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魔法学園物語~サー・トールの恋愛事情~  作者: ゆめあき千路
 (五)仮初めの城より出でし真実の夢の通い路知る人も無し

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53/60

   最後の大海戦で、僕らは新しい旅に出る

 轟音と共に、メインマストのてっぺんが破裂した。


 僕は甲板に突っ伏した。帆を張る横棒の帆桁(ほげた)は、船が動揺したいきおいで右舷から海へ落下し、甲板にはコナゴナに砕けた帆柱の破片が降りそそいだ。


 僕は海軍の黒い制帽を押さえながら甲板を転がった。板の継ぎ目が背中に痛い。


 我が海軍の誇る『千人乗り』の大帆船は半壊した。

 激戦の最中――凄惨な光景だ。


 しかし、その実態は魔法の幻想世界。甲板に散らばる木片は、雰囲気を盛り上げるための演出用だ。上から降ってきて僕らに当たりそうに見えていた破片は、空中で消滅した。




 仲間の海軍士官や甲板員が右往左往する喧騒の中、僕はすっくと立ちあがった。


「アイルズ艦長!?」

「サー・トール、だいじょうぶか!?」


 艦橋では、アイルズ艦長が双眼鏡を覗いている。


「ええ、なんとか。やつらの船は?」


 海賊船はたくみにこちらの砲撃を避けて、ほぼ無傷だ。


「船体が離れた。ブラック船長はどこだ?」

「艦長、白兵戦の指示を! 僕が乗り込みます」


 海軍大尉の僕はアイルズ艦長に意見具申したが、


「まだ早いッ、もっと船体を近付けてからだ!」


 アイルズはすばやく次の砲撃の指示を出した。帆の角度を変えさせ、船体の角度を変える。そうして大砲の軌道を変えるのだ。


「かくて本日も海軍の決戦は、海賊ブラック・レディ船長の旗の元に倒れた、と。これで24戦20敗な」


 アイルズ艦長の隣では、首から大きな一眼レフカメラをぶら下げた従軍記者のカイルが、メモ用紙に鉛筆を走らせている。


「おい、待てカイル、それ、無しだ、無し! まだ勝負はついていないぞ」


 アイルズが慌てる。


「えー、でも、今日も海賊ブラック・レディの方が断然有利じゃないか」


 カイルがよそ見した瞬間に力が入りすぎたのか、鉛筆の芯がポキッと音を立てて折れた。カイルは急いで腰に付けていた小さなナイフで芯の先を尖らせた。


「カイル、違うぞ、あれは海賊ブラックだ。海の荒くれ者なんだッ。レディは付けなくていい!」


 僕もつい叫んだ。いかん、20敗のフラストレーションが溜まっている。


「おいおい、だったら、ローズマリーとエリカも海の荒くれ者だぜ?」


 ニヤつくカイル。


「彼女達をリリィーナ教官と一緒にするな!」


 僕とアイルズの声が重なった。

 カイルは腹を抱えて笑い、


「学校新聞の内容だって、美少女海賊のことを書く方がウケがいいんだ。ローズマリーとエリカの海賊コスプレ写真、追加注文が入ったんだぜ。お前らが何と言おうと、バンバン撮らせてもらうからな」


 立派な一眼レフカメラを持ち上げる。

 それを見た僕は、ふと疑問が湧いた。以前見たカイルのカメラは、もっと小さかった。いつの間に買い換えたのだろう。


「ずいぶん良いカメラだな」

「おお、わかるか!? いいだろ、これ。高いんだぜ。オモチャより何より、これが欲しかったんだ!」


 カイルが嬉しそうにカメラを見せる。

 あ! と僕は気が付いた。このカメラが、カイルがリリィーナ教官へ魔法玩具引き換え券を渡した理由なんだ。


「さては、それと魔法玩具引き換え券を交換したんだな!?」

「なんだい、リリィーナ教官に取り引きを持ちかけられたのは、俺だけだったのかい?」


 カイルによると賞品授与式の直後、リリィーナ教官からカイルの欲しい物を何でも購入する約束と引き換えに、魔法玩具引き換え券を譲って欲しいと持ちかけられた。

 魔法玩具より新しいカメラが欲しかったカイルは、二つ返事で取り引きに応じた。魔法玩具引き換え券の『上限額無し』の条件は有効として。


「で、買ってもらったのが、この地球製の高価な一眼レフカメラというわけさ」


 カイルの言った有名メーカーは僕でも知っている。望遠レンズや三脚もあるから、必要なオプション品も全部揃えてもらったのだな。


「いくらだよ?」


 僕はカメラに詳しくない。それでも大きなカメラ専門店へいけば、レジの後ろのガラスケースに陳列されている高級カメラだ、という程度の知識はある。数十万から軽く百万円を越える高額商品だ。

 カラクリにカメラは売っていないから、カイルは賢い取り引きをしたのかもしれない。


「えっへっへー。ま、普通とは桁が違うとだけ教えてやろう」


 カイルは笑いながら大きく伸びをした。


「なあ、どうせ今日もローズマリーとエリカが乗り込んできて、この船は拿捕(だほ)されるんだから、いい加減切り上げようぜ。俺、腹減った」

「おまえ、それでも我が帝国の新聞記者か。海賊の肩を持ってどうする」


 アイルズが憤然(ふんぜん)とカイルを睨む。


「だったら、こう、パーッと派手な剣戟(けんげき)やってくれよ。海賊船へ突撃だ~ッ!」

「やってるじゃないか。僕とリリィーナ教……海賊ブラックの一騎討ちとか、海賊船に乗り込んで斬り合いとか」


 僕が顔をしかめると、カイルは鼻でせせら笑った。


「それで20敗したんじゃないか」

「砲撃戦だって、勝ったことはあるぞ」


 僕はあえて回数を言わなかった。勝てたのは、1回だけなのだ。


「その直後にこっちの船が沈没して惨敗だろ。あれはアイルズの指揮がまずかったんだよな」

「エリカに砲弾を当てるわけにいかないだろう」


 開き直るアイルズ。砲弾が船体に命中したところで、船は演出でそれなりに壊れるが、魔法で護られた人間は漫画みたいに吹っ飛ぶだけだ。降参も死亡離脱も、頭の上に小さな(フラグ)が立つのが合図だ。


 アイルズのことを責められない僕は、そっと顔を背けた。

 僕もアホだが、アイルズもたいがいだ。僕はというと、剣の勝負を挑んできたローズマリーとの一騎討ちから逃げ出し、その代わりに大ボス海賊船長ブラックへいきなり突撃して玉砕した。それが一つ前の海戦劇だ。だから、お互いの愚行を笑えない。


「へいへい、惚気(のろけ)は充分ですヨ。あ、もう飯の時間だ。俺、そろそろ切り上げるわ」


 カイルは一足先に艦橋から姿を消した。






 それから僕らは、暇があれば大海戦のジオラマ模型へ入って遊んだ。


 だが、2年目になると、僕らはプログラムされた物語を一通り攻略し終えた。

 僕らは大海戦のゲームシナリオをすっかり覚え、慣れて、飽きてきた。


 その頃になると、僕らより夢中だった女子の興味も、大半が別の娯楽に移っていた。女子の参加人数が減ると、女子に釣られてきていた男子の参加も減った。


 男子の方も、最初の1ヶ月こそ順番待ちをするほど大人気だったが、今では参加人数を揃えるのに苦労する。


 僕とアイルズは元から帆船や海が好きだから、徹底的にやりこんだ。だが、他の級友達は、時間が経つにつれ、付き合ってくれる人数が減っていった。


 海賊派と海軍派に分かれていた僕らは、最後の方で役割を逆にしてみた。


 1回目は、目新しく映ったそれも、僕らはシナリオと展開をぜんぶ覚えている。2回やったらもう充分な気分になった。


 ついに僕らは、大海戦以外の『何か』を探し出した。趣味があった者は、カメラが好きなカイルのように、本来の趣味に戻っていった。


 とはいえ、魔法玩具である大海戦のジオラマを捨て置くのは惜しい。


 誰ともなく「新しい魔法プログラムを注文しては?」という意見が出た。

 僕らの知らない大海戦の、未知の物語をカラクリへオーダーするのだ。


 この提案はあっという間に皆に伝染し、一時的に、大海戦をやり始めた頃の興奮を思い出させた。

 話し合いは女子をも巻き込み、大海戦に一度でも参加したことのある全員が食堂に集まり、真剣な議論がなされた。


 高額な魔法プログラムの注文には、皆でお小遣いを出し合う案も検討された。


 が、決議は『否』。


 もし、新しい大海戦の魔法プログラムを入手したとしても、それはさんざん遊んだシナリオの、何かが少し違うだけのバリエーションだ。いずれは飽きる。


 この間まで遊んでいた物語のように。


 その数日後、有志だけが集まって、僕らはごくスタンダードな『海賊VS艦隊』戦に臨んだ。

 それが、僕らが大海戦のジオラマ模型を起動した、最後となった。



 

 この真っ青な海原に浮かぶ2隻の大帆船のジオラマ模型は、元はローズマリーとエリカへのプレゼントだった。

 しかし、2人は個人所有を辞退した。自分達だけで大海戦をやる気にならないし、僕らと一緒に充分楽しんだから、というのがその理由だった。


 所有権は、僕とアイルズに戻された。


 だが、僕とアイルズも大海戦はすべての物語をやり尽くした。2人だけでは面白くない。


 僕とアイルズは、この魔法のドールハウスを、男子寮へ寄付することにした。

 ここにあれば、いつでも遊びに来ることができる。


 大海原に浮かぶ2隻の大帆船のジオラマ模型は、男子寮のリビングルームに飾られた。女子からの希望があれば、舎監の先生を通じて女子寮へ貸し出された。




 魔法大学付属学院では、生徒の入学が無い年もある。それも何年もだ。

 

 やがてこの魔法のドールハウスは、僕らが寮を出た後、いつか来る後輩達への贈り物となった。






番外編:魔法のドールハウス~仮面舞踏会の城~

                      〈了〉


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