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けいかく






「貴方に関わるとろくな事がないので出来たらなるべく離れていたいのですが」


「それは本当に申し訳ない」


「ですが、王太子殿下がしばらく滞在なさるとなると……それなりに婚約者らしくしていないと……」


「それについても申し訳ない……」



がばり、と頭を下げたフェリル・マーデリックを横目で見て、咳払いをひとつ。

この素直すぎる返答と口調は考えものだ。調子を崩される、というか貴族と話している気がしない。彼女自身も言っていたが明らかに人間関係の経験が無さすぎる。



……となると、目下の問題は、



「両国親睦会……」


「親睦会?」



五日後に開かれる親睦会という名のつまるところパーティーだ。

当然、僕は彼女と共に参加しないといけないだろうが、さっさと帰るのならば、体調不良とかなんとか言って彼女を参加させない手もあった。

しかし更に数ヶ月居るとなると、その後に出会う確率が非常に高い。高いというかずっと接触を避け続けていたら怪しい。


僕の婚約者だったら普通城に上がって当然教育を受けていて然るべきだし、お茶会や舞踏会に参加して当然。ましてや開くぐらいしているはずなのだから。



首を傾けて疑問符を大量に浮かべながら頭の悪そうな顔をしているこのフェリル・マーデリックにそんな事させられるわけがない。……いや、こうなればさせるしない。


「おーーい」



どうにか貴族らしさを叩き込んで数ヶ月だけでもそれらしく見せれるようにしなければ……さすがにあの王太子殿下も馬鹿ではないだろう。

ザイオンの後継者争いは血で血を洗う骨肉の争いだと聞く。それを勝ち抜き王太子の座についている男を騙し通せるのか……?



「おーーい」


今はちょっと……いや、かなり、いや、大分おかしい令嬢だと思っている止まりだとしても、会う回数が増えれば増えるほど嫌疑をかけられるのは必至。



「おーーい」



「……なんですか、聞こえてますけど」


「あ、聞こえてたのか。意識飛んでるかと思った」


「考えてたんですよ、これからどうするか」



主にあなたをどうするかですけどね!



「貴方を五日以内にとりあえず見れる令嬢に仕上げなければいけないんですよ」


「見れる?」


「普通の、ということです」


「ああ、あのブリブリした上目遣いで……」


「あのおぞましい仕草は忘れてください」



非常に神経を逆撫でするから。

というか、この彼女を見る限りあの日変な入れ知恵をした者がいるはずだ。どこの誰かは知らないが何のためにあんな……。僕に嫌われる為??……いやいや、そんなことして一体なんのメリットがあるんだ。まあ、もしそうだとしたら大いに成功だけれど。


彼女が今のこの頭の悪いアホな弟みたいな感じであればあそこまで蛇蝎のごとく嫌悪感を覚えることは無かったかもしれないのに。


…………いや、考えすぎか。


「あれやっぱ失敗だったのか〜」と顔を抑えているこのフェリル・マーデリックを一体どうするか。……いや、どうにかするしかない。




僕が。





「公爵家に僕が見繕った城の家庭教師を派遣します。大丈夫です、実績と信頼は確かにあるお方です」


「え?」


「貴方は五日で貴族令嬢としてのなんたるやを学び身につけてください」


「え、……待ってくれ、何の話……。というか家庭教師?なら家にはシーフーが」


「申し訳ないですが、貴方の身内は信用なりません」



なにしろ、公爵令嬢をここまで自由に(よく言えば)のびのびと(さらによく言えば)育て上げた環境である。

どうなるかなんて目に見えている。それにおかしな入れ知恵をした人物の目的もいまいち分からない。そして肝心な公爵は頼りにならな……お疲れでいらっしゃる。



「というか、何故そんなことになったんだ」





「……何故?? 貴方、今のままでいいのですか、ポンコツだのアホだの見掛け倒しだのなんだの、他人に言われたままで!」



「見掛け倒し……は、はじめて言われたんだが……」


顔が引きつる彼女に構うことなく僕は言葉を続ける。


「人間関係をうまく構築できないなら、できるようなノウハウを学べばいい。馬鹿にするものも嫉むものも、自分を嫌うものもいます。当然です。貴方は公爵令嬢ですから。

ですがそれを躱す技も見返してやれる方法もあります。貴方の過去に何があったのかは分かりませんが、もしそれを学ばず努力せず、逃げた結果が今なのだとしたら、それはただの怠慢です」


「怠慢」


「あ、意味分かりますか」


「馬鹿にしてるのか」


「多少は」


「…………なんかイキイキしてるな。ユーリウス殿下そんなんだったか?」


「気のせいです。私はもともとこんなんです。貴方が私を知らないだけです」



「うむ、そうか」




イキイキしてる?

確かに苦しさはそういえばどこかに行ったな。何故だろう。フェリル・マーデリックと2人きりでこんなに話しているのに。




その後、若干引き気味のフェリル・マーデリックを勢いで頷かせた時は少し気が晴れた。……なんか僕性格悪くないか?……いや、気のせいか。



モヤモヤしなくなったかと思えば自問自答ばかりの自分に蓋をして、マーデリック家の迎えが来たと連絡が来た時にはもう空は夕日に染まっていた。



やってきたマーデリック家の執事に彼女を引き渡すと、やたらと長身の人形みたいな執事は猫のように細めた何かゾッとするものを秘めた笑みを向けて「お手を煩わせたようで申し訳ございませんでした」と恭しくお辞儀した。


なにかどす黒いものを背負っている男のセリフの頭には「私のフェリルが」とでも付きそうなニュアンスが込められていた気がして僕はまた謎のモヤモヤに苛まれることになる。

まあ、あの態度は普通にモヤモヤするか……。




というか、あの執事一体なんなんだ。



本当にただの執事なのか??





……まさか、変な入れ知恵をしたやつってアイツなんじゃ……。




僕は執事のあの切れ長の瞳を思い出し身震いをした。










いつもありがとうございます!

ユーリ視点はとりあえずここで終わります。

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