不快
深夜、飲み会帰りの田中は人通りの少ない寂しい住宅街の道を一人、千鳥足で歩いていた。そろそろ自宅が見えてこようかという時、田中の目に信じられない光景が飛び込んできた。
全身紫色をした、顔はナメクジ、胴からは無数の足と、背からはゴキブリの様な羽を生やした、大きさが猫程の生物がどこからともなく現れたのだ。見ただけで人を不快にさせる生物は、これまた人を不快にさせる腐敗臭を放ち、奇妙な動きで田中に迫ってきた。
田中は酔いが見せた幻覚かと思ったが、そんな事を考えている間にも、不快な生物は田中にじわりと迫った。
幻覚でも現実でも、もう田中にはどちらでもよく、思わず田中は近くに落ちていたこぶし大の大きさの石を拾うと、不快な生物の頭めがけ、二度三度と思い切り振り下ろした。
不快な生物は緑色の血を辺りに飛び散らせ、「キュウ」と小さく鳴くと、動かなくなった。おそらく死んだのだろう。田中は石を投げ捨て、生物の亡骸を見る事なく、早足でその場を後にした。
次の日、田中は外の喧騒で目を覚ました。何事かと窓のカーテンを開け、外の様子を伺うと、空を宇宙船の大船団が埋め尽くしていた。人々はこの異常を、不安げに見上げ見守っている。
やがて、一機の宇宙船から、昨夜田中が殺した生物と似た、一回り大きい生物が姿を現し、全人類に言った。
「やい、地球人共。地球にお忍びで訪れていた我が星の王子をよくも殺したな。我々を不快にさせた罪は重いぞ。全滅させてくれる」
不快な思いをした不快な生物の大船団は、地球の科学力など遠く及ばない力で攻撃を開始したのだった。