令嬢はドラゴンの背に乗る夢を見る
令嬢『ドラゴンは友達だ!』
@短編その79
ちょっとタイトル修正。
「いいかぁ!ドラゴンに乗る奴の訓練は、三半規管を鍛えることだ!!」
「はいっ、師匠!」
そして1メートルちょいの棒を取り出した。
で、棒の上を持ち、それを支点にして、どたばたどたばた足を動かして1回転、2回転、3回転・・・
グルグルと回る。目も回る。地球も回っているのかなぁ〜?
彼女はキルシュ・ゼクシー伯爵令嬢。
そして、大声で怒鳴っている暑苦しい男性は、令嬢の護衛で飛竜騎士のシュルツ。
今何をやっているかって?
体力作り!ドラゴン乗りになるには、まずは体力!
そしてグルグル急旋回とか、目が回るのに慣れるため、棒グルグルをしています!
正式名はシュルツ、いいえ師匠も知らないので。
それにしても目が回るぅ・・・
「反対回りにチェンジ!!」
「ひえええ」
「のろのろ動くな!グルグル回れ!」
「はいいぃ」
彼女は小さい頃からの夢を叶えるべく、体力づくりに勤しむのです!
夢のドラゴンライダーになるために!
そして、可愛いドラゴン、クローバーに乗るのだっ!!
「だからな?乗れねーって。ちゃんと飛竜貸してやるから」
「いやですっ!クロちゃんに乗るんですっ!」
「ほぉ〜〜〜う。お嬢様、そこまで言うなら乗ってもらおうじゃねーか」
ふにゅふにゅと飛ぶ・・というより空気を泳ぐ小さなドラゴンをちら、と見て。
シュルツが一歩踏み出し、私に接近。ニヤリと笑います。
「お嬢様のペット、ドラゴンパピーにな!」
ドラゴンパピー 身長30センチ 尻尾を合わせても40センチ 妖精のような羽が付いている
運べる重さ 30キロまで←!
「い、いつか大きくなりますっ!今はまだ子供なんですっ!」
顔を真っ赤にして怒る彼女に、護衛ははぁ・・・と大きな溜息を吐きます。
「ならねーんだなぁ、これが。ドラゴンパピーという種類で、小竜種。あれ以上大きくならない」
「ええええっ!!」
「何だその驚き方は・・・・本当に知らなかったんか?」
「うそ・・・大きくならないって・・・大きく・・・・」
体がふるふると震え、がくっ!
令嬢は膝をつき、上半身も傾いて、手をつき四つん這いで崩れ落ちた。
「う、うわあああああぁん・・・おおきくならないなんて、うわああああああぁん・・・」
大声で泣き出した。流石にこんな大声で泣くとは師匠も思わなかった。
慌てて宥めるような声のトーンになる。
「でも無理だからな。デカくならないからな」
「クローバーおっきくならないなんてぇ・・・一緒に飛ぶって約束したのにいいい」
号泣する令嬢をぼんやりと見つめていた護衛だったが・・・
ひょいと抱き抱えて、てくてくと屋敷に戻った。
飛竜騎士で師匠は、彼女の落胆と嘆きが分かるのだった・・・
このドラゴン・・パピーに、思い入れが半端なかったからである。
彼女は12歳の時に、冒険者から30センチくらいの大きな卵を買いました。
ドラゴンの卵と聞いたからです。
それからの彼女は、なんと!部屋に篭り、卵を抱いて過ごしたのです。
驚くがいい。なんと・・・5年間も。
ドラゴンは休火山の火口付近に巣を作り、産んだ卵を地熱で温めるのです。
だって、5年も卵を抱えて温めるのは無理というか、面倒。さすがドラゴン。悪知恵、いや生活の知恵?
だから令嬢も、卵を抱きしめ、ふとんに潜って頑張りました。
勉強はしろと、ベッドに家庭教師が呼ばれ。
トイレに行く時は、メイドと交代してもらうが、みんな嫌がる。何故なら臭いから。
「ごふっ!ふとん臭っ!」
「お嬢様!ちょうどいいです、寝巻きも着替えてください」
「というか、風呂に入ってください!」
ベッドサイドには食べ物と飲み物が常備。ダイニングまで食べにもいきません。
少しでも長く温められるように。ベッドから動かなくていいように。
こんな暮らし、普通の親ならその日のうちに叱って止めさせるだろう。
だが彼女の両親は、王都に二人で行って、領地の屋敷に娘だけ置いてきぼりにした。
お嬢様の言う事は絶対
・・・というわけだ。
何故そこまで?
・・・昔見た絵本に載っていた空飛ぶドラゴン。
それに乗って、遠くに行きたい。
それが令嬢の願いだった。
15歳の頃から屋敷の警護を務めるシュルツは、『何でみんな彼女を部屋から出さないんだ』と思った。
そりゃそうだ。
だがこの屋敷の周りは、壮大な草原が広がり、向こうには森がある・・・
でも街、村ですら近所にないのだ。
彼女と遊ぶ子供はいなかった。
たったひとりで、彼女は過ごしていた。
そんな時に、卵を手に入れたのだ。
「卵を孵したい」
些細なお願いだった。サッカーボール、いやドラゴンの卵は友達!!
家人達はその願いを叶えてあげたい、協力しようと一致団結したのだ。
・・・ただ、5年もニートになるとは、誰も思わなかっただけで。
館に勤務するようになったシュルツが、その主である令嬢に会う事が出来たのは2年後。
「卵が孵ったーーーー!!」
「やったああああああああああ!!!!」
館の家人全員は、それはもう喜びましたとも!!
やっとこの生活を、お嬢様は止めてくれる!
シュルツも興味というか、主のご尊顔を拝見してやろうと、侍従や侍女達に混ざって部屋に入ると・・
それはもう、綺麗・・・・きれい?・・・髪はボサボサ、顔色の悪い寝巻き姿の病人?が、小さなドラゴンを抱きしめているのが見えた。
「さあ!お嬢様!お風呂に入りましょう!もうボサボサの髪ではないですか!」
ベッドから立とうとした主は、がくっと膝を付いてしまいます。
「立てない・・・」
シュルツは人をかき分け、彼女を抱えました。
「5年だったか?運動をしていなかったんだ、足の筋肉が弱っている。侍女さん、車椅子を!」
「は、はいっ!!」
令嬢がお風呂に入っている間に、シュルツは侍従と侍女に『筋肉強化メニュー』を提案。
こうして令嬢は、護衛のシュルツにリハビリと筋肉強化で鍛えられるわけだ。
ついでにドラゴンも、空を飛ぶ稽古をする事となった。
シュルツはドラゴンをじっと見る。
凶悪なブラックドラゴンなら、人では育てられない。シルバーも慣れ難い個体だ。
飼うならブロンズかゴールド。
でもこのドラゴン、そのどれにも当てはまらない。
・・・・・あ。分かった。希少な小型種、ドラゴンパピーだ。
高位貴族や王族がペットにするあれだ。
まあ、お嬢様のペットにはいいんじゃないか。友達だもんな。
・・・と思っていたが、まさか乗って飛びたいと思っていたとは。
未だ彼の胸に顔を押し付け、ぐすぐす泣いている令嬢に・・・困ってしまった。
ブランコ状の紐をつけ、そこに腰掛けて、飛ぶ・・・
だめだ。積載上限が30キロだ。ひ弱だ。まあ、ペットだし。
ドラゴンパピーの背中の羽・・・翼ではないのだ。羽なのだ。
鍛えてたとして、積載量を10キロ増加出来るかどうか。そもそもドラゴンパピーを鍛えるって・・・
知らねえ。分からねえ。
「なあ、お嬢様。飛竜に、クロと一緒に乗るで妥協しませんか」
「やはり無理ですか?」
「無理です」
「そうですか・・・」
後ろからよろよろとクローバーがついてくる。
ぷくぷく可愛いドラゴンだ。羽は妖精のように透けている。いかにも力仕事はできませんという感じだ。
何で神様は、こんな愛玩道具のようなドラゴンを誕生させたんでしょうねぇ・・・他はあんなに凶悪なのに。
クローバーは頑張って飛んで、シュルツを追い越し、令嬢の元にころんと落ちた。
「クロちゃん・・・」
ぴっ
令嬢は小さなドラゴンを抱きしめます。
「まあ何にしろ・・・」
シュルツは令嬢をドラゴンごと抱きしめると、ニヤッと笑いました。
「飛竜に乗るにはもっと特訓しないとな!」
「師匠・・・頑張ります・・・クロちゃんに乗れないのは残念ですが」
「さあ、筋肉をつけるぞ」
それから半年。
「棒グルグル、まずは右!!」
「はいっ!たあーーー!」
以前はドタバタした足並みが、たたたたーーーに変わっている。
物凄い勢いでぐるぐるぐる!!
「反対、左!!」
「はいっ!えやああーーーー!!」
たたたたーーーーー・・・
目も回らなくなっています。
「おお、成長したな!お嬢様!では、軽くジョギングだ!」
「はいっ!」
体も筋肉が程よくついて、ドラゴン誕生の時から比べても普通の人並みになっていた。
運動をするのでご飯もおいしい。
「では、俺の飛竜で稽古をする」
指笛でぴーーーーと鳴らすと、大きなシルバードラゴンが舞い降りた。
「こいつはディナー。速さが自慢だ。人にも慣れているから安心して乗ってくれ」
「ディナー・・・もしかして、兄弟にランチやモーニングとかいるのかしら?」
「ベントとデリバリーならいるぞ」
「惜しい!」
「惜しいかぁ?」
早速ディナーの背に乗せ、令嬢の膝にクローバーが乗り、令嬢の後ろに護衛が乗って、補助ベルトを付ける。
「ディナー!GO!」
ばさばさっ!!勢いよく羽ばたくと急激に上昇・・・・
気がつくと、青空に浮かんでいた。
地上が真下、前方には地平線、ぐるり三百六十度!
「なんて広々としてるんでしょう!素晴らしいわ!!」
「ほれ、教習するぞーー。飛竜の乗り方を教えるから、ちゃんと聞くように」
「・・あ、はいっ!師匠!」
「これが馬と同じ、手綱。両手でこう持って・・・」
「こうですか?」
「そうそう。で、今回は操作を教える。慣れてから、飛び立ち、そして降り方。手綱を20センチ伸ばして、そう。お嬢様は背が低いから、この間隔を開けるけど、俺はこれくらいで持つ。スピードを上げたい時は・・・」
令嬢はどきどきして、彼の声が時々聞こえないほどだ。風切音で、ただでさえ聞き取りづらいのに・・
耳からも聞こえるが、背中と彼の胸が当たったところからも、声が振動で伝わるから緊張しっぱなしだ。
飛竜を降りた後は、飛竜のメンテ・・体を洗ってあげたり、餌を食べ出せたり。
「可愛がる事で、親密になって乗りやすくなる。愛情込めてくれな」
「は、はいっ!・・・・ディナーさん、体を洗わせて頂戴ね。終わったら美味しいご飯だから」
ボトルブラシの巨大なものを水につけ、体をゴシゴシ擦る。
こんな事はしたことがないお嬢様なので、自分もビシャビシャ濡れて仕舞いには尻餅をついて泥だらけになった。
「おやおや・・・おい、拭け」
「んみゅうう」
「情けない声出すな」
「はい」
ぴぴぴ・・
以前よりも早く飛べるようになったドラゴンパピー、クローバーがパタパタ飛んできて、令嬢の肩に乗ってペロリと頬を舐めて慰めているようだ。
「ふふ、クロちゃんありがとう」
「お嬢様ーー、早く済ませて飯食いにいくぞーーー」
「はーーーい、師匠!」
こうして毎日飛竜の乗竜練習をし続け・・
「いけーーー!ディナーさん!!」
令嬢はついに!
ドラゴンを駆る事が出来るようになったのです!
「おおーーー。及第点ってことか」
飛竜騎士から合格点ぎりぎりですが、許可をいただきました!
ここまでくるのに半年。ドラゴンパピーの誕生日まで掛かりましたが達成です!
令嬢の方には、ゴラゴンパピーが膝に掴まっています。
「いい空気ね!空が青いわ!なんて清々しいんでしょう!ね、クロちゃん」
ピュウルウウ・・・
情けない鳴き声です。クローバーにはあまり有り難くないようです。
30分ほど飛び、ドラゴンは降りてきました。
ボディメンテとお食事の用意も手慣れたものです。ドラゴン用ブラシを手に、令嬢はディナーのところに行くと誰かが立っています。中年の男女です。身なりも立派で、上品そうな人達です。
「何をこんなところでしているのです!貴族の娘がこのような事をするなんて」
「なんて臭いだ、全く」
女性は不愉快そうな顔で扇子で口元を隠します。
男性も顔を顰め、ここから早く立ち去りたいようです。
飛竜騎士はあっけに取られました。この二人、どうやら令嬢の両親のようです。
ですが、貴族のくせに何と礼儀知らずでしょうか。自分たちの娘に、『ただいま』も言わないのです。
そして何故娘をこんな田舎に置いたのかも分かりました。
こんな田舎なら、生活費はそれほど掛からない。侍従と侍女、メイド、コックと手伝いが一人づつ。
警護は自分だけ。飛竜騎士だから何とかなるだろうが、後2人は欲しい。
それから領地の経営を監視する事務所には二人だけ。これは領地の中心街にある。
つまりは、だ。
ここでの支出を控え、自分たちが楽しむ金をたっぷり使っていたという事だ。
服だって見てみろ。あんな上質な服、高位貴族レベルではないか。
ここは伯爵家、あんな服が着られるほど儲かっていないはずだ。
なんて・・・胸糞悪い。お嬢様だって、質素な服を着ている。
俺の知っている範囲ではあるが、どこの貴族も、娘には豪華な服を着せている。
まあ婚約者を探す為に社交界に行くからでもあるが。
お嬢様、そういえば社交界デビューをまだしていないぞ?
確かに5年卵を抱いていたが、それでも一言あって然るべきでは?
ムカムカする気持ちを抑え、警護のために令嬢と両親がいるリビングに向かうと、令嬢にしては珍しく大きな声です。
「いやです!!クロちゃんを差し出せなんて!」
護衛が早足にリビングに入ると、令嬢と両親がテーブルを挟んで睨み合っているではないか。
「珍しい生き物ですもの、王族に献上すれば、我が家に褒美が頂けるのよ。家の為なのよ」
「母親の言う通りだ。娘のお前は、母親に背くと言うのか?」
令嬢はドラゴンパピーを抱きしめ、ポロポロと涙を溢して・・
「私の・・私の大事なお友達です!たとえ母の命令と言われても聞けません!それに、貴方方は、私に対して親らしい事をしてくれましたか!貴方方は、本当に私の親ですか?顔を見るのは何年ぶり過ぎて、本当の親と分かりません!」
「口答えをするか!」
ばきっと、変な音が響いた。
父親は、なんと手でなく・・持っていたステッキで、令嬢の頬を打ち付けたのです。
令嬢は吹っ飛び、床を何回も転がって、うつ伏せに倒れ止まりました。
倒れる主に、クローバーが鳴きながら頬を舐めていて・・
「そこの護衛!ドラゴンを適当な檻に入れて頂戴!全く、反抗的な子に育ったわ」
「お前達、きちんと教育をしていたのか?」
二人は娘を抱き起こす事もせず、さっさと出て行ってしまった。
護衛は彼女に駆け寄り、その後に続いた侍女と共に部屋に連れて行き、手当てをするが・・
顔は裂傷で赤く裂け、白い・・これは骨だろう、陥没していて、血がだらだらと流れていた。
侍女は泣きながら手当てをするが、ここまで酷いとハイポーション 、もしくは神官に回復魔法を頼まないと無理な状態だ。彼も普通のポーションはあったが、ハイポーションは持っていなかった。
「治療しに行く」
護衛は令嬢を背負うとドラゴンを駆り、上空高く舞い上がり、猛スピードで飛んだ。
勿論ドラゴンパピーも連れて行く。
ここから一番近いのは・・・森と山を越えれば4時間程度で大きな街に着く。そこなら大きめの神殿がある。
朧月の明るさを頼りに、シルバードラゴンは飛んだ。
神殿に駆け込み、治療を頼んで・・・
だが目が覚めたのは、2日後だった。
「大丈夫か?痛くないか」
「しし、お・・・」
「ああ、よかった。クロも心配しているぞ」
「く、ろ・・」
ぴいいーー
ドラゴンパピーは主の腕の中に潜り込み、か細い鳴き声を漏らしている。
治療してくれた神官が言うには、後少し遅かったら、痕が残ったという。
護衛は『本当に間に合ってよかった』と安堵した。
令嬢を神殿でそのまま治療も兼ねて預かってもらい、護衛は王都へ飛び・・・
伯爵家、調べれば出るわ出るわ横領とか、海外の国に情報を渡すわ、大臣を買収などなど・・・
で、娘の放置(家人がいたが)、そして実の娘に対する傷害。
伯爵夫婦は投獄される事となったわけである。
王都にあった伯爵家の館は売却、犯罪の賠償金に使われて、儲けは無かったが、気分はスッキリだ。
その後は領地を令嬢が治め、地味〜に堅実に運用されて行った。
まあお分かりのように、令嬢は護衛騎士と結婚をした。
なんと護衛騎士は侯爵家の三男で、なかなかの持参金を持って婿入りしたのだった。
その時にシルバードラゴンのディナーの兄弟、ベントとデリバリーもやって来た。
それほど大きな領地でないので、1人の飛竜騎士で十分。
伯爵夫人の傍にはドラゴンパピー、そして飛竜騎士の旦那様が寄り添い・・
「奥さん」
「何でしょう、師匠」
今日もふたりでドラゴンを滑空、領地を見回ります。
そのうち二人に子供が生まれたら、残る1匹のドラゴンに乗せて、親子で飛ぶのが奥さんの夢なのです。
思いつくまま、ほぼ1日1話ペースで書いてたけど、そろそろペース落ちるかな。
9月は『令嬢』がお題。
タイトル右のワシの名をクリックすると、どばーと話が出る。
マジ6時間潰せる。根性と暇があるときに、是非