はやくおうちにかえりたい
こんにちは! お久しぶりです。
なんか書きたくなった物凄くあほな人たちのお話です。
よかったらお付き合いくださいな。
「ああああ!! 面倒なことになった!!」
久しぶりに実家に帰ると父がぶっ壊れていた。
頭を抱えて真っ青な顔で泣きわめく実の父の姿にわたしは大層引いた。日常の大半を王都のはずれの森で過ごすわたしには良くわからない、なにやら大変なことが起こったらしい。今朝、マーデリック家の執事で、幼少からわたしの世話係をしているシーフーが森にやってきたかと思えば、起き抜けのまま本邸に連れ戻されたばかりでいまいち状況が分からない。
なにしろ、こちらにわたしが到着したときにはすでに、父はぶっ壊れていたのだ。
「東の王太子が、フェリルの見た目に騙されやがったッ!!」
そういって、両膝、両肘を床につけて拳を叩きつけるこの男を誰が公爵だなんて思うだろうか。
「シーフー、わたしは馬鹿にされてるのだろうか」
「いいえ、旦那様の愛ゆえです」
え、ほんとに?
「こいつ、ほんと、なまじ顔だけはいいからっ!! アリエルに似て、顔だけはいいからぁ!」
「シーフー」
「いいえ、フェリル様」
いや、絶対、馬鹿にされてると思う。だって、ちらちらこっち見てなんかぶつぶつ言ってるもん。このおじさん。というかわたしが一体何をしたっていうんだ。言いがかりもいいところだ。
その、さっきから言ってる東の王太子? そんなもの知らないし、顔だって見たことないし、とにかくわたしのせいじゃないし。
「お父さん、さっきから何言ってるの? わたしのことが嫌いなの?」
「はあ!? お父さんがお前のこと嫌いなわけがないだろう! 馬鹿なの?」
涙と鼻水まみれの顔がぐるりとこっちを向いてわたしは三歩後ずさった。気持ち悪い。こんなおじさんがこの国の現国王の弟だなんて、一体誰が思うだろうか。
「ていうか、アリエルはどこに行ったの!」
「お母さんはなんか北の泉が良い感じって言って、多分二年前から帰ってきてない」
「アリエルッ、あいつ、、くそ、でもそれが、アリエル……!!」
お父さんがこぶしを再び叩きつけてわたしはまた二歩、後ろに下がった。
アリエル、というのはわたしの母。母は精霊だ。青の精霊と呼ばれている母と人間で王弟の父がどんな恋愛の末に結ばれ、わたしと双子の妹と弟を産んだのかは知らないけれど、まあ、一般的でないことは分かる。
母は精霊らしく本当に自由奔放な人だし、わたしを連れて森で暮らしだしたのが確か十年前。邸を出たきっかけはささいな喧嘩かなんかだったはずだけど、仲直りしてもなお母は自分の好きなように森と邸を行ったり来たり、そしてたまにどこかへ消える。
森での生活が気に入ってしまったわたしに父はやいやい言っていたけど、無視していたらいつからかどうやら諦めたらしい。母の自由さにも特に何も言わないし、というか精霊と結婚するってお父さんすごいな。今更だけど。
そんなわけで寛大なはずの父がなぜだかこの有様である。
「ああああ!! くそっ、よりにもよって、なぜ! 東のザイオン?」
「シーフー。お父さんが何を言ってるのか分からないんだけど」
「旦那様。そろそろフェリル様に説明してさしあげたらいかがでしょう」
黒髪をぴたりと撫でつけた端正な顔立ちのこの執事はわたしが小さいころからなにも変わらない気がする。
この常に笑顔を絶やさない男も実は精霊だとかなんとか言われても納得してしまいそうだ。
「フェリル、お前が、お前が無駄に顔がいいから……」
「それってわたしのせいなの?」
確かに、わたしは精霊である母に瓜二つだといわれる。水色の髪も金の瞳も顔立ちもそっくりらしい。らしいけど、果たしてそれはわたしのせいなのだろうか。精霊に瓜二つなのが問題なのだろうか。双子の妹と弟は父に似てるけど天使かと思うくらいかわいいよ? それはいいの?
まあ、とにかく、絶対わたしは悪くない。
東のうんぬんとか、そんなの知らないし、見た目のことはわたしのせいでないと思うし、お父さんがぶっ壊れたのだってわたしのせいじゃないはず。
説明してくれるっていうなら、してもらおうか。そしてわたしは早く森に帰りたい。
腕を組んでふんぞり返ったわたしに父は事のあらましをにがにがしく語った。
そしてわたしは顔を青くした。
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