せけんばなし
「オレとネリーちゃんが出会ったのは数ヶ月前の事なんだけど、そりゃあもう災難に見舞われてねー」
「災難?」
わたしとクロウはクロウが縛り上げた男達を転がし、それを椅子替わりに路地裏で話し込んでいた。
シーフーはこの場所がきちんと分かるだろうか、不安だったがそれをクロウに話すと「うちの従者は慣れてるから大丈夫」と言っていた。
どうやらクロウは迷子の常習犯らしい。
わたしの件は多分きっと仕方がないとして、この男はそれでいいのだろうか。従者達は大変だな。同情しなくも無い。
「オレ割と力には自信あるんだよね、軍にもいたからさー」
「ほう、だから強かったのか」
「そうそう。そうなんだけど、初めてこの国に入った時、何かに撃ち落とされてねー」
「撃ち落とされた!?」
というか一体どんな入り方をしたんだ。
撃ち落とされるだなんて尋常じゃないじゃないか。
「まあ、その時も迷ってたんだけどねー。トルヴァンは小国だし平和ボケしてる国ってイメージ強かったから油断してたって言うか……あ、ごめん、気を悪くしないで、悪い意味じゃない」
「あ、うん」
まあ、悪い意味じゃないって言われても悪い意味に聞こえるけどな。
わたしは幸いにしてザイオンの歴史を学んでいるから(無理やり)ザイオン出身のクロウがそういう理由も分かるが、そうでなければどう考えてもムッとするだろう。
ザイオンは確かにトルヴァンとは比べ物にならないほどの大陸の大国で軍事力に長けた国だ。
対してトルヴァンは周りを海と豊富な森に囲まれた言うなれば自然の要塞のような形をした国である。
更に精霊の加護があると言われ不思議と小国ながら他国の侵略を許してはいない。
まあ、本当かどうかは分からないけれど、実際わたしのお母さんが精霊なわけだし本当なのだろう。
国境での小競り合いや、同盟国での争いに加勢することはあれど内乱やら大きな戦争はしばらく起きていない。
なんだ、わたし本当にちゃんと覚えているじゃないか。頑張ったかいがあったな。
「まあ、とにかく気付いたら大怪我をしちゃっててね、そこを助けて貰ったんだよねー」
「す、素敵だな……!」
「だろー? その女神のようなネリーちゃんに一目惚れしちゃって、今までは軍で忙しかったから許してもらってたとこもあるんだけど、流石に結婚とか考えないといけない歳でもあってね」
「そうか、ザイオンでもそういうのがあるのだな。身なりも豪華だし貴族か何かなのか」
「うん、そんなとこー」
どこでも同じようなものらしい。
まあ、わたしも貴族として産まれたのだから血を継ぐのが義務だとも承知しているが長らく森で過ごしていたせいで、まともな貴族の元には嫁げる気がしない。
ユーリウス殿下とか絶対無理だし、ザイオンに嫁ぐとか本当に言語道断だ。
幸い、わたしには優秀な妹と弟がいるからその辺はどうにかなるだろう。……きっと多分。
「そういうフェリルも貴族なんだろう」
「貴族っぽく見えるか」
「あー、見た目はね。というかこいつらがそう言ってたし、ネリーちゃんも貴族だって聞いてるからねー」
「そうか」
「フェリルも婚約者とかいるんだろう? 貴族なら」
頬杖をついたクロウがにこやかに顔を向ける。優しげに問うたそれはどこか大人びた表情に見えた。
「あーー、……まあ、な、一応いると言えばいる、というか」
「まあーそんなもんだよなー。オレは特別に好きな女を娶る許可を貰ってるけど貴族だったら大体政略結婚だ」
「うん、」
わたしの歯切れの悪いセリフをどう受けとったのか、クロウは視線を外し笑みを引っ込めて空を見上げた。
どこか憂い顔は多分大いにわたしの婚約者を勘違いしているだろうが説明は非常に面倒だし。そのままにさせておこう。
「わたしはでも恋というものをして、人に愛され愛して結ばれたいな」
ぐるり、とクロウが目を丸くしてこちらを見た。
呆気に取られたような表情はなんだか意外でわたしははにかんだ。
「憧れ、なんだけどな」
まあ、わたしみたいな身の上のやつにそれは無理だろうけれど。
そもそも恋どころか人とすら上手く関われずに
森に引っ込んだのだ。
そんなわたしにできることでは無い。
だからお父さんやお母さん、ユーリウス殿下やティアナ・レイクの恋に憧れるし知りたいと思うのだけど。
未だにこちらを凝視する焦げ茶の目から逃げるように俯いた。
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