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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第五章 ホロホロ鳥モドキ狩り顛末記

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(四)ホロホロ鳥モドキ狩りの実態

 モッシャモッシャ、モッシャ……。


 ホロホロ鳥モドキは頭を薔薇(ばら)の花の小山へ突っ込んでは引き戻し、()(しやく)していた。平たいくちばしはモニュッと(ゆが)み、どことなくアヒルを連想させる。


 あんなトゲトゲの枝をよく食えるもんだ。


 体の色は地球にいるホロホロ鳥に似ているが、足は指の(また)に水かきがあるから、水鳥の仲間なんだろう。

 目が細い。鳥って、こんなに細い吊り目だったかな。

 やけに瞳孔が小さくて、前を向いていても横目で『ジロッ』と睨まれているような、イヤーな目付きだ。


「サー・トール、今のうちに君は岩へロープをくくりつけるんだ」


 リリィーナ教官は車の後部座席のシートの下からロープの束を取ってきた。

 ホロホロ鳥モドキの肉を獲る手順は、空路をドライブしている間に大まかな手順を説明してもらった。あとはその通りに行動するだけだ。


 と、咀嚼音が止まった。


 リリィーナ教官と僕も、ピタリ、動きを止めた。

 目の端でホロホロ鳥モドキを(うかが)う。

 小さな頭を左に傾げ、こっちを眺め下ろしている!


 あのくちばしなら、僕を二口で飲み込めそうだ。デッカいあの足で踏まれたら、アリンコみたいにプチッと潰される!

 なんか脇の下と背中が冷たい……。あ、冷や汗か。


「こっちを見てますよ、どうするんですかッ!?」


 僕はパニック寸前。しかし、リリィーナ教官は微動だにしない。


「しずかにッ! 狩人だと認識されているのか、それが問題だ」


 リリィーナ教官がちょっと右に動けば、ホロホロ鳥モドキの頭もチョイと動く。

 いや、これは完全に認識されているだろ!


「リリィーナ教官?」


 僕は小声で呼びかけた。

 囮餌はまだ残っている。でも、あのいきおいで食べられたら、10分もしないうちになくなるだろう。


「ふむ、このままなにもせずに帰れば見逃してもらえるだろうが、肉は取れない。一度認識されたら、ヤツが忘れるまで3日かかるからな」


(とり)(あたま)は3歩進んで忘れるというが、ホロホロ鳥モドキが狩人の顔を執念深く覚えているのは3日間。4日目が始まる午前零時を過ぎた瞬間、ヤツの記憶中枢はケロリと(ぼう)(きやく)する。

 それがホロホロ鳥モドキ固有の特性なのだ。


「3日後に新しい囮餌を用意して来るしかないが……。さすがにもう一度、あれだけの囮餌を買う予算はひねり出せないな」

「魔法で囮餌は作れないんですか?」

「幻なら作れるけどね。一口でバレるから、ロープを仕掛ける作業が間に合わないんだ」


 3日後、再び大量の薔薇を仕入れてくるのが無理ならば、チャンスは今日、この時のみ!


 僕とリリィーナ教官は息すら止めて、じっとしていた。

 ホロホロ鳥モドキが、フイッ、とあっちを向いた。


 モッシャモッシャと、ふたたび咀嚼音が始まった。


 おお、動かない僕らを石か木と誤認識してくれたのかな。


「しめた! 今のうちにやるぞ」


 リリィーナ教官が、僕へロープの一方の端を投げよこした。


 僕は長いロープを持って大岩の回りを3周し、しっかり(くく)りつけた。

 リリィーナ教官はロープのもう一方の端を持ち、ホロホロ鳥モドキのお尻に近づくと尾羽を掴み、グルグル巻き付けた。


 すごい羽毛だ。深い(あい)(いろ)で油を塗ったみたいにツヤツヤしてる。この羽は魔法玩具などの細工物に使えるという。


 リリィーナ教官は羽へ巻き付けたロープを何度もグイグイ引っ張り、結び目が解けないように確認した。

 長いロープは大岩とホロホロ鳥モドキの間でたるんで地面を這い、(いく)()にもとぐろを巻いた。


 ホロホロ鳥モドキはうっとり目を細め、モッギュモッギュとくちばしを動かしている。くちばしの端から赤や黄色の花びらがヒラヒラこぼれ落ちた。


 本当に(にぶ)いな。


「よーし、車にもどろう」


 リリィーナ教官がホロホロ鳥モドキのお尻から離れた。

 僕も車の方へ歩きかけた。

 が、忘れていた。


 僕の足下には、とぐろを巻いたロープがあったことを。


「うわッ!」


 ロープにつまずいた僕は、すっ転んだ!


 ガササッ! 手を突いた地面で草が鳴る。


 ホロホロ鳥モドキが振り向く。


 その視線が、立ちかけた僕と交錯した。

 細い目が、カッ、と、(まる)く見開かれた!


 グケケッ、キケエエエエエエエェッッッ!

 

 ホロホロ鳥モドキは両の翼をはためかせた。風がゴオッ! と吹きつける。


「うッ、わああああああッッッ!!!!」


 僕はダッシュした。

 全力疾走、はなから全開だ。


 ホロホロ鳥モドキが追いかけてくる。


 止まったら()られる。踏まれて『プチッ』で、終わりだ!

 顔面から汗が吹き出て首筋に流れた。


 風が異様に冷たい。


 ホロホロ鳥モドキは天にもとどろく雄叫びをあげながら、追ってくる。

 なんてしつこいヤツだ!


 時速18キロなんてトロいと思っていたが、着実に迫ってくる。


 少しでもスピードをゆるめたら最後だ、たちまち追いつかれる。

 いやだ、死にたくないーッ!


 頭の中は真っ白だった。


 僕は死に物狂いで足を動かした。

 息が切れてきた。


 そりゃそうだよ、全力疾走なんて、何分もできるもんじゃないんだから。


 おそらく300メートルは走破した。

 もうだめだ、足がつりそう。ふくらはぎの筋肉が悲鳴を上げている。

 あきらめかけた僕の耳へ届いたのは、


「サー・トールッ、こっちだッ!」


 リリィーナ教官! 右後ろから車が追いかけてくる。


 車はスピードを落とし、僕の右側へピッタリ横付けしてきた。

 僕は助手席のドアへ飛びついた。


 ドアに足をかけて昇り、なんとか助手席へ収まった。


 リリィーナ教官がアクセルを踏み込んだ。

 速度がぐんぐん上がる。

 すぐ後ろに迫っていたホロホロ鳥モドキは、見る見るうちに小さくなった。




 野原を自動車で走り回ること小一時間。


 リリィーナ教官は、直線で来たコースを大きく左へ迂回して、あの大岩のある場所へ戻ってきた。


 ホロホロ鳥モドキはいなかった。


 囮餌は食い尽くされていた。


 リリィーナ教官によると、僕を追いかけたホロホロ鳥モドキは残っていた囮餌を食べるために一度は戻ってきただろうが、食べ終えたらただちに移動しただろう。

 野生動物には野生の掟がある。一カ所に長く留まると、肉食獣に捕食される危険が高くなるのだ。


「ちょっと待ってください、あの巨大なホロホロ鳥モドキを捕食できる肉食獣なんているんですか?」


 あいつがこの野原の食物連鎖の頂点、最強生物じゃないのか?


「ここは魔法界だからね、たまに野生のグリフォンとかキメラとか、本物のドラゴンなんかがゴハンを食べに来るんだよ」


 それは肉食獣ではなく、幻獣の怪物というのでは?……出会わなくて良かった。普通の狩人は来られないわけだ。

 のどかに見える野原なのに、本当はものすごい危険地帯なんだな。


 大岩の前に艶やかな藍色の尾羽根が落ちていた。抜けたのは3本。根元には桃色の大きな肉塊がこびりついていた。


「うまくいったぞ」


 リリィーナ教官は尾羽根の白い(じく)を両手で掴み、よいしょっと持ち上げた。


 羽根は、170センチ以上ある僕の身長より長い。根元にこびりついている桃色の肉塊は、子牛ほどもありそう。


「よし、50キロはあるだろう。小売価格が1キロ三千円として十五万円。尾羽根は小さめだから十万円分くらいかな」


 は?


 僕は自分の耳を疑った。


 キロ単価三千円だと?

 希少価値が高い肉じゃないのか。

 100グラム三百円じゃないか。


 なんでそんなに安いんだ?


 この魔法世界へ来るのに車で移動し、さらに囮餌代が百五十万円かかっている。

 必要経費だけですごい赤字では?


「そうだよ、だから季節外れにホロホロ鳥モドキ狩りをするのは割に合わないんだ」


 リリィーナ教官がホロホロ鳥モドキを狩りに来るのは年に一度、この野原に餌となる野薔薇が咲き誇る季節限定だ。

 この大岩がある場所のように、ホロホロ鳥モドキが野生の薔薇を食べに来るポイントがいくつかあって、今日と同じ方法で尾羽根と肉をゲットするという。


 ただし、ホロホロ鳥モドキの肉は、市場で売れるとは限らない。


 超レアゆえに知る人は少なく、市場に出しても大多数の人は知らないから食べたことがない。ゆえに、買わない。


 境海世界のレストランでも、ホロホロ鳥モドキを知っている料理人自体が少ないから、欲しがる人は稀だ。


 そして、どんなに美味しくても、鳥肉であることに変わりはない。


 スーパーマーケットの精肉売り場へ並べるときは珍しい野鳥として、適正価格を設定しておかないと、一般客には気付かれずに売れ残る。冷凍や魔法で保存しようと(しよ)(せん)は生もの、いずれ賞味期限がくる。


「わたしが狩りをするのは、某グルメ愛好家が局を通して依頼してくるからだよ。報酬とは別に、必要経費と100キロ分の塊肉を必ず引き取ってもらう契約でね」


 ホロホロ鳥モドキは食用鳥ではない。


 昔々、この魔法界をたまたま訪れた魔法使いが、食料調達のために狩りをして、食べた。そして、ホロホロ鳥モドキが非常に美味しいことが発見され、その話は境海世界の伝説となった。


 だが、ホロホロ鳥モドキは魔法界という特殊な世界にのみ生息する幻獣の野鳥。


 苦労して狩りをしても採算が取れず、その生態は謎に包まれ、巨大すぎて捕まえることも家畜化することもできない。


「だから、魔法を使えて狩りもできるわたしのところへ、話が回ってくるのさ」


 リリィーナ教官は、野原に野生の薔薇が咲き乱れる季節なら、最低2回狩りをすれば元が取れるそうだ。


 依頼人に契約分を渡せば、余った肉と羽根はリリィーナ教官の取り分になる。それを喫茶エクメーネで料理して皆で食べたり、スーパーマーケットへ売ったりするそうだ。

 尾羽根は魔法玩具の材料として魔法玩具師のニザエモンさんに友人価格で売るという。


 それでエクメーネのマスターとニザエモンさんは、ホロホロ鳥モドキのことを知っていたんだ。


「いいんですか、教官がアルバイトして?」

「局では副業は禁止されていないよ。それにホロホロ鳥モドキ狩りは、多次元管理局経由で依頼人が連絡してくるんだから、言い換えれば、局からの仕事だからね」


 魔法大学付属学院は、多次元管理局の管理下にある。この学校は、多次元管理局の局員を養成する専門機関なのだ。


 リリィーナ教官の本業は、主に境海世界の魔法絡みの依頼を引き受ける『不思議探偵』。

 その前身は元局員。


 いまは僕らの剣の教官をしているけど、それもこれも、けっきょくは局の仕事というわけか。


 こうして僕は、超稀少なホロホロ鳥モドキの肉を入手したのである、が……。






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