隻見えた。


「あぁー、これに乗っていくのかー」


「しかも日本海側の港だから配属先は絶対シベリア戦線だぜ」


「うぅわっ、地獄中の地獄じゃん。どうせならパナマ戦線が良かったな」


「てかこの基地でかすぎだろ、どんだけ走りゃいいんだよ!」

 

 ランニングを始めてからかれこれ十数分、二人は息を切らしながらようやく集合場所の多目的ホールに着いた。


「どれだけ遅れたかわかっているのか?何をしていた?」


 野太い声が二人の乱れた呼吸を止めた。身体中から冷や汗が出てきている。そして足が震えてくる。時雨は夕立に視線を送るが夕立はどこか遠くを見つめている。こういう時にさっきみたいな兄貴感出せよと時雨は小さく舌打ちをする。


「い、いや、全力で走ってきたんですよ⁉︎でもこの基地でかすぎて…」


「は?」


「他の連中の体力と持久力やばくないですか⁉︎」


「循環バスがあっただろ…」


「「えっ?」」


「………」


「「………」」


「まぁいい、新入隊員説明会が始まる。さっさと行け」


 多目的ホールに入るとすでに部屋の照明は消されプロジェクターが起動していた。ホールには一千人はいるだろうか、全員プロジェクターを見つめている。空いてる席に二人が座ると同時に説明が始まった。


「君たちの大半が未成年、今から映すものはかなりショッキングなものだ。気分が悪くなったら退席しても構わない」

 

 そこらじゅうからウッという声とはいえない音が聞こえてくる。数十人が同時に立ち上がり外へと駆け出していく。映し出されたのは頭部などの体の一部が欠損している人間?と思われる生き物の遺体だった。


「今回は結構平気なやつが多いな……、見ての通りこんなのは人間の死に方ではない。だが現状はこれだ」

 

「こんなのはまだ状態のいいほうだ、戦場では見分けのつかない死体がそこらじゅうに転がってる」

 

 静まり返る空気、先程とは違う震えが二人の体を襲う。

 沈黙の中、上官たちが手のひらに収まるほどの箱を全員に配っている。


「全員箱が行き届いたな…開けてみろ」


 暗くて何かは分からないが丸くて、重くて、冷たい金属製の何かだった。


「それは手榴弾だ」


 ホール全体がざわつく。当たり前だ、今までこんな爆発物を持ったことなどない少年少女たちだ。


「本当に死ぬと感じたらそれを『奴ら』の口に突っ込め。運が良ければ片腕で済む。俺のようにな」

 

 そう言い司会者は軍服の袖をまくる。

 合成樹脂製の肌の隙間から見える冷たい鋼色の金属パーツ、それ同士をつなぐ多種多彩なコード類。

 そして動かすと機械とは思えないようなスムーズで滑らかな動きをした。

 袖の中から出てきたのは機械仕掛けの義手だった。



読了ありがとうございました。

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