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きたいとふあん






一番近い塔の一階の一番奥にある部屋には“ 団長室”のプレートがかかっていてその下には“ イレネー・トルヴァン”と刻まれていた。


どうやら団長らしいイルにそれを問うと、数分かけてどこかに吹き飛んでいた意識を回復させたカーチスが代わりにこう言った。


「自分を守るための騎士団の団長になっちゃうんだから、本当に頭がおかしいんですよイル様は」

「自分を守るため?」

「そうですよ。もともと第二騎士団はイレネー殿下の警護のための騎士団なんです。まあ、それも、殿下自身が団を率いちゃってるもんで、機能していませんが。もともと近衛のはずなのに、率先して遠征にも国境にも行っちゃうような上司を持っておれの胃は毎日キリキリ痛むんですよ。癒してくださいフェリル嬢」

「おい、カーチスいい加減に、」

「それは大変だ。うちの執事の胃薬はよく効くぞ」



「今度持ってこよう。この世のものでは無いような味がするが」そう付け加えるとカーチスはげっそりした顔を更にげっそりさせて、イルは口を隠して肩を震わせた。


まあな、あまりオススメできるような品ではないな。できればわたしは飲みたくない味だ。シーフーによると、確かカンホーだかカンーポだかよく分からないものらしいが、まあ特に興味が無い。



それから、その団長室に服を渡されて押し込められた。外側からどうやら鍵がかけられたらしく施錠の音がする。


「着替えたら言ってくれ。一応鍵をかけて俺たちは外で見張っている。安心してくれ」

「分かった」


イルの声にそう返事をしていそいそと服を着替えた。

そういえばこのびらびらはいつもメイドやネリーに手伝ってもらって着るし脱ぐからいまいち脱ぎ方が分からない。なんてったって無駄に布の量は多いわ何枚も重ねてあるわ、上半身は窮屈だわ。


多分背中の紐を取ればいいんだと思うんだけど。


必死に両手を回して後ろをごそごそするが上手くできない。……あ、いや、行ける気がする。世の女子たちはなんて苦行を毎日毎日毎日毎日……。どうにか紐を両手で掴んだ気がして引っ張ってみたら、なぜだかびらびらが物凄い音を立てて裂けた。



「あ」

「……おい、フェリル。大丈夫か?」

「…………うん、問題ない」



両手からはらりとおちるびらびらの断片と、裂けた隙間からぼとっと下に落ちるスカートの部分。


まあ、結果はどうあれ脱げたは、脱げた……。脱げたというか、裂けたんだけどあっという間に下着姿になったわたしはしばし呆然として、ネリーへの言い訳を考え、思いつかなかったから、とりあえず渡された服に着替えることにした。



…………シーフーに裁縫を教えて貰って帰ったら、縫おう。奴は昔わたしにしつこく刺繍を覚えろと言って、針と糸を持って追いかけてきたからどうせ上手いのだろう。


破れたそれをできる限り綺麗に畳んで頷いた。



騎士の服はイルのそれととてもよく似ていた。

濃紺の光沢のある生地は身体に沿うデザインで、もちろん下はスラックス。なんと動きやすい。わたしが求めていたのはこれだ。


一緒に預かった黒のブーツに足を入れて首元までの金のボタンを止めた。


控えめにされた金の縁どり。イルのような胸元の飾りは一切ついていない。訓練場にいた騎士と同じ作りだと思う。



胸の辺りが多少苦しい気もしないこともないが、まあ許容範囲か。それよりなにより、この必要最低限の布の量、素晴らしい。これなら全力疾走すればイルに負けない気がする。あ、そうだ今度一緒に走ってくれないだろうか。次は負けない、絶対に。



「イル、着替えたぞ。ありがとう、サイズも丁度いい」

「そうか、良かった。開けるぞ?」

「イル様さっきの音なんですかね? ビリビリビリビリってすごい音しましたけど」



ドレスがダメになった音だな。


イルはそれには答えずドアを開けた。わたしを見てわたしが抱えるドレスを見て、「ああ、なるほど」と呟いてからさわやかに笑った。



「フェリル、とてもよく似合っている」

「ありがとう、イル」


イルがわたしの髪をひと房持ち上げてそれからサラリと手を離した。



「君の髪と瞳と、そういえばとても合う色だ」

「あの、これしばらく着ていたらダメ?」

「構わない。俺にとっても都合がいい。出来ればそれを着て毎日ここに通って欲しいんだが」

「え?」

「うん、分かった」

「え?!」


微笑んでわたしの頭を撫でるイルとすぐさま頷くわたしの間でカーチスがわたしとイルの顔を交互に見て叫んでいる。「え、え? な、なんで?! この異常時に、なんで?!」と酷く困惑しているが、まあ正直わたしにもよくわからない。


多分イルが言っていた手伝いに関する事なのだろうけれど、そもそもそれが分からない。

分からないがイルの言うことならおかしなことでは無いはずだ。イルはとてもいい人で、信頼出来る素晴らしい人格の人だ。そうに違いない。わたしの勘がそう告げている。



「カーチス、言っただろう。策があると」

「あ? え、はい、言いましたね。言いましたけれど、え? それが、なにか?」

「彼女のことを知っているか?」

「え、っと……といいますと」

「彼女はフェリル・マーデリック。かの有名な精霊姫だ」

「せ、っ!??! ということはもしかして……精霊の不思議な力で、まさか……!」


カーチスが高揚した顔でキラキラ目をかがやかせている。ずずいっと近寄って来た顔に一瞬仰け反ったが、すぐに胸を張った。


なんだか、よく分からないがえらく期待されているようだ。イルがわたしに頼むことはどうやら精霊絡みのことらしい。


頼られるなんて生まれて初めてのことだが想像よりもずっと心地のいいものだ。



期待を向けるカーチスにイルは神妙に頷いた。キラキラと輝く瞳を見返してわたしも笑った。少しだけカーチスが頬を染める。



「そうだ」

「い、イル様っ!」

「彼女は俺に匹敵する怪力の持ち主だ」

「………は?」





カーチスの輝いていた目は、わたしの気の所為でなければ一瞬で死んだ。















いつもありがとうございます!

感想めちゃくちゃ楽しく読ませていただいております!

本当に本当にありがとうございます(;_;)

昨日更新できずスミマセン……。

これからもよろしくお願い致します!

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