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たった一度だけ、助けられたから。  作者: 深葦田司郎
序章 絶望から救われたことはありますか?
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第零話


 絶望、というものを経験したことがある人はどれくらいいるだろうか。

 少なくない人が経験している気もするし、そうでない気もする。

 しかしその中で、絶望してもなお諦めきれず、無駄だと分かっている努力を続けてしまう。そんな経験がある人はどのくらいいるのだろう。

 一部の人には、『諦めていないんだから絶望していないのでは?』と言われてしまうかもしれない。でも、そうじゃない。

 例えば、今から三日後のちょうど正午に、あなたの命が終わることを知ってしまった。それはどうあっても変えることはできず、変えられないということも理解してしまった。

 まさしく絶望だ。望みはない。

 あなたはどうするだろうか。いつも通りの日常を続ける? やり残したことを少しでも片付ける? 何をしても無駄だと寝て過ごす?

 理解してはいるのだ。もう未来なんてないと。でも、だからといって、ただそれを受け入れることはできない。だから、中途半端に、本気で助かるとも思っていないのに、生きようとするのをやめられない。

 いろんな人がいるだろう。そしてその中に、理解してもなお、未来を諦められない人がいるのかもしれない、という風には思って貰えただろうか。

 ――私は、まさしくそんな状況だった。

 私には闇がまとわりついていた。

 逃げても、立ち向かっても、もがいても、暴れても、無駄だった。自分にできうるありとあらゆることを試してみたが無駄だった。

 助けももちろん求めた。でも無駄だった。何人もの人が助けようとしてくれたが、闇に飲まれて消えるか、闇に染まってその一部になるだけ。


 こうなった原因は、自分の不注意だった。特に深く考えもせず、自分の『能力』を使っていたからだ。

 気づいたときには遅かった。もう既に、闇に捕捉されていた。

 闇はゆっくりと、だが確実に這い寄って、私の周囲を覆い尽くし、逃げられない私をむさぼり喰らう。

 喰われる私は弱っていって、もう既に、絶望していた。

 私の中には、もう完全に諦めた私と、それでも諦めきれずにいる私がいる。そして、諦めない私は、既に無駄だと確認した行動をただ繰り返していた。

 なぜなら、もう既に、私にできることは全部試したからだ。ただ、時間や状況が変われば、もしかすると何かが変わってくれるかもしれない――希望を抱いているわけじゃない。ただ、そう思って何か行動せずにはいられなかったのだ。

 何か奇跡が起きて、状況が好転するかもしれない。そんな風に「言い訳」をして、私はただただ惰性で、もがいていた。

 でも、もうそれも限界に近かった。

 自分ではどうすることもできないと悟ってしまったとき、助けを求めること以外にできることがあるだろうか。

 だがその声に(こた)えてくれた、自分が足下にも及ばないような力、権力や能力を持った人たちが、私を助けようとして闇に沈んでいく。

 そんな光景をまざまざと見せつけられて、絶望しない人がいるのだろうか。

 絶望は、心を殺す毒だ。体はまだ元気でも、心が死ねば、動けなくなる。

 そして私はもう、ろくに動くことができないくらいに、毒が回りきっていた。

 ――――だから、そう。ここまで弱り切っていたときだったから、その光は、とても鮮烈だった。

 それはずいぶんと久しぶりに感じた光だった。

 周りの闇と比べれば、あまりにも小さな光。――星の光。

 たった一つの星が、闇を切り裂いて、夜空に輝いていた。

 久しぶりに感じた光はとても暖かくて、涙が出るほど嬉しくて。

 だから私は、拒絶した。

 どうせ無駄だから。闇に飲まれるだけだから。たった一人で、何ができるというのか、と。

 その光が、闇に飲まれるのが怖くて。希望にすがって、また絶望するのが怖いから。

 だけど、その星は、とても頑固で、意地悪で、理屈っぽくて……やさしくて。


――知らねーよ。俺は俺の価値観に従って行動してるだけだ。それに文句があるってんなら、せめて法律くらい味方につけてから出直すんだな

――お。泣いてんのか? お前が泣いてるといじめたくなるな。――いてっ、おいやめろって、冗談だよ!


 大胆不敵で、嫌みっぽくて、……臆病で。


――ったく世話のかかる……。お前はどっかの姫かなんかか? こういう流れにのんのは不本意だが……助けに来てやったぞ

――嫌だよそんなの。だって怖いだろ? こっちが相手のことを知らないのに、相手に知られてるなんてさ


 そして、私がその星のことばかり考えている間に、いつの間にか闇は消し去られていて。


――おう、じゃあな。一応、お前の幸せを願っといてやるよ


 私を光の下へ連れ出した星は、私を置き去りにして、光に紛れて消えていく。

 私がどれだけ感謝しても、どれだけ恩を返そうとしても、受け取らずに立ち去ろうとする。

 どれだけ感謝しているか、分かっているのだろうか。どれだけ救われたか、分かっているのだろうか。……まあ、分かっていても、この星は受け取らないだろう。こいつはそういうやつなのだ。

 だから、私もこの星を見習って、勝手にすることにする。

 そう、好きにするのだ。私がしたいから、恩返しをする。それに文句があるというのなら、せめて法律は味方につけてもらわないと。そうでしょう? お星さま。

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