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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
第五章 ホロホロ鳥モドキ狩り顛末記

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(一)ローズマリーの求める食材

 僕が魔法大学付属学院へ来て、もうすぐ8ヶ月。

 境海世界の第ゼロ次元の気候は、日本に似て四季がある。


 楽しくもハードだった夏休みが終わり、その思い出もほどよく整理できた僕らは、秋に実施される魔法学の実技テストの準備にとりかかっていた。




 

 放課後、噴水のある中庭で待っていたら、ローズマリーがノート片手に走ってきた。


 今日は背中を覆う長い黒髪を後頭部で半分上げている。リボンはローズマリーの瞳と同じ明るい青だ。制服も青色だから、コーディネイトしたんだろう。


 ちなみに髪留めは毎日違う。理由は、ブレザータイプの制服は変えられなくとも、女子はお洒落をしなければならないそうだ。


 ローズマリーの髪型は毎朝、親友のエリカが厳しくチェックしているとか。たまに複雑な編み込みヘアなんかもしているが、あれもエリカがやっているらしい。

 女子はどれだけ早起きなんだか。


 僕の疑問にローズマリーは「4時」と、こともなげに即答した。

 それは夜明け前と言うんだ。少なくとも僕はそう思っている。


 しかし、女子の九割は家政学科だ。他の科目を取っている女子は少数派。


 家政学では学業を行うための()()(たん)(れん)として、寮生活での起床・掃除・朝食の支度がカリキュラムとして組まれているとか。

 女子寮の朝は忙しそうだな。

 僕は家政学科でなくて良かった。


「サー・トール、ホロホロ(どり)モドキって、知ってる?」


 噴水前にやってきたローズマリーは、開口一番そう訊いてきた。

『ホロホロ鳥』の後に『モドキ』と聞こえたような?……僕の気のせいかな。

 グルメを気取るわけではないが、僕だってホロホロ鳥なら食べたことがあった。


「うん、知ってるよ、美味しい鳥だね」


 と言っても、高級レストランへいったわけではない。

 魔法大学付属学院は全寮制だ。親元を遠く離れた寮生の中には帰省は年に一度とか、卒業まで帰らない者もいる。僕みたいにね。


 寮母のヒルダおばさんは、寮生の母親代わり。月末の日曜日、その月に誕生日を迎える生徒全員分のお祝いパーティを開催してくれるのだ。


 僕が食べたのはローストと煮込み料理だった。それが、普段食べている鶏肉とは少し違う味だった。もちろん、とても美味しくて。


 近くにいた寮母のヒルダおばさんに訊ねたら、


「それはホロホロ(ちよう)というの。珍しいでしょう。ちょっと高級食材なのよ」


 と教えてもらった。

 人間は、美味しい食べ物のことはよく覚えるものだ。

 それは美味しい物をもう一度、いや何度でも食べたいという食欲中枢に根ざす(しよう)(どう)により、人を信じられないほど活動的にする原動力となる。


「ええ、食べたことがあるの!? なかなか手に入らないって聞いたんだけど……。ああ、わたしも食べてみたいのに、残念だわ」


 ローズマリーは両手でノートを持ち、可愛らしく肩をすくめた。

 なんだか会話に違和感が……。


 ローズマリーだって合同誕生パーティでホロホロ鳥の料理を食べたはず。養殖もされていた()(きん)だったような気がするが……。


 ヒルダおばさんは寮での誕生パーティのために、そんなに特別な食材を仕入れていたのだろうか。


「ちがうわ、ホロホロ(どり)モドキよ」


 再度ローズマリーに言われて、ぼくはやっとホロホロ鳥の後に『モドキ』が付いていることを納得した。

 たぶん、ホロホロ鳥に似てるんだ。

 だが、ローズマリーもどんな鳥かは知らないという。


「あのね、家政学の自由課題で、珍しい食材を使ってオリジナルレシピを作る調理実習があるの」


 ローズマリーが欲しいのは、普段は食べない、ちょっと変わった食材だ。それでオリジナルレシピを考えるのだという。

 期限は来週の金曜日まで。


「日曜日にエリカとエクメーネに行ったら、マスターと魔法玩具師のニザエモンさんが『最高に珍しくて美味しいものはホロホロ(どり)モドキだな』という話をしていたの。白く寂しい通りでは年に1回だけ手に入るんですって」

「白く寂しい通りのスーパーで売ってるの?」


 白く寂しい通りには、1件だけスーパーマーケットが存在する。


 1階は野菜や果物、肉や魚などの生鮮食品やお惣菜コーナーのデリカテッセン、地球からの輸入食品コーナーもある。2階は日用品で、衣類から家庭雑貨、文房具に到るまで、何でも揃う小さな百貨店だ。


 僕もときどき買い物へ行く。僕の部屋着はこのスーパーマーケットで購入した『メイド・イン・ジャパン』のフリース素材だ。


「それがね、スーパーのデリカテッセンで訊いたら、年に一度だけ狩りに行く人がいて、珍しい()(もの)を持ち込むんですって。それを買い取って売るそうなの。だから、ホロホロ鳥モドキの仕入れ先は、あのポピィ教授さえ、ご存じないのよ」


 ローズマリーからオリジナルレシピの課題を『ホロホロ鳥モドキで作りたい』という報告と相談を受けたポピィ教授は、困惑と苦悩を足して二で割ったような複雑な表情をしたらしい。


「ローズマリー、あなたの料理にかける(しん)()な態度は非常に良いことです。しかし、美味しいお料理とはあまり()をてらいすぎてもいけないもの。美味(おい)しいものは、必ずしも高級品ではありません。ましてやホロホロ鳥モドキは通常では入手できない幻の食材。今回の課題には、スーパーマーケットで購入可能な食材をお使いなさい」


 と、常より優しく(さと)されたという。


 白く寂しい通りのスーパーマーケットにないなら、どこで売っているんだろう。


 完全予約購入制なのか。

 それならスーパーマーケットのデリカテッセンでも教えてくれるはず。

 僕らの知らない専門店で、特別なお取り寄せなのかな。


「ポピィ教授からも、デリカテッセンと同じことを教えていただいたわ。出回る時期は年に1度で、ごく限られた人しか手に入れることができない食材ですって。理由は、狩りに行く人がめったにいないから」


 ということは、逆説的に考えれば、ポピィ教授はホロホロ鳥モドキがどうすれば入手できるのかを知っているってことだ。

 どうやら個人で狩りにいかないと手に入らない食材らしいな。

 やはり野生の鳥獣、鹿とかイノシシみたいな、ジビエというやつだ。


「そうなんだ。……それは、残念だね」


 もしも僕に狩りができたら。

 その鳥が学校裏の森にでも生息していたら、喜んで獲りに行くのに……。


「そうなの。来週の調理実習はそれで新しいレシピを作ろうと思ったのに……。これから他の材料でレシピを考えないとね。珍しくて美味しいものって、難しいわ」


 ローズマリーが可愛い溜息を吐いたとき、アイルズとカイルがやってきた。

 エリカはいない。補習を受けているらしい。


「エリカはお(さい)(ほう)が苦手なのよ。いつもはわたしが手伝うのだけど、今日はとても難しい作業があるからポピィ教授へお願いして、特別に個人指導していただいているの」


 ローズマリーは裁縫が得意だという。

 料理も裁縫も得意とはすごい。


 そういや、プレゼントのお返しにとリネンのハンカチをもらったっけ。僕のネームとウサギのワンポイント刺繍は、店で購入した高級品に見えるかっこよさだ。

 ローズマリーの成績は、エリカの評価によると家政学のクラスで五指に入るとか。


 なのにどうして、夏休みはローズマリーだけ補習になったんだろう?


 謎だ。


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