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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第六章 新米魔法使いは偉大な魔法使いの来臨を乞う

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(一)魔法使いレンタル券とは

『〈境海世界の物語〉第2025話・第零次元の街、白く寂しい通り』より

 

『白く寂しい通り』とは、第零次元(だいぜろじげん)にある街の通称である。

 ここは伝説の地球との歴史的分岐点としても有名だが、特筆すべきは、境海世界の第6階位層との違いを一目で所見できることだろう。

 すなわち今も主要な交通手段として帆を張る船で境海を航行する文明社会とのわかりやすい比較である。

 最大の違いは、もろもろの生活物資の膨大な物流量だ。

 この街の住人はおよそ物に不足するということがない。

 なんとすれば1軒の店舗において、衣食住に必要なあらゆる品物を購入することが可能である。

 また食事を提供する店では建物も人間も清潔で衛生的であることが重要視されているため、どの店でも安心して飲食ができる。

 このように文化的に優れた点が多く見受けられる第零次元の街を、旅人は境海世界という大宇宙の中心だと錯覚しがちだが、じつのところ、従来の魔法学における多重次元構造の神智学的解釈とはなんら関わりがない場所である。

 我々のような魔法使いが世界を数える際に、第七階梯宇宙を境海世界の文化標準尺度とするのは、それがもっともわかりやすいからだ。

 かの特異点たる地球がまさにそうであるように、この第零次元に存在する文化が、より大きく進化した未来的な文明社会と、そうではない大昔の文化を踏襲している社会との、ちょうど中間に位置しているように見えるだけのことである。


 境海世界の偉大な魔法使いピリオリアン・ペリアンダーストン著〈多次元旅行記『境海世界の物語』近代編新装改訂版(第707版)の前書き〉より抜粋

   *   *   *

 僕らは意外にいそがしい。


 学生寮での生活は時間割があるし、自分たちの自習時間も自己管理しなければいけない。

 授業中は雑談できないし、休憩時間は短い。こみいった話をするなら、放課後、寮に戻ってから寝るまでの自由時間だ。


 それが待ちきれなければ、昼食時。


 午前中の休憩時間、食堂へ紅茶を飲みに行ったら、スミスくんに声を掛けられた。


「今日は昼食をいっしょに食べないか。僕らがもらった賞品の使い方について、ぜひとも君たちの知恵と協力が必要なんだ」


 この夏、僕らは野外研修の『コンバットサバイバルトレーニング(略してCST)』で、ウィザードアスレチック競技に参加した。

 競技なので成績順に、総合優勝、1位・2位・3位までが決定された。


 総合優勝は僕とアイルズとカイルのグループだ。賞品は、白く寂しい通りの魔法玩具店で使える『魔法玩具引換券(金額上限無し)』だった。

 それを僕は、ローズマリーへプレゼントした。

 アイルズはエリカへプレゼントした。


 そして、ローズマリーとエリカは魔法玩具引換券を、魔法のドールハウス『大海戦ゲーム』と引き換えた。

 それが先週末のこと。


 以来、僕らは暇を見つけては、大海戦ゲームで遊んでいる。

 



 僕らのグループはいつもいっしょに食事を取る。


 食堂をはいった僕はまっすぐ、先に来ていたローズマリーが紅茶のポットを置いて待つ席へむかった。

 ミルクと砂糖はエリカが取ってきた。カップとソーサーはカイルが全員分を持ってきてくれていた。


 今日はスミスくんが参加だ。

 全員が昼食のトレイを取ってきて席に付いたところで、スミスくんが話し出した。


「僕らはまだ誰もあの賞品を使っていないんだ。そこで、すでに優勝賞品を使用した君たちの知恵を貸してほしいんだよ」


 1位の賞品は『魔法使い1日レンタル券』。

 その効能がどんなものかは誰も知らない、謎の賞品だ。


 僕らは、僕らの賞品の魔法玩具引換券を、大海戦ゲーム一式に換えた。スミスくんとは大海戦ゲームでときどき海軍士官や海賊チームでも対戦しているから、僕ら三人が魔法玩具引換券をどのようにつかったか、詳しい経緯まで知っている。


 今回は僕だけではなく、アイルズとカイルにも相談したいという。


「僕がもらった賞品は、正確には『多次元管理局所属魔法使い出向レンタルサービス1日利用券』というんだよ」


 スミスくんはA4サイズの書類をテーブルへ置いた。何かと思えば、これが券と利用に際しての必要書類らしい。


「ずいぶん大きな利用券だね」


 僕らの魔法玩具引換券はオシャレなチケットだったのに、えらい違いだな。


「細かい利用規約が書いてあるんだ。裏側は、この学校にボランティア登録している局員名簿だ」


 なるほど、ずらずら名前が書いてある。

 リリィーナ教官、ポール教授にポピィ教授、ヒルダおばさんなどなど。

 ふーん、みんなボランティアなのか。


 魔法大学付属学院の関係者意外にも、魔法大学専門課程だの、多次元管理局の現役局員の名前もある。

 予備役のところにエクメーネのマスターと魔法玩具師ニザエモンさんを見つけた。


 他にも初めて目にする名前がたくさん。


 数えたら70名。名前の下には簡単に、肩書きらしき名称と、職業名が記載されている。リリィーナ教官なら『多次元管理局予備役・不思議探偵』だ。

 

「で、この名簿の中の、誰に来てもらうんだい?」

「偉大な魔法使いに会いたいんだ。かの有名な境海の伝説の魔法使いに!」


 スミスくんがおごそかに発表した。

 聞いた瞬間、「なにかすごい!」とものすごく感心した。


……のだが、よく考えると、偉大な魔法使いって、どんな人?


 伝説に出てくる魔法使いは大昔の人だから会えないし、そもそも『偉大な』と定義される基準とは何ぞや?


 スミス君は「よくぞ聞いてくれた」と、キリッと表情を引き締めた。


「伝説では、やはりものすごく強い魔法使いだそうだ。一撃でドラゴンを倒し……」


 それ、リリィーナ教官がよくやってると聞いことがあるぞ。剣一本でドラゴンを退治するとか。

 あ、でも、リリィーナ教官が使ってるあの銀の剣がもともとすごい魔剣なんだっけ。


「すごい魔法で、遠い国へも一瞬で移動することができて……」


 うん、それもリリィーナ教官の得意技だよな。僕も瞬間移動で消えるところを見たことがある。


「なんでも創り出すことができるという、何も無いところからいろんな物質を自由に作り出せる力、『創造』の魔法が使えるんだ。これだけは並みの魔法使いにはできない究極の魔法らしい」


 そういえば、それも魔法だな。

 僕の知るところでは、ローズマリーが想像した理想のご馳走を、ポピィ教授が魔法で創造して出現させた実例を知っている。


 そういった魔法の(もと)となるのは強烈な想像力だとか。


 ローズマリーのご馳走を想像した力はポピィ教授をして『調理の手順をものともしない偉大な想像力』の賛辞を与えられたそうだ。ええとこれは、褒めてもらったんだよね……?


 すごいな僕のローズマリーは。

 なのに、どうして夏休みは補習になったんだろう?


 こっそり訊いても教えてくれないし、謎だ。


 でも、おかげでスミス君の言いたいことはだいたい理解したと思う。


 僕らの夏の野外研修は、魔法で創造された自然豊かな湖の畔にあるオートキャンプ場で過ごしたじゃないか。

 あのすべてが魔法による産物だと、当時の僕らは誰も気づかなかった。


 その魔法の媒体となったのは、魔法玩具師ニザエモンさんの作ったオートキャンプ場のジオラマ模型だ。

 大きな湖はヒルダおばさんの創造だったらしいけど、そう考えるとあの2人も、とてつもなく偉大な魔法使いだと思う。


「つまり、君が1日レンタルを依頼したいのはリリィーナ教官かポピィ教授か、ヒルダおばさんか魔法玩具師のニザエモンさんなんだね?」


 なかなかいい推理だろう?、と胸を張った僕へ、


「おい待て、今の説明のどこをどう聞いたらそういう結論になるんだよ?」


 スミス君は盛大なしかめっ面を返してきた。


「僕が会いたいのは、境海世界の伝説に出てくる『偉大な魔法使いピリオ』こと『ピリオリアン・ペリアンダーストン』だよ!」




 偉大な魔法使いピリオリアン・ペリアンダーストン。


 それは広大な境海世界に伝わる伝説や民間伝承に、チョイチョイ登場する大魔法使いの通り名だ。


 境海世界のさまざまな国を旅している彼の著作『境海世界物語』は、第ゼロ次元を中心とした境海世界で、百年以上ロングセラーになっている。


 偉大な魔法使いピリオリアン・ペリアンダーストンに関する最初の記録は、今から何千年も昔、境海世界で起こった古代大戦争の時までさかのぼる。


 それから数百年――その名は、境海各地の英雄伝説や、いろいろな民間伝承に登場する。何年生きているのかわからないし、どこに住んでいるのかもわからない。現代ではときどき出版社に原稿だけが送られてきて、版権管理はすべて謎の代理人が行っているという、謎だらけの紀行作家だ。


「そのどこにいるかもわからない謎の作家の手がかりを見つけたんだ。ほら、ここを見てくれ」


『魔法使い1日レンタル券』の裏面に印刷された名簿リストの真ん中辺りに『魔法使いピリオ』という名前がある。


「これは偉大な魔法使いピリオリアン・ペリアンダーストンのペンネームだ。本名が長いからどこでもペンネームを使っているんだよ。偉大な魔法使いは、多次元管理局に予備役として登録している元局員だったんだ!」






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