2.5倍!! プロテインの聖女 VS ストロング系聖女 ~深夜の独身寮中庭大決戦!!~
彼氏いない歴年齢で35歳独身派遣従業員のヨシコ(仮)は、なんやかんやあって神様から「手から無限にストロング系チューハイが放てる能力」をもらい、異世界で聖女をやることになりました。
異世界に行ってからも、なんやかんや事件がありました。
酒飲んでゲームして教会に併設する孤児院の子供達にボロクソに負けたり。
酒飲んでだべってたら孤児院の子供達にディスられて頭来て追い掛け回したり。
酒飲んで手から出した酒を売って金儲けをもくろんだり。
とにかく何かというと酒を飲んで何やかんやしながら、生活基盤を整えていったのです。
なにしろ、酒は手から無尽蔵に出ます。
まさに一年三百六十五日酒が飲めるぞ状態です。
いつ飲むの? 今でしょっ!
生活費も酒を出せば手に入りますし、子供達と遊ぶのもなんやかんや楽しくあります。
まさに順風満帆。
望月の欠けたることもないと思えば状態です。
ですが。
「飽きた」
なんということでしょう。
二十一世紀日本で生きてきたヨシコ(仮)には、この異世界はあまりに娯楽に乏しすぎたのです。
休日の昼間からゴロゴロすることは出来ても、テレビやスマホなどはありません。
テレビが無いと「最近のテレビ番組つまんねぇー!!!」と文句を言うこともできませんし。
スマホが無いとソシャゲでガチャを回すこともできません。
「あああ! 退屈が侵食してくる! 何か楽しい娯楽とかないの!?」
「ゲームでもすればいいじゃん」
「ボドゲは一人ではできない!!」
子供達も忙しいので、ヨシコ(仮)ばかり構っていられないのです。
「まぁ。そうだけど」
「うわぁーん、やだやだやだぁー! なんか面白い娯楽出してよぉ!!」
ベッドの上で駄々っ子のように暴れまわるヨシコ(仮)を前に、子供達はため息を吐きました。
大の大人がそんな姿を見せているからといって、子供達はドン引きしたりしません。
ヨシコ(仮)の奇行には、すっかり慣れっこになっているのです。
「娯楽って、例えばどんなのさ」
「ガチャ回したい。ガチャにお賃金をブッコんで推しに課金しているという自己肯定感と、ギャンブルによる快感を味わいたい。で、勝利のストロング系チューハイに酔いしれたい」
「クズクズの実のクズヒューマンかよ」
「すげぇ。教科書に載せたいぐらいの反面教師だ」
「博物館級だぜ」
「ていうか、ガチャって何なの」
「えー? もしかして君達ガチャ知らない系ボーイズなのぉー? もぉー、しょうがないなぁー! おねぇさんが教え上げちゃおっかな! おねぇさんが!」
おねぇさんとかふざけんてんのか。
別に知らんでもいいわ。
そう思った子供達でしたが、口に出すのはぐっとこらえました。
実際に言ってしまうと、また駄々をこねだすからです。
ガチャとは、本来はカプセルトイと呼ばれる抽選式玩具購入システムの俗称でした。
中身がランダムであるその性質を模したソーシャルネットワーキングゲームのアイテム課金方法も作られたことから、それらも総じてガチャと呼ばれるようになっているのです。
「はぁ。つまりギャンブル要素のある商品購入システム的なことね」
いち早くガチャを理解したのは、ブッチ(5歳)でした。
彼は孤児院で保護されている少年の一人でしたが、“逆さ落とし”の異名を持つ英才でした。
その優れた頭脳は高く評価されており、町中の大人が一目置くほどです。
「それなら、ツボ割ればいいじゃん」
「ツボ? なにそれ」
「部屋の隅とかにあるじゃん。ツボ」
「なにいってんだお前」
ヨシコ(仮)はチベットスナギツネのような目でブッチを見つめました。
普段は自分が向けられる側なのに、実に珍しい現象です。
「なんで部屋の隅にあるツボ割らなくちゃいけないの。頭おかしい奴じゃあるまいし」
「なんだ、ヨシコ(仮)。ツボ割り知らないのかよ」
「へ?」
この世界には、ヨシコ(仮)の居た世界とは別の法則が存在していました。
その一つが、ツボです。
なぜかどんな家にも知らないうちに現れるそれは、不思議な力を持っています。
貨幣代わりに使われることもある「魔石」。
これを知らんうちに生えてきたツボに入れ、力の限り地面にたたきつけると、あら不思議。
色々なアイテムが現れるというのです。
「うっそだぁー」
「じゃあ、やってみるか」
ブッチはヨシコ(仮)の部屋の中を見渡すと、ツボを発見。
その中にポケットから取り出した魔石を入れると、両手で振り上げました。
「ちょっと!?」
ヨシコ(仮)の声をまる無視して、ブッチはツボを地面にたたきつけます。
すると、不思議なことが起こりました。
ツボが床に接触した瞬間、煌びやかな光と豪華そうな音を発し、真っ二つに割れたのです。
音と光の演出が先に起こり、それから厳かに割れるツボ。
真っ二つに割れたあと、ツボは空気にとけるように消えていきます。
その場に残っていたのは、一本の木刀。
どう見てもツボに入る長さではない、木刀だったのです。
「ちょ、どうなってるの!?」
「いや、知らないけど。なんか魔石入れてツボ割るとランダムでアイテムが出てくるんだよ」
「マジかよ。剣と魔法の世界すっげぇーな、おい」
異世界の生活に慣れてきたヨシコ(仮)も、これにはびっくりです。
さっそく、他の部屋に行って、ツボを確かめることにしました。
ヨシコ(仮)ルームの隣にある神父の部屋に乱入すると、家探しをしてツボと魔石をゲットします。
ツボは普通に床に置いてあったのですが、魔石の手持ちがなかったので家探ししました。
日本でやれば確実に犯罪ですが、この国でも犯罪です。
ですがこの世界は科学捜査があまり発達していないので、後で隠ぺい工作して置けばきっとばれないでしょう。
窃盗はばれなければ犯罪ではないのです。
もちろんこれは異世界の話であり、現実世界でやると手が後ろに回るので、良い子も悪い子もけっしてマネしないようにしてください。
「見た目は何の変哲もないツボなのね。普通のツボとどう見分けるの?」
世の中には普通の人間が普段使いのために作ったツボも存在するのです。
「裏見てみなよ。マークがついてるでしょ。四角に台形の付いた形の」
「なにこれ、ガチャの形じゃん」
ツボの裏についていたのは、デフォルメされたガチャに見えるマークでした。
「なんだっけなぁ。原理はよく知らんけど、これって神様が作ったものなんだって」
「ある時、業運と悲劇の神様が、その御力で世界中に生えるようにしたんだってさ」
「知らんけどっていってたじゃん!」
「いや、だから原理は知らんけどって意味だよ。神様の力でこうなってるとしか」
要するに神様の不思議パワーで、世界中にガチャをぶち撒いたに違いない、とヨシコ(仮)は思いました。
どうせ剣と魔法の世界です。
なんかよく知らんけどそういうこともあるのでしょう。
「じゃあ、さっそくやってみよっと!!」
こうなったら、やってみるっきゃありません。
ヨシコ(仮)は魔石をツボにぶち込み、地面に叩きつけました。
先ほどと同じような演出が起こり、中から一枚のカードが現れます。
「なにこれ」
「スキルカードじゃん。それを持ってると、特殊な能力が手に入るんだよ」
「マジかよレアアイテムキタコレ!!!」
ヨシコ(仮)のテンションがぶちあがりました。
今ではストロング系チューハイを飲んで飲んで飲まれて飲んで飲んで飲み疲れて眠るだけの存在であるヨシコ(仮)ですが、こんなんでも一応異世界から来た聖女です。
きっと主人公補正で、メッチャカッコよくて激ツヨバランスブレーカーなアイテムが出たに違いありません。
そのカードに書かれているスキルの名前は。
レアリティN・ぬるっぬるのローション塗れでも滑らないで歩ける
「バカにしとんかごらぁああああい!!!!」
ヨシコ(仮)は怒り狂いました。
必ずなんかいいアイテムをゲットしてやると胸に決意したのです。
とはいえ、先立つものがありません。
その日からヨシコ(仮)は真面目に働き始めました。
ストロング系チューハイを出しては飲んで、ゲームして、飯を食って寝て。
朝起きたらストロング系チューハイを飲んで出してゲームして、子供達にからかわれてガチギレして追い掛け回して神父さんに怒られてストロング系チューハイを飲んで飯を食って寝ました。
そうこうしているうちに、魔石が溜まっていきます。
基本的にヨシコ(仮)の収入は、ストロング系チューハイを出すことによって成り立っていました。
その販売や管理は神父や孤児院の子供達が行っているので、ヨシコ(仮)がやることといえば手からストロング系チューハイを出すことのみだったのです。
ニートだけのニートじゃない、ちょっとニートっぽい生き方をしている聖女。
それがヨシコ(仮)だったのです。
とにかく、これで元手が出来ました。
あとはツボというツボを片っ端からブッコ抜くだけです。
「よっしゃぁあああ! ぶっこわしたらぁーよ! ぶっこわしたらぁーよ!!」
テンションブチ上がりのヨシコ(仮)でしたが、子供達から待ったが入りました。
「後で文句言われてもアレだから今のうちに教えとくけどさ。ツボにはレアリティがあるんだよ」
「レア度の高いツボの方が、いいアイテムが出るんだ」
ソシャゲじゃねぇか。
そう思ったヨシコ(仮)でしたが、話を聞くにツボに入れる魔石の量はどれも一律だといいます。
高い金を払わないとレアガチャが引けないのがソシャゲなので、そういう意味では良心的かもしれません。
「で、そのレア度の高いツボってどういうのなの?」
「フチが金色で、取っ手が二つ付いてるやつだよ。あと、普通の民家探してもまず見つからないからね」
「マジかよ。じゃあ、どこに行けば見つかるの?」
「騎士団とか王宮とか大神殿とか、立派な公的施設」
「ふざけんなよぉおおお!!!」
せっかくいい情報を得たのに、難易度がジェノサイドです。
ヨシコ(仮)のような汚れちまった聖女には、公的機関はあまりにも眩しすぎました。
「んもぉおおお! 完全にガチャ欲マックスなのにさぁ!! クソがぁ!!」
「口悪いなぁ、この聖女」
「諦めて普通のツボ割りなよ」
「せっかくレアガチャ選べるのにノーマルなんて引いてられるかぁ! 魔石の無駄だわぁ!」
「いうて、ぶっちゃけそういうところに侵入するの無茶苦茶難しいよ」
「っていうか実質不可能だわ。立ち入り禁止のところばっかしだし」
「どっか! どっかないの!? 不法侵入できそうなところ!!」
「不法侵入前提かよ。すげぇよこの聖女」
「まぁ、あるにはあるけど」
流石ブッチです。
町随一の知恵袋という評価は伊達ではありません。
「ちょっと離れたところにある騎士団で、今度、遠征演習があるんだってさ。結構大規模だから、駐屯地とかが手薄になるんだって。本棟の方は難しいかもしれないけど、寮とかそういう付属的な施設を狙えば行けるんじゃないかな」
「なるほど。金目のものを盗むんじゃなければ、足も付きにくいか」
「遠征なら、戻ってくるまでにツボもリポップするだろうし。さっすがブッチだぜ」
剣と魔法の世界で孤児が生きていくというのは、綺麗ごとだけではままなりません。
時にこういう悪知恵を駆使することもしなければ、野垂れ死にすることになるのです。
浮世の義理も、清廉潔白な生き方も、命あったればこそ。
孤児が生きていくというのは、戦い続けるということなのです。
「メッチャねらい目じゃん。よし、行ってみるか!」
「大丈夫かよブッチ。絶対ヨシコ(仮)下手打つよ」
「かもしれないけど、捕まったとしてもヨシコ(仮)って聖女だから。お目こぼしがあると思うよ」
こんな感じのヨシコ(仮)ですが、一応教会公認の聖女なのです。
多少の悪さは見逃してもらえるでしょう。
「僕らがちょっと手伝ってやって、忍び込むのはヨシコ(仮)だけにすれば、僕らはノーリスクだよ」
「そっか。ヨシコ(仮)のやつアレで律義だから、手伝えば分け前もくれるだろうしね」
「そろそろ孤児院の壁の修繕もしないと、冬は凍えて過ごすことになるよ。小さい子達もいるし、病気になんてなったらえらいことだ」
「お国は教会で売ってるストロング系チューハイにまで税をかけてきやがるくせに、寄付金の一つも出しやしねぇ。こいつぁ、寄付金代わりさ」
「よし、そうと決まれば早速準備だ」
子供達の話し合いを、ヨシコ(仮)は満足げに頷きながら聞いていました。
ぶっちゃけ話が難しくって内容はよくわかりませんでしたが、とにかく侵入ガチャに協力してくれるっぽいことは理解できます。
「よっしゃー! レアガチャ回しまくって、孤児院の修繕費稼いでやろうぜー!!」
「「「おー!!」」」
こうして、ヨシコ(仮)達の「遠征中で留守の騎士団に侵入してツボ割りまくり計画」は動き出したのです。
OLをしながら「小説家になろう」から出版デビューをキメた系女子であるモモコ(仮)は、不慮な事故にあって死んでしまいました。
ダイエットに成功した自分へのご褒美にピザの食べ放題に行き、思う様食いまくって動けなくなったところに、突然飛んできたヘリコプターの墜落事故に巻き込まれたのです。
そんなモモコ(仮)の前に現れたのは、ソシャゲにハマってる神様でした。
神様はモモコ(仮)に「手から無限にプロテインが出る能力」を与え、自分がやってるソシャゲの世界に送ったのです。
目的は、ゲームの周回をしやすくし、かつ、イケメンたちをマッスルにするためでした。
筋肉だいちゅき系カプ厨であり、多くの読者を筋肉沼にハメた功績から転生する権利を手にしたモモコ(仮)にとっては、願ったりかなったりです。
異世界にやってきたモモコ(仮)は、神様の粋な計らいで、すぐに騎士団の兵站部門で働くことのなりました。
高い事務処理能力を持っていたモモコ(仮)は、すぐに頭角を現していきました。
片っ端から書類仕事をちぎっては投げ、その隙を突いてマンガやライトノベルなどといった文化を根付かせていきます。
エっさんという神絵師協力者も得て、今のモモコ(仮)はフィーバー状態です。
事務屋としての立場をフルに活用して、マンガやライトノベル作家を育成。
騎士団に勤めているのをいいことに、イケメン騎士達のバディ(肉体)をお触りしたりして、人生を謳歌しまくっていたのです。
ちなみに、まだペロペロはしていませんでした。
流石のモモコ(仮)も、まだ手は後ろに回したくなかったからです。
ですが、覚悟が完了したらいつかやってやろうという野望は、常に胸に秘めています。
仕事でもプライベートでもイケマッスル(イケてるマッスルボディ)に囲まれ、モモコ(仮)は幸せの絶頂でした。
もうブラック企業で働き、死にそうになりながら帰宅後や休日に小説を書くのだけが楽しみだった生活とはおさらば。
望月の欠けたることもないと思えば状態です。
ですが、そんなモモコ(仮)は今、悲しいことに仕事に忙殺されているのでした。
「遠征演習に向けての準備が終わらねぇ!!!」
頭から抜ける、音楽教師が「そう! モモコ(仮)今の感じ忘れないでー!」とか言いそうないい声で叫ぶモモコ(仮)でしたが、誰も気にも留めませんでした。
兵站部門は、今まさに修羅場。
皆、悪鬼羅刹のような表情で、机に向かっています。
騎士団は、もうすぐ大規模遠征訓練を控えていました。
年に何度か行われる重要な訓練であり、騎士団の質を保つためにけっしてかかすことのできないものです。
それだけに、騎士団の裏方である兵站部門は大騒ぎ。
武器の状態確認から食料の手配、参加者名簿の作成に、テントなどの準備。
こういう時の兵站部門は、引くほど忙しくなるのです。
何しろ兵站部門の仕事は「戦うこと以外全部」。
思わず「えっ! 私の仕事、多すぎ?」と言いたくなるほど忙しさでした。
「いやぁ、これでも今までよりはずいぶん楽ですよ」
「前は、下働きの人達にいちいち説明に行かなくちゃいけませんでしたからね」
剣と魔法の世界らしく、この世界の識字率はかなり低いものでした。
騎士団内でもそれは同じで、下働きの方たちは大半が文字が読めなかったのです。
ですが、最近はその状況に変化が起こっていました。
創作物に飢えていたモモコ(仮)が新しい才能を欲活するため、下働きさん達に有償で文字の読み書きを教える事業を興したからです。
今では多くの下働きさん達が読み書きができるようになっており、仕事はすさまじくスピーディーになっていました。
それでも修羅場るのですから、遠征訓練というのは本当に兵站部門泣かせです。
ようやく一日の仕事を終えたモモコ(仮)は、自室で洗濯婦のエっさんと女子会をしていました。
兵站部門の仕事でちょろまかしたお酒と、街で買いこんできたお惣菜を肴に一杯ひっかけます。
もちろん、肴はそれだけではありません。
モモコ(仮)の手によって広められた技術で作られた、創作物の数々も、テーブルを彩っています。
「はぁー。もぉー、はぁーあ! これ、あ、ああ、あー……。あー、あ、あ、あ」
今モモコ(仮)が読んでいるのは、イラストを描ける人と文章を書ける人が合作で作った、イラストノベルでした。
美麗なイラストに繊細な心理描写が相まって、もうエモエモのエモでした。
あまりのエモさにモモコ(仮)は語彙力を完全に喪失。
ジブ〇映画に出てくる、お面被った真っ黒なキャラクター見たくなっていました。
モモコ(仮)はライトノベル作家にもかかわらず、エモさが極限に達すると語彙力を喪失する系女子だったのです。
「最年少で騎士になった天才少年が、年上の下働き女性に惹かれていく。夢がありますよね!」
「そうなのぉー! 夢があるのー!」
「この、今まで訓練や家のためのことを思ってひたむきに努力してきたためにバカにしていた色恋ごとに少しずつ捕らわれていく自分に戸惑いながらも、その心地よさに気が付いていく少年の気持ちの動きがたまりません!」
「そうなのぉー! たまらないのー!」
「自分の気持ちに気が付きながらも、少年特有の潔癖さで受け入れられない少年! 年上だし身分も低いことから身を引く覚悟をしつつも、少年の真っ直ぐな思いに少しずつほだされていく下働きの人の気持ちの揺らぎを表すこの表情!」
「そうなのぉー! 表情がしゅごいのー!」
「あぁー! 続きが気になりますねっ!」
「ホンソ(本当にそれ の略語)! ホンソ(本当にマジでそれな の略語)!! ホンソ(ホントマジそれだから早く作者様続き書いてくださいよそうじゃないと私のグッピー並みの心臓が押しつぶされて死んでしまいます の略語)!!!」
ひとしきりそんな風に騒ぎまくってテンションが高くなってきた二人は、互いの最近の創作についての話にもつれ込んでいきました。
この手の話題は尽きることがありません。
特にモモコ(仮)はストライクゾーンが広く、基本的には腐女子でしたが、異性同士のカップルも美味しくいただけるタイプでした。
なので、その時々でのモモコ(仮)内流行は変動が激しく、移り変わりがめちゃめちゃ激しかったのです。
その様はまさに群雄割拠。
下剋上の風が吹き荒れる戦国時代のような有様です。
「つまり、モモコ(仮)様の最近のツボは、屈強な男子が頬を赤らめて恥ずかしがっている図なわけですね。こんな感じですか?」
言いながら、エっさんはあっという間にラフを上げてきました。
「えっっっ!!! こっ、っつっはぁー……! まってまってまって、ちょっ、まてよ! えー……こういう……もぉー!!! エっさん、すぐこういうこと……神……殺すつもり!? 私のことを殺害するつもりなのねっ! 殺して!!」
言動がアレですが、モモコ(仮)が挙動不審になるのはいつものことなので、エっさんは全く動じません。
「でも、どうやって真っ赤にするんです? 屈強な男子って心も強い気がしますが」
「そうですねぇー。例えば、フンドシをはかせるとか?」
「ふんどし、ですか? それは何でしょう?」
モモコ(仮)はイラストなども交えつつ、ふんどしについて詳細に説明しました。
より筋肉を楽しむために不可欠なアイテムであること。
ふんどしマッチョは通常の五倍のゲインがあること。
昨今流行りの細マッチョはただのガリであり、ふんどしとの親和性は持っておらず、装備すれば己のガリボソさを露呈し嘲笑されること。
ふんどしマッチョの盛り上がった尻肉はインテリアに最適であり、そっと部屋の置いておくだけでコルムアルデヒドなどの化学物質を除去する効果がモモコ(仮)的に確認されていること(個人の意見であり、科学的根拠はありません)。
あと、マッチョのシックスパックをペロペロしたいこと。
「なるほど。モモコ(仮)が元居た世界にある、古典的な男性用下着なわけですね」
「そうなの!」
「耐久力もありそうですし、便利かもしれませんね」
今の説明で何をどうしたのかよくわかりませんでしたが、どうやらエっさんには無事に内容が伝わったようでした。
「そっか。エっさんの本業ってお洗濯ですもんね」
「そうなんです。仕事となるとこう、興奮が無いというか、事務的になるというか。男性用下着も、今ではもうただの洗いにくいうえに数回あらうとダメになる布にしか見えなくなってしまいました」
「なんてひどい。人の心を失ってますよエっさん」
「もはや魔物に食い荒らされた後のような有様ですが、本体があればイけるのでまだ大丈夫です」
「だからって……」
モモコ(仮)は胸が苦しくなりました。
せっかくのパンツを愛でられないなんて、あまりにも酷です。
「いつも洗うものがパンツからふんどしになれば、また違った思いが芽生えるかもしれませんね」
苦笑交じりのエっさんの笑顔はあまりに痛々しく、モモコ(仮)は思わずうつむいてしまいました。
その時です。
モモコ(仮)の頭に、電撃的にひらめきが舞い降りたのです。
「そうだっ! 独身寮のパンツ、全部ふんどしにすり替えたろ!!!」
「なんて?」
モモコ(仮)の理論展開は、こうです。
独身寮で支給されているパンツは華奢な造りで、何回も洗っていると割と早くへたれてしまうものでした。
恐らく、縫製技術や織物技術が日本より発達していないことも、原因の一つでしょう。
比較的薄い布で作られがちな下着類は、他の衣服に比べ極端に弱かったのです。
もちろん強い布もあるにはありますが、そういったものは非常にお高く、一枚で薄い本三冊分にもなりました。
そんな高いものが、備品として買えるわけもなく。
十枚組で薄い本一冊分程度のものが使われるのが、当たり前だったのです。
実はこのことは真面目な問題として、兵站部門を悩ませているものでもありました。
何しろ、少しでも無駄な出費は押さえなければなりません。
人間の数だけ用意しなければならない衣類経費は正直バカにならず、頭の痛い問題だったのです。
「でも、ふんどしならOKです!」
ふんどしに使う布はかなり厚手でも問題ありませんでした。
ゆえに丈夫で長持ち。
二枚で薄い本一冊分ぐらいの値段にはなるでしょうが、通常パンツの数十倍の丈夫さを誇るわけで、費用対効果は比較になりません。
そう、ふんどしです。
独身騎士達に支給する下着をふんどしにすれば、すべて解決するのです。
「で、ふんどしの付け方は私が手とり足取りレクチャーするんですよ!」
「流石にそれは捕まります」
「なんでっ!!」
モモコ(仮)は嘆き悲しみました。
この世には神も仏もおらず、救いなどはなかったのです。
全てが諸行無常。
ただ生きる世界は苦しみに紛れているのだというのであれば、何に期待すればよいというのでしょう。
只管座禅を組み、この世の虚しさについて考え、静かにおのれと向き合うしかないというのでしょうか。
「逆に考えてください。騎士同士が、これどうやって使うんだろう、俺付けさせてやるよ。ってなってる姿を」
「ふーん。エッチじゃん」
希望の光は、追い求めるものの元にこそ差すものなのです。
ただ己の不幸を嘆き下を向き続けることの、なんと悲しく愚かなことでしょう。
道を切り開かんと欲するならば、顔を上げ前を見続けなければならないのです。
「なら、とにかくふんどしを導入しないと! はやく! はやくはやくはやく!!」
「ですが、そう簡単に新しいものが受け入れられますか?」
「それはそうですね。あ、そうだ。受け入れられないなら無理やり受け入れさせればいいんですよ」
「なんて?」
モモコ(仮)の考えはこうでした。
どうせ独身寮の連中は、遠征演習でどっかにいっちゃう。
その間に部屋に侵入して下着を強制的に交換して置く。
文句を言おうにもそれしかないからはくしかない。
はいてりゃそのうち慣れる。
ハッピー。
「完璧ですよモモコ(仮)さまっ!!」
「はっはっは! そうでしょうそうでしょう! ついでに部屋を汚したり壊したりしていないか、抜き打ちチェックもできます!」
「その時にたまたま資料が手に入ってしまうのは、不可抗力なんですね!」
「そうです! たまたま独身男子騎士達のプライベートとかが垣間見えるグッツを手に取ってしまえるのは不可抗力であり合法なんです!」
「普段着用のお洋服とかも漁り放題だし、日記とかも盗み見ちゃうのも仕方ないです!」
「そうです! ポエムとか、必殺技名を考えてる時に書いたノートとか、恋文の試し書きとかを見てしまうのも不可抗力で合法なんです! 机の鍵付き引き出しのマスターキーとかも兵站部門なら簡単に手に入ってしまいますし、合法なんです!」
あまりにも悪辣。
その悪知恵の働き様は、稀代の悪党のソレでした。
こうして、「皆が留守してるうちにイケマッスル達のおパンツをふんどしにチェンジリング作戦」は決行されることとなったのです。
ヨシコ(仮)達の暮らしている町から騎士団のある土地まで行くには、結構な時間がかかりました。
もちろんまとまったお金などありませんから、路銀は道々でストロング系チューハイを売って稼ぎます。
嵩張りもせず、安定して売れるお酒というのは、まさに道中での稼ぎにぴったり。
土地土地のヤの付く自営業の方々や、治安維持の人達に追いかけられたりしましたが、ヨシコ(仮)と子供達の逃げ足は天下一品。
危なげもなく逃げまくり、何なら逆襲で事務所などに潜入し、金目のものを奪ったりもしちゃいました。
どうせ汚い手段で稼いだ金です。
孤児院に寄付させてやるのだと考えれば、むしろ感謝してもらいたいぐらいでした。
「うっひょー! コイツラ相当貯め込んでるなぁ!」
「賭博でカモをひっかけて、テメェんところで借金させてやがる」
「えげつないなぁ。やり口がお国と同じだよ、ヤーサンのくせに」
「あー、このグラスいいわぁー。ストロング系チューハイが倍ぐらい旨く感じるわぁー」
ヨシコ(仮)と子供達は、町から町を荒らしまわりながら進みました。
目的の土地に到着したのは、町を出発して一週間ほど経ったころ。
予定通りの日程でした。
「いよいよ今日の夜忍び込むんだけど。ヨシコ(仮)、気を付けてよ。ツボ以外には手を出さないでよね」
「流石に騎士団に追われるのは不味いんだから」
「安心しなさいって。私がへましたことあった?」
「生き方全てに下手こいてるんだよなぁ」
不安しかありませんが、ここはヨシコ(仮)に任せるよりほかありません。
ヨシコ(仮)達は町の中に潜伏しつつ、侵入に最適な時間を待つことにしました。
遠征訓練が始まってしまえば、騎士団建物の中は静かになります。
一部残っている部隊もありますが、普段に比べれば人もまばら。
パンツとふんどしをすり替えるには、最善の好機といえるでしょう。
「時は来た! イケメンマッチョナイト達のお部屋を突撃となりのお夕食するのは今ぞ! これは経費削減の一環だから! あくまで一般の業務の延長線上だから! 何も後ろめたいことなどない! 我、官軍ぞ! 我、官軍ぞ!!」
異世界に来てからというもの、モモコ(仮)のブレーキはぶっ壊れていました。
逆に言うと、そういうタイプだったからこそ、あの神に聖女として選ばれたのかもしれません。
聖女とは何だったのでしょうか。
モモコ(仮)は大量のふんどしを積めたバックを背負い、夜を待ちました。
ふんどしinバックを背負い、鼻息荒く自分の部屋のベッドに腰かけて待機するモモコ(仮)の姿の、なんと滑稽で愚かなことでしょう。
ですが、本人はガチガチのガチでした。
この一戦で、筋肉ふんどし、あるいはふんどし筋肉が見れるか見れないかがきまるのです。
多くの乙女達の夢とトキメキが掛かっています。
つまり、国の浮沈、人々の行く末がかかっているといっても過言ではありません。
もう一度言いますが、過言ではないのである。
日が沈み、あたりが暗くなり、人々が寝静まったころ。
「各々方。出陣で御座る」
モモコ(仮)はカッと目を見開くと、厳かに告げました。
もちろん聞いている人は誰も居ません。
なんとなくそういうテンションだったから言ってみただけでした。
モモコ(仮)は夜の基地内を静かに、そしてすばやく移動します。
その動きはさながらGの如く。
誰の目にもとまらぬ無個性化能力は、モモコ(仮)が通勤ラッシュで身に着けたものです。
都外から都内に通勤をしていたモモコ(仮)にとって、いかに通勤ラッシュを切り抜けるかは至上命題。
これをうまくいなすことで、疲労度が段違いになるのです。
家に帰ってライトノベルを書く“力”を温存するため身につけた技術といっても過言ではないでしょう。
それが、今この異世界で、独身寮に忍び込みパンツとふんどしをすり替えるために、いかんなく発揮されているのです。
ちなみに、兵站部門で割ときちんとしたポストを与えられているモモコ(仮)はフリーパスで基地内を歩けますし、職業上「備品の交換です」とでもいえば独身寮にも堂々と乗り込めるのですが。
やることが後ろ暗かったので、こうしてこそこそと忍び込んでいるのです。
「ここが、あの女のハウスね」
別にあの女でもなければハウスでもないのですが、なんとなく言わなければならないと思ったのです。
今の若い子は確実にわからない古のインターネッツネタでした。
モモコ(仮)は古のオタクだったのです。
首尾よく独身寮に忍び込んだモモコ(仮)は、用意していたほっかむりを装備しました。
顔ばれを防ぐために用意したものです。
流石のモモコ(仮)も、独身騎士の部屋に侵入しおパンツを漁っているところを発見されれば、社会的に死にます。
それを避けるために、顔ばれ防止アイテムは必須なのでした。
「よぉーし! レッツお部屋訪問! ベッドの裏とかに隠されている秘密のアイテムをみつけちゃうぞぉー! どうぅふふふふふ!!」
奇怪な笑い声をあげながら、モモコ(仮)は目の前のドアを開けました。
そこにはパラダイスが待っているはずです。
なにしろ、ソシャゲキャラになるほどのイケメンな独身マッチョの部屋なのです。
イケメンで独身な筋肉。
それは昨今流行りのエセ細マッチョ達では足元にも及ばない、遥か天空に座する至高の存在です。
例えペロペロしまくって舌が擦り切れたとしても、悔いはありません。
いざ、ペロペロの向こう側へ。
MAXテンションでドアを押し開いたその先には、独身騎士の部屋が広がっていました。
そして。
部屋のど真ん中には、見覚えのない女性が、ツボを振り上げた態勢で固まっていたのです。
ヨシコ(仮)は手からストロング系チューハイを放出する際、様々に加工することも可能でした。
例えば沸騰したストロング系チューハイや、凍結したストロング系チューハイを放出することも可能だったのです。
それの応用で、凍結したストロング系チューハイの階段を作り出し、建物へ潜入することも可能だったのです。
「問題は、凍り付いたストロング系チューハイがそのまんま残るところなんだよなぁ」
騎士団に潜入するために作った氷結ストロング系チューハイ階段を見上げ、孤児院の子供がぼやきました。
おそらくこれが溶けるには、まる一昼夜かかるでしょう。
証拠が駄々残りですが、こればっかりはどうしようもありません。
縄梯子などの道具を使うことも考えたのですが、相手は騎士団です。
そういったものへの対策はがっつりされていたので、これが一番安全安心なやり方だったのです。
お酒が少々もったいなくはありますが、背に腹は代えられません。
「わかってるな、ヨシコ(仮)。手を出すのはツボだけだぞ。財布とかくすねるなよ」
「ばれたらマジシャレにならないんだから。怪しまれるようなこと絶対しないでよ」
「わかってるって。私が信用できないっての?」
「できない」
何一つできませんでした。
日頃の行いのせいです。
「大丈夫だってば! 今回はマジでシャレにならないやつなんだから! 私だってリスク負ってるんだし! 大体、うら若き乙女である私が独身騎士の部屋に侵入するとか、ばれたらどうなると思ってるの?」
「ヨシコ(仮)ってなると思う」
日頃の行いのせいです。
子供達のあまりにも真顔の指摘に、ヨシコ(仮)も思わず
「まぁ、そうかもしらんけど」
と納得してしまいました。
色々とあれな行動の目立つヨシコ(仮)ですが、日本時代はまともな社会人だったのです。
ある程度冷静になりさえすれば、自分を客観視することも可能でした。
もっとも、客観視することはできても、悪いところを直そうという思いは皆無でした。
めちゃくちゃ質の悪いタイプだったのです。
「でも、そしたらこの階段どうするの? 大丈夫って言ってたけど」
「近くに魔物の素材を残しておくんだよ。氷使う系の魔物のヤツ」
ここまで来る間に、魔物とかにも遭遇し、倒したりしていました。
どうやらその素材を近くに置いておくことで、この橋を作った罪を擦り付けるつもりのようです。
「そんなんでうまくいくのん?」
「多分大丈夫。騎士団って直接戦闘能力は高いけど、捜査能力はザルだから」
マッチョイケメンでソシャゲキャラな騎士団員達ですが、戦闘能力は高くても推理能力はほとんどないというのが定説でした。
何しろ魔物魔族相手に戦うことが本業であり、調査とかはろくすっぽしたこともない連中です。
その道の熟練である孤児院の子供達とやりあうには、ちょっと力不足でした。
「後のことは僕らでやっとくから、早く行ってきなよ」
「スピーディーかつスマートにだよ」
「やめてやれよ。ヨシコ(仮)みてスマートとか言うの。当てつけかよ」
「あんだけ食って呑んでしてんだぞ」
「お前ら戻ってきたらマジでしばくからな。覚えとけよ」
ヨシコ(仮)は悪態をつきながらも、駆け足で建物に侵入していきました。
無事に建物に侵入したヨシコ(仮)は、一目散にツボを探し回りました。
独身騎士のお部屋を漁りたいという願望もあったのですが、ぐっと我慢です。
今のヨシコ(仮)の優先順位のトップは酒、その次が寝ることで、その次が飯でした。
それら全てを確保するために必要なツボガチャへの使命感は、男子のお部屋漁りたい欲求より強いものだったのです。
「お、早速一つ目発見ー」
ヨシコは景気よく魔石をツボにぶち込むと、勢いよくツボを割りました。
出てきたのは、パチンコ屋とかで見かける特殊景品です。
「直接的すぎね? え、こういうのアリなの?」
その辺の事情はヨシコ(仮)にはよくわかりませんでしたが、とにかく金目のものです。
速やかに保存し、次に移りました。
次に出てきたのは、物干しざおでした。
ステンレス製の、長い奴です。
「なんでだよ!! てかどうやってツボに入ってたんだよ!」
どうやらツボがから出てくるアイテムは、ツボよりも長かったりでっかかったりするケースもあるようでした。
物理法則とか無視しているわけですが、まぁ、ヨシコ(仮)の手からもストロング系チューハイとかがほとばしるので、今更でした。
ヨシコ(仮)は次々に部屋を移り、ツボを割りまくっていきます。
ツボからは、様々なものが出ました。
ドローン、手回し充電式バッテリー付きライト、ミカン、ガンプラ、革財布、折り畳み釣り竿、千葉ハムスター共和国のチケット。
「千円ガチャかよ!!!」
とてもゲーム内ガチャとは思えないラインナップでした。
「どういうことだよ。最初にスキルカードとかゲーム的なの引いたから油断したわ」
スキルといっても「レアリティN・ぬるっぬるのローション塗れでも滑らないで歩ける」です。
有用性は疑われる代物でした。
「兎に角、引いて引いて引きまくるしかないか」
元手である魔石は、かなりの量用意していました。
孤児院の子供達から預かった分もあるので、中々の量です。
というか手持ちの大半が子供達から預かったものなのですが、まぁ、それはそれです。
「うっしゃー! 次こそメッチャ金になる奴ぅー!」
魔石をぶち込んだツボを、勢いよく持ち上げた、その時です。
突然部屋のドアを開け、見知らぬ女性が飛び込んできました。
それが、ヨシコ(仮)とモモコ(仮)の、ファーストコンタクトだったのです。
モモコ(仮)は凍り付きました。
何しろこっちはおパンツとふんどしをすり替えようとしている、贔屓目に見てヤバい奴です。
いくらマッスルふんどしを生み出すための崇高な儀式であるとはいえ、一般の人間にはなかなか理解しえないことであるのは、モモコ(仮)にもわかっています。
一方、ヨシコ(仮)の方も時が止まっていました。
ガチャ目的とはいえ、一般人が真夜中の独身寮に侵入するなど、言語道断です。
捕まれば完全アウトであり、目的を吐かされたらヤバいことになります。
「え、だれ?」
最初に動いたのはモモコ(仮)でした。
「えーと、あのぉー、そのぉー。か、神風〇盗とかセ〇ントテールとか、ソッチよりの感じで」
「懐かしっ! え、何年前ですかそれ! 2000年入ってます?」
「えー! どうだろう。ギリ入ってない感じ? え、どうだっただろう。っていうか、ソッチは?」
「私は、えー、あのぉー、あれです。キャッツ〇イ的な」
「え、メッチャ強気。古典落語みたいな泥棒スタイルなのに。ほっかむりなのに」
「峰さんところのふじこちゃんって言わないだけ良心的じゃありません!?」
そこまで会話したところで、お互いにハッとあることに気が付きました。
なぜ地球のサブカルネタが通用するのだろう。
まさか、相手も日本から来たのでは?
それを確かめるには、どうすればいいのか。
ヨシコ(仮)は意を決して、こういいました。
「あたしも転生者ってゆーんだ、転生者ちゃん」
「イニシエのオタクが一度は言われてみたいやつぅー!」
これ以上、お互いに紹介するような言葉は不要でした。
どちらも同類であり、このインターネッツ民であり、オタクであるとわかったからです。
オタクという人種は基本的にコミュ障気味で互いの距離を測るのに慎重な民族ですが、いざ分かり合えるとなると一気に距離が近くなるのです。
まして、異世界という特殊な環境で、同郷のものに出会えたのですから、猶更でした。
独身騎士の部屋に座り込み、二人はお互いの境遇について語り合いました。
酒はヨシコ(仮)がいくらでも出せましたし、ツマミは騎士が隠し持っていたものを拝借しましたので、問題ありません。
似たような境遇、同じような趣味のもの同士がストロング系チューハイを片手に語り合って、打ち解けないわけがありません。
二人はあっという間に、長年の友人のように仲良くなったのです。
「なんかソシャゲガチャっぽいツボだと思ってたけど。まさか本当にソシャゲ世界だったとは」
「でも、私の周りとヨシコ(仮)の周りが同じ世界だとは、限りませんよ? 別ゲーということもありますし」
同じ世界感でも、別作品ということはあるのです。
例えばゆるふわ日常系作品と同じ町で、金貸しがブイブイ言わせる作品が同時進行していることもあるでしょう。
「うーん。確かにそうかも。でも大変だね、お互いに」
「本当ですよ。当初、プロテインが出てくる能力でどうしろっていうんだって思ってましたもんね」
「私はストロング系チューハイだったから、それがあればハッピーだったけど」
ヨシコ(仮)も実は腐のフォースに魅入られたモノでしたが、どちらかというとそっちより酒の方に重きを置いているタイプでした。
対してモモコ(仮)は、カップリングを楽しむことにステータスを全振りしています。
また、七つの大罪で言うと「怠惰」属性であるヨシコ(仮)ですが、モモコ(仮)は「淫蕩」属性であるという差もありました。
自宅警備系とアクティブ系。
そんな違いのある二人でしたが、妙に気が合う様子です。
「へぇー、ヨシコ(仮)さん、ショタもいける口なんですねぇ。じゃあ、孤児院は天国では?」
「いやぁー。アイツラ生臭すぎて。どっちかっていうとヤクザマンガとか見てる気分になってさ」
「悪賢い感じですかー」
「それにアイツラ意外とませてるから。普段損得勘定しかしないくせに、商家の娘さんとかと純愛してたりするのよ。で、それがばれないように隠してるつもりなんだけど、仲間にはバレバレでほほえましく見守られてたりして」
「その話詳しく」
あれやこれやと、話題はまったくつきません。
また、日本時代にライトノベル作家であったモモコ(仮)の作品を、ヨシコ(仮)が読んでいたこともわかりました。
「へぇー、まさかあれを書いてたのがモモコ(仮)さんだったんだ。実は私も小説家になろうで書いててさ」
「うわぁー! なんてタイトルなんです?!」
「こんなの」
モモコ(仮)は腰を抜かしました。
なんとヨシコ(仮)の作品は、コミカライズもされているビッグタイトルだったのです。
「これコミカライズするとき、〇〇先生に相談してね。結構お世話になったりしたんだよね」
業界の裏側的な横のつながり話も出てきました。
表には出ていない話でしたが、モモコ(仮)も知っている話です。
そんなことを知っているということは、ヨシコ(仮)が作者本人と見て間違いないでしょう。
「なんで!? こっち来てから作品書いてないんですか!?」
「ストロング系チューハイ飲むのに忙しくて。あと孤児院の面倒見なくちゃいけなかったし」
実際は孤児院に面倒を見てもらっている状態でしたが、ヨシコ(仮)の中ではそうなっているのです。
「書きましょうよ! 書きましょうよ新作!」
「でも先立つものがさぁ」
「騎士団から支援とかさせて頂きますから! 任せてください、予算絶対分捕ってきますから!! ありとあらゆる手段を使って!!」
モモコ(仮)はやると言ったらやる系女子でした。
もうすでに頭の中には、予算分捕りアイディアが十個ほど浮かんでいます。
「そうしてもらえると助かるなぁー。あ、でも、とりあえず先立つものを手に入れないと。ツボ割りに来たのすっかり忘れてた」
「でしたね! 私も一緒に回りますよ。おパンツとふんどしを交換しなくちゃいけないんで」
「それ大事。そういえば、ふんどしってどんなのを用意したの?」
「こういうのです! 布地にこだわりましたよ!」
「へぇー。ん? 一種類だけなの? 赤フンは?」
ヨシコ(仮)の指摘に、モモコ(仮)の顔からは見る見るうちに血の気が引いていきました。
赤フン。
真っ赤な憎いアンチクショウのことを、モモコ(仮)は完全に忘却していたのです。
想像してみてください。
バッキバキの騎士団バディに、赤フンのアクセント。
イケマッスルの後ろには、玄界灘の荒波が見えます。
ちなみにモモコ(仮)は玄界灘がどのあたりなのかよくわかっていません。
多分千葉の外房あたりだと思っています。
「私としたことが! よりにもよって、赤フンの存在を忘れていただなんて!」
「まぁまぁ。忘れる事って誰にでもあるし」
「自分で自分が許せません! きっと慢心していたんです! 仕事や創作にかまけて、創意工夫を忘れていたんです!! もう、モモコ(仮)のバカッ!」
「ほら、これでも読んで落ち着きなってば」
そういってヨシコ(仮)がモモコ(仮)のカバンから引っ張り出したのは、エっさんの新作本でした。
何かあった時のために、持ってきたものです。
これで何がどうなるのかは謎ですが、実際役には立ちそうな気配です。
「いくらまだ見てないエっさんの新作だからって、ブルーに染まった私の心は持ち直しませんよ。そう、たとえるなら今の私のテンションはミカン狩りに行ったけどなんやかんやあって銀杏拾いになった様な、えっっっっっっっ!!!」
「うをう」
「1p目から!? 1p目からこんなことしていいんですか!? 捕まりません?! 警察とかに!!」
「大丈夫、この世界警察いないから」
「そっか。そうですよね。ふっ! くっ! なんでこんなっ! そんな顔されたらメインディッシュじゃないですか! 誘ってるわぁー、完全に招き入れてる、うそうそ! それは! あーっす! あーーーっす!」
「何の音それ」
「ふぅー・・・待って待って。あー、そういうセリフ。そういうセリフが出る、こんなに顔がいいのに。顔がいいのにそんなセリフが出る!」
「エっさんてマジで絵上手いなぁ」
「ほらぁー! そんなこと言うから、そういうことになるぅー! はいはいはい! ハイ幸せー! はい、ハッピー! もう既定路線ですわ! レールの上、そりゃそうよ! そんなこと言われたらレッツせっですわ!」
「え? でもこれ、もうページ終わってない?」
「うそうそうそ! あ、マジだ! え? 二巻構成? これ前編?」
「あー、ズルいわぁー。この引き方はこれ。ずっるいわぁー」
「いやぁあああ!! もぉさぁあああ!! なんで!? なんでこんな・・・ゆるせないっ! こんな引き方・・・気になる・・・法が許しても私が許さない!」
「うわぁ、これ次の発売日来週って書いてあるわ」
「はいはいはいはい、でたでたでた! 商売上手ですわぁー! もぉー! はぁーもぉー!」
モモコ(仮)はため息をつきながら、最寄りのベッドにだいぶしました。
何らかのボディーランゲージをしなければ、高ぶりが抑えられなかったからです。
それを見ていたヨシコ(仮)に、ふと疑問が沸き起こりました。
「エチエチシーンのベットってさ。もっとでかくない?」
「え? いや、男子寮のベットってこんなもんでは?」
「でもその薄い本のベットってほら」
「ほんとだ。男性二人がこんな。まるで大海で泳ぐように」
「でもそのベットって案外小さいよね」
確かにこの部屋のベットは案外小さなものでした。
モモコ(仮)が普段使っているものと同じ程度でしょう。
これでは薄い本のように、ダイナミックなアクションはできないはずです。
「やっぱフィクションだから」
「念のために、大きさの確認してみようよ」
「どうやってです?」
「パンツを並べて」
「おういえぇ・・・」
ヨシコ(仮)のアイディアはこうでした。
ベッドにおパンツを並べることで、その数から面積を割り出そうというのです。
何を言っているのかわからないと思いますが、当人にもよくわかっていませんでした。
二人ともストロング系チューハイを飲みまくっており、完全に酔っぱらっていたのです。
もはや論理的にものを考えることなど不可能でした。
なぜベットの広さを図るのにパンツを並べるのか?
そこに、おパンツがあるから!!
「も、マジ、マジでおパンツ並んでる! あははは!」
「やばいやばいやばい! あはははは!! あー! あご! 笑いすぎてあごの付け根痛い!」
不幸なのは、部屋に侵入された独身騎士でしょう。
部屋を漁られて食べ物を奪われた挙句、パンツをベットに並べられているのです。
訴えれば勝てること請け合いです。
モモコ(仮)とヨシコ(仮)が、そんな風にヤバいテンションで騒いでいるときでした。
「うわぁああああああん!?」
突然、何者かが部屋に転がり込んできたのです。
「な、なにやつ!?」
それは、なんかファンタジー作品に出てくるエロい感じの衣装を着た、妖艶な美女でした。
いかにもな感じのエロいおねぇさんが地面を転がってくる姿は、かなりのシュールさです。
「なになになに!? ほんとに何!? 意味わかんない意味わかんない!」
「くっ! 己、貴様ら! 私がここにいると知っていて、姑息な手を!!」
全く何のことだかわかりません。
ただ、なんかおねぇさんが名乗ってくれそうな感じだったので、モモコ(仮)とヨシコ(仮)はとりあえずツッコミを保留しました。
「私は魔王四天王の一人、悪魔騎士様にお仕えするな七つの大罪の名を持つ直属部隊、大罪悪魔七連星が一人、淫猥を司るサキュバス!」
「へぇ・・・サキュバスっているんですね」
「初めて見るわ」
「騎士団が遠征訓練をしているというのでここに侵入し、罠を仕掛けようとしていたのだが、まさか私の種族的特性である自分の意思にかかわらず強い淫気に引き寄せられるというのを利用し、おびき出されるとは!」
「いんきってなんでしょう」
「淫乱な気迫的な?」
「あー」
「しかし! 周りにいるのはお前ら二人だけのようだな! ここでお前らを始末してしまえば、計画は多少変更する必要があるものの対極に支障なし! 覚悟するがいい!」
こちらが何も言っていないのに、なんやかんや全部説明してくれました。
どうやらこのサキュバスはいい人のようです。
「どうしますか、ヨシコ(仮)さん」
「乗っていこう、このビッグウェーブに」
なんかこのテンションに乗っかれば、独身寮に侵入したことをごまかせそうな感じです。
ここは勢いに任せて、何やかんやうやむやにして手柄にしてしまおう。
わずかな言葉のやり取りでしたが、モモコ(仮)とヨシコ(仮)の間で、そんな相談が交わされていたのです。
「そう上手くいきますかね! 既に貴女は敵地で袋のネズミ! しかも目の前にいるのは、神様が異世界から遣わした聖女! それも二人もいるんですよ!!」
「大人しく観念しろやぁ!!」
様々な場面に瞬時に適応する能力。
モモコ(仮)もヨシコ(仮)も、その能力に関してはスバ抜けていました。
何しろ、異世界に来ても動じない二人です。
この程度の事態に、即座に対応できないわけがありません。
「ふ、吠えていられるのは今のうちだけだ! 喰らえ、理性崩壊ビーム!!」
「うわぁあああ!!!」
「まぶしっ!!」
サキュバスの目から迸ったビームは、相手の理性を崩壊させ、欲望のままに行動させるという力を持つものでした。
これにより、大半の人間は意味不明な行動をとり始め、戦闘不能に陥るという極悪な代物です。
ですが。
「ん? え、光るだけ?」
「なんもかわってないけども」
「ばっ?! ど、どういうこと!?」
モモコ(仮)とヨシコ(仮)は、元々欲望を解き放っていたのです。
欲望に打ち勝つ唯一の方法は、欲望に忠実であること、などという言葉がありますが、まさにそれを地で行っていたのです。
二人はすでに限界まで欲望を解放していたので、今更少々理性を破壊された程度では、びくともしません。
「どうやら、聖女である私達には利かなかったようですね」
「聖なる光に満ち満ちちゃってるからね」
全くそんなことはなかったのですが、ツッコミを入れてくれる人は皆無でした。
「くっ! 私の能力は大半が精神異常系なのに!」
相性が最悪でした。
ク〇バジムに水タイプポケ〇ンだけで来てしまったようなものです。
このままでは、ヤヴァイ二人にめちゃめちゃにされてしまいます。
サキュバスさんは仕方なく、苦肉の策に出ました。
「くっ! 物理戦闘は苦手だっていうのに!」
サキュバスさんの持つ物理系特殊能力は、本当に特殊なものでした。
「戦闘職相手にはあんまり意味ないんだけど……食らいなさい! 手からローションが出る能力!!」
ぬるっぬるのローションを相手に浴びせかけ、行動を阻害する能力だったのです。
相手の動きを邪魔する、実にサキュバスらしいアイテムチョイスです。
なぜローションがサキュバスらしいのか分からない人は、保護者の方に聞いてみることをお勧めします。
「いやぁああああ!?」
「なにこれぇええ!?」
流石のモモコ(仮)とヨシコ(仮)も、これにはびっくりです。
全く反応できぬまま、全身にローションを浴びてしまいました。
ローションの噴出速度はかなり遅く、のったりとしたものでした。
本職の騎士などならば、まともには浴びなかったかもしれません。
ですが、モモコ(仮)もヨシコ(仮)も、普段から運動をしているタイプではありません。
むしろ、横っ腹とかが気になる感じのアレです。
運動神経はさほどよろしくなかったのです、が。
「どうだっ! ぬるっぬるがまとわりついて体が重くなるうえに、足が滑ってまともに立つこともできまい!」
「ひぃいいい!! めちゃめちゃ動きにくいうえに立てないですよこれ!」
「あ、私立てるわ」
ぬたぬたになっているモモコ(仮)とは対照的に、ヨシコ(仮)は普通に立ち上がりました。
これにはサキュバスさんも、モモコ(仮)もぎょっとし目を見開きます。
一体なぜこんなことが。
悩むヨシコ(仮)でしたが、すぐに答えはわかりました。
「そうか、あのスキルカードのおかげだ」
レアリティN・ぬるっぬるのローション塗れでも滑らないで歩ける
孤児院でゲットしたあのスキルカードが、ここで役に立ったのです。
ヨシコ(仮)はニヤリと笑うと、サキュバスさんをねめつけました。
サキュバスさんが「ひぃっ!」と小さな声で悲鳴を上げます。
それを隙と見たモモコ(仮)が、地面に転げながらも攻撃に移りました。
高圧をかけて硬化させたプロテインを手に出現させ、サキュバスさんめがけて投げつけます。
「プロテイーン! トマホーク!!」
斧のような形状に押し固められたプロテインは、放物線を描き飛翔。
サキュバスさんとは関係ない、明後日の方向へすっ飛んでいきました。
投擲武器というのは、案外扱いが難しいのです。
「むきいいい! じゃあ、こっちだ! プロテイーン! ビーム!!」
大量の粉プロテインがモモコ(仮)の手から放たれ、サキュバスさんを襲います。
「ひみぎゅっ!!」
大量の顆粒は、さながら洪水でした。
サキュバスさんは廊下へと押し流され、ほど近い窓から外へと弾き飛ばされます。
すかさず、ヨシコ(仮)がその後を追いました。
手には、ガチャでゲットした物干しざおが握られています。
ヨシコ(仮)は手のひらからストロング系チューハイを噴出させると、その勢いを利用して一気に跳躍。
窓の外へと躍り出ました。
非常にもったいないストロング系チューハイの使い方ですが、生き死にがかかった場面です。
自分がサキュバスさんにあれやこれやされるかもしれないとなれば、手のひらから無限に出るストロング系チューハイを噴射してジャンプすることも厭わないという人が大半でしょう。
もったいなさと命を天秤にかければ、大体命の方に傾くのです。
「うおらぁあ!!」
サキュバスさんが立ち上がろうとする、その隙もあらばこそ。
ヨシコ(仮)は渾身の力で、物干しざおを叩きつけました。
その攻撃に怯むサキュバスさんですが、流石魔族。
ほとんどダメージはありません。
ですが、ヨシコ(仮)もそんなことは先刻承知です。
元居た町からここに来るまで、ヨシコ(仮)は様々な魔物と戦ってきていました。
それによって、ヨシコ(仮)のストロング系チューハイ遣いは研ぎ澄まされていたのです。
「まだまだぁ!!」
ヨシコ(仮)酷くネトネトしたストロング系チューハイをサキュバスさんに浴びせかけました。
異様に粘性の高いそれは、もはや液体というよりスライムやゲルの類のようです。
「うっ! なにこれ!? アルコールに、甘い臭い?」
「ストロング系チューハイから炭酸成分を極力抑えて、糖分とアルコール度数をマシマシにした粘性のある液体だよ。糖分っていうのは要するに炭素で、それに可燃性のアルコールがガッツリ混ざってるものが、体にべっとり」
ヨシコ(仮)はニヤニヤ笑いながら、ポケットからライターを取り出し、火をつけました。
そして、それをサキュバスさんに向かって投げつけたのです。
何か起こるかは、火を見るよりも明らかです。
まあ、実際の火の手が上がったのですが。
「ぎぃやあああああああ!!!」
「ストロング流チューハイ術 二十三式 火糖封月。そう簡単には逃げ出せないっつーの」
「その技名、前からあったんですか?」
「ううん。今考えた」
なんとか這い出てきたモモコ(仮)の質問に、ヨシコ(仮)は正直に答えました。
流石に、騒ぎが大きくなり過ぎました。
物音と炎の光を見て、基地内に残っていた騎士達が集まってきます。
流石というかなんというか、あれだけ派手に燃やされたにもかかわらず、サキュバスさんは生きていました。
火にまとわりつかれながらもなんとか逃げようとしましたが、流石に本職の騎士達に囲まれてはどうしようもありません。
「くっ! あと少し、あと少しで騎士共の部屋に、性転換or幼児化トラップを仕掛けることができたというのに!」
「んなっ!?」
「なんて?」
悔しそうに歯噛みするサキュバスさんの言葉に、モモコ(仮)とヨシコ(仮)は愕然としました。
そんなものを、そんな美味しそうなアイテムを仕掛けると知っていれば、こんなことはしていませんでした。
共に手を携え、騎士達をTSさせたり、ロリショタ化させたりして楽しむ道もあったのです。
「なんで、なんでこんなことに!」
「ヒドイ、あんまりだ……知っていれば……知ってさえいれば、こんなことには……」
涙にくれるモモコ(仮)とヨシコ(仮)でしたが、割とそんな暇もなさそうな感じでした。
「で、アナタ方は?」
「え? あ、いえ、私はほら、モモコ(仮)ですよ、モモコ(仮)」
「ん?」
モモコ(仮)もヨシコ(仮)も、ローションでぬっとぬとになっていました。
ゆえに、人相が全く判別できなかったのです。
「ちょっ! マジかよっ!! 違う違う違う! ちょっと、拭くもの持ってきて! 布とかタオルとか!!」
「話は取調室で聞くから」
「ちょっと、モモコ(仮)ちゃん! 私関係ないって! 私関係ないって言ってやって!」
結局、モモコ(仮)もヨシコ(仮)も、連行されることとなりました。
残念なことに、非常に的確な判断と言わざるを得ないでしょう。
二人が連行されているころ。
基地の外では、孤児院の子供達がヨシコ(仮)の帰りを待っていました。
ですが、流石に火の手が上がったり大きな音がしたりで、異常事態が起きていることを察知しています。
「どうするよ、ブッチ」
「どうするもこうするも。宿に戻って寝よ」
「ヨシコ(仮)はどうすんだよ」
「放っといても平気だよ。ヨシコ(仮)だし」
「そっか。ヨシコ(仮)だもんね」
「寝よ、寝よ」
孤児院の子供達は、ぞろぞろと宿へ引き上げていきました。
ちなみに、ヨシコ(仮)の部屋は、元々とってありません。
どうせこんなことになるだろうと、予想していたからです。
ヨシコ(仮)が聞いたら怒り狂うでしょうが、まぁ、まず問題はないでしょう。
結局、モモコ(仮)とヨシコ(仮)の二人は、拘置所で一晩ほど御厄介になることとなった。
ぬっとぬとのローションをようやく落とし、釈放されたのは翌日の昼頃になってである。
「いったでしょ!? 私とヨシコ(仮)さんの聖女コンビで、アイツをつり出してぶっ叩いたらぁよ! って感じでやっつけたんですよ! おびき寄せ作戦だったんです!」
「そうだそうだ! ふたりは聖女きゅあなんだぞ!」
「このふんどしだって、あのドスケベエチエチ生命体であるサキュバスを誘い出すために用意したんです! そんな、私が趣味でおパンツとふんどしをすり替えようとしただなんて、根も葉もない!」
「そうだそうだ! 火の無いところに煙は立たないんだぞ!」
二人は勢いで誤魔化しながら、そそくさと逃げ出しました。
一応、公式に聖女という立場にある二人です。
美味いこと誤魔化しさえすれば、後ろをほじくり返されることもありません。
恐らく、こんなに聖女の立場を悪用している二人組も、そういないでしょう。
無事に窮地を切り抜けたモモコ(仮)は、この事態を最大限に生かすことにしました。
戦いでぬるぬるにされた独身寮の備品を新しくするという名目で、おパンツとふんどしをすり替えたのです。
正式な配備ですから、騎士達も嫌とは言えません。
その素早く的確かつ悪辣な手腕は、まるで悪魔のようでした。
もちろん、新しく配られるふんどしの中には、赤フンも混じっています。
マッスル赤フンが闊歩する独身寮。
早速観察に赴こうとするモモコ(仮)でしたが、そう上手くは行きません。
何しろ男性騎士達がいる独身寮ですから、そもそもモモコ(仮)には近づく理由がなかったのです。
よしんば用事を作って入り込めたとしても、下着姿でうろついている騎士はいませんでした。
いくら独身寮とはいえ、いえ、むしろだからこそ、規律を重んじる騎士団では、衣服まで厳しくチェックされるのです。
自室の中だけならばともかく、廊下まで下着姿で出歩くようなものはいませんでした。
「くっ! こうなったらあのサキュバスの人を解放して独身寮に送り込み、暴れさせるしかっ!! でもさすがにそれはだめか!?」
いつまでモモコ(仮)の理性が持つのか。
神のみぞ知るところだったのです。
無事に孤児院に戻ったヨシコ(仮)は、死にそうな顔で机に向かっていました。
周囲は鬼気迫る表情の子供達に固められています。
「おらぁ! 早くかけよぉ!」
「締め切り何時だと思ってるんですかぁーあ!?」
「指止めてんじゃねぇーぞおらぁあああん!」
子供達は皆、鬼編集者と化していたのです。
実はライトノベル作家だったことが今回の件でばれてしまったヨシコ(仮)は、モモコ(仮)に頼まれて久しぶりに短編を仕上げました。
それはモモコ(仮)の伝手ですぐさま製本され、同人誌として発売されたのです。
大ブレイクでした。
刷れば刷っただけ売れ、待ちが出るほどになったのです。
酒、睡眠、ゲームというすさまじく怠惰な生態を持つヨシコ(仮)でしたが、その生きざまからはとても想像がつかない様な作品を生み出すのです。
繊細な心理描写で描かれる恋愛ものから、血沸き肉躍る特殊能力バトルものまで。
とてつもなく幅広いジャンルをカバーしつつ、そのどれもが面白い。
恐らくヨシコ(仮)はほかの能力をすべて捨て、小説を書くことに極振りしたステータスを持っているのでしょう。
まるでダメな大人丸出しなヨシコ(仮)が、目を見張るほど美しく素晴らしい作品を紡ぐ様は、「カイコが絹出してるのにクリソツだな」とブッチに言わしめるほどでした。
ですが、そんな書くことだけに特化したヨシコ(仮)にも、弱点がありました。
書かないのです。
目の前にエサをぶら下げ、尻を叩かない限り、ビタ一書かないのでした。
理由はもちろん、「メンドクサイカラ」です。
まったく書かないわけではないのですが、その執筆速度はカメの歩み。
ストロング系チューハイを飲んで寝て起きて飯を食べてストロング系チューハイを飲んで寝て、起きたらちょっとだけ書いてまたストロング系チューハイを飲んで飯を食べてストロング系チューハイを飲んで寝る、といった具合です。
ですが、皆で圧をかけると、どうしたことでしょう。
それまでのサボりが嘘のように、割と真っ当なペースで小説を書き始めるのです。
世の中にはいろいろな人間がいるものですが、どうやらヨシコ(仮)は、圧をかけられないと筆が乗らないタイプなようなのです。
そして、文句を言われても全く聞く耳を持たず、むしろ別のことを考え、その時に小説のアイディアが閃く、という奇怪な特性まで持っていたのでした。
人それぞれとは言いますが、ここまで来るともはや怪談の類です。
「まったく、どうなってんだよホントに」
「こっちが聞きたいよ。でもヨシコ(仮)が書いたものを渡すのが、支援金貰う条件何だしさ」
「くそ! 金払い良いからなぁ、騎士団!」
騎士団からの献金の条件は、ヨシコ(仮)の小説を渡すことと決まったのです。
かなりいい金額を頂けるだけに、子供達も必死でした。
「はぁー、うるっさいなぁー。ったく、あ。このネタいけるかな? んー」
「よし、いいぞヨシコ(仮)! いけいけいけ!」
「来てる来てる! でっかいアイディア来てるよ!」
「ちっちゃいドラゴン乗せてんのかいっ!!」
「これかき終わったら、またモモコ(仮)ちゃんところ遊びに行こっかなぁー」
そんなことを言いながら、ヨシコ(仮)はストロング系チューハイを飲むのでした。
ひとまず落ち着いたモモコ(仮)とヨシコ(仮)でしたが、ソシャゲはまだ終わっていませんし、生活もしていかなければなりません。
この二人のことですから、この先も確実に碌なことはしないのですが。
それはまた別のお話です。
いきおいでやった
後悔はしていない
いや、どうだろう
予想外に長くなりましたけど、まぁ、楽しんでいただけたようでしたら幸いです




