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このひとはにんげんなのか




 なんでこんなことになっているのか。

 何故、僕はこの婚約者とかいう位置に押し込められた当の相手に、べらべらと、こんなことを話しているのか。というか、こいつはいったいなんなんだ。

 貴族子女らしく媚びてきた初見、僕の地位をあっさりと利用した二度目。そして、わけのわからない三度目。いくつ人格があるんだこの女。というかどれが本当だ? 話が通じないし、かと思えば子供と話しているようなまっすぐさと素直さに愕然とする。

 つ、付き合いにくい……。くそ、こんなの、僕が協力したとしてもザイオンの王太子を納得させられるかどうか……。なんたって、なにを言い出すのか得体が知れない。

 こいつ……本当に僕と同じ人間なのか? ……ああ、いや精霊の娘だったか……。しかしこいつの兄弟の双子は至極まともだし、公爵はちょっとおかしいけど、それでも“変人”の範囲内だ。


 あまりに貴族らしくなさすぎる。けれど、初めて会った時はかなり貴族子女らしかった。ある意味で、どういうことだろう。


 なるほど……。貴重な精霊の娘だから他国に出したくないのかと思っていたが、ザイオンに嫁がせられない理由は、ここか。


「片思いかあ」


 考え事をしていたところで、やけに爛々とした目を向けられていることに気が付いてぎょっとした。な、なんだ、その顔は。それから、うんうんと頷きながら同じセリフを繰り返す。

 というか、そう“片思い、片思い”連呼して僕の傷をえぐってくるな、くそっ、本当に癪に障る……。何度言う気だ。お前に言われなくても、そんなこと僕が一番分かってるわ! 

 それより僕は“好きになれない”ときちんと悪意を込めて言ってやったわけだが、そこは気にしてないのか?それとも聞こえなかったのか? はじめは媚びてきたくせに。僕の肩書が欲しいんじゃなかったのかよ。もう、何考えてるか、本当にわかんない!


「恋してるんだなあ、殿下は」

「はあ!?」


 苛立ちを隠せない。というか隠そうとしなかったからか、思いのほか不機嫌な声が出た。こんなの家族にも国民にも絶対に見せられない。もちろん、あの子にも……。だというのに、王子失格な態度しかとっていない気がする。ジェラルド様にばれたらきっと笑顔で窘められるに違いないが、別に構わないだろう。だってこの女にどう思われようがどうっだって、いい!

 本当に、腹が立つな、こいつ。そういう能力をもっているのか? 精霊っていうのは。


「片思いって、どんな感じだ! どこが好きなんだ?! どう好きなんだ?」

「は、?」

「恋ってしたことがないんだ。だから気になる! シーフーは交尾みたいなものと言っていたがそうなのか」

「こッッ!?」

「そんなわけがないよな……。あ、交尾はわかるぞ」

「い、いやいや、ちょっ!?」

「自然界では当たり前のことだ。けれど恋っていうのは森じゃあんまりわからないんだ」

「い、いい加減にしてください!」


 きらきらとした瞳でにじり寄ってくる彼女になぜか赤面している気がする。いや! そんなはずはない! そんなことあるわけがない! こ、この女が、あまりにもわけわからないことを言うから……っ!

 こいつ本当に公爵令嬢なのか?! なにを言っているのか分かっているのか!


「あ……、すま、すみません。あのだから、教えてください!」

「いい加減にしろっ!!」

「え? なんでだ? あ、……ですか? あ、そうだ! 殿下が恋人になれるよう、協力しよう!、……です!」

「あ、はあ!? なにを言って、」

「相手も殿下が好きになると恋人になるんだろう。そのくらいは知っている! だから、協力してもらう代わりに、わたしも殿下に協力しよう」



 精霊の娘、“精霊姫”の異名を冠していることをこの女が知っているのかそうでないのか、まあどうでもいいが。それに見合った綺麗な顔が綻んだ。嬉しそうに、花が咲いたような笑みははじめてみたそれだ。

 一瞬面食らった。

 あまりに眩しくて、この世のものでないようで。暗い中庭の雰囲気すら食うような異常な美しさで。これが、この訳の分からない“婚約者”の本当の笑顔なのだろうか。もう、わからない。というか、ずっとわからない。

 これなら、まだ、あの胸糞悪い貴族子女らしいあの最初の方が扱いやすかったのかもしれない。とりあえず、ここまで心をぐっしゃぐしゃにかき乱されることはなかったはずだ。

 ……ああ、待って、というか、この“婚約者”は、いったいなにをいっているんだ? 僕の婚約者ではなかったのか? 形式上でも、僕の婚約者なはずだ。なにを言っているんだ、この精霊の娘は。


 いやいや、ちょっと、荷が重い……。陛下、ジェラルド様、僕には荷が重いです。どうしたらいいのか分からないです。まったく、とんだ面倒に巻き込まれたものだ……。本当に……。


「……もう嫌だ」



 なおもきらきらと瞳を輝かせる“婚約者”に僕は生まれてはじめて第三王子という肩書を呪った。







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