第四話
この学校は超能力の研究機関付属だ。だから当然と言っていいかは分からないが、超能力に関する授業は多めで、座学から実践的なものまで幅広い授業があり、さらに能力別の授業が行われる。
さすがに個別指導がつくのは一部特殊な能力だけだが、能力で分けられたクラス別の授業は存在している。
また、能力別の授業は希望すれば別の授業も受けることができる。ただし一年生の間は不可なのだそうだ。一年生の間は一つに集中しろと言うことなのだろう。そもそも大半の人にとってはどうでもいい事柄だ。普通余分な授業を受けようとは思わない。
さて、うちのクラス、操作系Bクラスは、名前の通り操作系に類する能力者が所属しているので、それを研究し伸ばすような授業が行われる。
と言っても別段特殊なことはない。例えば今から行われる授業は、体育でやるのと同じようにサッカーをするだけ。ただ能力を使ってボールに干渉することはOKという特殊ルールが加わっただけだ。
前もって座学でルール説明をしたり、個々人の能力を聞いておいて、事故が起こらないようあらかじめ危険な使い方を制限したりしている。そういう事前準備に時間をかけるところや、座学と実践の距離が近いところが他の授業と違うところか。
そういえば、私の能力についてちょっと言い忘れたことがあった。私の能力が『幸運』といえるものだという話はしたと思うけど、この能力は一応能動的に使うこともできる。何かしら目的を定めて能力を使おうと意識すると、幸運を得るための行動がなんとなく分かるというものだ。当然だが得られる幸運には限度があるし、ひらめくのはほんのわずかな時間で達成される具体的な行動だけ。なので、例えば受験を合格するためにどうすればいいのか、などと考えても特に答えは出てこない。能力が「まじめに勉強せいや」と言ったりはしないが。
分かりにくければ、現時点で幸運さえあれば達成可能な出来事を起こす、みたいな感じだと思ってくれればいい。
ただし、使いすぎると頭痛がしてくるという欠点がある。
微妙に使い勝手が悪いと言えなくもないが、実はとても強力で使用用途がとても広い。また成功率が高く、ひらめいた答えを実行すれば、基本的に目的は達成される。
答えは光景が見えたりするのではなく、とても感覚的なものなので、それの理解がずれたりすると失敗することもある。最近はこの能力になれてきたのもあって、そういうのもなく百発百中で成功している。
今、『得点を入れるためにはどうすればいいか』という考えに、『ある位置にあらかじめ立っておき、パスを受けて反転、そのままシュートする』という答えをひらめいた。
私はてくてくとその位置へと歩いて行く。ゴールの数メートル手前、真ん中よりは少しずれた位置。目指す場所の近くには敵チームの生徒が一人ぼけっと立っていたが、特に気にせず配置についた。
カチリと何かがはまる感覚。ここにいれば大丈夫だ。
ちょうどそう思ったとき、背を向けて離れていく背中が見えた。すぐ近くにぼんやりと立っていた生徒、白井だ。
白井はそのままフィールドの端まで歩いて行き、くるりとこちらを振り返った。
目が合った。と思ったら、ふいっと興味なさそうに私から目線を外した。
取り立てて嫌な態度というわけではないはずなのだが、なぜか自分の感情が乱れるのを感じた。私は努めてそれを無視し、ボールの方へと目をやった。
「最上!」
ちょうどその時飛んできたボールを、誰からのパスかも確認せずに私の足は踏んづけて止めていた。
(くるりと振り返って――シュート!)
私の蹴ったボールはゴールキーパーの真正面に飛んでいき、地面にバウンドしたと思うと急角度で跳ね上がって、ゴールの左上に突き刺さった。
ワッと歓声が上がり、友人たちが駆け寄ってくる。その際に手を上げて走ってきたので、パンと小気味よい音を立ててハイタッチを交わした。
すごいね、どうやったの? と聞かれ、運がよかっただけだよと苦笑しながら答える。
私は笑顔で「さあ次いこう!」と声を上げた。