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じごくとじごうじとく



「どうしてこんなに時が経つのが早いんだ……」



城の一番豪華そうな応接室の前でユーリウス殿下が呟いた。

それに関しては全くもって同感だ。馬車の中で私たちは一言も話さず、重すぎる空気に吐き気がしたがそれなのにここまではあっという間だった。なんという魔法を使ったんだこの男。



気がつくとこの応接室の前で衛兵たちに気まずそうな視線を送られながら金ピカの取っ手を眺めている。

入られないのですか?とばかりに口を開こうか開くまいかを何度か繰り返した右側の衛兵は居心地悪そうに視線を逸らし左側の衛兵は冷や汗がすごい。わたしたちは一体どんな顔をしているのだろうか。まあ多分というか確実にいい顔では無い。顔色が悪い自信があるしわたし達の間に流れる空気はそれはそれは険悪だ。



「……わたしは死ぬのか」

「……その時は私も一緒でしょう。不本意ながら」

「ひっ!!」



ようやく会話をした私たちの声音は思ったよりもずっと地を這う様で、右側の衛兵が飛び上がった。申し訳ない。



「……巻き込んで本当にすまん……これ、行かないとダメだよな」

「ええ、本当に。行かないとダメに決まってるでしょう。中で王太子が首を長ーーーーーーくして待っておられます」

「…………そう、だよな、、」

「……はぁ」



ユーリウス殿下が俯いて溜息をついた。申し訳なさ過ぎて、もうどうにかなりそうだ。

これがもし終わって、問題が解決した暁にはこの冷たい目をした男の為に何でもしてやろう。身分違いの恋を全力で応援しよう。片が付こうが付くまいがこいつはわたしの恩人で、大迷惑をかけた可哀想な奴だ。申し訳ないな……。



……まあ、その前に生きていられればの話だが……。



「開けますよ。……気は進みませんが」

「…………ハイ、オネガイシマス」







もう一度溜息をつき、ユーリウス殿下は顔を上げた。そこにはもうすでにいつもの美しくも冷たい笑みが張り付いていて、こいつ本当に器用なやつだなと、場違いにも感動した。






ーーーーーーーーーーーー




「お、待っていました! 全くどうしてここの国の方々は秘密主義ですよねー、全然情報を教えて下さらない。…………ん?? あれ、ユーリウス殿下と、、フェリル?」



扉を開けた瞬間、ばっと立ち上がり両手を広げてこちらに歩いてくる男。



今日も今日とて派手な赤い髪に耳と胸元を飾る装飾品。服装はこの間よりは随分シンプルになったが、赤と金を基調にした軍服のようなそれ。この国に比べたら随分と華やかで豪奢だ。

つり上がった切れ長の瞳を細めて、笑う口元からは犬歯が覗いている。


シュウ・ジェンシー王太子殿下がわたしに気づき、首を傾ける前に地面を蹴りあげごてごてとした動きづらいドレスの裾を払いわたしは飛び出した。



「この度は、本当に!! 大変、申し訳ございませんでしたぁぁぁあ!!!!」







そのままの勢いで王太子の前に膝をつき、首が折れそうなくらい頭を下げ、声を張り上げる。

声が震えそうなのをどうにか抑えて言い切ると、すかさず両手を突いて、額を地面に擦り付けた。



「この通り!!!! 全てはわたしの頭が悪いせいなんです! この国は全く関係ないし、あそこにいるユーリウス殿下も関係ないです! 本当に申し訳ございません!! 全部わたしのせいなので、こ、こここ殺すならどうぞ、このわたしをっ!!」


「え、いやいや怖いって。……え、なに? なに? どういうこと? え、怖」


「……フェリル・マーデリック」



王太子が慌てふためいている様(ドン引きで)も、ユーリウス殿下が声を震わせて(怒りで)頭をかきむしっている様も全くもって気が付かないわたしは尚も頭を擦りつけていた。



「いや、本当にすみませんでした。わたしが悪いんです。ついうっかり勘違いして、ネリーかと思っちゃいまして、その……悪気は無かったんです。知能も無かったんですけど。それは仕方ないって言うか、いや、仕方なく無いんですけど、お望みとあらばちゃんと貴族令嬢らしく勉強するんで、お望みとあらばもう森に引きこもって出てこないんで!!いや、お望みとあらば煮るなり焼くなり埋めるなり好きにしてもらっていいんで、だからとにかく、わたし以外は、」

「……フェリルちゃん」

「は、はひぃぃい!」




軽薄な声と共に肩を両手で叩かれ、飛び上がりながら恐る恐る顔を上げた先で、王太子は目を細めてニンマリ笑っていた。



…………それはそれはもう瞳孔が開きまくった瞳が細められた瞼から覗いてたけど。





「勘違いって、どういうこと?」

「ひ、」

「ん?? どういうことー??」



ぞぞぞぞ、と背中を這う寒気に体を震わせながら口をわなわなさせていると後ろから殺気を感じてギギギ、と顔を回す。余談だけど人間の限界くらい胴体が前を向いたまま顔が回った気がする。……あ、わたし人間じゃなかった。





「……フェリル・マーデリック……。余計なことをするなとあれほど……」



そこには冷たい笑顔を貼り付けたユーリウス殿下が震える拳をどうにか押さえつけていた。





……あ、わたし、死ぬのかも。






「貴方は人を怒らせる天才なんですか?」







親愛なるお父さん、お母さん、それから可愛い双子に初めての友達イル。…………あ、あとついでにシーフー。

今までありがとう。みんな大好きだぞ。もし、来世があるならわたしは人を怒らせる才能以外を持って産まれたいです。というか、人を怒らせないように頑張ります……。本当にすみませんでした。













いつもいつもありがとうございます!!

ブクマご感想励みになってます(´;ω;`)

いただいたご感想を読み返してにやにやする日々です(怖)

さてフェリルの阿呆はどうなるのでしょうか( ´ ` )


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