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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第五章 ホロホロ鳥モドキ狩り顛末記

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(二)計画は喫茶エクメーネで、狩りの相談は教官室で

 僕らは週2回、白く寂しい通りの喫茶店エクメーネへお茶をしにいく。

 僕とローズマリーはカウンター席に並んで座った。


 お客の多い時間だとローズマリーとエリカが入ったとたん、常連以外の男の客が一斉に注目してうっとうしいが、今日は僕ら2人だけでちょっと幸運(ラツキー)


 ローズマリーの親友エリカは補習で遅くなるため不参加。

 僕の親友にしてエリカの恋人アイルズは、エリカの補習が終わるのを待って構内の図書館で自習。

 唯一フリーであるカイルは、やりたいことがあるからと先に帰寮した。


 現在、カイルは趣味に生きる男だ。念願かなって入手した超高級カメラを使うのに夢中なのである。

 今頃は、学校裏の森かこの街のどこかで風景写真を撮りまくっているだろう。




 喫茶エクメーネの建物は、奥へと伸びた長方形の造りだ。


 清潔な床は白いタイル張り。一枚ごとにさまざまな貝殻の絵が描かれている。

 明かりは天井近くの壁に付けられた複数の角形ランプだ。その穏やかな黄色い光は、象牙色(アイボリー)の壁に飾られた植物画(ボタニカルアート)や大きな巻き貝標本や青い蝶が留め付けられた(がら)()()りの箱を優しく照らし、まるで小さな博物館にきたような気分にさせてくれる。




 僕はミルクティーを、ローズマリーはチョコレートパフェの特盛りを注文した。


 エリカやアイルズやカイルがいるときは、ローズマリーは皆に合わせて慎ましくケーキセットだけにしているが、ローズマリーも気にせず注文すればいいのにと言ったら、僕と2人の時はナポリタンやお好み焼きも注文するようになった。


 ローズマリーはがっつり食べる女子だったのだ。両手で掴めそうなウエストをしているのに、あの量がどこへ入るんだろう。


 あれだけ食べて太りもせずスマートなのは、いつも元気で動き回っているからだろう。


 特大チョコレートパフェが運ばれてくる前にローズマリーは、冷凍庫からアイスクリームを取り出していたエクメーネのマスターへ、ホロホロ鳥モドキを購入したい事情を話した。


 すると、マスターはパフェを作りながら顎を引き気味にして、


「私がニザエモンさんと喋っていた話を、そんなにしっかり聞かれていたとは……」


 困ったように言いよどんだ。


「えッ?! 聞いちゃダメなことだったのでしょうか?」


 ローズマリーは顔色を変えた。たしかに、人の話に聞き耳を立てるのお行儀が良くない。勝手に聞こえてきたらしょうがないと思うけど。


「いやいや、大声で喋っていた私達が悪いんだ。あー、じつは、ホロホロ鳥モドキは変わった土地にいる野鳥でね、誰かに頼んで狩りにいってもらうか、自分で狩りに行くしか手に入れる方法がないんだよ」


 エクメーネのマスターは、なぜかものすごく言いにくそうに教えてくれた。

 そんなに捕獲するのが難しい鳥なのか。だから希少価値が高いんだろう。

 ローズマリーは、そうなのですか、とうなだれ、


「自分で狩りに行くのは無理ですから、あきらめます」


 あっさり納得した。

 でも、僕にはわかる。待ちかねた特大パフェの三分の一を占めるアイスクリームを食べるスピードが、普段より格段に遅い。


 ローズマリーはすごくがっかりしている。無理もない、あんなにホロホロ鳥モドキのことを調べるのに夢中だったもんな。


 しかし。


 あきらめたローズマリーとは逆に、僕はホロホロ鳥モドキとやらに、いたく興味をかき立てられた。

 話に聞くだけでもすごい珍鳥だ。いったいどんな鳥だろう。どんな人が、どんな方法で獲ってくるのだろう?


 ミルクティーを飲み終わる頃には僕の好奇心はピークに達し、本腰を入れて調べる気になっていた。

 寮に戻ると、僕はローズマリーが女子寮の玄関へ入るのを見届けてから、すぐにエクメーネへとって返した。


「あれ、サー・トール、忘れ物かい?」


 エクメーネのマスターは、僕らの座っていたカウンターテーブルを片付け終えたところだった。


「ホロホロ鳥モドキのことを、もっと詳しく知りたいんです」


 どうすれば入手できるのか。狩りに行く人を頼むには、どこへ連絡すれば良いのか。謝礼はどれくらい支払えば良いのか?

 僕の熱意に負けたマスターは、


「私から聞いたことはすぐにバレるだろうけど、しかたないか……」


 と、前置きしてから重い口を開いてくれた。


「じつは、あれを狩ってくるのはリリィーナだよ。年に1回、局の依頼を受けてある場所へ狩りに行くんだ。私達の口に入るのは、そのおすそわけなのさ」


 僕は迷った。


 リリィーナ教官は、生徒に人気がある。

 基本的には、信用できる良い教育者だ。……が、ときどき予想もつかない方向へ指導してくれることがある。

 たとえるなら、藪をつついたら普通の蛇ではなく、幻のツチノコが出るかもしれない危険にチャレンジするようなものだろうか。


――でも、ローズマリーのためなら!


 リリィーナ教官に訊かないとホロホロ鳥モドキを入手できないのなら、訊きに行くしかない!


 僕は急いで魔法大学付属学院へ戻り、リリィーナ教官の教官室を訪れた。

 ポール教授の部屋の隣だ。こちらの窓からも中庭の噴水が見下ろせる。僕とローズマリーが毎日待ち合わせているのが丸見えだな。


「用件は手短に頼む」


 1日の仕事を終えたリリィーナ教官はエクメーネへコーヒーを飲みに行く処だという。


 僕はローズマリーが家政学科の課題でオリジナルレシピ開発のため、珍しい食材を探していること、そこで僕はホロホロ鳥モドキをローズマリーのプレゼントにしたいことを説明した。


「なにッ、『ホロホロ鳥モドキ』狩りに行きたいだと!?」


 リリィーナ教官の驚愕に歪んだ顔など、めったに見られるものではない。

 それだけでも僕は得をした気分になった。


 正確には狩りに行きたいのではなく狩りの依頼をしたいのだが……まあ、突き詰めれば似たような事だ、と、僕はリリィーナ教官の微妙な誤解をあえて訂正しなかった。


 それにしても、ホロホロ鳥モドキって変なニュアンスだ。


 きっとホロホロ鳥に似ているんだろうが、なんでわざわざ『モドキ』なのか。偽物というわけじゃないだろうし、すがすがしく別の名称にすればいいのに。


「たしかにアレの見た目はホロホロ鳥に似ているかな。断っておくが、そう簡単に狩れる鳥じゃないぞ。それより地球産の特産品はどうだ。エクメーネのマスターに頼んで、ハバナ産の葉巻から(ほん)(ぎん)(じよう)の日本酒まで、何でも手に入れてやるぞ?」


 おや、リリィーナ教官にしてはやけに言い訳めいた断り方だな。

 たとえとはいえ、葉巻やお酒みたいな大人向けの()(こう)(ひん)を未成年の学生へ進めないで欲しい。葉巻なんて食材ですらないぞ。


 僕は真面目くさって、ホロホロ鳥モドキがローズマリーに必要なのだ、と繰り返した。


「うん、それは知ってる。調理実習でオリジナルレシピを披露する、あの家政学科の実習だね。確かに、ホロホロ鳥モドキを食材にするのはとても(ざん)(しん)なアイデアだと思う」


 リリィーナ教官いわく、ホロホロ鳥モドキの美味しさは伝説級。あまりにもレアな食材なので、食べたことがある人すら非常に限られている。その人達がうっかり喋らなければ、ローズマリーは永遠に知ることはなかったであろう、と。


「そんなにすごいのなら、ぜひとも手に入れて、ローズマリーへプレゼントしたいです!」


 僕が意気込むと、


「うーん、困ったな。他の()(きん)じゃだめか。美味しい鳥は他にもいろいろいるぞ」


 リリィーナ教官は、僕が初めて見る困った顔をした。

 ホロホロ鳥モドキとは、このリリィーナ教官が困るほど、特別な野鳥なのか!?


 何が何でも見てみたくなるじゃないか。


 あ、でも待てよ。面白そうなことなら飛びつくリリィーナ教官なのに、これほど渋るとは、もしかしたら真面目に狩りをできない理由があるとか……。


「もしかして(ぜつ)(めつ)()()(しゆ)ですか? じつは保護対象だとか?!」


 慌てて言ってから、僕はすぐに思い直した。

 ホロホロ鳥モドキの肉は、この白く寂しい通りで何度か売られている。


 リリィーナ教官は一応僕らの教育指導者。多次元管理局の管理下にある白く寂しい通りで規制に引っかかるような密猟品の売買まではしないだろう……たぶん。


「いや、ホロホロ鳥モドキを狩るのも食べるのにも規制は無い。珍しくて美味しいのも本当だ。しかし、安全で美味しい鳥ならほかにいるし、遠い生息地までわざわざ季節外れに狩りへ行くのは、割が合わないんだよ」


 ホロホロ鳥モドキがいるのは、そんなに遠い所なのか。じゃあ、僕も狩りに連れて行ってもらうのは無理かな。


「だから高級品なんですね。念のためにお訊きしますが、狩りを依頼するなら費用はいくらぐらいかかるんでしょうか?」


 やはり具体的な金額を聞かないと、あきらめがつかないんだが……。


「贈り物にしたい気持ちはわかるが、アレを狩りにいくとなると……。ちょっと待ちなさい。必要経費の見積もりを取ってみるから」


 リリィーナ教官は目の前にあるアンティークな黒と金色の電話機の、(しよう)(しや)で細い受話器を取り上げた。

 地球ではもはや絶滅寸前のダイヤル式だ。第ゼロ次元では地球ほど通信器機が発達・普及していないため、電話が繋がる先も白く寂しい通り周辺地域に限られており、ダイヤル式でも充分間に合うのだとか。


「もしもし? あ、いつもどうも。さっそくですが、ホロホロ鳥モドキ狩りの(おとり)(えさ)の見積もりを頼みた……え? ええ、季節外れは承知です、まだ検討中で、まずは見積もりだけ頼みたくて。え? ええ!? 時期外れだと単価は1500円から!? 手数料と配達料、併せて最低150万円以上~ッ!!!」


 リリィーナ教官も驚いているが、聞いていた僕は急に寒くなった。

 ゼロの多い金額が、とてつもなく怖い。ホロホロ鳥モドキ狩りの囮餌を準備するのに、150万円かかると、たしかにそう聞こえた。

 さすがに僕のローズマリー用年間プレゼント予算を大幅超過だ。学生の身で食用野鳥1羽のために150万円の借金はできない。


「あの、もういいです、あきらめます……」


 電話の邪魔をしないように小声で喋りかけたが、リリィーナ教官はどこかの業者とのやりとりを切り上げない。


「そうか、最盛期は初夏だから。え、いや、局からの依頼じゃありません。割引きも無いか……そうですね、わかりました。依頼人にもそう伝えます」


 リリィーナ教官は受話器を置いた。


「ホロホロ鳥モドキをおびき出すための餌代だが……最低でも150万円かかる」


 真剣な目でそう告げるリリィーナ教官に(たい)()した僕の心は、すでに決まっていた。


「とても無理ですあきらめます相談にのってくださりまことにありがとうございました、これで失礼しますッ!」


 150万円という恐怖の金額を早く忘れたくて僕は身を翻したが、


「待て、必要経費を完全に相殺する方法がひとつだけあるぞ、聞くか?」


 相殺と言えば、0円(無料)


 僕の足はドアの前で止まった。

 振り向けば、とても良い笑顔のリリィーナ教官が、僕の返事を待っている。


「その……方法とは?」


 僕はゴクリと唾を呑み込んだ。

 リリィーナ教官はにっこりした。


「君は『なんでも願いが叶う特権』を持っていたね。ほら、魔法学のテストのご褒美(ほうび)の」


 あ、あれか!


 魔法学の初テストで、僕とアイルズとカイルの3人は優秀な成績を収めたご褒美をもらった。それは『アラジンと魔法のランプ』をテキストにしたリリィーナ教官からの『一つだけなんでも願いが叶う特権』だ。


 有効期間は1年間。


 次の魔法学のテストは来年の5月末か6月の初め頃。願いを考える余裕はたっぷりある。

 だが、今こそ使うときではないか。リリィーナ教官はそういいたいのだ。


「そうだよ、あんまりのんびりしていたら、忘れた頃に期限が切れちゃうぞ。ホロホロ鳥モドキ狩りは、あの特権を使っても良い案件だと思うよ」


 たしかに、こうしてリリィーナ教官に言われなければ思い出さなかった。

 僕らの毎日はけっこう忙しい。考えるのを後回しにしていたら、本当に忘れっぱなしになるかもしれない。


「あの『お願い』を使って、ホロホロ鳥モドキを獲ってきて欲しいと依頼すればいいのでしょうか?」


 僕の問いかけに、リリィーナ教官は大きくうなずいた。


「アレはね、特に優秀な生徒に、局員の使う魔法を体感してもらうための、特別講習のようなものだ。実施する際、使用する道具などを購入したければ、必要経費として落とせるんだよ」


 えらく気前が良い話だな。


 後年、僕はこの出来事を思い起こし、多次元管理局が局員をこき使うシステムというか、多次元管理局万能捜査課の性質の一部を理解するようになる。

 しかし、このときの僕はまだ子どもだった。そんな大人の思惑や局の都合があるなんて考えおよびもしないほどに。


「だから、狩りには君も参加しないか。もちろん危険が無いよう、わたしが全責任をもってフォローする。君自身の手で獲ってきた獲物を渡せば、ローズマリーは喜ぶだろう」


 スラスラ並べられたリリィーナ教官のお得感満載な言葉に、僕はその場で週末の狩りへ同行することを(しよう)(だく)した。


 ここで何かあると気付くべきだったのだ。

 

 夏休みに、あれほどウサギ狩りに連れて行って欲しいと頼んできっぱり断られていたのに。ただ夏休みは野外研修だったし、生徒をひとりだけ特別扱いできないという理由に納得もしていたから。


 厳密には、(だま)されたわけではない。


 ただ『ローズマリーが喜ぶ』という言葉にまんまと乗せられた僕が、ついうっかりと、リリィーナ教官を信じてしまったのである。





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