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これから






「凄かったな! 感動した!!」

「はいはい、それを言うのはもう何回目だ?」

「あっと、……だって、凄かったんだみんな」



興奮が抑えきれなくて、隣を歩くイルを見上げると彼は眉を下げて困ったように笑った。

やれやれと言いたげな仕草でこちらを見下ろす彼はそう言いながらも満更でもなさそう。


三騎士合同試合は無事に閉幕した。朝から夕方まで続いた大会は終始大盛り上がりで、会場は大変な熱気に包まれていた。


わたしは、というと祭りに参加したのも騎士の試合を見たのも何もかもが初めてでとにかく興奮が冷めやらない。


実際に試合をした騎士たちが興奮してわーわーと騒ぎながらわたしたちを囲んだ時の熱が移ったのもあるだろう。

今まで話しかけてこなかった第二騎士団の団員が、気さくに「フェリル嬢! おれ、やりました!」と近寄ってきて「見ていた! 凄かったな」と一辺倒の返ししかできないことが何回あっただろうか。

その度にイルが「分かったから、あんまり近づくな馬鹿」と怒鳴っていたけれど。


結局優勝したのはジェラルド殿下の第一騎士団のベルトなんとかとかいう騎士だったが、なんと準優勝は第二騎士団のチャックだった。


大会が終わったあとに団員のみんなに囲まれ、イルがみんなを労い、怒鳴り、褒めて、最後にチャックはもみくちゃにされていた。


「戦女神のキスを!」と言ってキラキラした瞳でこちらに向かってきたチャックを最終的には「調子に乗るな」と言ってイルが抑え込んでいたけれど。


とにかく、ずっとずっと、なにもかもが楽しかった。




「合同試合が成功したのは君のおかげだよ」

「そんな訳あるか、みんなが頑張ったからだ」

「いいや、フェリル。俺はそう思ってる」


なんだかやけに真剣な声に足を止めて隣を見上げる。イルは真っ直ぐに前を向いたまま穏やかな笑みをうかべていた。


それから足を止めたわたしに気がついたのか、彼もその場に止まってちらりと深緑色の瞳を向ける。


「偶然だったが、君に会えてよかったよ」

「それは……わたしのほうこそ……」



城の廊下にオレンジ色の夕焼けがなだれ込む。

オレンジ色に染まるイルがどうしてか痛みを我慢する弟の姿と重なって胸がザワザワした。


言いたいことを我慢しているような、なにか、悲痛なそれに、胸が締め付けられる。

わたしも何かを言うべきで何かを言いたくて、だけど言葉が見つからない。なんて言うべきなのかが分からない。


わたしの様子にイルはやはり困ったように笑って頭をかいた。


……でも、そうだ。彼はこの国の王子様で、わたしは、公爵令嬢っていっても名前だけだし、そもそも第三王子の婚約者で、更にいえばここにいれるのだってせいぜいあと二ヶ月ちょっとのものだ。


いつかは、この暖かいイルと離れなければ行けない時が来る。


わかっていた事だ。わたしとイルは似ているかもしれないけれど、産まれた立場と育った環境がまるで違う。


だから、イルはこんな顔をしているのだろうか? わたしと一緒にいれなくなることを、彼も少しは寂しいと思ってくれているのだろうか、だとしたらとても嬉しい。


そう考えると胸の奥がぎゅーーっと軋んで、わたしは眉を寄せた。



「……あーー、こういうのは、俺らしくないな。考えても仕方の無いことを考えてしまった」

「イル?」

「これからの事なんてどうとでもなる」



イルがさわやかに笑って手を差し出す。なんの話しをしているのかいまいち分からないが彼は納得したらしく、うんうんと頷く。一歩近付いて彼を見上げた。



「イルは、家族以外ではじめて側にいてわたしに触れて仲良くしてくれた人間だ」

「……うん」

「イルはとてもすごい人で、王子様で、たくさんの人に囲まれていて、わたしは公爵令嬢失格だし、執事いわく猿だし、多分、ザイオンに嫁がせられないのと同じみたいに、イルのそばにいたらいけないんだと思う」

「……フェリル」

「だけど、わたしはイルともっとずっと一緒にいたい」


差し出されたままだったイルの右手がサラリと降りて彼の煌めく深緑色がぐわりと大きくなった。見開かれた瞳の中にわたしの薄ボケた水色が淡く写っている。

それがどうしようもなく嬉しかった。


固まったままのイルに照れ隠しで微笑むと、やがて眉を下げて頭を抱える。



「……まったく、君がそれをどんな意味で言ってるのか分からないが」

「どんな意味??」

「素直すぎるというか感情的すぎると言うか馬鹿というか、世間知らずというか」

「……もしかして貶されているのだろうか」

「いいや、褒めてるんだ」



首を傾げたわたしにイルは呆れたように首を竦めた。それからあの爽やかな笑顔を向ける。



「君ってやつは本当に常識が通じなさそうで恐ろしいな」

「えっと……」

「いや、別にいいんだが、まあそう思ってくれるのなら、どうとでもなるさ」

「どうとでも? ザイオンの王太子のことが片付いたあとも? イルとまたこうして話せる?」

「勿論だ。俺は君が思っているより普通のただの男だからな」

「うわっ、イル!」


イルがそう言って笑って、わたしのもう割りと崩れまくっているはずの頭をさらにぐしゃぐしゃにした。



「まあ、でも、そうだな……。そういうことは軽々しく言わないこと。勘違いするバカだって居るんだからな」

「うん、分かった!」

「…………絶対分かってないだろ」


満面の笑みを浮かべたわたしとは対照的に、イルはため息を落としたのだった。







いつもありがとうございます!

素敵なご感想にいつも悶絶しております……!嬉しい。

リクエスト? 的なものをいただいたのでちょっとだけ騎士達とフェリルとイルの試合後を書いてみました。


ご感想、評価、ブクマこれからもいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!

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